Apr. 10 〜 Apr. 16




本物のオーラ




今週末のアメリカは イースター(キリスト教の復活祭)であったけれど、それと同時にタックス・ウィークエンド、 すなわち、個人の税金申告の締め切りを控えた週末だったので、郵便局には長蛇の列が出来ていて、 一部のアメリカ人にとってはイースターどころではなかったようである。
今年はアメリカの納税者の約66%が ”E ファイリング (エレクトリック・ファイリング)” と呼ばれるインターネットを利用した申告を行っていると伝えられており、 これは昨年より3%アップの数字。私自身、既に2月に済ませている個人の税金申告は、アカウンタント(会計士)を通じて E ファリングで行っているけれど、統計ではE ファイルをする人の方が 書面で申告する人よりも 早めに申告を終える傾向にあり、 しかも、E ファイルで申告ミスが発生する確率は0.1%にも満たないとのこと。これに対して、書類による申告ミスの確率は約5%であるという。
加えてE ファイルの方がタックス・リターンと呼ばれる源泉徴収の払い戻しが早く行われるという利点もあり、 今となっては、税金申告を書面で行うメリットは 全く感じられないのが アメリカの現状なのである。

さて、今週の私はと言えば、タックスでは頭を悩ませることは無かったけれど、2つの似て非なるトラブルに遭遇することになってしまったのだった。
先ず1つ目は、ホーム・ページでもお知らせした通り、CUBE New Yorkで取り扱い予定だった ベッソのボッテガ・ヴェネタのレプリカがやっと到着したと思ったら、期待はずれの出来で、取り扱いの中止に踏み切らなければならなかったことである。
ボッテガについては、以前から取り扱いを予告していたこともあり、既に何件ものお問い合わせを頂いていたもの。 同ブランドはご存知のように、 柔らかく、上質なレザー・テープで織り上げたメッシュ素材が特徴のバッグ(写真右)。 多くの女性がその素材を見ればボッテガの製品だと分かるほど、同ブランドのレザー・メッシュは知られているけれど、 それだけに素材さえ上手くコピーすれば、そっくりなバッグが仕上がることは容易に想像が付いたので、 私自身、ベッソ版ボッテガを非常に楽しみにしていたのである。
しかもこのところ、ベッソはモーターサイクル・バッグはもちろん、ペディントン、スパイ、Be & Dと立て続けに、 本物に引けを取らないクォリティと、瓜二つの外観をクリエイトし続けてきたこともあって、私の期待感は お問い合わせを下さったお客様に 決して引けを取らないものだったのである。

さて、商品の発注というのは実際にサンプルを見てから行うというのが常識的なことであるけれど、 今回のボッテガのレプリカについては、ベッソ側が生産を2回ほどしか行わない上に、他の小売業者からのオーダーの殺到が見込まれていただけに、 サンプルを取り寄せてから発注したのでは、商品数が十分に確保出来ないのは明らかな状況。 このため、サンプルも見ず、口頭の説明を聞いただけで、かなりの数を仕入れなければならないという例外的な状況が生じていたのだった、
しかも、入荷は予定を大幅に遅れており、私は1日も早くボッテガのレプリカをサイトにアップしたいという気持ちで ここ数週間を過ごしていただけに、 届いたレプリカを見たときは、正直言ってショックと失望が入り混じったリアクションとなってしまった。

お客様からは「何が悪かったのですか?」というお問い合わせを数通頂いたけれど、 ズバリ一言で表現するならば、「本物に見えない」のである。
私は、CUBE New Yorkでシミュレーテッド・ダイヤモンドを扱う際には、それを付けてカルチェにもティファニーにも行って、 店員の反応をチェックしたし、モーターサイクル・バッグを取り扱うに当たってはバーニーズにバッグを持っていって、バレンシアガの店員にバッグを見せながら、 その反応を見て、これなら大丈夫という自信を持ってサイトでの販売に踏み切っており、自信を持って「本物に負けないフェイク」 といってお客様に薦められることを 先ず重んじてきた訳である。
ところが、今回のボッテガに関しては、外観の微妙な違い等が「フェイク!」と直感させるような商品で、 一目で 「これは取り扱えない」と思ってしまったのである。 その場に居たアシスタントには 「ボッテガの商品に見えますけれど?」と言われたけれど、彼女も 私が持っている本物のボッテガを見せると、 途端に「本物と比べると、違いますね」と意見を変えてきたのだった。
やはり本物の隣で引けを取るようなフェイクでは、持っていて惨めになるだけな訳で、本物の値段を出さずして、本物に引けを取らないフェイクを持って、それを惜しげもなくジャンジャン使うことこそが レプリカの意義であると考える私としては、ボッテガ・ヴェネタのブティックに臆せずして下げて行くことが出来ないようなフェイクは 扱う価値が無いとしか判断できなかったのである。

ベッソの仲良しの担当者にも 「ベッソともあろうものが どうしたの?」 と思わず 言ってしまったけれど、その甲斐あってか、商品は全て引き取ってもらい、返送料も負担してもらえることになったので、 お客様に失望感を与えてしまったことと、ヒット商品に成り得た商品を失ったというダメージは大きかったものの、 取りあえずそれ以上の損失を被ることは防げたのだった。


ベッソのボッテガ・バージョンの場合、たとえベッソのコピーが優秀であっても、 レプリカを仕入れている以上、「本物に見えない」という事態が生じることは想定しておくべきことで、これは 明らかに私のミスと言えるものである。 しかし今週、私の身に降りかかったもう1つのトラブルでは、「本物として取り寄せたものが 本物に見えない」という問題に直面することになってしまったのである。
これが何であったかと言えば、ネット・オークションで購入したカリフォルニア・カルトのワイン、ハーランである。 以前のコラムでもちょっと触れたことがあるけれど、今の私にとってハーラン・エステートのワインというのはパッションの対象で、 1990年からリリースが開始されたハーランのワインを全ヴィンテージ揃えるのが、目下の私の目標なのである。 そこで、インターネット上のワイン・オークション・サイトとしてはアメリカ最大の「ワイン・コミューン」で、市場価格より若干安く競り勝ったのが、 95年と、96年のハーランであったけれど、こちらも届いた箱を開けた途端に愕然とすることになってしまった。

私は、星の数ほどあるワインの中で、ハーランのボトル(写真左)は、最もシンプルで美しいと思っているものだけれど、 届いたボトルは2本とも 「少々ダメージがあるラベル」というオークション・サイトの記載とは裏腹に、 黒かびや、ワインを包むティッシュのカラーがしみこんだ アグリー極まりないもの。そして何より本物のハーランに見えないのである。 しかも、ボトルは破損していないのに、そのうちの1本からはワインが漏れており、それを見た途端に私の頭をよぎったのは、 「フェイクを掴まされた」ということ。
そこで、漏れていた方のボトルをチェックしたところ、ハーランのHをフィーチャーしたワックスのキャップは、エッジに引っかきキズがあり、 どちらのボトルも、私が別ルートで購入したハーランと比べると、遥かに素人臭いというか、誰かが細工をしたような ワックスの装着ぶりだったのである。(写真右、左側が今回届いたボトルのワックス、右側が私が所有しているボトルのもの)

このケースで何が考えられるかと言えば、カッター・ナイフのようなものを使って、ワックスの部分を上手くはがし、 コルクを開けて本物のワインは、自分で飲んでしまい、別の安価なワイン、それも同じブドウを使ったワインと詰め替えて、 再びコルクをして、ワックスを接着剤で貼り付けて、新品として販売するという、要するに詐欺行為である。
一度開けたコルクでも、よほど古いワインでない限りは、コルクの弾力の戻りでワイン・オープナーの穴などは殆ど見えなくなってしまうし、 コルクを噛むなどして、強いプレッシャーを与えると一時的にコルクが縮むので、これをワインのボトルに元通り戻すのは いとも簡単なことである。実際、私は自分が飲んで気に入ったワインは、空瓶に元通りコルクで栓をして取っておくようにしており、 自分でこんなことをするのは、ボトルの中にホコリが入らないようにするためである。 恐らく漏れていたワインは、コルクに開いた穴から徐々に漏ってきたものだと思われるけれど、 ボトルを手に取ると、ベタベタした感触があり、ワインのようなバルザミコのような香りと共に、ヘア・スタイリング剤のような匂いも 一緒にしていて、当然ながら私は売り手に対する不信感を募らせることになってしまった。

ハーランはベッソとは異なり、本物として購入しているだけに、本物の代金を支払っている訳だけれど、 もちろんオークション・サイト側は買い手がこうした偽物を掴まされるケースに備えて保険のシステムを導入しており、 たとえ取引が詐欺であったとしても、支払った金額の殆どは戻ってくることになっていたりする。 でも保険金を受け取るためには それなりの手続きも必要であり、手間が掛かるのは言うまでも無いこと。 なので当事者同士で解決するのが一番ということで、ワインの売り手にコンタクトをしたけれど、イースター・ウィークエンドのためか、 なかなか連絡が来なくて、すっかり気を揉まされることになってしまった。
結局、私がこれを書いている今日、16日の日曜になって売り手と連絡が取れて、全額を返してもらう上に、返送料も支払ってもらうことになって、 事なき終えたけれど、この2本のフェイクと思しきボトルをクリスティーズのワイン・スペシャリストの渡邊順子さんに見て貰ったところ、 やはり彼女も「高いワインのオーラが無い」と言っていたのだった。

でも、私がフェイクと思しきワインを購入しかけたのはこれが初めてのことではなく、 2週間前にこのコラムで書いた82年のムートン・ロスチャイルド(ロートシルト)を、 昨年末にワイン・ショップから取り寄せた時も、どうしても本物に見えなくて、頭を悩ませることになってしまった。 結局は、何時間も注意深くボトルを眺めた後に、返品させてもらうことにしたけれど、 3月にクリスティーズのオークションで同じボトルを落札して、それを最初に手に取った時、 やはりこの時の判断は正しかったと、改めて実感してしまうことになってしまった。
この偽物と思しきボトルは、ラベルの紙のテクスチャーから、フォイルのシワや、フォイルにフィーチャーされたロゴの薄さなど、 気に入らないところが沢山ある上に、高いワインのパワフルなオーラが全く感じられなかったのがどうしても気になって、 ずっと欲しかった、なかなか手に入らないワインではあるものの、疑い続けるのが嫌だったので 返品を決断したのだった。

とにもかくにも、今週の私は ベッソのボッテガ・バージョンと、ハーランの2つから「本物のオーラ」が得られなかったこで、 精神的にドップリ疲れてしまうことになったけれど、この2つの違いは、 ボッテガは出来さえ良ければ、レプリカで安価であるところが魅力となって、CUBE New Yorkのヒット商品と成り得た訳であるけれど、 ハーランの場合、出来の良いレプリカで、例え安かったとしても商品価値が無いという点。
いくら質の高いフェイクの活用を奨励する私でも、ワインばかりは本物を薦めるし、本物以外受け入れられないのである。





Catch of the Week No.2 Apr. : 4月 第2週


Catch of the Week No.1 Apr. : 4月 第1週


Catch of the Week No.4 Mar. : 3月 第4週


Catch of the Week No.3 Mar. : 3月 第3週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。