Mar. 14 〜 Mar. 20 2011

” 日本の放射線報道に対する不安と疑問 ”

今週のアメリカでは、さすがにアメリカが深く関わっているだけあって、リビアに対するアメリカ軍、NATO軍連携の軍事介入の報道が 日本の震災のニュースを上回る報道規模になっているのだった。
この軍事介入がアメリカで大きく非難されている理由は、オバマ大統領が議会の承認を得ずに軍隊を派遣したのに加えて、 カダフィ大佐というターゲットは明らかであっても、軍事介入をするアメリカにとってのメリットが見出せないため。 与党である民主党からも、「どうしてこんな時期に、特に友好関係も、繋がりもないリビアを優先課題にしなければならないのか?」 という指摘が聞かれ、週末の報道番組ではヒラリー・クリントン国務長官とロバート・ゲイツ防衛長官が、 軍事介入を肯定する、言い訳がましい説明を展開していたのだった。

日本の震災、原発の問題も引き続き、毎日のように報じられているけれど、 被害の大きさと共に、アメリカ国民を含む、世界中の人々を驚かせているのが、被災した人々の 辛抱強さ、忍耐強さ、そして助け合い、物事をきちんと行なおうとする日本の国民性と 穏やか、かつ勇敢な姿勢。
中には、日本が果たして長い復興の道のりで、このレベルを維持出来るか?という声も聞かれるけれど、 こんな災害時に、これほどのモラルや高潔さが示せるのは、長年にわたって培われた国民のキャラクターであって、 これは決して 教えられて 直ぐに身に付くものではないとも指摘されているのだった。

日本の被災者や、国民性が評価される一方で、様々な問題点が指摘されるのが東京電力、及び日本政府の 原発問題に対する対応。
東京電力が役人の天下り先になっている 「政府との癒着ぶり」は、ニューヨーク・タイムズ紙が 「Amakudari」という日本語の説明を含めて指摘しており、それと共に 「津波」という言葉を世界の共通語にした日本という国の電力会社が、 その威力を過小評価して、施設の強化を怠ったことも厳しく批判されているのだった。


ところで、アメリカでは日本の震災後、通常有料のTVジャパン(日本のNHK放送)が、ケーブルで無料で視聴できるようになっているので、 私もなるべく 日本のニュースTVやインターネットで見るようにして、それをアメリカの報道と比べるようにしているのだった。
個人的には、福島原発の放射能汚染が騒がれるようになってから、政府や東京電力の発表、「放射能に詳しい」とされる専門家のコメントなどに、 首を傾げることが多くなってきたけれど、その最たるものは TVに出演した専門家が水を沸かして飲めば、放射線汚染がある程度防げると語ったということ。
これは私の友人から聞いたことで、本当にそんな事を言った専門家が居たのかは定かではないけれど、 彼女はそれに従って水道水を沸かしていたというのだった。 でも、放射線はバクテリアではないので煮沸では消えないこと、放射線は粒子であるから水中から除去する方法は濾過しか無いことは、 放射線の素人である私でさえ考えなくても分かること。
だからと言って、家庭用の浄水器では粒径0.01〜10ミクロンの放射性ヨウ素やセシウムの濾過には全くの役立たずであることも、 インターネットで調べて直ぐに分かったのだった。 そこで、0.2ミクロンを濾過できるフィルター・システムをCUBE New York のサイトでご紹介することにしたけれど、 日本の報道を見ていて、この報道は本当に正しいのか、そして数値が正しいとしても、その解釈の説明が果たして適切なのか?について、 深く疑問を持つようになってしまったのだった。

例えば、2011年3月15日福島第一原発3号機付近から「400ミリシーベルト毎時」の放射能が検出されたと報道されていたけれど、 これは、その場で人間が1時間過ごした場合の被ばく量が、400ミリシーベルトという意味。 でもここで忘れてはならないのは、放射能というのは体内に蓄積されるもので、被爆はその蓄積された放射能の総量で度合いが変わってくるということ。
日本では、2000ミリシーベルトの被爆量で5%、すなわち20人に1人の割合で命を落とすという例を引き合いに、 この5倍の放射能を浴びたとしても、死に至るのは20人に1人の割合という解釈がされていたりする。
でも逆の見方をすれば、ここに5時間滞在すれば、400ミリシーベルト毎時×5時間=2000ミリシーベルトの被爆量となる訳で、 20人に1人は死に至ることになるのだった。

加えて、日本のメディアは簡単に死に至る被爆量を引き合いに出してきて、この程度で人間は死なないという話にしてしまうけれど、 アメリカで、完全に回復が可能とされる 総被爆量は1500ミリシーベルト。 したがって、「2000ミリシーベルトの放射能を浴びても95%の割合で、命が助かる」と安心していても、 被爆の障害が残る可能性は捨てきれないのである。
さらに、もっと無責任だと思うのは 被爆量が胸部レントゲンの300回分以上に相当するCTスキャン1回の被爆量と比較して 「安全」を謳っていること。 アメリカでは2007年にArchives of Internal Medicine/アーカイブス・オブ・インターナル・メディシンで発表された研究結果で、CTスキャンの被爆が原因で、 数十年後に発ガンの危険が高いことが指摘されているのだった。 ちなみに、アメリカのマオシン・二医師によれば、人間が年間に浴びて安全圏内と言える放射線の量は胸部レントゲン33回分。 CTスキャンはこれを大きく上回るわけで、決して安全とは言えない数値と比較して、安全を謳うのには無理があるように思えるのだった。


さらに私が疑問に思うのは、日本のメディアが良く使う 「直ぐに人体に影響を及ぼすレベルでは無い」という表現。
果たして「直ぐに」、「直ちに」、「短期間で」 人体に影響を及ぼさないという場合、一体どの程度のタイムテーブルが設定されているのか?ということ。
1986年に起こったチェルノブイリ原発事故のケースでは、被爆した子供達が甲状腺がんや白血病などで 8年〜10年以内に命を落とすケースが 多かった訳だけれど、これも「直ぐに人体に影響を及ぼす値ではない」ことになってしまうのだろうか?と 疑問に思えてしまうのだった。
そのチェルノブイリでは、1987年〜88年にかけて奇形児が生まれるケースが多かったことから、1989年の出生率が激減。 原発事故が起こった時点では まだ胎児でもなかった1989年生まれの子供達を ”チェルノブイリ・ベイビー” と呼んでいたとのこと。 こうしたチェルノブイリ・ベイビー達は、母体からの被爆の影響が心配されるため、ウクライナでは結婚に不利と見なされていることが、 現在はジャーナリストとなったウクライナ人女性が先週日曜付けのニューヨーク・ポスト紙に語っていたのだった。
それを考えれば、被爆は現在生きている人間だけ問題だけでなく、日本の将来を担う、これから生まれてくる子供達の 問題でもあるということ。
従って、短期展望で安全だけを強調するのは、決して国のためにはならないように思われるのだった。

さらに言うならば、放射線ヨウ素131による甲状腺がんの危険にしても、日本では「成人は低い」とされているけれど、 アメリカでは、いくつものメディアや、インターネットサイトが「40歳以上」は甲状腺がんを発病する確率が少ないとしており、 日本の成人を20歳とするならば、そこに20年のギャップが生じているのだった。

また、チェルノブイリ原発事故で、現在も最も放射線汚染が見られるのが土壌。 この土壌が放射能フリーになるまでには100年は掛かりそうだという専門家のコメントがニューヨーク・タイムズ紙に掲載されており、 もちろん爆発現場区域は調査目的以外では現在も立ち入り禁止状態になっているという。
今、日本では、水や空気中の放射能が心配されているけれど、土というのも、人体に放射能に汚染をもたらす重要な要素。
福島原発の事態が深刻化する前に、アメリカの殆どのメディアが、当時現地に送り込んでいたトップ・ジャーナリストやそのスタッフを 帰国させたけれど、アメリカに戻って放射線チェックを受けたメディアの人間から唯一確認された放射反応が、 靴についた泥。
「水が汚染されている時は、土も汚染されている」という定説を考えると、 野菜の安全性を調べると同時に、どうして土の放射線量の調査結果が発表されないのか、片手落ちなのか?、わざとそうしているのか? が判断に苦しむところなのだった。 土は 人間が直接 食べることは無くても、作物の安全性は土の安全性が証明されてからこそ得られるべきもの。
土の放射線量は湧き水、井戸水などの安全性にも影響するのであるから、 この数値が得られない状態で、水道水に放射線汚染が見られたからといって、井戸水、湧き水に切り替えるのは、 危険のように思えるのだった。
WHO(世界保健機関)が3月18日に発表した放射線汚染に関するガイドラインの中でも、 放射線汚染は土から牧草に広がり、それを食べる動物に波及することがはっきり謳われていることを思えば、 土を調べる必要性は明らかと言えるのだった。
ちなみに WHOによれば、放射線汚染下における食べ物については 「 Steer clear of consumption of locally produced milk or vegetables, avoid slaughtering animals and steer clear of fishing, hunting or gathering mushrooms or other forest foods./ (放射能汚染を受けた)現地のミルクや野菜を摂取しない、屠殺(とさつ)された動物の食肉を避け、 釣り、ハンティング、きのこ狩りを含む森の中の食材集めをしないこと。」が推奨されているのだった。

私は先週から睡眠時間を大幅に削って、放射線のリサーチをするうち、第二次世界大戦中に、長崎に原爆が投下された際、セント・フランシス病院の秋月医師が、 被爆を最小限に抑えるために、病院の患者とスタッフに特別な食事療法を指示し、 そのお陰で患者とスタッフが救われたという記事を読んだけれど、 私が日本のメディアや政府に望むのは、こうした いざという時に備えられる情報の提供。 (CUBE New York では、近日中にこの秋月医師が指示した食事療法を特集予定です。)
「備えあれば憂いなし」ということわざが示す通り、不安感や恐怖感は、正しい情報に従って、状況に備えることで、 本当に緩和されると思うのだった。

国民のパニックを抑えようとしているのかもしれないけれど、正直なところ、私は今の日本の報道内容には 誤りはなくても、 その表現は人々を安心させる視点に偏り過ぎているように感じられるのだった。
なので日本という国を守るためにも、日本の人々には特定のメディアを通じた報道だけを鵜呑みにせず、 ソーシャル・ネットワーク上等の無責任な情報に振り回されず、理性的な判断で自衛をして欲しいと心から願っているのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


PAGE TOP