Mar. 22 〜 Mar. 28 2010




” アメリカの Problem = Tax ”


私が先週のこのコラムを書いている最中に、アメリカのメディアで大きく報じられていたのが オバマ大統領が就任以来、最優先課題として進めて来た医療保険制度改革法案が遂に下院の本会議で可決されたというニュース。
この法案は23日に大統領によって署名され、正式に法律となっているけれど、 これによって、現在健康保険に加入していない3200万人のアメリカ人が保険でカバーされる一方で、 ウォール・ストリート・ジャーナルの見積もりでは、向こう10年間で95兆円のコストが掛かると見込まれるのがこの法案。
アメリカ国民は、健康保険の購入が義務付けられ、企業も社員の健康保険加入を義務付けられることになり、 それを怠れば罰金が科せられるという厳しいルール。 この法案によって、アメリカ最大のコミュニケーション企業、AT&Tは既存の社員の健康保険料が年間で10億ドル(約9240億円)アップ。 中小企業の多くは、社員の健康保険料を支払うために、スタッフを解雇して人件費を削減しなければならないことが見込まれているという。
なので、この医療保険制度改正法案の可決 というアメリカにとって歴史的な出来事を国民が諸手を上げて歓迎しているかと言えば そうでもなくて、アンケート調査によってその数字はまちまちであるものの、 50〜60%のアメリカ人が 医療保険法に反対していることが伝えられているのだった。

目下、医療保険法に反対する人々の怒りは、法案を可決した議員達に向けられており、一部の地域では 議員の事務所のガラスが割られたり、脅迫電話や脅迫状が寄せられる有様。 そうした議員達は警察によって厳しくガードされていることも伝えられているのだった。
法案可決後にアイオワ州に遊説に訪れたオバマ大統領にしても、そのスピーチが医療保険制度の反対者によって遮られ、 「健康保険料がすぐに値下がりするとは思えない」と、国民が最も危惧する保険料の値上がりを肯定していたけれど、 会場の外では、同法律に反対する人々が大規模なデモを繰り広げる姿が見られていたのだった。
実際のところ、アメリカ国民がこの法律に反対する理由は、それまで保険に加入していなかった人々をカバーすることによって、 保険料が値上がる一方で、医療の質が低下するのでは?という危惧。更にこれまで貧しくて健康保険に加入していなかった人々、レイオフされて 健康保険を失った人々にとっては、保険の購入が義務付けられることによって、益々生活が苦しくなるという危惧で、この法律の施行により 既に財政難に陥っているアメリカ各州の財政負担も更に増加することが見込まれているのだった。
これを受けて、既に13の州が 「国民全てに健康保険加入を義務付ける同法律は 合衆国憲法に違反している」と提訴していることも 伝えられており、とりあえず法律にはなったものの医療保険制度改革法は まだまだこの先、波乱含みの展開が予想されているのだった。

医療保険改正法案が国民に反対されているもう1つの理由は、そのコストを捻出するために給与所得や投資による所得に 新たな課税項目が設けられると同時に、俗に”キャデラック”と呼ばれる高額なプライベートの保険にも40%の課税が行われるなど、 保険料の値上がり以外に、税金を巻き上げられるという点。
この法律で、増税の犠牲になったビジネスとして上げられるのは何と言ってもタンニング・サロン、すなわち日焼けサロン。 アメリカでは人口の8%が全米の約2万件の タンニング・サロンを利用していることが伝えられているけれど、これは規模としては極めてマイナーと言える弱小業界。
でも今回の医療保険制度改革法の可決によって、 皮膚がんの原因と指摘されて久しい UVBを使ったタンニング・ベッドによる日焼けサロンのサービスには、何と 10%の税金が課税されるという。
そもそもこの税金は、昨年の12月まではボトックスを初めとするコスメティック・サージュリー、すなわち美容整形に対して 5%の課税という形で行われることが見込まれていたもの。 でも、ボトックスの製造元であるアラガンを始めとする美容整形関連の大手企業が 大々的なロビー活動を行った結果、美容整形に対する課税案が 消え去り、タンニング・サロンに対する課税に取って代わったと指摘されているのだった。
なので、タンニング・サロン業界では 「こんな小さな業界を潰しに掛からなくても・・・」という不満と 先行きへの不安が 聞かれているというけれど、昨今では、上院、下院問わず、政治家達もボトックスのトリートメントを盛んに行うご時世。 しかも、政治家やハリウッドのセレブが健康的なイメージをアピールするために行う フェイク・タンニングは もう何年も前からスプレー・タンニングに切り替わっているだけに、 皮膚がんのリスクがあるタンニング・サロンが美容整形の替わりに課税対象の犠牲になっても 不思議ではないのだった。


タンニング・サロンに対するタックス同様に、目下 ニューヨークで 課税措置のターゲットにされているのが ソーダや砂糖を多分に含んだドリンク類。 この税金はソーダ・タックス、もしくはオビーシティ(肥満)・タックスと呼ばれており、 ソーダ類と、フルーツ果汁が70%以下の砂糖を含んだドリンク類に対して18%の課税を行うとするもの。
これは、ソーダや砂糖を含んだドリンク類がアメリカ国民の肥満の原因になっていると指摘されて久しいためで、 例えば360ml入りのコカ・コーラのは140カロリーで、含まれている砂糖の量は39グラム。キウィとストロベリーの フレーバーのスナップル(アイスティー・ドリンク)は同じ量で165カロリー、39グラムの砂糖。 これがウェルチのグレープ・ジュースになると360mlで、262カロリー、59グラムの砂糖を摂取していることになるけれど、 こうしたソーダやソフト・ドリンクは繊維質が一切排除されているために、飲んだドリンクが 高カロリーを摂取したという意識が無いままに 体内でどんどん脂肪として蓄積されて行き、引いては肥満になるリスクを伴っているのだった。

ニューヨークでは既にタバコを1箱9ドル以上になるまでに課税した結果、2002年に比べて喫煙者の数が6%減ったことが 伝えられており、州政府が期待するのも ソーダ・タックスを課税することによる ソーダとソフト・ドリンクの 消費量の低下。 そして その結果、肥満に歯止めが掛かって、引いては州の財政からの医療費負担が軽減されるというベネフィットである。
そこまでシナリオ通りに行かなかったとしても、少なくとも税収は増える というのがこの法案であるけれど、 ソーダー・タックスの導入にはニューヨーカーの57%が反対、40%が賛成しているというのが世論調査の結果。
特に強く反対しているのが、ソーダ業界はもちろんのこと、ソーダの売り上げ低下が店の売り上げにひびく スーパーマーケット、 そしてソーダ・タックスが貧しい人々に対する差別であると訴える団体。 実際にソーダや砂糖を多量に含んだソフト・ドリンクを購入しているのは、貧困家庭が圧倒的に多く、 こうした貧困家庭は中流以上の家庭の2倍〜3倍のソーダやソフト・ドリンクを消費していることが伝えられているのだった。
また貧困家庭の人々は、課税されてもソーダを買い続けることがレポートされており、 一部では、ソーダ・タックスを導入しても 「貧しい人々が、肥満体型のまま、家計が苦しくなるだけ」 という指摘も 聞かれているのだった。

これとは別に ニューヨーカーの多くが ソーダ・タックスの導入に反対する理由として挙げられるのは、 何でもかんでも理由をつけて州が増税しようという傾向を好まないため。
今日、3月28日付けのニューヨーク・タイムズ紙には全米各州が、財政難を理由に税収を増やすため、 これまで課税対象でなかったサービス、例えばヘア・カットや、デートをアレンジするサービスなどに 課税する動きが見られていることが報じられていたのだった。
ニューヨークでも、2009年5月にビールとワインに対する課税率が僅かながらアップしているけれど、 この増税の理由は ハード・リカー類が健康に害をもたらすとして最も税率が高くなっているのとは異なり、 ワイン人気が上昇しているため、それを利用して税収を増やそうというものだったという。
その一方で、カリフォルニア州では財政難を理由に合法化=課税対象にされようとしているのがマリファナであるけれど、 マリファナ愛用者の全てが 合法化に賛成しているかと言えば決してそうではなく、 マリファナを長く愛用している人ほど これに反対していることが指摘されているのだった。
その理由は合法化されれば、マリファナに課税されるだけでなく、規制が設けられて 質の低下、すなわち従来の愛用者にとって強さが足りない商品しか手に入らなくなるためだという。

話は変わって、アメリカが問題とする肥満よりも 拒食症や、過食嘔吐などが懸念されているのがハイスクールの女子学生であるけれど、 現在、アメリカではプロム・シーズンを控えて、プロム・ドレスのショッピングが盛んに行われている時期。
そんな中、今年のプロム・ドレスのトレンドとして問題視されているのが、まるでストリッパーかパフォーマーのような 肌を露出したドレスを選ぶティーンエイジャーが増えていること。


写真上は、今年人気を集めているドレスの典型例で、ウエストまで開いた胸元や、ヒップのすぐ上まで オープンになった背中というのは ここ2〜3年で珍しくなくなったトレンドであるけれど、 今年は カットアウト、すなわちドレスの素材が部分的にくり貫かれて、肌が露出したスタイルや シースルーの素材を用いて やはり素肌を強調するデザイン、ヒップラインまで切れ上がった深いスリットなど、 とても高校生のドレスとは思えないものが多数 出回って、しかもそれが良く売れているという。
「こんなドレスを よく親が娘に着用させるものだ」と驚いているのはメディアも、ドレスを売る側のセールス・パーソンも 同様であると言われるけれど、昨今の親達は娘がプロム・ドレスをセクシーに着こなせるように 豊胸手術をさせるような状態なので、最初は難色を示すことがあっても 結局はOKになってしまうようである。
もちろんプロムには、学校ごとにドレスコードがあり、多くのハイスクールでは、女子学生のドレスに対して タイト過ぎたり、短すぎるドレス、肌を露出し過ぎたドレスを禁止するルールを設けているけれど、 どんどん過激になるドレスのデザインに学校のルールが追いついていないというのが現状であるという。
女子学生が こんなストリッパーのようなドレスを着用したがるのは、自分をセクシーに見せて 男子生徒の関心を引きたいという意識からであるけれど、 そんな発情ぶりを反映してか、 現在のアメリカで急増しているのが ティーンエイジャーの妊娠&ティーンエイジ・マザー。
ティーンエイジ・マザーは高等教育を諦めて育児に専念しなければならないので、ろくな仕事に就くことが出来ず、 結局は生活保護を受けるような貧困に陥るケースが殆どであるだけに、全米各州の財政負担の一端を担っている存在。
そう考えると、こんな露出したドレスやティーンエイジャーの豊胸手術にこそ、適切な増税をするべきだというのが 私の個人的な意見なのである。





Catch of the Week No. 3 Mar. : 3月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Mar. : 3月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Mar. : 3月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Feb. : 2月 第 4 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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