Mar. 17 〜 Mar. 23, 2014

” March Madness, 米国最大のギャンブル・シーズン”


今週も クリミア情勢、そして新たな手がかりが浮上したマレーシア航空機の行方不明のニュースに 報道時間が割かれていたアメリカ。 でも それ以外の報道時間が集中していたのは、今週からスタートした 「マーチ・マッドネス」こと、NCAA カレッジ・バスケットボール・トーナメント。

マーチ・マッドネスについては後ほどふれることにして、土曜日のニューヨーク・ポスト紙の第一面(写真上、左)で報じられたのが、 昨年ニューヨークでスタートした、バイク・シェア・プログラム、CitiBike / シティバイクが、既に経営難に陥っているというニュース。 これを最初に報じたのはウォールストリート・ジャーナルで、 それによればシティバイクは昨年5月のプログラム・スタートから1年も 経たないうちに、既に数十億円の赤字になっているとのこと。
理由は、「バイク・ステーションが 景観や、住人の生活を妨げる」という理由で、ニューヨーク市内各地で訴訟が起されており、 その対応に費用が掛るのに加えて、利用者が予測よりも遥かに少なかったこと、さらに故障への対応でも出費が嵩んでいることが指摘されているのだった。
また、自転車が一部のエリアのステーションに偏らないように、毎晩のようにトラックで自転車を回収しては 空きが多いステーションに移動しなければならないなど、維持費も予想以上に嵩んでいるのが実情。
利用者については、特に寒い季節に入ってから激減したことが伝えられており、今年の冬は雪が多かったので シティバイクが雪に埋もれているのは頻繁に見かけられた光景。 またデ・ブラジオ市長になってからは、除雪作業がスローになっており、そのせいでシティバイクが利用出来ない状況が長く続いていたのだった。

早急に運営費の調達が求められるシティバイクであるけれど、同プログラムは市民の税金を使わないことを前提にスタートしているだけあって、 デ・ブラジオ市長は 税金によるサポートは行わない方針を示しているとのこと。
一部では、安すぎると指摘される現在の年間使用料、95ドルを値上げするべきとの声も聞かれているけれど、 利用者を増やすためにも値上げはしない方針で、その替わりスポンサーやプログラムへの寄付を増やす形で収入を得ようとしているのだった。


さて、前述のように今週からマーチ・マッドネスこと、NCAA大学カレッジ・バスケットボール選手権がスタートしているけれど、 その開催を目前に控えた先週日曜午後6時半に発表されたのが トーナメント・ブラケット、すなわち トーナメントの組み合わせ表。
参加全68チームを地区別に4つのグループに分けて、各グループの勝ち残りを”ファイナル4”と呼ぶのが同トーナメントであるけれど、 その全試合数は63ゲーム。 NCAAが トーナメント・ブラケットを発表した直後から、多くのアメリカ人がスタートするといわれるのが、 その全試合の結果を予測しながら、ブラケットを埋めていくという作業。
アメリカでは、約5千万人の男女が仕事時間中にブラケットを埋める一方で、 オフィスでやインターネット上でスタートするのが 勝敗予測の賭け。 そして、仕事中でもゲームの結果をチェックしたり、試合についてスタッフが語り合う時間が長引くことから、 アメリカでは NCAAトーナメントの最中に、12億ドル(1200億円)分の プロダクティビティが失われるとさえ 言われているのだった。

仕事時間にブラケットを埋めているのは、大のバスケットボール・ファンで知られるオバマ大統領も然り。 オバマ氏は大統領に就任以来、毎年のようにスポーツ・ケーブル・チャンネル、ESPNに登場し、 予測の解説付きで ブラケットを埋めることで知られているけれど(写真下左)、 バスケットボールの知識があるからといって、勝率が高くなる訳ではないのが NCAAトーナメント。
というのは、同トーナメントは 毎年、数々の番狂わせが起こる事で知られる大会であるためで、 「マーチ・マッドネス」というネーミングは、ファンが熱狂するという意味に加えて、 通常なら考えられない ”狂った勝敗結果”という意味もあるのだった。


したがって、マーチ・マッドネスのブラケットを埋める際には、真っ当な勝敗予測に加えて、何処で番狂わせが起こるかを 予測しなければならず、それを当てるのも大きな醍醐味の1つ。
2012年の大統領選挙の際に、全米50州における選挙人の獲得数をほぼ完璧に予測したネイト・シルヴァーでさえ、 「マーチ・マッドネスが最も予測困難なイベント」であると語っているけれど、 実際に 63試合、全ての勝敗結果を当てる確率は、9,223,372,036,854,775,808分の1。 千兆を超えた単位なので、日本語ではどう読むかはわからないけれど、英語では クイントリオンと呼ばれる桁数。 これに比べたら、これまでごく僅かの100億円長者を生み出してきたパワーボールという宝くじに当選する確率の方が 600億倍高いと言われているのだった。

すなわち、早い話がブラケットの全試合の勝敗を 完璧に予測するのは不可能ということになるけれど、 それが起こらないことを見越して、今回のNCAAトーナメントに際して、 パーフェクト・ブラケットを予測した人物に10億ドル(約1000億円)の賞金を約束したのが 世界の長者番付上位の常連である投資家、ウォーレン・バフェット。
これを受けて、今年は更に多くの人々がビリオネア(10億ドル長者)を目指して ブラケットの予測に時間を費やしていたことが伝えられているのだった。

実は私も話のネタにウォーレン・バフェットのブラケット・コンテストに参加してしまったけれど、 既に週末の時点で46試合中 11試合の予測を外すという情けなさ。 とは言っても、このコンテストは無料で参加できるので 私は一銭も損をしていないけれど、 ギャンブルのメッカ、ラスヴェガスでは、NCAAトーナメントの賭けが カジノにもたらす収益は約1億ドル(約100億円)。
ラスヴェガスまで行かなくても、前述のように全米各地のオフィスやインターネット上でも NCAAトーナメントの賭けが行われていて、そのギャンブルにアメリカ人が毎年投じる総額は、30億ドル(約3000億円)と言われているのだった。


マーチ・マッドネスに夢中になるのは、一般の人々だけでなく、セレブリティも同様。
ジェイ Z、ジャスティン・ティンバーレイクといったセレブリティが試合観戦に訪れるは 決して珍しくない上に、今週には ジェニファー・ローレンスが そのツイッターのアカウントで、彼女の出身地であるケンタッキー州ルイヴィルのTシャツを着用して、 チームへのサポートを表明(写真上右)。同様のことはセリーナ・ゴメス等も行っているのだった。

NCAAトーナメントは、プロのNBAとは異なり、前半、後半、それぞれ20分のハーフを闘う40分のゲーム(NBAは1クォーターが12分なので、試合時間は48分)。
プロに比べてシュートが決まる確率が低いものの、均衡した試合展開が多く、最後2分の段階でも勝敗が分からないゲームが多いのが特徴。 試合終了のブザーの瞬間に放たれたシュートで 勝敗が決まるケースも少なくないだけに、 そのスリルにアメリカ人が夢中になるのがマーチ・マッドネス。
毎年この時期になると メディアでは、上司にバレずに試合を観戦する奥義が特集されるけれど、 あまりに劇的な試合の幕切れに、我を忘れて叫んでしまって、仕事中の観戦がバレてしまうというケースは どんな職場にも 毎年ありがちなエピソードなのだった。

これだけ、アメリカ中が夢中になるとあって NCAAの名門バスケットボール・チームはアマチュア・スポーツとは言いながらも ドル箱ビジネス。
昨年の優勝校で、ジェニファー・ローレンスも応援している ルイヴィルは、フォーブス誌の見積もりによれば 約40億円規模のスポーツ・フランチャイズ。この金額は名門カレッジ・フットボール・チームには及ばないものの、 メジャーリーグの田舎球団よりも遥かに集客と収益が得られるビジネス。
それだけに、現在ではカレッジ・プレーヤーが組合を結成して、その収益から給与を受取るシステムを構築しようという 動きも起こっているのだった。

さて、前述のように毎年ブラケットの予測をしているオバマ大統領であるけれど、 過去5回のプレジデンシャル予測で、優勝校を当てたのは僅か1回。
ニューヨーク・タイムズ紙では、今回のNCAAトーナメントの予測をコインで行ったり、バスケットボールの事を何も知らない子供達に行なわせるという 試みをしていたけれど、実際のところ、ここまで番狂わせが多いトーナメントになると、 何の予備知識も無い人々の予測と、地区大会からのデータや結果をフォロー&分析している人々の予測は、 詳細は異なっても、 勝率では大差が出ない場合も多いとのこと。
すなわち、必死に頭を使って予測や分析をするよりも、迷った場合にはコインを投げて、運を天に任せた方が効率が良いということになるのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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