Mar. 27 〜 Apr. 3 2011

” 放射線の心配をする前に 止めるべきこと ”


今週もアメリカはリビア情勢と、日本の原発事故関連が毎日のようにトップ・ニュースになっていたけれど、 そんな中、週末に発表された明るいニュースとしては、先月のアメリカの失業率が8.8%に下落したという報道。
これは、20万6000の仕事が生み出された計算となり、ようやく景気回復に明るい兆しが見え始めたという印象を与えたけれど、 その一方で、予算案で揉める議会は今週以内に合意に達しない場合、閉鎖を余儀なくされているのだった。 そうなれば せっかくの景気回復の足がかりが台無しになることも懸念されるとして、 オバマ大統領は何とか予算案を纏めようとしているけれど、かなり難しい様相を呈しているのが実情なのだった。

さて今日、4月3日、日曜付けのニューヨーク・タイムズ紙に掲載されていた記事で、私が特に興味を持ったのが、「From far Labs, A Vivid Picture of Japan Crisis」 すなわち、「遠く離れた研究所から見る、日本の(原発)危機の鮮明な状況」というもの。
この記事では、原子力業界が、断片的な情報を様々な角度から解析して、原発事故の正しい、詳細な情報を シミュレーションなどによって把握する技術を、1979年のスリーマイル島の原発事故以来 開発。 その性能を飛躍的に進歩させており、世界各国の研究者が、現場入りどころか、自分の研究所を離れることなくして、 福島原発の被害の度合いと、その状況を 極めて正確に分析していることが報じられていたのだった。
記事によれば、フランスのエネルギー会社が発表した分析は、日本政府や東電の説明よりも遥かに詳細な情報で、 それによれば、原子炉内の冷却水のレベルが4分の3に下がった時点で、その温度は2700度にまで上昇しており、 その熱は燃料棒外側のスティールとジルコニウムを溶かすのに十分なパワーがあるとのこと。 それでも福島第一原発は、最悪の状態と言える「a complete meltdown of the plant」、すなわち発電所自体が その熱によって メルトダウン=溶解する状況は避けることが出来る とのことなのだった。
またヨーロッパ、アメリカの科学者達は、福島原発で起こった水素ガスの爆発や放射性プルーム(汚染物質の煙の空気中、もしくは水中の動き)を分析して、 核燃料棒がどの程度のダメージを受けているかも理解しているとのこと。
こうしたデータを元に、エネルギー省のスティーブン・チュー長官は、金曜の会見で「福島原発の原子炉のうち、1つは70%がダメージを受け、 もう1つはメルトダウン状態が33%にまで達している」とコメントしているという。 さらに記事には、通常こうした原発事故の分析結果は政府と原子力業界の間での秘密事項として扱われるケースが多いことも記載されていたのだった。
そうは言っても、世界中に約600も存在する原発で、 これまでに原子炉の深刻なメルトダウンに陥ったケースは僅か3件のみ。 でも、「福島原発の事故で、この数が2倍に増えた」と記事は報じており、福島原発の1〜4号機の中の3つが、 危険な状況であることを示唆しているのだった。
記事の中では、シカゴで原発分析をするFauske & Associates / フォースキー&アソシエーツ社のロバート・E・ヘンリー氏の 「福島原発で水素が放出された時点で、燃料棒がむき出しになって、それが高温に達していること、 事態が深刻な状況になっていることを直ぐに悟った」というコメントも掲載されており、 同氏によれば、次の段階の引き金となるのは燃料棒の温度が上昇して、その一部が溶解し、ヨウ素131、セシウム137が放出されること。 さらに溶解が進んだ場合にストロンチウム90、プルトニウム239といった物質が放出されるという。

この記事では、世界の原子力専門家達のそれぞれの分析、それも共通した分析を淡々と記載しており、 危機感を煽るのではなく、原発事故の分析技術が遠隔地から十分に、そして正確に行なえることを ポイントにしているのだった。
この記事を読んで私が初めて知ったのは、フランスのアレヴァ社が福島原発の原子炉燃料を供給している会社だったということ。 なのでアレヴァ社からのサポートはその背景を知って 十分に理解が出来たし、フランスにおける原発産業の重要度と、現在の福島原発事故の 世界中に及ぼすインパクトを考えれば、サルコジ大統領が来日しても不思議ではないこと。 「日本=ハイテク、最先端技術」が世界的なイメージになって久しい現在であるけれど、 原発に関してはフランス企業に解決策のサポートを仰がなければならない事情が分かるような気がしてしまったのだった。

この記事に出てきた専門家達のコメントは一様に、「福島原発の事故が現代社会が直面する最悪の原子力事故の1つであるということ、 しかしながら、最悪の状況は逃れられるだろう」ということ。
でも別の記事では、連日に渡って何トンも注入されていた冷却水が、放射能汚染に繋がっているという指摘がされており、 問題解決への有効な手立てが無い現状も報じられているのだった。

今週には、アメリカのワシントン州(ワシントンDCではなく、西海岸のワシントン州)でも、その牛乳にヨウ素131が検出されたことがニュースとなっていたけれど、 もちろんそのレベルは、人体に影響を与えるレベルの5000分の1以下という極めて低いもの。
加えて放射線というのは、原発事故など起こらなくてもある程度は農作物や、乳製品、食肉などの食物全てに そもそも含まれているもの。 しかしヨウ素131というのは、通常はミルクから検出されないものなのだそうで、やはりそれが福島原発の影響であることは事実と言えるようなのだった。


ところでアメリカでは、今回の福島原発事故が起こる以前に、人間にとっての放射線の年間の安全値が これまでに たびたび話題になってきていたのだった。
その理由は、ダーティーボムと呼ばれる核兵器テロの恐れ、空港でのセキュリティを強化するためのフルボディ・スキャンから浴びる放射線の問題、 また保険会社が定期診断におけるCTスキャンをカバーしない理由として 放射線の危険性を謳っていること、 さらに最近では 携帯電話が3G、4Gとそのネットワーク・パワーアップするにしたがって、20年、30年を掛けて 脳腫瘍、引いてはがんを発病するだけの放射線を発しているという指摘が専門家からされており、 これらがメディアで報道されるたびに、人体に安全な放射線値が議論の対象になっていたのだった。
なので、そうした記事を読むと放射線を軽減するためのテクニックが説明されていたりするけれど、 今の日本の報道を見ていると、放射線汚染の指標がヨウ素131、セシウム137に集中していて、 放射線の人体への影響が、ヨウ素やセシウム以外の放射線にも含まれる全てを総合したもので決まることを忘れてしまいそうになるのだった。

例えば 仕事上、どうしても放射線を普通の人より多く浴びる傾向にある、原子力発電所勤務者が喫煙者である場合、 肺がんで死亡する確率が極めて高いことが報告されているのだった。 すなわち、原発の放射線を多めに、しかも長年に渡って浴びているからといって、必ずしもヨウ素131が原因と言われる甲状腺がんや 白血病で命を落とす訳ではないということ。 放射線は、様々ながんの原因となることは周知の事実であるけれど、体内の放射線が20年、30年を経過したのち、 どう影響するかは、 喫煙など、日ごろのライフスタイルによるところが大きいように思えるのだった。

放射線は赤レンガの建物や、大理石の床や壁の家で暮らしてると微量ながらも余分に浴びることになるし、日焼け、特に日焼けサロン、 先述のボディ・スキャン、CTスキャンやレントゲン、飛行機での旅行、長時間コンピューターの前で仕事をすること、天然ガスを用いての調理、 喫煙、携帯電話での通話など、現代社会に蔓延しているもの。日本には何故かラドン温泉などというものもあるけれど、 土、石、水に含まれるウランとラジウムの自然崩壊によって生まれるラドンも立派な放射線。 身体に良い放射線など存在しないことを考えれば、これも避けるのが賢明と言えるのだった。

放射線の量を軽減するには、 携帯電話は通話を控えて、携帯メールにすること。レントゲン撮影の回数を減らし、撮影時に甲状腺のプロテクターをつけること(ボディを覆うプロテクターに通常付いている首を覆うカバー)、 などが考えられるけれど、専門家が最も有効とアドバイスするのが、タバコを吸わないこと。
タバコを吸わない人が喫煙者と暮らしている場合、年に12回の胸部レントゲンに値する放射線を喫煙者によって 与えられているというけれど、それが喫煙者本人の場合、1日1箱を1年間吸い続けた場合の放射線量は 約1000mrem。これは胸部レントゲンの100倍に当たる数字であるという。ちなみに喫煙から体内に入るのは主に鉛210と、ポロニウム210と呼ばれる 放射線物質。

私がこれを喫煙者の友人に話したところ、「喫煙者は ノンスモーカーが煙を吸い込むより、喫煙からの肺へのダメージが少ない」という ちょっとずれたリアクションが返って来たけれど、放射線はタバコを吸えば吸うほど体内に蓄積されるもので、 肺が どの程度汚染されているか?とは別問題。
放射線は、粒子であるから例え家族の前で吸わない、家族が家に居る時には吸わないなどと言っていても、 喫煙者の身体や服に付着した粒子、クッションやカーテンに付着した粒子が ノンスモーカーの家族に 放射線を分け与える結果をもたらすのだった。
なので、放射線を恐れるなら、喫煙者はタバコを止めるべきというのがアイオワ大学病院のがんセンターが発表したレポートの見解。 そもそも喫煙には何の健康上の利点もなく、自分の健康だけでなく、周囲の健康まで害する結果になるのであるから、 日ごろより人々が多めの放射線を浴びるような状況下での喫煙は、身勝手かつ自虐的とも言える行為に思えるのだった。


ところで、1週間ほど前に福島原発付近からの被災者が、被災所入りを断られたというような報道を日本のTVで見たけれど、 万一被爆していたとしても、被爆は感染症ではないので、一緒に居て うつるものではないのは明らか。
2週間ほど前のニューヨーク・タイムズにも「日本から被災して来た友人を 家に滞在させても大丈夫か?」といった質問が寄せられていたけれど、 専門家がアドバイスしていたのは、被爆はうつらなくても衣類やシューズに放射線が付着しているかもしれないので、 衣類(外側に着ているもの)とシューズを脱いで家に入ってもらい、直ぐにシャワーと石鹸で身体を洗浄し、 放射線が付着しているかもしれない衣類とシューズはビニール袋に入れて密封して 処分することが奨励されていたのだった。
でも、それは震災直後のアドバイスで、現時点では空港で放射線検査が始まっているので、 アメリカで日本から来た友人や家族を受け入れる際は、それほど神経質にならなくても良くなっているはずなのだった。

最後に、今週メールでやり取りした日本の友人が 原発事故直後、外国人が大勢日本を去った理由は、 「渋谷に原発がある」というデマが報じられたためで、 「諸外国のメディアがいい加減な報道で恐怖心を煽っている」という内容の報道を日本のTVで観たと言っていたのだった。
でも、私が知る限りそんな報道は観たことも、聞いたこともなくて、1つ思い当たったのは、3月15日、ロイター発の報道で、 東京の渋谷で、0.6マイクロシーベルトの放射線が検出されたというもの。 でも、この報道を前後して、既に諸外国では日本への渡航自粛要請が出ていてたので、そうした状況下であったら、 外国人が 祖国ではない日本を離れても、仕方が無いように思うのだった。

でも、アメリカのメディアとて、既にヨウ素のタブレットが完売するほどの過剰反応を示しているアメリカ国民を 不必要に脅すような報道などしている場合ではないのは明らか。
アメリカ経済にしても、日本の事態が速やかに収束に向かった方が、株価も安定するし、 日本からの部品が入らないことによる GMやフォードの工場閉鎖、 アップル社のアイパッドの生産低下を危惧せずに済むのである。


フォローアップ
このコラムをアップさせて以来、複数の読者の方々から、「フォックス・ニュース・チャンネルが、渋谷エッグマンというディスコに 原発があると報じて、それがインターネット上に広まっている」というお知らせを頂きました。ご指摘ありがとうございました。
確かに、「Fox News Discovers Nuclear Reactor In Japanese Disco (”フォックス・ニュースが日本のディスコに原発を発見”)」という記事がネット上にかなり見られたのですが、 この記事は タイトルの皮肉交じりのニュアンスからも分かる通り、フォックスの誤報にフォーカスを当てた報道で、 渋谷に原発があることを報じた記事ではなかったことを 併せてお知らせさせて頂きます。
ちなみにフォックス・ニュース・チャンネルは大々的なミスや偏見報道が多いメディアとして アメリカでは知られており、 同件に限らず、同局のミスや報道姿勢は頻繁にアメリカのメディアやソーシャル・ネットワーク上での 非難やからかいの対象になっています。
したがって、フォックス・ニュースのこの報道が外国人の国外退去に繋がったとは考え難いというのが私の考えです。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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