Apr. 7 〜 Apr. 13 2008




” ポープ、アンカー&プレジデント ”



今週のニューヨークでは4月18日からニューヨーク入りするローマ法皇、ベネディクト16世に関する報道が かなり大きく行われていたけれど、 ニューヨークに59時間に渡って滞在するローマ法皇のスケジュールは非常にハードなもの。
JFKに降り立った1時間後には国連での20分のスピーチを行うことになっている他、今回 ベネディクト16世は ローマ法皇としては 歴史上3度目の シナゴーグ(ユダヤ教の教会)訪問を控えており、翌日、土曜の午前には5番街のセント・パトリック寺院で、 2800人の牧師と5000人のオンラインで応募した人々を前にミサを行うことになっている。 その後フィフス・アベニューをガラス張りの車に乗ってパレード形式で 22ブロックに渡って 沿道の人々に祝福を与えることになっているけれど、 ニューヨーク市警察が 「一目ポープ(ローマ法皇)の姿を拝みたい」という人々に対して 奨励しているのが、この時点で5番街沿道に陣取ること。ベネディクト16世を乗せた車は 午後1時15分にセント・パトリック寺院を スタートする予定で、沿道は かなりの大混雑が予想されているという。
そして最終日の日曜には、午前9時半からグラウンド・ゼロを訪れ、9/11の犠牲者家族や、ブルーム・バーグ市長らと共に祈りを捧げ、 その後、最後のメイン・イベントであるヤンキー・スタジアムで 5万5000の人々を前にミサに臨むというのが主なスケジュール。
ベネディクト16世と言えば、欧米では 前ローマ法皇、ヨハネ・パウロ2世に比べてカリスマ性やエネルギーに劣る と 指摘されているけれど、4月16日で81歳の誕生日を迎える 法皇の年齢を考えれば、 59時間のニューヨーク滞在で、スピーチとミサを含む9つの大きなイベントをこなす気力と体力は 脱帽に値するものなのである。

でも 昨今のアメリカにおいては、減少傾向が伝えられてるのがカソリック人口。
もちろん信者自体の数は30年前に比べて1600万人増えているとのことだけれど、これは アメリカの人口増加率を僅かに下回る伸び率。 従ってアメリカでは年々カソリック以外の宗教を信仰する人々が増え続けている訳である。
更にカソリック人口を人種別に見てみると、このところ増加傾向が著しいのが 黒人を抜いて アメリカ最大のマイノリティになったと言われるヒスパニック、それも若い層の信者。 したがって、移民やその子供のジェネレーションが多く、あまり裕福な層とは言えないだけに 彼らは政治的には 移民政策の強化に反対し、政府からの補助を望むという民主党寄りの主張が強いと言われている。 でもそれ以外では、死刑や 同性愛者の結婚、妊娠中絶に反対するカソリックの思想を支持しており、 この点では共和党の主張に同調するのがヒスパニック・カソリックのポジションである。
カソリック信者と共に減り続けていると言われるのが 日曜のミサに参列する人々の数で、 1965年には60%以上のカソリックが 毎週日曜のミサに姿を見せていたのに対し、今やその数は 40%強。 特に都市部ではこの割合が 遥かに低いと言われている。 ミサに参列する人々が減っているということは、敬虔なカソリック教徒が減りつつあること意味するだけに、 このことは教会関係者が危惧して久しい状況なのである。

さて、米国全体のニュースとしては、 アメリカン・エアラインが機体の安全確認を理由に今週1週間だけで 3000ものフライトをキャンセルし、 空のダイヤを大々的に乱したことが 大顰蹙を買っていたけれど、、 メディアの世界で大きく報じられていたのは、3大ネットワークの1つ、CBSと 5年で$60ミリオン(60億円)の年俸契約を結び、 2006年9月より アメリカで女性初のイブニング・ニュース・ソロ・キャスターとなったケイティ・コーリック (51歳)が、 低視聴率のため 契約期間を終えることなく、キャスターのポジションを去ることが確実視されているというニュース。
かつてはNBCのモーニング・ショー 「トゥデイ」の顔として、その好感度で視聴率に貢献していたケイティ・コーリック。 彼女はジャーナリストとしての経験の浅さを指摘されながらも その人気が買われて、キャスターとしては史上最高のギャラで、 多額のプロモーション・フィーを投じて 華々しく CBSの イブニング・ニュースにデビューしており、 このことは 日本でも大きく報じられたと同時に、アメリカに住む人間にとっては記憶に新しいところ。
そもそもアメリカの3大ネットワークでは、午後6時半からの30分のニュースが報道番組では最もステイタスが高いとされており、 ここでアンカーを務めるのは ネットワークの ”顔” と言われるトップ・ジャーナリスト。 そして 6時半からのニュース番組の視聴率は、各ネットワークのアメリカ国民に対する政治的、社会的影響力を示す指針とさえ 言われるだけに、ネットワーク側が特に力を入れるのがこの時間帯なのである。

でも、いざ番組がスタートしてみると ケイティ・コーリックが担当するCBS イブニング・ニュースが 視聴率No.1に輝いたのは最初の数日のみ。 もっと具体的に言えば、CBSが当初 意図した視聴率が取れたのは、最初の2日だけで、 この時は あまりの話題性に、私でさえチャンネルを合わせたのを覚えていたりする。 でも彼女がスター扱いされて、報道の部分が疎かにされているのが鼻に付いてしまい、 それ以降はこの時間帯にニュースを見る機会があっても 決してチャンネルを合わせなくなってしまったのがCBSである。
同様に感じたのは私だけではなかったようで、CBSのイブニング・ニュースは2週間ほどで3大ネットワーク中の最下位に転落しただけでなく、 彼女の前任で、彼女より遥かに給料が安かったものの、ジャーナリストとしては人々から敬愛されていたダン・ラダーがキャスターを 担当していた頃よりも 視聴率を落とすという惨憺たる 状況。 これを受けて、彼女の給与のオーバー・ペイ(払い過ぎ)は昨年春頃から CBS内部はもとより、 様々なメディアが指摘していたのだった。
でも、今週に入って 彼女がキャスターを早期降板することが 大きく報じられた理由は、CBSが視聴率を18%も落とし、広告収入の減少が見込まれるという厳しい状況に陥っていることが 明らかになったためで、ケイティ・コーリックは早ければネットワークがサマー・シーズンに入る前の6月、遅くとも 11月の大統領選が終わった時点で、 キャスターを降りることが決定的であるという。

私はケイティ・コーリックについては、「トゥデイ」を見ていなかったこともあり、周囲が言うほどの魅力が理解できなくて、 ジャーナリストというよりは、パーソナリティだと思って見てきた人物。 それだけに 早期降板説を 唯一残念に思うのは、彼女の「エゴや失態」のせいで 他の優秀な女性ジャーナリストのネットワーク・アンカーへの道が遠のいてしまうことを危惧するためである。
彼女の「エゴや失態」を具体的に説明すると、例えばケイティ・コーリックはイブニング・ニュースのキャスターという重責を どれだけ深刻に捉えていたかは知らないけれど、若い人々にもアピールする新しさを番組に持ち込もうとするあまり、 白いパンツ・スーツ&ノーメークで番組に登場したり、 ご自慢の脚を見せるためにアンカー・デスクに腰掛けて、脚を組んだままニュースを伝えるなど 「女性初のソロ・アンカーは ここまでして話題作りをしなければ、相手にされないのだろうか?」 というような愚かな試みをしてきた訳である。 そんな彼女のエゴイスティックな試みに合わせて、当初は イブニング・ニュースらしからぬ カメラ・アングルが 「新しい試み」 として導入され、 この時点で 真面目な報道を好む視聴者を失い続ける結果になってしまったのである。
でも、頭を冷やして考えるまでも無く、この時間帯に若い層が毎日ニュースにチャンネルを合わせるというのは、特に都市部では非常に難しいこと。 彼女が机に座って脚を組んだところで、人々のライフスタイルは変わらないし、変えられないものである。
もちろん、惨憺たる視聴率になってからのCBSイブニング・ニュースは極めて普通の報道番組のスタイルになっているけれど、 それだったら ABCのチャールズ・ギブソンやNBCのブライアン・ウィリアムスの知的かつ、時にユーモアを交えた報道スタイルの方が、 格が上で、信頼出来るように感じられてしまう訳で、ケイティ・コーリックが視聴率最下位に甘んじる理由は非常に理解できるのものなのである。
もちろん これは「女性キャスターがいけない」というのではなく、ケイティ・コーリック個人の過ちと、CBSのミス・キャストによる低視聴率な訳だけれど、 もし次に別の女性キャスターに同じチャンスが巡ってきた際は、ケイティ・コーリックの惨憺たる視聴率の前例を受けて ネットワーク・エグゼクティブはキャスティングに二の足を踏むだろうし、メディアもそういう視点で見守ることになる訳で、 「女性初」、「黒人初」というような ”初めての存在” というのは、実際の仕事以上の社会的責任や偏見との戦いを強いられる と言っても過言ではないのである。

その意味で 「女性初」、「黒人初」 の大統領候補であるヒラリー・クリントンと、バラック・オバマは 共に 白人で共和党大統領候補に選ばれた ジョン・マケインよりも厳しい視点でジャッジされることになると思うけれど、 今週のケイティ・コーリック降板報道を受けて、共和党メディアであるニューヨーク・ポストが今日、4月13日付けの社説セクションで 特集したのが、 ケイティ・コーリックとヒラリー・クリントンの共通した失策にフォーカスを当てる記事。
もちろんこれは、ヒラリー・クリントンが民主党大統領候補指名争いでバラック・オバマに敗北することを見越して組まれた記事であるけれど、 こんな報道を見るにつけ、ネタ切れになりつつあると思われるのが大統領選に関する記事の切り口である。
このような記事よりも 昨今の大統領選絡みの報道で 私が興味深いと思ったのは、ラッパー、フィフティ・センツのコメント。 それによれば、彼は当初ヒラリー・クリントンを支持していたというけれど、その後は 多くの民主党支持者同様、オバマ支持に寝返ったという。 でも今は誰も支持していないのだそうで、その理由は 大統領選にすっかり関心が無くなってしまったためだという。
実は私も3月頃から全く同じ状況で、私の場合、昨年の夏の時点では友人に「オバマが大統領になるかもしれないけれど、個人的には ヒラリーに大統領になって欲しい」と語っていたのだった。 でも以前書いたように私はオバマ支持にはなびけなくて、 ヒラリーを支持する気持ちも無くなってしまって、だからといって共和党支持には抵抗があるので、 今では、大統領選について訊かれると「誰も支持していない」と答えるようになってしまったのだった。

ふと考えてみると、20年近くニューヨークに住んでいる私にとっては、今回の大統領選挙は5回目のもの。 でも予備選挙が通常より早くスタートしているだけでなく、候補者達の大統領選立候補や選挙活動は2007年から行われてきた訳で、 正直なところ、あまりに長い大統領選までのプロセスに 飽きてしまった感じなのである。
加えて世の中も、アメリカのスーパーパワーがすっかり衰え、誰がアメリカ大統領になろうと、それが世の中に多大なインパクトを 与えるとは思えない時代になりつつある訳である。 国家元首のパワーの衰えはアメリカに限ったことではなく、例えば多くのアメリカ人は未だにイギリスの首相がブレア氏だと思っていたり、 ブラウン首相の名前も顔も知らないという状態。サルコジ大統領についてはカーラ・ブルーニとのスキャンダルのお陰で知られているものの、 知られ方が知られ方なだけに、誰も彼をシリアスな政治家とは捉えていないのが実情。
経済ではアメリカに次いで、引き続き第2位のポジションを維持している日本だけれど、 欧米の一般人で日本の歴代の首相の名前を1人でも言える人間は まず居ないというし、 それは中国の首相にしてもしかり。カナダやイタリアについては名前以前に、政治のトップ・ポジションが首相なのか、大統領なのかも 分からない人が殆ど。
それよりキューバのフィデル・カストロ首相の後継者である 弟のラウル・カストロや、北朝鮮の金正日総書記、ロシアのプーチン大統領などの方が 遥かに一般の人々の中で 知名度があり、顔と名前が一致する存在であったりする。

要するに、世界中の国家元首の存在感が どんどん薄くなっているのが現在であり、 世の中が 政治よりも経済を地軸に動いていることが 強く感じられる時代になってきているのである。
なので 私自身、自分の将来の生活を考える際に関心を払うのは政治よりも むしろ経済の動向で、 経済さえ上手く機能していれば、多少大統領が能力不足でも関係無いとさえ思えてしまうのである。
そう考えれば 尚のこと、 長い時間と、多額の選挙資金を投じて 予備選挙を続けている現在のアメリカが 凄く無駄なことをしているように見えてしまうけれど、 少なくとも、選挙絡みの仕事をしている人々にとっては、長くダラダラした選挙が続くことは ビジネスが潤うということ。 したがって こんな長いだけの選挙戦も、 リセッションを迎えたアメリカに 何らかの経済効果はもたらしているのである。






Catch of the Week No. 1 Apr. : 4 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Mar. : 3 月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 Mar. : 3 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Mar. : 3 月 第 3 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。