Mar. 31 〜 Apr. 6 2008




” アフリカン・プロブレム ”



今週のアメリカで主にエンターテイメント系のメディアを中心に騒がれていたのが 写真右にあるように 男性が妊娠したというニュース。 あまりに突飛なニュースなので 私は記事を斜めにしか読んでいないけれど、この男性というのは 性転換をした元女性とのことで、生まれながらの男性が妊娠をした訳ではないとのことだった。

個人的に目に留まったニュースとしては、 ニューヨークのレストランが徐々にボトルド・ウォーター(ペットボトル入りのウォーター)の締め出しに 動き出しているというもので、Del Post / デル・ポストやCUBE New York の記事でも紹介している Bobo / ボボ、Gemma / ジェマ といった 人気レストランでは 既に有料のボトルド・ウォーターの取り扱いを止めており、セレブリティ来店客が今も多い Weverly Inn / ウェヴァリー・イン、 ファイブ・ポインツといったレストランも その取り扱いをストップする予定であることを明らかにしているという。
その代わりにこれらのレストランが導入しているのが 50万円〜150万円もする水道水のフィルター・システムで、 月々4〜5万円を支払って これらをレンタルする店もあるという。 マンハッタンで最も予約を取るのが難しいと言われるレストラン、Per Se / パー・セ では今年1月にフィルター・システムを導入しており、 水道水は無料で提供するものの、フィルター・システムを使用した水道水は 有料で提供しているという。 でも来店客はボトルド・ウォーターよりもフィルター・システムを使用した水道水を選ぶ傾向が強いそうで、同店における ボトルド・ウォーターの売り上げは下降線を辿っているとのこと。
アメリカ全体でもボトルド・ウォーターの売り上げは2006年には前年比9%アップだったのに対し、2007年には6%アップと 徐々にスローダウンしていることが伝えられている。反面、水道水のフィルター・システムは レストランに限らず一般家庭が購入するケースも増えており、その売り上げは急速かつ大幅な伸びを見せているとのこと。 事実、フィルター・システム・メーカーの大手、ナチュラ・ウォーターのセールスは 過去6ヶ月間に2倍に増えていることが伝えられているのである。

今やリセッションに突入したことを誰も否定しないアメリカであるけれど、そんな中でも伸びているビジネスがあるというのは明るいニュース。 その一方で、リセッションであるからこそ潤っているビジネスもあって、その最たる例が 俗に ”レポ・マン” と呼ばれる 差し押さえ業者。 レポ・マンの ”レポ” とは 「Repossession / レポゼッション」 の略 で、このレポ・マンの仕事は、 支払いが滞っている車やボート、ジェットなどを探し出して 差し押さえ、支払いが回収できれば 購入者に戻すけれど、 そのまま支払いが無い場合には、オークションに掛けて販売してしまうというもの。
ニューヨーク・ポスト紙の記事で紹介されていたニュージャージーの業者は、先月 3月の間だけで586台のローンの滞った車を 差し押さえたとのことで、この数字は 昨年3月に比べると 2倍以上のもの。 この業者によれば、かつて最も差し押さえ件数が多かった車種は ホンダ・シビックであったというけれど、 現在のリセッションに突入してからは メルセデスだそうで、 リセッションがミドル・クラス以上にもインパクトをもたらしていることが見て取れるもの。
その他、記事では BMWの735や、ランボルギーニ・ディアブロ、2006年のジャガー X タイプ といった高級車やセスナ機が 差し押さえの例として紹介されていたけれど、歩合制で働いている指し押さえ業者の60人のスタッフは 今では80〜100万円の月収があるというから、彼らにとっては”リセッション大歓迎!” といった感じなのである。

でも、どんなにアメリカの景気が悪化したところで、貧しさのレベルでは比にならないのがアフリカ諸国で、 長きに渡って悪化の一途を辿っているのがその実情である。
サブ・サハラン・アフリカと呼ばれる、サハラ砂漠の南側のアフリカ諸国では、 栄養失調の人口が 1991年には1億6900万人であったのに対し、2003年にはその数が2億600万人に増えていることが 国連の調べによって明らかになっている。 ちなみにサブ・サハラン・アフリカの人口は、世界人口の13%に当たるというけれど、世界中の飢餓に苦しむ人々の4人に1人が サブ・サハラン・アフリカの人々であるという。
また同じく国連のワールド・フード・プログラムによれば、ケニア、ソマリア、エチオピアには 緊急食料援助を必要とする人々が1100万人も存在しており、 アフリカ大陸の53カ国中36カ国が 海外からの食料援助無しにはやっていけない状態であるという。 アフリカ大陸全体の人口は8億7750万人と言われているけれど、そのうち 緊急援助を要する劣悪な状態に置かれている人々は4000万人と言われ、 年間に20万人の子供達が奴隷として売買されていることも同時に指摘されている。

アフリカ諸国での貧困が一向に改善されない理由として挙げられるのが、 国民の60%が1日に平均1ドルしか稼げないような 生産性が低いと同時に、非常に立ち遅れた農業、もしくは牧畜業に従事しているためで、 労働力の80%が女性と子供によるもの。 その農業は、機械化が立ち遅れているのはもちろん、アフリカの気候に合わせて品種改良された作物の種を使うこともない、 極めて原始的なもので、1970年代に比べて収穫量が19%も落ちているという。
このため、海外への食料依存は増える一方で、1978年には年間の輸入食料が440万トンであったのに対し、1985年にはそれが1000万トンに増え、 2002年には1900万トンに達しているという。
こういった桁外れの危機的状況を目の当たりにさせられると、マドンナやアンジェリーナ・ジョリーがアフリカの子供を養子にしたところで、 焼け石に水どころか、何のインパクトも無いように思えてしまうけれど、一部で問題視されているのが アフリカの農業近代化のための援助が減り続け、逆に海外からの食料や物資援助が増えるという 依存型で出口の見えない貧困に陥っているというパターンである。

この背景にあると言われるのは、環境団体として知られるグリーン・ピースや、大企業の援助を受けるヨーロッパのフレンズ・オブ・アースといった団体が、 品種改良をされた作物の導入反対をアフリカ諸国に働きかけているという実態である。 品種改良された作物はインド、アルゼンチン、ブラジル、フィリピンといった国々では コストを下げ、 確実な収穫をもたらしており、 一様の成果と成功を収めているにも関わらず、飢餓で毎日のように何千人もの人々が命を落としているアフリカでは、 こうした作物の人体に及ぼす悪影響の懸念ばかりが 先進国の慈善団体の働きかけで広まってしまい、 食料の確保も出来ない国家が、その質にこだわるために 益々食料危機が悪化するという 本末転倒の事態が生じているのである。
こうした状況を打開するために、2006年から活動を始めたのがマイクロ・ソフト社の会長、ビル・ゲイツ と妻のメリンダ・ゲイツが運営する ゲイツ財団で、現在は 元国連の事務総長であったコフィ・アナン氏率いるグリーン・レボルーション・イン・アフリカと共同で、 アフリカの農業に先端技術を取り入れるためのプロジェクトを進めているという。 またゲイツ財団では、品種改良に反対する団体からの批判をかわすために、アフリカで育てる作物についての綿密な リサーチを行っていることも伝えられているけれど、アフリカの状況が悪化の一途を辿る中でのこうした活動が 困難を極めるのは言うまでも無いことである。

アメリカ国内では 人気No.1のリアリティTV、「アメリカン・アイドル」が 昨年から アメリカ国内とアフリカの飢餓を救済するための チャリティ募金集めの特番を行ったり、売り上げの一部がアフリカ救済チャリティに寄付される”Red” プロジェクトに、ギャップ、 デル・コンピューター、アメリカン・エクスプレスなどが参加するなど、多くの企業や団体が 様々な形で アフリカ援助を打ち出しているのは周知の事実。 でも、裕福な国が物や食料だけを与えているだけでは、 チャリティで集めた資金を受け取って食料を供給する企業を儲けさせることはあっても、 状況が改善されないことは 80年代以降のアフリカの 歴史を見れば分かる通りである。
それだけにゲイツ財団の活動には個人的に注目しているけれど、こうしたアフリカの状況を ふと考えた時に頭の中でダブってしまったのが、 親のサポートに頼って 殆ど働かない若い世代が 増えていると言われる 日本社会。
与えられたものを受け取って生きていくということは、生産性を失って自立できない状態に陥っていくということであるから、 ケースや規模は違うとは言え、アフリカと同じことが日本社会の個人レベルでも起こりつつあるように感じられてしまうのである。
その逆に、アメリカ社会では これまでは親達が子供世代を金銭的にサポートするケースがあったと言われるけれど、 それは、親世代が60歳でリタイアし、老後は 大人しい生活をしていた時代までの話。 今では平均寿命が延びている上に、親の世代が60歳になっても、70歳になっても自分の生活の充実を考え、 趣味やスポーツにお金を使うようになったため、 「子供の世代が親からの援助や 親が残してくれる遺産を当てにできる時代は終わりつつある」 とメディアは報じていたりする。
それほどに年老いても パワーがあるのがアメリカの ベビー・ブーマー世代という訳であるけれど、 このパワフルな世代が切り開いてくれる高齢化社会の方が、親がいつまでも下の世代を養う社会よりも 遥かに魅力的に見えるのは事実なのである。






Catch of the Week No. 4 Mar. : 3 月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 Mar. : 3 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Mar. : 3 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Mar. : 3 月 第 2 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。