Apr. 2 〜 Apr. 8, 2012

” Natural Born Killer? ”

今週金曜のアメリカでは、先月3月の雇用統計が発表されたけれど、その結果3月には約12万の新しい仕事が生まれ、 失業率が前月の8.3%から8.2%にダウンしているのだった。
でも12万という新しい雇用は、事前に見積もられた20万以上という数字に遥かに及ばない失望すべき数字。 加えて、失業率がダウンしている理由も、多くのアメリカ人が職探しを諦めた結果であることが指摘されているのだった。
その一方で、小売店の売り上げは 一足早い春の到来のお陰で伸びていることが伝えられているけれど、 その小売業界で雇用が増えていないのも不安材料と指摘されるもの。 実際、小売業界では3月の売り上げ好調の理由を、「暖かい気候で春物の売り上げが前倒しになっただけ」と分析しており、 4月にその反動で売り上げが落ちることが見込まれているという。
それが理由ではないものの、 大衆小売チェーンのJ.C.ペニーは今週、本社スタッフの13%に当たる600人の社員のレイオフを発表したばかり。 それ以外にも、今週はヤフーが同社社員の14%に当たる2000人の解雇を発表。 これによって、ヤフーは 年間$375ミリオン(約306億円)の経費削減が可能になると説明しているのだった。
また2週間前のこのコーナーで、牛肉に含まれているアンモニア加工肉、通称、ピンク・スライムが 突如大きな問題として クローズアップされ始めたことをお伝えしたけれど、消費者からのボイコットを恐れた 全米の大手スーパーが、 相次いでピンク・スライム入りの挽肉を仕入れないと発表したことから、 ピンク・スライムの生産工場3軒が閉鎖に追い込まれ、200人の失業者が出ていることも伝えられているのだった。



私にとって今週最もショッキングだったニュースは、月曜日に連邦最高裁が、 マイナーな罪で逮捕された人間に対しても 警察によるストリップ・サーチ(衣類を脱がせる身体チェック)を合憲とする判決を下したこと。
すなわち、シートベルトをしていないという理由で逮捕された場合でも、スピード違反で逮捕された場合でも、パレードやデモを横切ろうとして逮捕された場合でも、 警察はその逮捕者に対してストリップ・サーチをする権利が合衆国憲法によって保障されるということで、 これは、「不合理な捜索及び逮捕、押収に際して、国民の身体、住居、書類及び所有物の安全が保障されなければならない。」という合衆国憲法修正第4条を 覆しかねないと同時に、たとえ警察の誤りで逮捕されたとしても、拘留中はそのプライバシーが侵害されても 法律によって保護されることが無い可能性を意味しているのだった。
従来は 武器や麻薬などを所持していると 疑うべき 正当な理由がある場合のみ、ストリップ・サーチが行なわれてきたけれど、 アメリカにおけるストリップ・サーチというのは単に衣類を脱ぐ身体チェックだけではなく、俗に”キャヴィティ・サーチ”と呼ばれる 身体の穴という穴をチェックされる行為を含むのが通常。
最高裁は既に1979年の時点で、裁判を受ける前の拘留者に対するキャヴィティ・サーチを合憲としているけれど、 今回の判決では、些細な罪で逮捕された人間までもがそのサーチの対象となることを合憲と認めているのだった。
過去に、ストリップ・サーチの対象になって問題視されてきた中には、車のマフラーの音が煩くて逮捕された例、 自転車にベルが装着されていなくて逮捕された例に加えて、戦争反対デモで逮捕された尼僧や、性的暴行を受けた女性、生理中の女性までもが ストリップ・サーチを強要された例があるけれど、今週の最高裁の判決で、これらが全て合憲になってしまったのは驚くべきこと。

私がこの最高裁の判決を恐ろしいと思うのは、運が悪くて、警官の虫の居所が悪ければ、アメリカという国では 犯罪行為を犯していなくても 誰もが 逮捕される可能性があるためなのだった。
以前、友人の友達がニューヨークにやってきた際、メトロ・カードを使って改札を通ろうとしたけれど、その時に彼女の同行の旅行者が 背後から一緒に改札のスロットに入ってきてしまったという。すなわち、スロットが1回転する間に2人がそこを通過しているので、1人が無賃乗車ということになる訳で、 2人は改札で警備をしていた警官に止められて、IDをチェックされることになったのだった。
この場合、友達の友人は何も悪いことなどしておらず、その同行者が事情が分からずスロットに入ってきたために警官に止められることになった訳だけれど、 逮捕されたのは私の友達の友人。その理由は彼女がIDを持っていなかったため。同行者はチケットを切られて、罰金を支払ったかもしれないけれど逮捕はされることなく、 そのまま無罪放免になったのだった。
その結果、友人の友達は まずは近隣の警察署に連行され、次にダウンタウンに移され、不起訴処分として釈放されたのは翌朝。 一晩をニューヨークの留置所で過ごすという酷い目にあったのだった。 普通の人間だったら、これだけでもウンザリする経験であるけれど、これにさらにストリップ・サーチが加わったら、 トラウマ状態になっても不思議ではないというもの。

そもそも、この問題について訴えていたのは、2005年に不当に逮捕されたニュージャージー州のアルバート・フローレンス氏。
彼は 妻が運転するBMWの助手席に座っており、スピード違反で警察に止められたけれど、警官が彼のIDをチェックした結果、 そのデータベースから、彼が過去の運転違反の罰金を滞納していることが判明し、その場で逮捕されてしまったのだった。
ところが、実際には罰金は既に支払い済みで、間違っていたのは警察のデータベースの方。 しかしながら、フローレンス氏は2箇所の留置所に合計2週間拘留され、各留置所でそれぞれストリップ・サーチを受けるという 屈辱を経験したために、この行為を違憲として訴えていたのだった。
なので、私はこの判決の記事を読んでからは、朝のランニング際にも、IDのコピーを携帯すること、 そして罰金が生じるような行為は、特にニュージャージー州では一切しないと心に誓ってしまったのだった。


マイナーな罪に対するストリップ・サーチに対する最高裁の判決は、9人の判事による5対4という 僅か1票差で合憲となっているけれど、 合憲に票を投じたケネディ判事の言い分は、オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件の主犯であるティモシー・マクベイが 事件前に、ライセンス・プレートが付いていない車で運転していたために逮捕されていたこと、 9・11のテロリストの1人が、テロの数日前にスピード違反でチケットを切られていたことを例に挙げて、 「凶悪犯となる人間は、まずはマイナーな罪で逮捕される」ということ。
これに対してメディアの幾つかは、「だからと言って、ストリップ・サーチをしたところで、ティモシー・マクベイの身体から爆弾が出て来て、 彼が将来的に犯す犯罪が明らかになった訳ではない」、 「訴えを起こしていたアルバート・フローレンス氏が、その逮捕をきっかけに、今後テロリストや凶悪犯罪者になるとは考え難い」として、 「最高裁の判事たる者がこんな筋の通らない言い分を、こんな大切な判決に持ち出してきて良いものか」と嘆いていたけれど、 それには私も全く同感なのだった。



でも過去に軽犯罪を犯しているか否かは別として、昨今は「日頃は普通に振舞っていた」と証言される人物が 突如 殺人鬼と化す例が あまりに多いのは驚くばかり。
今週金曜にも オクラホマ州タルサで、黒人男性ばかり5人が無差別に銃で撃たれ、そのうち3人が死亡するという事件が起こっているけれど、 その容疑者として逮捕されたのがジャック・イングランド(19歳)と、アルヴィン・ワッツ(32歳)。 2人はルームメートであったそうで、ジャック・イングランドは2年前に父親が 黒人に撃たれて死亡したことから、 黒人層に対する怒りをフェイスブックのページで露わにしており、 その報復として黒人ばかりを狙った疑いがある とされているのだった。
アメリカでは2012年に入ってから 学校内での銃乱射事件が既に3回、 2011年には8回、2010年には11回も起こっているけれど、 最近起こった無差別殺人で、最も衝撃的だったといえるのが、 アフガニスタンで9人の子供を含む 16人の一般市民を殺害したアメリカ兵、ロバート・ベールズ(38歳、写真上)の事件。
ベールズは2児の父親であり、妻はインタビューで彼がいかに良き父親で、家族を愛していたかを 語り、彼の友人や教師も 彼の人格や人柄を高く評価。誰もが 「ベールズがそんな残虐な行為に及ぶなんて信じられない」と証言しているのだった。

でも周囲が「人柄が良い」、もしくは「決してそんな事をする人間ではない」と語る人間が、人を殺した例は彼が初めてではないのは 言うまでもないこと。
ここで出てくる疑問が、「善良な人間が殺人者になるのか?」、それとも「殺人者が善良な振る舞いをしているだけなのか?」というものであるけれど、 これについて興味深いコラムが掲載されていたのが3月19日付けのニューヨーク・タイムズ紙。 このコラムの著者、デヴィッド・ブルックが紹介していたのが、テキサス大学の教授、デヴィッド・バスが 学生を対象に行なった 調査で、彼は学生達に「これまでに 誰かを真剣に殺そうと考えたことがあるか?」と訊ね、もしある場合は、その殺人のファンタジーを エッセーに纏めて提出するよう 求めたという。
その結果、男子学生の91%、女子学生の84%が 非常にクリアな殺人のファンタジーを持っていたとのことで、さらにバス教授は 詳細なステップを踏んだ計画性にも驚いたという。その中には、以前のボーイフレンドをディナーに招待して、 胸をナイフで突き刺すという女子学生から、車の運転で嫌がらせをされた相手に ベースボール・バットで殴りかかるという 男子学生、さらには指をへし折って、肺が破裂するほど殴ってから殺すという残虐な手口を披露する例まであったとのこと。
バス教授によれば、こうした殺人のファンタジーは 残虐なビデオ・ゲームのやり過ぎの影響ではなく、 人間というものが本来、人間を含む 他の生き物を殺すことによって繁栄し、生き残ってきたとして、 全ての人間が 「Natural Born Killer / ナチュラル・ボーン・キラー」で、その本能には 人を殺すという行為が含まれていると説明。 何が人を殺人に走らせるかではなく、何が人に殺人を犯させないのかの方が 着眼すべき点であると指摘しているのだった。



デヴィッド・ブルックは、フランス人神学者兼、牧師のジョン・カルバンの「赤ん坊は罪深く生まれてくる」 という言葉を引用して、「2歳児がいかに暴力的であるか」と書いていたけれど、 要するに、ここで展開されているのは 人間は誰もが 「生き残りや繁栄のために 他の生き物を殺す」という本能を持って生まれてくるものの、 道徳や常識、命の尊さなどを学ぶうちに殺人や動物虐待などをしなくなるというもの。
確かに、「痛み」や「怪我」というコンセプトを理解していない2歳程度の子供は、 犬の目に指を突っ込もうとするなど、「小さくて力が無いのが幸い」というようなことをするのは珍しくないこと。
また、自分自身を考えても、もし部屋の中に大きなハエが飛んでいたら、 かなり積極的に殺そうとするし、肉や魚を食べて生きているので、 他の生き物を殺して生き残ろうとする本能があることは否定しないのだった。
それでも殺人という行為は全く別のレベルというのが私の意見で、NYタイムズのコラムに登場した 殺人のファンタジーを抱く学生の数には 本当に恐ろしくなってしまったのだった。 私がこうしたファンタジーを恐ろしいと考えるのは、好んで そういった想像をめぐらせる人間というのは、 理性が効かない心理状態に置かれた場合、本当にその行為に走る可能性があるため。

学校における銃乱射事件の多くは、犯人が 学校で嫌な事が起こるたびに、 頭の中で全員を撃ち殺しているところを想像し、やがて強迫観念にかられて それを本当にやってのけてしまうケースが殆ど。 したがって、ファンタジーのレベルで 殺人を思い描くというのは、それを実行していなくても、 暴力的な人間性だと考えて間違いないと思うのだった
私は デヴィッド・バス教授の、人間が本来 人を殺す本能をを持っているという説には反対で、 その理由は 銃乱射による無差別殺人を含む 殺人を犯した人間が 後に自殺するケースが決して少なくないため。 もし殺人という行為が、他の生き物を殺すことによって繁栄し、生き残ってきた人間の本能のなせる業なのであれば、 最後に 生き残るのを止めて、自ら命を絶つのは筋が通らないと思うのだった。
実際、人間は本能的には 自分の身を守り、生き長らえようとするもの。このため、たとえ催眠術を掛けて 人間を言いなりの状態にした場合でも、 決して自殺させることは出来ないという。その事実を踏まえると、銃乱射事件の後、自殺した容疑者が、 ”他人を殺している時は 生き残りの本能に従っていて、それが終わった途端に本能が有効期限切れになって自殺に及んだ” と考えるのは、 かなり無理がある話だと思うのだった。

やはり 「殺人や動物虐待をする、もしくは したい」と考え、それを実行するのは、そもそも残虐な人間性であるか、そうでなければ精神的に錯乱状態であると考えるのが、 理にかなった説だと思うのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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