Apr. 4 〜 Apr. 10 2011

” FOMO ”

今週のアメリカは、金曜に締め切りを控えた予算案のニュースが最も大きく報じられており、 もしこれが議会で可決されなかった場合には、政府がシャットダウン(閉鎖)されることになっていたのだった。
政府がシャットダウン状態になると、何が起こるかと言えば、政府機関のオフィスが全てクローズされて、職員は全て無給で仕事を休まなければならないけれど、 それによって年金の支給や 税金の払い戻し作業などが 全てストップするのは言うまでも無いこと。 加えて国立公園が全てクローズすることになるけれど、国立公園がヨセミテのような大自然の中だけだと思ったら大間違い。 ワシントンのスミソニアン博物館もクローズするのに加えて、自由の女神のフェリーまでストップするので、 観光業にも大打撃を与えることになるのだった。
でも幸い、締め切りギリギリの段階で 予算案が可決となり、シャットダウンは免れているのだった。

さて、今週のアメリカで 週半ばに報じられたのが、 アメリカのレストランが 日本から輸入される魚をチェックするために、 放射線探知機を購入しているというニュース。
これをいち早く行なったのが、ミシュラン3つ星、ニューヨーク・タイムズ4つ星レストランで、 シーフードを中心にメニューを展開するル・ベルナダン。 シェフのエリック・リペアー(写真右、右側)はCNNのインタビューに対して、「放射線探知機を購入したのは、 来店客に 自信を持って日本からの魚が安全だ と断言するためであって、日本の魚が危険だと思うからではない。 これからも安全な限りは日本の魚を買い続けたい」とコメント。
もちろん、アメリカではFDA(連邦食品医薬品局)が、日本から輸入される魚類 全ての放射線チェックを行なっているけれど、 こうした状況下では 「FDAがチェックしているから大丈夫」というセンテンスはあまりに無力。 それが高額を支払って最高級のシーフードを味わおうとするル・ベルナダンの来店客であれば、なおのこと。
ル・ベルナダンが放射線探知機を購入してからというもの、 それをフォローする動きが 現在 ニューヨークを中心に、日本からの輸入魚を扱う レストランに広がっており、 今週は アメリカで放射線探知機が完売するという状況になっているのだった。


「そんな事までしなくても・・・」と思う人も居るかも知れないけれど、「政府が安全だと言っている」だけでは、 風評被害が防げないのは既に日本で立証済みの事実。
なので、私は日本円にして約14万円もする放射線探知機を導入してまで、日本からの魚を買い続けてくれようとする こうしたレストランの努力は、日本の漁業にとって非常に有難いことだと思うし、 日本でも、個人商店は無理だとしても、大手チェーンなどが独自に放射線チェックを行なっていたら、風評被害がもっと防げたように思うのだった。


さて、日本の大震災において、ツイッターが大活躍したことは周知の事実。
ハイチの震災でもフェイスブックとツイッターは使えたとのことで、こうしたソーシャル・メディアが 災害時に非常に役に立つことが改めて立証されているのだった。
でも、昨今のアメリカではソーシャル・メディアが原因のトラブルが数多く指摘されており、ツイッターの内容が不適切でクビにされたり、 クライアントを失うというケースに始まり、フェイスブックのフレンド数が少ないことで、子供が鬱になっているという状況、 さらに、アメリカの離婚人口の65%がフェイスブッカーであることから、フェイスブックを通じて以前の交際相手を始めとする ”浮気相手”に巡り会い、フェイスブックが原因で 伴侶に浮気がバレている事実などが頻繁に報じられるのが実情。
また、セレブが出席しているようなメジャーなパーティーに出かけた人が、その状況をツイッターで逐一アップデートしているうちに、 やがてフォロワーから、「Showing Off!(見せびらかしたがり屋!)」というようなバックラッシュのコメントがどんどん寄せられるようになってしまうなど、 そのツイートのやり方も 厳しくジャッジされる傾向にあるという。

そんな中、今日4月10日付けのニューヨーク・タイムズ紙にも登場し、昨今頻繁に耳にするようになった言葉が「FOMO/ フォモ 」。
FOMOは、「Fear Of Missing Out」の略語で、これはパーティーなど楽しい行事に加わっていないことを恐れる気持ちのこと。
ニューヨーク・タイムズ紙の記事は、筆者が自宅で ポップコーンを食べながら、DVDを見て、1人でゆったりした夜を楽しもうとしていたところ、 スマート・フォンを通じて、 友人達がライブを楽しんでいる様子がツイッター等で入ってきて、突如FOMOに襲われて、せっかくのリラックス・ナイトが台無しになっただけでなく、 自分抜きで友人達が楽しんでいることを考えて、眠れなくなったというエピソードが書き出しになっていたのだった。

先週、私が友人とブランチをした際、友人も全く同じようなことを言っていて、 彼女の場合、フロリダで週末を過ごしていたというけれど、彼女の友達が 共通の友人を大勢招待して、 盛大なバースデー・パーティーをしている様子を まずツイッターで知り、その後フェイスブックで写真を見せつけられて、 すっかりFOMO状態に陥ってしまい、「せっかくのフロリダでの週末が色褪せてしまった」と言っていたのだった。

FOMOは 決してソーシャル・メディアの副産物ではなくて、フェイスブックやツイッターがこの世に出現する以前から、 私の知り合いの女性は、私が彼女との共通の友人と「最後に会ったのは何時か?」をしょっちゅうチェックしてきたし、 彼女の前で、別の友達に「じゃあ週末にね!」などと言おうものなら、「週末に何があるの?」という質問が瞬時に帰ってくるような状態で、 私は彼女のことを 「ソーシャル・パラノイア」と呼んでいたけれど、これはまさにFOMOの状態。
そして誰にでも最低1人は、こんなFOMOの女友達が存在していると言っても 過言ではないのだった。
FOMOというのは、ソーシャル・メディアに 感情的なオーバー・リアクションを示している状態と言えるけれど、 以前から ソーシャル・パラノイアの傾向があった人は、ソーシャル・メディアによってそれが益々エスカレートしているのは紛れもない事実。

頭を冷やして考えれば、全ての友達から、全てのイベントの誘いを受けていたら、身体がいくつあっても足りないだけでなく、 ウンザリしてしまうというもの。 でも、ソーシャル・メディアがこれほどまでに広まったのは、「人が何をしているか知りたい」、「自分がしていることを人に見て欲しい」という、 人と繋がっていたい願望、好奇心、ナルシズム等、様々な人間心理の欲求を満たしているため。 なので、フェイスブック、ツイッターといったソーシャル・メディアは、 他のメディアよりも感情的なレベルで利用者にアピールする傾向があり、サポートやボイコット等のムーブメントも あっという間に広がるし、 個人レベルのやり取りも 感情レベルに達することが非常に多いのが実情。
例えば 「親類がフェイスブック上で公開していた 自分のみっともない写真を削除して欲しいと頼んだだけで、親族中に 無礼だと批判された」といった悩みは、ニューヨーク・タイムズ紙のスタイル・セクションの相談コラムに頻繁に登場しているのだった。

ところで、ツイッターやフェイスブックに記載される内容というのは、人に見せたり、知らせたりするためのものなので、 実際よりも大げさであったり、見栄が入って誇大広告化するのは自然の成り行き。
加えて、自分を良く見せようとするあまり、様々なトリックめいたことをする人も少なくない訳で、 先日、友人と話していた際に話題になっていたのが 「みっともないフェイスブック・フォト」。
友人によれば、フェラーリやアストン・マーティンといった高級車の横に立っている写真は、駐車している他人の車の前で撮影しただけのルーザー(負け犬)と 相場が決まっているのだそうで、本当に自分が所有する車だったり、友人の車であるなど、少なくとも中に入る権利がある車であったら、 運転席に座っているスナップ、開いた扉に手を掛けている写真等になるという。



また、セレブリティの邸宅やハンプトンのゴージャスなビーチハウスの前で、門が閉まった状態で撮影された写真も 「勝手に出かけて、勝手に写真を撮影してきただけ」 というのが分かる 見栄むき出しの写真であるとのこと。 本当にセレブに招待されたり、ビーチハウスに滞在していたのなら、門の前まで来た人が 誰でも撮影出来るような写真を わざわざフェイスブックにアップさせるはずが無いというのは、誰もが考えることのようである。
すなわち、これだけソーシャル・メディアが広まってくると、ツイッターやフェイスブックで発信する ラグジュアリーな体験を 誰もが鵜呑みにしてくれる訳ではないけれど、 事実をツイートして、それが裏目に出る場合もあるもの。

例えば昨年、ラスヴェガスでコカイン所持で逮捕されたパリス・ヒルトンは、最初は逮捕時に持っていたシャネルのクラッチ・バッグが自分のものではないといって、 罪を否定していたのだった。ちなみに、パリスは同じ言い訳で ワールドカップ開催中のサウス・アフリカで、コカイン所持で身柄を拘束されたものの、 無罪放免となっているのだった。
でも、ラスヴェガスの逮捕の際にその言い訳が通用しなくなってしまったのが、 パリスが逮捕時に持っていたシャネルのバッグを購入した際に、それをツイートしていたため。
このため、パリスが罪を認めざるを得なくなり、その結果、日本への入国を拒否されることになったのだった。

さて今週、アメリカ人の友人達とディナーをしていた際、「インターネット上で最も世の中を変えたのはどの企業か?」という話題になったけれど、 私を含む、その場に居た4人全員が挙げたのがグーグル。
グーグルも、フェイスブックも、ツイッターも、英語では ”I Googled You” といったセンテンスに見られるように 動詞として使われており、 それほどメイン・ストリームのカルチャーになっているけれど、グーグルが出現してからというもの、リサーチが簡単になっただけでなく、 「ウソがばれる社会になった」のは誰もが認めるところ。
例えば、日本で履歴を偽る場合に 比較的よく用いられた手法が、NYUやコロンビア大学の語学コースを3ヶ月程度取っただけで、 こうした有名大学に在籍していたことにしてしまうものだけれど、今や有名校は卒業名簿、在学記録を何十年も遡ってウェブ上で公開しており、 これらの情報はグーグルで簡単にサーチが可能なのである。
また、スポーツの世界にしても遠く離れた州のローカル・トーナメントならばバレないだろうと思って、 「xxx選手権で優勝した」というような 履歴を偽って、トレーナーやコーチになってしまうケースが かつては少なくなかったけれど、 今やローカル・トーナメントでさえも 優勝者記録をウェブ上で公開しており、グーグルで簡単に調べられるので、 ウソが簡単にバレてしまうようになっているのだった。

そのグーグルがあえて使わずにいると言われるのが、顔を認識するソフトウェアによるサーチ。
人間の顔を認識するソフトウェアは、個々の顔を識別するだけでなく、今やその表情も読み取るまでに進化していると言われるけれど、 これを使うと、写真にサーチ用のタグなど付いていなくても、顔さえ一致すれば、 全く知らない第三者が観光中に撮影した写真の中に偶然写った姿までが検索結果として出てくるとのこと。 グーグルでは、これが著しいプライバシーの侵害になるとして、あえて導入を控えているといわれているのだった。
でもこんなソフトが登場しなくても、昨年11月の中間選挙の際には、若い候補者がインターネット上で公開された過去の 問題写真が原因で落選しており、共和党の女性候補の1人は、自分でさえ覚えていない、バイブレーターを口にくわえた写真の出現に ただ唖然としていたのだった。

その意味では、将来的に専門家が危惧するのが 親達が子供が 生まれたと同時にその写真をフェイスブック上で公開していること。
今や、フェイスブックは親達が子供の写真を公開する場になって久しいけれど、子供達は 自分の知らない間に、選択権もないまま、親達によってプライバシーが公開されていることになる訳で、 一度フェイスブックにアップされた写真は、少なくとも現時点では完全に抹消することは出来ないのである。
またフェイスブックが、ごく頻繁にプライバシーに関するポリシーを変えている企業であることも同時に危惧されており、 親達が子供の情報を公開し過ぎたツケが、将来的に子供に回ってくるかもしれないことをメディア専門家は警告しているのだった。

災害時に大活躍したソーシャル・メディアであるけれど、通常の社会においては毒にも薬にもなる存在。
ソーシャル・メディアは便利に使っている間は、有難いものだけれど、 その内容に感情を揺さぶられたり、氾濫する情報に振り回されたりするようになると、 ストレスやネガティブ感情で健康を蝕まれることになりかねないのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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