Mar. 23 〜 Mar. 29 2015

”It's Not an Accident, It's Marder” ”
今週の2つの惨劇が、事故ではなく 殺人である背景


今週のアメリカ、特にニューヨークで大きく報じられた2つの事件が、 ジャーマンウィングの9525便の墜落と、マンハッタンのイースト・ヴィレッ ジで起こったガス爆発。 この2つの事件に共通しているのは、当初は事故として報じられていたものの、 捜査の結果 どちらも人災、それも殺人と見なされる事件であることが 判明している点なのだっ た。

まず火曜日に起こったジャーマンウィングのフレンチ・アルプスでの墜落事故については、 多くのメディアが写真上、一番左のニューヨーク・ポストの見出し同様、「シュレッディド」、 すなわち”シュレッダーで切り刻んだようだ”と事故の惨劇の様子を伝えていたけれど、 当初、この事件の原因は、操縦士のエラー、メカニカル・プロブレム、テロリストの仕業、 もしくはコックピットの窓に亀裂が入り、窒息状態になったパイロットが気絶して操縦不能になったケースの 4つの可能性で検証されていたのだった。
ところが、回収されたブラックボックスから明らかになったのが、機長がトイレに行くためにコックピットを離れて戻ったところ、 扉が内側からロック されて中に入ることが出来ず、彼を締め出した副操縦士のアンドレアス・ルビッツ(27歳)が、 乗員乗客149人を犠牲にして、フレンチ・アルプスに機体を激突 させたという、事実上の殺人のシナリオなのだった。

そして事件の調査が進めば進むほど 明らかになってきたのが、アンドレアス・ルビッツが 航空会社の飛行機を操縦するような精神状態ではなかったという事実。
捜索された彼の自宅からは、彼の精神状態が業務には不適切であるという医師の診断書が破り捨てた状態で発見され、 彼が長く うつ病状態であったことが確認されているのだった。
加えて、彼は事件の直前に 過去7年間に渡って交際し、一緒に暮らしていた婚約者に 別れを言い渡されており、 この婚約者によればルビッツは、真夜中に突如起き上がって 「We'er Crushing! / 墜落するぞ!」と叫んだり、 「そのうち、全てのシステムを変えさせるような大きなことをする。誰もが自分の名前を知ることになうような・・」という 今回の犯行を匂わせる発言をしていたという。

さらに今日、3月29日付けのニューヨーク・タイムズ紙によれば、ルビッツは網膜剥離で視力を失いつつあり、 パイロットの資格を失うのが時間の問題であることを、非常に危惧していたという。 フランスのメディアによれば、その網膜剥離による視界の歪みで、彼の視力は30%程度にまで低下していたとのこと。
その彼は、6月にパイロット・ライセンスの書き換えを控えており、 その際の検診で、精神上の病と視力の問題を悟られることを恐れていたことも推測されているのだった。




多くの航空会社では、定期的にパイロットの健康状態をチェックしているものの、精神状態を正確に把握する手段には乏しいようで、 特にドイツの場合、プライバシー保護法によって、医師は患者の精神状態が正常とは言えなくても、それを雇用主にはレポートできないとのこと。
でも、たとえパイロットが精神的に錯乱しても、コックピットに1人で閉じこもることが出来なければ 今回の事故が防げたはずというのは、 誰もが考えること。 現在の飛行機においては、コックピットの扉は コードを打ち込んで開けるシステムであるけれど、内側からコードを変更すると、 外側からは決して扉を開けることが出来ないのが標準規格。これは9/11のテロ以来、航空業界でスタンダードになったものであるけれど、 そのシステムが同事件では裏目に出ていたのは言うまでも無いこと。
これがアメリカの航空会社であれば、今回のようなトラブルを防ぐために、操縦スタッフの1人がコックピットを離れる場合、 フライト・アテンダントなど、誰か別のスタッフが入って、必ずコックピットに2人以上が居なければならないのが規則。 でも今回の事件のジャーマンウィングや、その親会社であるルフトハンザを始めとする多くのヨーロッパの航空会社は、 そういったルールが無く、今週の同事件を受けて、ようやく数社が アメリカの航空会社と同様の規則を設けたような有り様なのだった。




一方、3月26日 木曜日午後にイースト・ヴィレッジで起こったガス爆発は、4人の重症者を含む 22人の 負傷者を出し、このうちの6人が FDNYの消防士。 また行方不明になっていた男性2人が、日曜になって遺体で発見されたことから、 死者2名を記録すると同時に、121セカンド・アベニューのビル全体を崩壊させた惨事となっているのだった。
事故現場では、当日ガス管と水道管の作業が行われていたのに加えて、爆発の30分前には ガス会社による点検が入ったばかりで、その結果 「ガスを供給するには不適切な状況」という判断が下っていたのがこの建物。
でも調査が進むうちに明らかになったのが、121セカンド・アベニューのビル内で ガス代を逃れるために、他からガスを 供給するための管が違法に設置されていたという事実。 その管は、ガス会社の点検の際には取り外されており、点検後に再びその管を繋いだ途端に 起こったのが今回のガス爆発。
爆発現場1階のレストラン、すしパークでは、爆発直前にガスの匂いがして、 避難を呼びかけようとした途端に 爆発が起こったことが伝えられているのだった。

現在、消防署と警察は 現場から この違法に設置されたガス管を探し出す作業に入っていることが伝えられているけれど、 現場に入っていた ガスと水道のコントラクターは、既に別件で捜査が進んでいる胡散臭い業者。 今回の事件では、2名の死者を出していることから、警察は 同事件に絡んだ業者を 業務上過失致死、第2級の故殺罪で立件する方向であることが報じられているのだった。


爆発直後には、現場の非常階段で立ち往生している住人女性を、見ず知らずのニューヨーカーが 自分の危険を顧みずに 非常階段を上って、避難させたという美談や、事件で家を失った人々に対して、 イースト・ヴィレッジの住人が衣類や食べ物を寄付したり、近隣のアップスケール・ホテル、 スタンダードが無料の3泊ステイをオファーするなど、いかにも災害時のニューヨークらしいエピソードが聞かれていたけれど、 その一方で近隣のニューヨーカーが眉を吊り上げていたのが、無神経な旅行者達の振る舞い。
消防署が2人の行方不明者を探して、賢明の作業を続けている現場をバックグラウンドに、 観光名所気取りで セルフィーを撮影してはソーシャル・メディア上にアップするという愚行の数々は、 ニューヨークのローカル・メディアが痛烈な批判を展開した結果、 ようやく 収まりつつあるのだった。

ところで今回のガス爆発のニュースを聞いて、昨年の今頃、ハーレムで起こったガス爆発を 思い出したニューヨーカーは少なくないけれど、 前回の爆発の被害者は、ガス漏れが市の責任だとして、ニューヨーク市を相手取った億円単位の賠償を請求する訴訟を起しているとのこと。
日本の感覚だと こうした事故の場合、被害者に訴えられるのは爆発が起きた建物のオーナーと考えられがちであるけれど、 訴訟というのは 賠償金の支払い能力がある相手を訴えるのでなければ、ただ訴訟費用を損するだけのもの。 もし建物のオーナーを訴えて勝訴したとしても、オーナーが破産申告をすれば 賠償金など一銭も支払われることがないのだった。
その点、市や大企業など 賠償金の支払い程度で 破産申告をするはずが無い相手を訴えれば、 勝訴、もしくは示談で 確実に支払われるのが賠償金。

例えば、昨年には荷物を運搬中のトラック・ドライバーが居眠り運転をして、俳優兼、コメディアンのトレーシー・モーガンが友人達と共に乗っていた車に激突。 トレーシー・モーガンを含む数人が重症を負い、同乗者1名が死亡するという事故が起こったけれど、 この事件の際も被害者が訴えたのは、トラックを運転していたドライバーではなく、彼の雇用主であるウォルマート。 その訴訟理由は、「運転手が居眠りをするほど、体力的に厳しいシフトを組んでいた」というもので、 既に被害者の一部は、ウォルマートとの示談が成立し 億円単位の賠償金を受け取る運びになっているのだった。

それを思うと、今回のガス爆発の被害者にとって 非常に気の毒なのは、違法業者の過失が事故原因であることがほぼ確定的なので、 市の責任を追及して、賠償金を受け取ることが出来ないこと。 違法業者を訴えたところで、ダメージが取り戻せないのは明らかなので、 そうなると住人達は保険に頼るほか無いのだった。


Will New York 宿泊施設滞在



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。




PAGE TOP