Mar. 20 〜 Mar. 27




NY ナイト・シーン Now & Then




先週のこのコラムの最後に書かせて頂いた通り、CUBE New Yorkでは、4月9日に第6回目のニューヨーク・エリア在住女性のための ネットワーク・パーティーの開催を予定しているけれど、先日その案内状メールを送付するために 過去の参加者リストをチェックしていて気が付いたのが、 昨年後半から 今年の初めに掛けて、日本に帰国した方達が非常に多いということ。
仕事の都合や、家族の都合、ご主人の仕事の関係など、帰国された理由は様々であるけれど、 ニューヨークに住む日本人としては、こうして仲間が減っていってしまうのは寂しい限りである。 もちろん、入れ替わりで やって来る新しい人達も沢山居る訳で、ニューヨークのような外国の街に暮らしている限り、 周囲の人間関係がどんどん変わって行くというのは折込済みの宿命のようなもの。 それでも中には そんな安定しない交友関係が 精神的な落ち込みの原因になってしまう人も居るようである。

私がニューヨークに来たばかりで、未だ英会話学校に通っていた頃、クラスメートになったペルー人の女の子が、 「貴方達日本人は、ニューヨークで暮らしていけなくても、平和で 経済的に裕福な祖国に戻れば良いけれど、 私は絶対に自分の国には戻りたくないから、仕事を見つけて、グリーンカードをとって、アメリカに永住するの」 という固い決意を語っていたのを 今でもはっきり憶えているけれど、やはり日本人の場合、 「ニューヨークに居た経験を日本で生かす」というオプションがあり、 しかもニューヨーク生活があまり長くなると、「個性が強すぎる」と見なされるなどして、 職場でのマーケット・バリューが逆に下がることも指摘されているだけに、 ニューヨークの生活と日本での生活を天秤に掛けて、ニューヨークに早めに見切りをつける人が居るのは事実である。

でも、ニューヨークでの人間関係の移り変わりが激しいのは、アメリカ人とて同様で、 彼らは生まれ故郷があって、大学は何処か違う州に行って、ニューヨークには仕事をしに来ている場合が殆どである。 だから、他州の企業から良い仕事のオファーがあれば、あっさりそれを受けるし、職場を一時的に離れて学校に行くため、もしくは子供が生まれたり、 家を売ったり、買ったり という不動産事情でニューヨークを離れる人もいる訳で、 アメリカ人にしても 「ニューヨークは人生のうちの一時期を過ごす街」と考える人が非常に多いのである。

だから、私のようにニューヨークに16年も住んでしまうと、アメリカ人の知人よりニューヨークに長く暮らしていて、 彼らより 以前のニューヨークについて良く知っている場合も出てくるけれど、 ニューヨークというのは、人だけでなく、街そのものも どんどん変わって行くところ。 それだけに、ニューヨークに長く暮らす人間同士が、以前のニューヨークについて語り合うと、同窓会で友人に会ったような ノスタルジーに浸ってしまうことさえあったりする。

そうした古くから居るニューヨーカーの間で嘆かれているのが、昨今のナイト・シーンがすっかりつまらなくなったということ。
ニューヨークの歴史に残るナイト・クラブと言えば、映画にもなった 70年代の 「スタジオ54」 があるけれど、 さすがにこの時代のニューヨークは 私にとっても未知の世界である。 でも私がニューヨークに暮らし始めた89年頃のニューヨークのナイト・シーンには、未だ「スタジオ54」時代の名残りがあって、 とにかく来ている人たちがファッショナブルで、抜群にカッコ良かったし、 クラブに居る人たちをマン・ウォチングしているだけで、あっと言う間に時間が過ぎてしまうエンターテイメント性、人種のメルティング・ポット(坩堝)を 感じさせるバラエティがあって、物凄くエキサイティングだったのである。
以前、ニューヨークのクラブ界では伝説のドアマンと言われるケニー・ケニーにインタビューをした際、 彼と89年当時の「コパナイト」の話で、大いに盛り上がってしまったけれど、 「コパナイト」とは、当時60丁目のマディソンと5番街の間にあったクラブ、「コパカバーナ」で、 ナイト・クラブの女王、スザンヌ・バーチが定期的に行っていたスペシャル・イベントのこと。 クラブ内は、ドレスアップした人達と、ドラッグ・クィーンで埋め尽くされていて、今のニューヨークのハロウィーン・パーティーより ずっと見ていて面白いし、華やかで、 バリー・マニロウのヒット曲「コパカバーナ」が掛かると、その盛り上がりがピークに達して、 初めて訪れた人達は、圧倒されてしまうような、凄まじいノリと迫力のクラブシーンが展開されていたのである。
その「コパカバーナ」は今では、場所をウエストサイドに移し、すっかり寂れたクラブになってしまい、 「コパナイト」の面影すら感じられないけれど、89年当時のコパナイトでは、夜11時半を回る頃から クラブの入り口付近に人だかりが出来て、ドアマンがピックアップしたスタイリッシュな人間だけがクラブに入れるというのが ドア・ポリシーだったのである。 これはコパカバーナに限らず、MK、マーズ、ネルズといった当時のホット・スポット 全てに言えたことで、 クラブ・ゴーワー達は、厳しいドアポリシーをクリアするために、スタイリッシュに装って出掛けていたし、 ドアマンの目に留まって、人混みを掻き分けて クラブに入れることを誇りにさえ思っていたのである。

でも、そんなニューヨークのナイト・シーンが徐々に様変わりしてきたのは90年代後半。 一部の人々は「クリスタルのシャンペンと、アメックスのプラチナ・カードがNYの夜をダメにした」と指摘するけれど、 要するにこれらが象徴するのは、90年代後半からの好景気を受けて、ナイト・シーンで幅を利かせてきたウォール・ストリートの金融エリート のことである。
96年にモデル・エージェンシー、ネクストの隣にオープンしたクラブ、ケイオスが最初にVIPラウンジで多額のテーブル・チャージを 取り始めたと言われているけれど、それまではカーバー・チャージと1杯6〜10ドル程度のドリンクが収入源だったクラブが、 1時間のテーブル・チャージで400ドル、ドンペリのボトル・オーダーは900ドルというビジネスを展開して、 荒稼ぎを始めたために、それを追随するクラブが次々とオープンし始めたのである。
その結果何が起こったかと言えば、それまではニューヨークのナイト・シーンでは 鼻摘み者だったウォール・ストリートのブローカーやトレーダーが 似合わないプラダやグッチを着て VIPラウンジを陣取るようになり、 クラブ側は彼らの好む モデルやモデル・タイプの若い女性客を無料で入店させるようになったのである。 こうすることによって、ブローカーやトレーダーは、モデル嬢の気を引くために、 高額なシャンペンやウォッカをボトルでジャンジャン オーダーするので、 店は益々儲かる訳で、ルックスの良い若い女性と遊びたいリッチなブローカーと、リッチなボーイフレンドを探しているモデル・タイプが、 クラブ側にとって、最も重要な客層となってしまったのである。

でもこのモデル・タイプと金融エリートという2つの人種は、以前のニューヨークのナイトシーンに馴染んでいる人々にとっては 最も退屈極まりない人々。 モデル・タイプは、肌を露出した 安物のトップにジーンズをユニフォームのようにしており、若くてスタイルが良いから、 それなりに見せてしまうけれど、通常、クラブ内には 似たようなモデル・タイプが30人も40人も居るので、完全なクローン状態。
その一方で、ブローカーを始めとする金融エリートというのは、学生時代はガリガリ勉強して、大人になってからやっと遊びを覚えたタイプが多いので、 フロアで踊っても、ただ座って飲んでいても、とにかく絵にならない人々が多い訳で、これらが2大勢力を占めるニューヨークのナイト・シーンは すっかり面白みを失ってしまったのである。

一体、アーティストやミュージシャン・タイプは何処へ行ってしまったんだろう? と嘆く声も聞かれる一方で、 先述のケニー・ケニーとスザンヌ・バーチは、現在、ハッピー・ヴァレーというクラブで、再び一緒にパーティーを行っているけれど、 やはり以前のニューヨークのクラブに見られたエクレクティックさ、すなわちソーシャリートからアーティスト、ゲイ&ストレート、アップタウン&ダウンタウンの人々が入り乱れる雑多なエキサイトメントというのは、もう演出不可能になって久しいものである。
先述のようにニューヨークは、人の入れ替わりが激しい街であるから、こうしたナイト・シーンの醍醐味を憶えている人自体も 徐々に減りつつあるけれど、自分の人生についても、ニューヨークについても、思い出せる良い時代があるというのは、 例えそれがもう 2度と味わえないものでも、価値あるものだと私は思っている。


ニューヨーク・エリア在住女性のためのネットワーク・パーティー開催のお知らせ

前回の開催から1年が経過してしまいましたが、来る4月9日、日曜日、午後2時より、 CUBE New York主催のニューヨーク・エリア在住女性のためのネットワーク・パーティー開催を予定しています。
レジデンシャル・ビルディングのパーティー・ルームが会場となりますので、セキュリティの関係で、 参加御希望の方には事前のご登録をお願いすることになります。既に過去のパーティーにご参加いただいた方には、 Eメールでご案内を差し上げていますが、今回初めて参加を御希望になる方、もしくはEメール・アドレスを過去1年の間に 変更された方は、Eメールでの お申し込みを頂くようお願い致します。
詳細はこちらをクリックしてご覧下さい。



Catch of the Week No.3 Mar. : 3月 第3週


Catch of the Week No.2 Mar. : 3月 第2週


Catch of the Week No.1 Mar. : 3月 第1週


Catch of the Week No.4 Feb. : 2月 第4週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。