Apr. 4 〜 Apr. 10 2016

”Scary Symptoms of Sleep Deprivation”
判断力低下、被害妄想!?
仕事の効率悪化や健康問題だけではない、 睡眠障害がもたらす弊害



4月7日木曜に最終回を迎えたのが、過去15シーズン続いたリアリティTV「アメリカン・アイドル」。
この15シーズンの間にオーディションを受けた人々の数は100万人を超えており、 その間、マライア・キャリー、スティーブン・タイラー、ジェニファー・ロぺスを含む11人がジャッジを担当。 過去のコンテスタントが獲得したグラミー賞の数は13、ヒットチャートに送り込んだNo.1ソングは400曲を超えており、 アメリカ史上 最も商業的なサクセスを収めたと言えるリアリティTV。
視聴率でピークを極めたのは2003年、シーズンNo.2のフィナーレで、3906万人がチャンネルを合わせて、同番組史上最高視聴率となっただけでなく、 オスカーを軽く抜いて、同年のスーパーボウルに次ぐ年間第2位の視聴率を記録しているのだった。 でも過去数シーズンは、毎週1千万人以下の視聴者数に止まっており、その人気と話題をライバル番組の「ザ・ヴォイス」に奪われて久しい状況。
その最終回には過去のアメリカン・アイドルに加えて、オリジナルのジャッジ3人が登場したものの、視聴者数は1400万人。 シーズン14フィナーレの視聴者数770万人は大きく上回ったものの、 ピーク時には及ばない数字になっていたのだった。

「アメリカン・アイドル」が生み出したシンガーは数多いものの、同番組が生み出した最大のスターと言えるのは、 実は15シーズンずっとホストを務めたライアン・シークレスト(写真上左)。 番組開始当時は、ハリウッドのワンベッドルーム・アパートメントをルームメイトとシェアしていた彼は、 今や年間のサラリーが6500万ドル(約72億円)、総資産が3億3000万ドル(約360億円)。 1時間のホストで100万ドル(約1億1000万円)を稼ぐ高給取り。それ以外にラジオ番組も担当する一方で、 カダーシアン・ファミリーのリアリティTVを含む様々な番組のプロデューサーであり、 LAのトレンディ・レストランのサイレント・パートナーでもあるなど、様々な分野のビジネスを手掛けて、いずれもサクセスを収めており、 ハリウッド屈指のハードワーカーとしても知られているのだった。

その一方で、今週はパナマ文書のリークで、世界中の著名人、権力者のオフショア・アカウントの実態が 明らかになったけれど、それでアメリカ人の権力者や企業名が挙がってこないことから、 スキャンダル渦中のプーチン大統領が語ったと言われるのが、このリークの背景にアメリカが絡んでいるということ。
それに対してニューヨーク・タイムズ紙などが報じているのは、アメリカでは わざわざパナマまで行かなくても、同様のことがデラウェア州やネバダ州などで可能であるという事実。 数年前に、アップル社が多額の利益を上げているにもかかわらず、 コーポレート・タックス・ゼロのネバダ州にひなびたオフィスを構えて、そこで税金の申告を行うことにより 税金逃れをしてきたことが批判されたことがあるけれど、同様のことは多くの企業や個人が合法的に行っており、 それがアメリカの節税対策になっているのは周知の事実。
したがって、多くのメディアは「パナマ文書はアメリカには大きなインパクトをもたらさない」という見解が多く、 ”高見の見物”の姿勢を見せているのだった。




さて今週アメリカで大きく報じられたニュースの1つが、ジョン・ハンコック・インシュランスが発表した新しいポリシー。 これは同社で生命保険を購入している 人々が、 フルーツや野菜など、健康的な食材を購入した場合、1ヶ月50ドルまでのディスカウント、もしくはキャッシュ・バックがえられるというもの。
この新ポリシーは 同社が過去1年行ってきた”ヴァラエティ・プログラム”の一環で、 このプログラムはワークアウトをしたり、定期健診に出かけると リワードがもらえるというプログラムで 同様のプログラムは他の保険会社でも行われているけれど、 食生活に変化をもたらすための 食材ショッピングをリワード対象にしたのは同社が始めて。 これらのリワード・プログラムを実践することによって 生命保険購入者が健康に長生きをすることは、 当然のことながら保険会社側に大きな利益とメリットをもたらすのだった。

今では、企業が社員に対して タバコを止めたり、ウェイトを落とすリワード・プログラムを提供したり、 ジムのメンバーシップやメディテーションのクラスを無料で提供して、 社員の健康管理に企業ぐるみで取り組む時代。 昨年9月には大衆小売りチェーンのターゲットが、その30万人の従業員に対してフィットネス・トラッカー&睡眠モニターのフィットビットを無料で支給し、 従業員に健康管理のモチベーションを与えるプログラムをスタートしているけれど、 実際に既にこれを行っている企業では、年間に健康保険料を平均で5%節約したというデータが得られているとのこと。 それに加えて、そうした企業では社員の業務パフォーマンスもアップしていることが伝えられているのだった。

その一方で今週、保険会社の大手、アテナが発表したのが、社員の睡眠に対してリワードを支払うという新プログラム。
このプログラムでは、社員がフィットビットのようなデジタル・ディバイス、もしくはアテナ側が用意したダイアリーで 自分の睡眠時間を記録して申告することになっており、20日連続で 7時間以上の睡眠をとった場合、25ドルの リワードが支払われるというもの。1年間に最高300ドルまでが支給されることになっているのだった。
グーグル、ザッポスなどの企業が、社内にナップ(昼寝)ルームを設けていることは既に知られているけれど、 自宅での睡眠に対するリワード・プログラムはアテナ社のものが恐らく初めてのプログラム。

睡眠不足は 心臓病、糖尿病、心筋梗塞などの原因になることは指摘されて久しいもの。 でも昨今、企業がスタッフに対して睡眠を取ることを奨励しているのは、社員の健康管理&健康保険料の削減以外にも、 職場でのプロダクティビティやムード、仕事の効率や 仕事に対する満足感、リーダーシップ、チームワーク、 仕事への集中力などを高めるため。 1週間に1時間でも睡眠を余分に取るだけで、仕事の生産性が5%アップするというデータも得られており、 企業ぐるみで従業員の睡眠を確保するだけの 十分な根拠と理由が存在しているのだった。




睡眠不足は、前述のように心臓病、糖尿病などの原因になることが指摘されているほかに、 体重の増加、集中力や記憶力の低下、ストレスの原因になるのは既に周知の事実。
でもそれ以外にも、日常生活に様々な弊害をもたらしていて、それを列挙すると 以下のようなもの。

1. 視力の低下 (目の焦点が合わない、明るさに対応できない)
2. 風邪を引きやすくなる (抵抗力の低下)
3. 便秘をしがち、もしくは残便感がある
4. アクネが特に口の周りに増える
5. 感情的になり易く、気に入らないことを根にもつようになる (嫌な事&心配事を払拭できない、被害妄想)
6. 反射神経が鈍る、運転能力の低下
7. 判断力、決断力が鈍る (簡単なことを迷って 時間を無駄にする)
8. 忍耐力と集中力の低下 (作業や仕事に時間が掛かる/本来やるべきタスク以外の事には集中する)
9. 自制心の低下 (暴飲、過食をし易い/暴言を吐いたり、暴力を振るう)
10. 中毒になり易い(ソーシャル・メディアのチェックや、ビデオ・ゲーム、食べ物、恋愛相手に対して歯止めが掛からない)
11. 疲れ易く、時間通りに行動するのが難しい (ボッとしている時間が長い)
12. オン&オフの差が著しく激しい (サイクルが短い躁鬱状態)

周囲からは 性格やライフスタイルだと見受けられることも 睡眠不足が原因と言えるようだけれど、 動物実験でも、睡眠不足にさせると 動物が凶暴で攻撃的になったり、動きが鈍くなったり、食べる量が増えたりすることが明らかになっているので、 睡眠不足が身体に悪影響を与えるのは、生き物全てに共通すると言えるのだった。

このように医療関係者だけでなく、企業のエグゼクティブまでもが睡眠の大切さを強調する時代になりつつあるので、 かつてはハードワークの象徴であった「We'll be there 24/7(1日24時間週7日、休まず業務に当たります)」という売り込みセンテンスは もはや時代遅れと言われるもの。逆にそんなポリシーをいつまでも掲げていると、 社員の健康を省みない非人道的な企業という イメージダウンを招く結果にもなりかねないのだった。



さて、2月26日付けのニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたのが、共和党大統領候補ドナルド・トランプ(70歳)の キャラクターと、彼の睡眠時間の関係についての意見記事。
ドナルド・トランプ本人のコメントによれば、彼は1日3〜4時間の睡眠で十分だそうで、時に90分しか眠らないことも珍しくないとのこと。 しかも ただでさえ短い睡眠時間の中、彼はツイッターをチェックして、リツイートしたり、反論のツイートをするなど、 何が起こっているかをチェックしないと気が済まないことを 自らインタビューで語っており、 要するにREM睡眠ゼロの状態を続けているのだった。
そしてこの記事のライターであるティモシー・イーガンが指摘していたのが、 トランプの行動、言動が 睡眠障害を持つ人々の典型的な症状であるということ。 判断力の欠落、直ぐに気が散る集中力の無さ、被害妄想、基本的な情報をなかなかプロセスできない、 出来事の前後関係を確認せずにすぐに発言&行動するといった 選挙戦でドナルド・トランプが見せてきたキャラクターの全てが、 睡眠障害の症状と ぴったりマッチしているというのが この意見記事のポイント。
同記事では、トランプの有り得ないほど楽観的なコメントを ”delusions / 妄想”と指摘していたけれど、 それとは別に ”PolitiFact / ポリティファクト”のレーティングによれば、トランプがこれまで語ったコメントやスピーチの77%が 事実無根、もしくは間違った情報に基づくものであるという。

もしドナルド・トランプが十分な睡眠を取ったら、果たしてどうなるかは定かではないけれど、 多くの睡眠障害に悩む人々は、眠ろうと思っても眠れないのが実情。 理由は心配事や不安、仕事や家族のためのタスクで頭が一杯で、 身体は横になっても、精神が忙しく活動して 思いをめぐらせることを止められないため。
このため現在、ゴールドマン・サックスを始めとする多くの企業が、メディテーションのクラスを社員に無料提供したり、 グーグルやリンクトインが メディテーション・アプリのヘッドスペースを 社員に無料提供しているけれど、その理由の1つが瞑想によって 仕事や日常生活の 様々な問題から 精神を切り離して、心理を安定させることができるため。
メディテーション以外にも 専門家が指摘する快眠と安眠のポイントは、就寝時間の1時間前には電子機器を全てオフにして メールやメッセージをチェックしない、ベッドルームにTVを置かない、 寝室を涼しい温度に保つ、午後3時以降はカフェインを取らない等。 でもこれらを実践しても眠れないからといって、入眠剤に長期に渡って頼っていると、 アルツハイマーになる可能性が28%も高まることが明らかになっているのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

Shopping

PAGE TOP