Mar. 17 〜 Mar. 23 2008




” ベア・スターンズ効果 と 人種問題 ”



今週のアメリカは金曜がグッド・フライデーで、日曜がイースター。
クリスチャンではない私にとっては、別れ際の挨拶で ”ハッピー・ホリデイ! ” などと 言われても あまりピンと来ないのがイースターであるけれど、 街中でパステル・カラーの卵をかたどったお菓子などが売られているのを見ると、春の到来を感じるのは事実。
でも日差しはすっかり春なのに、気温はめっぽう低い上に、物凄い強風で、とにかく寒かったのが今週のニューヨークだった。
そんな今週のニューヨークで 大きく報じられていたのは、経済のニュースでは引き続き 、あっという間に破綻した ベア・スターンズと、 そのベア・スターンズを 1株2ドルという ”紙くず同然の価格” と言われる安値で救済買収したJPモーガン・チェイスのニュースだった。 この1株当たり2ドルという価格は、金曜のベア・スターンズの終わり値の93%オフとのことで、私のバーニーズ・ウェアハウス・セールの ショッピングもかなわないほどのビッグ・ディスカウント。
これが昨年5月には1株当たり160ドル以上をつけていた銘柄かと思うと、株の世界というのは本当に怖いと思ってしまうけれど、 実際 ベア・スターンズ社の株式、520万株を所有し 昨年までビリオネア(10億ドル長者)だった人の財産も、 今回の破綻によって 28億円($28ミリオン)程度に萎んでしまったという。
先週末の時点では、 「ベア・スターンズの次は リーマン・ブラザースだ!」という噂が 飛び交っていたため、 リーマン・ブラザースの株価も週末から激しく乱高下していたけれど、火曜日に発表された今年の第1四半期の成績がウォールストリートの予測を上回ったために、 「次はリーマン」説はこれで一段落した感じである。

さて、その火曜日の午前中にジムに出掛けたところ、通常なら平日の午前中は ほんの数人しか人を見かけないのに、いつもよりもずっと混み合っていて、 私が愛用する クロス・トレーニング・マシーンも 4台 全てが 埋まっていて、順番待ちをしなければいけない状態。 そこで、「どうして今日はこんなに混んでいるの?」と いつも見かける顔ぶれに声を掛けたところ、「彼ら、ベア・スターンズに務めていた人たちじゃない?」という キツい ジョークが返って来たので 思わず苦笑いしてしまったのだった。
今週の金融業界では、1株2ドルで売りに出されたベア・スターンズについての様々なジョーク が飛び交っていたと言われるけれど、 でも 冗談抜きで指摘されているのが ベア・スターンズの従業員の大多数が レイオフされるであろうということと、それがニューヨーク市の経済に少なからず影響を与えるということである。
ベア・スターンズはウォール・ストリートで5番目に大きな投資会社で、14000人の従業員を擁しているけれど、 そのうちの8000人がニューヨーク市内で勤務しており、同社はニューヨーク市で最も多くの従業員を抱える企業、トップ25のうちの1社。 ウォール・ストリートの25人に1人がベア・スターンズで働いているという計算になるという。
2007年度にベア・スターンズの従業員に対して支払われた 給与と報酬の総額は34億ドル(約3400億円)。 1人当たりに平均すると、24万2000ドル(約 2,420万円)の収入を得ていた計算となり、 このような高額所得をもたらす職業が大量にニューヨーク市から消えてしまうということは、市の税収に多大なダメージを与えることになるのは言うまでもないこと。
でもレイオフはベア・スターンズに限ったことではなく、同じくサブプライムで大打撃を受けたシティ・バンクや、サブプライムを上手くかわしたと言われる ゴールドマン・サックスでも 近々レイオフが見込まれており、2009年までにウォール・ストリートでは 2万2000人分の仕事がカットされることになるという。 その結果、ニューヨーク市は毎年5000〜6000億円のビジネス・タックスを失う計算であるという。

ニューヨーク市では、金融関係者を中心に支払われるキャッシュ・ボーナスの 10億ドル(1000億円)につき $20ミリオン(20億円)の 税収が 見込めるというけれど、 2007年の暮に ニューヨーカーに支払われたボーナスの総額は何と$30ビリオン(3兆円)。 したがって、年末のボーナスだけでニューヨーク市には 約600億円の税収があったという計算になる。 (税金は、市のほかに、州と国に支払うので、実際の手取りの段階では、額面の40%前後が差し引かれることになってしまう。)
考えてみれば、この3兆円という年末のボーナスの殆どは、ほぼ世田谷区と同じ大きさと言われるマンハッタン島の住人に支払われている訳だから、 ニューヨークというのは貧乏人が暮らす場所じゃないなぁ・・・とつくづく思うけれど、 そんな 「何がリッセッション?」と訊き返したくなるようなボーナスを受け取っても、「少ない!」、「サブプライムのダメージが大きいから仕方がない・・・」などと ボヤいているのが金融関係者なのである。

ところで、ベア・スターンズが破綻したことを受けて、早くも同社のエグゼクティブがマンハッタンの物件を売りに出していたり、 ベア・スターンズのエグゼクティブが4億円のアパートを購入しようとしていたのに、ビルの理事会が「ローンの支払いが滞ると困る」と 難色を示していることが報じられる など、不動産の世界では 既に 「ベア・スターンズ効果」が出てきていると言われるけれど、 今日、3月23日付けのニューヨーク・タイムズに掲載されていたのが、そんなベア・スターンズの破綻をきっかけに 馬鹿げたほど値上がりしてしまった ニューヨークの物価の下方調整を望む声が強いという記事。
私自身、先日 ニューヨーク・タイムズ紙で3つ星に返り咲いたレストラン、ル・サークに出掛けたところ、 最も高額なメインが50ドル代に突入していたので、ちょっとビックリしてしまったのだった。 確かに今のマンハッタンの物価は、先週 対ドルで最高値を付けたユーロで支払ってちょうど良い感覚、ポンドで支払えば やっと割安感があるという印象である。
それでも、CUBE New York のお客様からは、お取り寄せの依頼を頂くクリスチャン・ルブタンやマノーロ・ブラーニックの シューズが、どんどんサイズ切れになっていくので 「アメリカは景気が悪いって言っていても、シューズは売れるんですね」 といった 指摘を頂くけれど、先述のニューヨーク市の年末ボーナスの総額が3兆円であることからも分かる通り、 リセッションとは言え、 人々がマノーロやルブタンの購入に困るような状況には程遠いのも また事実である。
通常ウォール・ストリートの金融リッチやヘッジ・ファンダーなどがボーナスが減ったと嘆く場合、 彼らにとっての2軒目のリゾート・ハウスを買うのを見送ったり、3台目のベントレーやフェラーリの購入を見合わせるだけの話だったりする。 ちなみに、アメリカでは不動産や高級車の購入は税金対策となるので、給与が多い人ほど税金を減らすために 高額のショッピングをする傾向にあるのである。


さて今週、アメリカ全体的に メディアが注目したのは、民主党の大統領候補、バラック・オバマが行ったアメリカの人種問題に関するスピーチである。
私はこのスピーチについては、CNNで部分的にビデオを見ていて、今日付けのニューヨーク・ポスト紙で、初めてその37分に及ぶスピーチの全文を 読んだけれど、正直なところ、私はこのスピーチを読んで複雑な気分になってしまった。
同スピーチは、民主党の候補者を決める予備選挙で 黒人層がオバマ氏に投票し、白人層がヒラリー・クリントン候補に投票するという 人種対決の様相を呈してきたことを危惧して 行われたと言われるもの。 政治的な観点から見れば、黒人として初の大統領になろうとしているオバマ候補が、 黒人社会の問題に触れながら、 人種が候補者選びの視点になるべきではないことを 、 11月の大統領本選で 白人で保守派の共和党候補、ジョン・マケインと対決することを視野に入れて語っているとも言われるものである。

私はアメリカ国民ではないので大統領選での投票権は無いけれど、個人的にはイラク戦争に対するアメリカ国民の意思を世界に示すためにも、 今回の大統領選挙では民主党候補者が勝利するのが望ましいと思っていたりする。 そうなると、ヒラリー、オバマのどちらかになるけれど、経済政策と健康保険制度案については、 私はヒラリーの打ち出している政策の方が現実味があるという見解であるけれど、現時点でオバマ側に勢いがあって、彼の方が 投票者をなびかせる効果的なキャンペーンを行っているのは紛れも無い事実である。
でも私が民主党候補者を支持したいと思っても、今1つ オバマ候補になびけないのは 彼の「HOPE」、「CHANGE」という スローガンや、 理想論が先行していて、具体的な政策がそれほどクリアでない上に、、オバマ支持者でさえ彼の健康保険制度のプランをしっかり把握していないという事実。 加えて、ただでさえ政治経歴が短い ところにきて、彼は上院議員になって過去3年の間に 122回も棄権投票をしており、 もちろん これは大統領選で自分に不利になる意思表示をしないための戦略として実践してきた事だとは思うけれど、 彼が一体どんな政治家なのか?が、アメリカに住んで、毎日ニュースを見ていても はっきり分からないためである。
要するに、オバマ候補を知るには彼が選挙戦で喋っていることだけを頼りにしなければならない訳だけれど、 多くのオバマ支持者にとっては、彼のスピーチが 彼を信頼して希望を託すのに十分のなものと受け取られているようである。 それほどまでにスピーチが上手いと言われるオバマ候補であるけれど、今回の人種に関するスピーチについては 内容は ともかくとして、彼がどうしてこのタイミングで 人種問題を強く 打ち出す必要があるのか?と 首を傾げる政治関係者も少なくないのが事実である。
スピーチの内容はCNNのコメンテーターの言葉を借りれば、今までアメリカ国民が意識したり、認識してきた人種問題を、 政治家として初めて公に語ったというもので、新しい見解や事実が含まれているものではなく、 スピーチの中で語られている黒人差別の現状というのも、オバマ候補自身が体験したものではなく、受け売り的に語っているものだと指摘されている。 一部の政治評論家は、この内容を 黒人候補者であるからこそ出来るスピーチと指摘しているけれど、確かに同じスピーチをヒラリー・クリントンが行うことは 考えられないもので、黒人層は手放しで絶賛しているのはもちろんのこと、白人層からも一様に評価を集めているものである。
でも私は個人的には、人種差別がある社会というのは 人種差別を大きく取り沙汰しなければならない社会のことだと思っていて、 差別を大きく問題視することが必ずしも解決の近道ではないと感じていたりする。 かつてマイケル・ジョーダンが現役時代に、ジェシー・ジャクソンなどの黒人リーダーから、 「もっと黒人の地位向上のための活動をするべきだ」 と批判された際、白人のジャーナリストが 「人々はマイケル・ジョーダンのことをスーパースター、ヒーローだと思って見ていて、肌の色なんて気に留めていない。 今更 彼が 黒人云々と言い出す方が、人種問題の後戻りに繋がる」と、マイケル・ジョーダンを弁護したことがあったけれど、 私もまさに これに同感なのである。
これ以外にも 例えば、ハリー・ベリーと言えばハリウッドを代表する美女の1人であるけれど、アメリカでは誰も彼女のことを 黒人美人女優などとは言わない訳である。 私から見れば 黒人、 ヒスパニック、アジア人を問わず、人種の違いを意識させないマイノリティが 各分野にどんどん登場してきているのは非常に好ましいことで、 異なる人種が平等に 「アメリカン」 としてひと括りになるのが、人種差別のない社会と言える訳である。
その意味で、”オバマ大統領説” が出てきてからのアメリカでは 今回のスピーチを含めて 改めて人種問題に必要以上のフォーカスが当たっているように思えてしまうのが 私の危惧するところなのである。

人種差別以外にも、アメリカには性差別、宗教差別といったものが根強く存在している訳だけれど、 性差別については 緩和されつつあるのかもしれない・・・と思ったのが、先週のこのコラムで触れた 買春スキャンダルで辞任に追い込まれた エリオット・スピッツァー前NY州知事についての報道。
彼のお相手となったアシュレー嬢には、ハスラー誌から1億円のギャラでのヌード・グラビア掲載のオファーが来ていることは 先週お伝えしたけれど、今週に入って報道されたのが 何とスピッツァー氏のもとにもプレイ・ガール誌から ヌード掲載のオファーが寄せられているという。 ギャラについては、報じられていないけれど スキャンダルでヌードが売り物になるのは女性だけでは無いというのは 男女同権社会への輝かしい一歩(?)とも受け取れるもの。
その一方で、英語で 「15 ミニッツ・オブ・フェイム(15分間の名声)」 と言われる にわかセレブリティとなったアシュレー嬢であるけれど、 ハスラー誌に続いて 彼女に1億円で ヌード撮影のオファーをしたのが、素人女性を起用したアダルト・ビデオで知られる「ガールズ・オン・ワイルド」。 このビジネスで一躍ミリオネアとなったジョー・フランシスはかつてパリス・ヒルトンと交際しており、パリスが昨年服役している最中には、 自らも未成年者を「ガールズ・オン・ワイルド」のビデオに登場させた罪で拘留されていた人物。
しかし、ジョー・フランシスは「ガールズ・オン・ワイルド」のビデオ・ライブラリーの中に、アシュレー嬢が18歳の時に 撮影したテープ7本を見つけて、1億円のオファーをあっさり取り下げている。 フランシスによれば、「彼女は 18歳当時がピークだった 」 のだそうで、現在は 彼女のテープを編集して、販売することを計画しているという。 このビデオは当時、リゾート地で友達と喧嘩をしてしまい ホテルに帰れず路頭に迷っていた彼女を スカウトして 撮影したと言われるもので これによって アシュレー嬢が支払われたギャラは 1億円の100分の1にも満たないと言われる額。
1億円を儲け損なった上に、ポルノグラファーには 22歳にして 「ピークを過ぎた」 などと指摘されてしまったアシュレー嬢は、 今週に入ってすっかりそのバリューを落としたという印象が否めないのである。





Catch of the Week No. 3 Mar. : 3 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Mar. : 3 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Mar. : 3 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Feb. : 2 月 第 4 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。