Mar. 30 〜 Apr. 5 2009




” Classlessly Classy ”


今週のニューヨークでは メッツ、ヤンキーズが共に新しい球場のお披露目を行い、その初戦を勝利で飾っていたのが 明るいニュースとなっていたけれど、新しいヤンキー・スタジアムはシーズンがスタートしても、 まだボックス・シートが売れ残っているという、以前ではあり得ない状況になっているのだった。
また、4月3日の金曜には 同じニューヨーク州でもマンハッタンからは遥かに離れた 小さな町、ビンガムトンの移民センターで銃の乱射事件が起こり、13人が殺害され、4人が怪我をし、犯人が自殺するという 惨事が起こっている。 移民をターゲットにした銃の乱射がニューヨークで起こったというと、いくらそれがマンハッタンから離れていても 移民である私としてはドキッとしてしまうけれど、この事件の場合、犯人であるジヴァリー・ウォン(41)自身も移民で、 アンチ・イミグラントという類の事件では無いのだった。
犯人のウォンは離婚をし、仕事を失い、英語が話せないために 友達も居らず、常に無口であったとのことで、 事件直前の経済状態は200ドルの失業手当で生計を立てなければならないという貧しさ。 彼は、現場となったアメリカン・シビック・アソシエーションという移民サポート機関で 英語のクラスを取っていたというけれど、 授業には殆ど姿を見せず、たまに出席した彼に対してクラスメートは極めて普通に振舞っていたという。 なので、何故彼の怒りがこの施設に向けられたのか?は依然 不明のままとなっている。
ウォンのかつての仕事仲間は 冗談半分に 「そのうち、アイツが銃を持って現れて、全員 撃ち殺されるぞ」 と 言っていたそうだけれど、彼は警官が駆けつけた時に自らに銃口を向けて引き金を引いたものの、 防弾チョッキをつけて犯行に及んでいたという。

でも今週、アメリカのメディアが最も報道に時間を割いていたのは、何といってもG20金融サミットとNATO首脳会議出席で、 国際舞台に大統領としてデビューしたオバマ氏と、ミシェル夫人のファッションについて。
今日のニューヨーク・タイムズの社説欄では オバマ大統領がロンドン入りして見せた行動を 同紙の現地のライターが 「Classlessly Classy」 という言葉で表現していたのだった。
貴族社会の名残が強いヨーロッパ、特にイギリスでは クラス(階級)意識が根深く見られるのは周知の事実。 この記事ではオバマ大統領が警備の警官と握手を交わしたのに対して、イギリスのブラウン首相はその警官の前を素通りした エピソードが紹介されており、ブラウン首相はクラス意識が強いがために 警官を無視したのではなく、警官が彼の目には入らなかった のだと説明されていたのだった。
またオバマ夫妻は、ダウニング・ストリート(首相官邸の通称)を出る際、滞在中彼らの世話をしてくれたスタッフ全員と1人1人握手をして 礼を述べたことが伝えられているけれど、アメリカではクリントン時代から こうした大統領のフレンドリーなジェスチャーは 一般的になっているもの。 でもクリスマスでも バトラーと握手をすることが無く、今でも使用人が主人と目を合わせることが無いようにしつけられている イギリス社会では、これも極めて珍しい行為として見受けられていたのだった。
さらに英米のメディアが 最も注目したと同時に 驚いたオバマ夫妻の ”Classlessly Classy” ぶりは、 エリザベス女王と対面した際のこと。女王に面会する人間に対しては、 自分から握手の手を差し出すことは許されず、女王が手を差し出すまで待たなければならない、 女王の身体に触れてはいけない、女王に背中を向けてはいけないなどの厳しいプロトコール(儀礼)が科せられているけれど、 ミシェル夫人は自ら女王に握手の手を差し伸べ、やがて女王の背中に手を回すシーンまで見られ、 その様子はフレンドリーという声と、儀礼破りという声の双方が聞かれていたのだった。 バッキンガム宮殿の広報担当者は、この様子はあくまで 「エリザベス女王とミシェル夫人が、互いの好意を表すジェスチャーとして 衝動的に行ったもの」として、プロトコール違反ではないことをコメントしていたけれど、 一方のアメリカのメディアでは、カーディガン姿で女王陛下に会いに行った夫人のファッションについて 賛否両論の嵐が巻き起こっていたのだった。

こうしたクラスレスぶりが クラッシーに受け取られてしまうのは、現時点で G20に姿を見せた 20カ国の首脳の中で、 唯一 自国内のみならず、国際的にも人気があるのがオバマ大統領だけであるため と記事では分析されていたけれど、 ジョージ・ブッシュ大統領時代には、ヨーロッパのどの国に出かけても 反米デモが行われていたことを思えば、 オバマ大統領のお陰でアメリカのイメージが向上していることは認めざるを得ない事実。
それでも 大統領のギフト選びについては、そのクラスレスぶりが厳しく批判されているのは、アメリカ国内でもイギリスでも 共通のこと。 少し前にブラウン首相が訪米した際、オバマ大統領がブラウン首相に贈ったのが ハリウッド映画20作のDVDセット。 国家元首が国家元首に対して贈るギフトとしてはあまりに格が低すぎることが、英米のメディアで指摘されていたのだった。 でも、この時にブラウン首相がオバマ大統領に贈ったギフトというのが、反奴隷船の木材から彫り出したペン・ホルダーで、 まるで大統領が奴隷の子孫 だと 言いたげ な このギフトも 同様に物議を醸していたのだった。
今回オバマ大統領がエリザベス女王に贈ったギフトというのが何とアイポッド。
その中には、2007年にエリザベス女王が訪米した際の写真やビデオが、そのイメージにちなんだ音楽と共に 入っているとのことで、それと共に 作曲家リチャード・ロジャースのサイン入りソング・ブックを贈ったことがレポートされているのだった。 一方のエリザベス女王から オバマ夫妻に贈られたギフトは、シルバーの額縁に入ったサイン入りの写真で、これは女王陛下が バッキンガム・パレスを訪れた全てのゲストに対して贈っているもの。
案の定、今回のオバマ大統領のクラスレス・ギフトについてもアメリカ、イギリスの両国のメディアが 「いくらリセッションだからといって、 もうちょっとマシなギフトがあるだろう」といった批判を繰り広げているのだった。 でも私個人の見解では、オバマ大統領が就任式晩餐会で見せたファッションを見る限り、 彼の側近には そういった スノッブな階級社会を理解する人間は存在して居ないように思えるので、新大統領に 垢抜けた社交マナーを臨むのは厳しいように思えるのだった。
ちなみに、オバマ大統領の就任式晩餐会のアウトフィットは、ノッチト・カラーのタキシードにJクルー製のサテンのホワイト・タイという出で立ち。 タキシードの中でも最もフォーマル度の低いノッチト・カラーに、燕尾服にしか合わせてはいけないホワイト・タイをつけて、 しかもそれが ホワイト・タイのご法度素材であるサテンだったというのは、以前、CUBE New York のファッション・ニュースの セクションでもご紹介したけれど、そんなマナーに外れた装いや振る舞いも 大統領の人気が続いている間は ” クラスレスリー・クラッシー” なのである。

ところで、先週日曜のニューヨーク・ポスト紙の第一面を飾っていたのが、 レイオフされた金融業界、不動産業界の女性達が、今やストリッパーになって以前よりお金を稼いでいるというニュース。
表紙の写真にフィーチャーされている女性は、元モーガン・スタンレーのアナリストであったというけれど、レイオフされてしまい 憂さ晴らしにストリップティーズに出かけて友達と飲んでいたところ、オーナーにストリッパーの職をオファーされたという。 チップ収入だけで一晩1500ドルは稼ぐという彼女は、週に3〜4日働くだけで 軽く16万ドル (約1600万円)の収入を得る計算だそう。
昨今では、レイオフされた若い女性達が 短時間高収入の仕事を求めてストリッパーに志願するケースが増えており、 マンハッタンの有名クラブは、毎週40〜50人の応募が寄せられているという。 また郊外でも職を失って、子供を養わなければならない女性が ストリッパーになる例が増えていることが報じられており、 週に3〜4日、子供が眠っている間に出来る 割りの良い仕事として人気を集めているとのことだった。
この記事を読んでふと思い出したのが、かなり以前に付き合っていたボーイフレンドが 「知り合いの女の子を ストリッパーにリクルートしてしまった」と自慢していたエピソード。
彼は いつも夜中にジムに行くことにしていたけれど、夜中にワークアウトをするのは圧倒的に男性が多い中、 ヒスパニック系のルックスが良い女の子が居たので、声を掛けたところ彼女はジムで受付のアルバイトをしていて、 仕事が終わるとタダでワークアウトをさせてもらえるということだった。 やがて彼は彼女と頻繁に話すようになり、彼女の恵まれない境遇について知ることになったという。
それによれば、彼女は6人姉弟の長女で、家が貧しいので高校を出て直ぐに働き始めたものの、 両親が厳しいため、レストランのウェイトレス として働くことを許してもらえず、 教会で週休80ドルという激安の 給与で働いており、ジムの受付のアルバイトも両親には内緒にしているという。 家は狭く、彼女は妹弟と部屋をシェアしなければならないので、家に帰ってもプライバシーはゼロだそうで、 しかも週休80ドルのうちの60ドルを家計に入れなければならない状況。
そんな彼女の唯一の楽しみが、土曜の夜にクラブに出かけて踊ることで、 肌を露出したセクシーなアウトフィットで、男性の視線を集めながら踊るのが好きだと語っていたという。 またクラブでは男性にドリンクをおごってもらうことも多いそうで、実際彼女はワークアウトで鍛えているだけあって、 スタイル抜群で 目鼻立ちのはっきりしたセルマ・ハイヤック系の美女であったという。
そこで、私のかつてのボーイフレンドが提案したのが 「だったらストリッパーになれば?」という突飛なアイデア。 もちろん敬虔なクリスチャンの家庭に育った彼女は 最初は「 とんでもない!」 というリアクションだったというけれど、 彼が「ニュージャージーのクラブだったら、トップレスにならなくても良いところがある」とか、「どんなにスローな夜でも、 毎晩キャッシュで600ドルは稼げる」といって、まるでストリップ・ジョイントのスカウトのように彼女を説得し続けたという。
そうするうちに、ある日突然彼女がジムに姿を見せなくなってしまい 「どうしたかな?」 と思っていたところ、 その3〜4ヵ月後に 彼の留守番電話に10分にも渡る彼女からの長いメッセージが残っていて、 実際にストリッパーになって自分の人生がいかに変わったか、思い切ってストリッパーになって本当に良かったこと、 そしてそれを提案してくれた彼への感謝が述べられていたという。 彼女は、「実家を出て 仲間のストリッパーが紹介してくれた不動産業者から自分の家を買おうとしているところで、今は自分の車で 仕事に通っている」 と、その豊かになった生活ぶりを説明していたというけれど、仲間のストリッパーが大学の 学費を支払うために 仕事をしているのに刺激されて、「自分もお金を稼いで大学に行きたい」 とも語っていたそうで、 私のかつてのボーイフレンドは 「I felt really good!」 と 人1人の人生を向上させた満足感に浸っていたのだった。

私がこのストーリーを面白いと思ったのは、ストリッパーという世の中からあまり尊敬されない仕事についてからの方が、 この女性の人生が遥かに前向きになったという点。
私は、自分自身が自営業をしていることもあって 職業的偏見はあまり持ち合わせて居なくて、 それよりも大企業に勤めて 嫌いな人間に囲まれて好きでもない仕事をして、惨めな生活をしているのに プライドだけはめっぽう高い 人達を見ると 逆にその強がり が痛々しく思えてしまったりする方。 しかもそうした人々に限って レイオフされて、仕事を失ってしまうと人格まで否定されたようになってしまうのである。
その一方で、ニューヨーカーはお金でその幸せのサイズを測ろうとするところがあるけれど、 私に言わせれば、勤めている企業よりはお金の方が幸福度をジャッジするのに正確なメジャーと言えるもの。
いずれにしても、このストリッパー嬢のストーリーから学ぶべき点と言えるのは、 自分が満足していない状況は打破するべきだし、自分を幸せにする別の道があるとしたら それが何であれ 恐れずにトライしてみるべきということ。
もしそれに対して 社会的、職業的偏見を持つ人が居るとしたら、私はその人の価値観の方が疑われるべきだと思うのである。





Catch of the Week No. 5 Mar. : 3 月 第 5 週


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Catch of the Week No. 3 Mar. : 3 月 第 3 週


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執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。