Apr. 9 〜 Apr. 15, 2012

” Girls VS. Sex and the City ”

今週、最も大きなニュースになっていたのは、先週先々週 のこのコラムでも お伝えしていたフロリダのティーンエイジャー、トレイヴォン・マーティン射殺事件で、 彼を正当防衛で射殺したと主張する住宅街のガード、ジョージ・ジマーマンが、第二級殺人罪で起訴されたという報道。
この事件は、トレイヴォン・マーティンが近所のコンヴィニエンス・ストアにアイス・ティーとキャンディを買いにいっただけで、一切武器を所持していなかったにも関わらす、 彼を不審に思ったジマーマンに尾行され、もみ合いになった挙句、射殺されたというもので、当初はジマーマンの正当防衛の主張が認められ、 彼は逮捕を逃れていたのだった。
しかしながら、これに対してツイッター上でジマーマンの訴追を求める署名運動が行なわれ、 全米各地で ジマーマンの不起訴に抗議するデモが行なわれたことは以前お伝えした通り。
ジマーマンに対する訴追が正式に発表されたのは、今週水曜であったけれど、その直前に起こった極めて稀な出来事が、 ジマーマンの弁護団が、弁護を降りる記者会見を行なったこと。
その2〜3日前には、TVの報道番組に登場して 「同事件には現時点では明かす訳には行かない真相が未だある」といかにも内情を理解しているような コメントをしていた弁護団であるけれど、彼らは実際にはジョージ・ジマーマンとは一度も顔を合わせたことさえなく、 コミュニケーションは全て電話とEメールで行なわれていたとのこと。 しかも、弁護チームはジマーマンが何処に居るのかも知らないという状態で、彼らが弁護を降りることにしたのは、ジマーマンが彼らのコンタクトに対して 返事をしてこなくなったためと説明されているのだった。
さらに、弁護団の恥をさらす結果になったのは、ジマーマンが彼らには告げずに検事と連絡を取り合っていたこと。 普通ならば、依頼人は弁護士とだけ話しをして、検事とのコミュニケーションは弁護士に任せるもの。 加えて、ジマーマンは自らの主張をウェブサイトで訴えるという行為にも出ており、弁護団を全く信頼していなかったことを露呈していたのだった。

フロリダ警察側では、ジマーマンの起訴に踏み切ったのは、世論のプレッシャーを受けたからではなく、事件を公正に捜査した結果と 説明。彼が起訴されたことで、事件が裁判に掛けられることになったけれど、第2級殺人罪は 最高で25年の刑期を科せられるもの。 警察に連行され、罪状認否のために法廷に姿を見せたジマーマンは、事件直後よりかなりウエイトが落ちて、顔がほっそりしており、 事件直後に出回っていた写真よりも 善人に見えるとも指摘されていたのだった。

この他、今週は北朝鮮が、諸外国のメディアを招待してまで行なった衛星打ち上げとその失敗も大きく報じられていたけれど、 ピョンヤン入りしていたアメリカのメディアがこぞって伝えていたのが、北朝鮮の人々に食料が殆ど行き渡っていないことに加えて、 携帯電話やソーシャル・メディアが無いにも関わらず、集団がリハーサルをしたかのように規律正しく行動するということ。
衛生の打ち上げ失敗については、アメリカのトークショーなどでは 「失敗するのは打ち上げ前から分かっていた」というようなジョークで 取り沙汰されていたけれど、北朝鮮の人々は「打ち上げたことに意義がある」、「アメリカやロシアでさえ、何度も打ち上げに失敗している」として 祝福ムードであることが報じられているのだった。



ところで、私がこのコラムを書いている4月15日からスタートしたのが HBOの新しいシリーズ、「ガールズ」。
HBOと言えば、「セックス・アンド・ザ・シティ 」を製作・放映していたケーブル・プレミアム・チャンネルであるけれど、 「ガールズ」は、「セックス・アンド・ザ・シティ 」のキャラクターを20代にした現代版と言われる番組。
メイン・キャラクターは「セックス・アンド・ザ・シティ 」同様、女性4人。 でも、「セックス・アンド・ザ・シティ 」のキャリー、ミランダ、サマンサ、シャーロットの4人が30代で、それぞれきちんとキャリアを持って、 マンハッタンのスタイリッシュなアパートに暮らし、常にファッショナブルに装って、トレンディなクラブやレストランでカクテルをすすっていたのに対して、 ガールズの4人のキャラクターは、まだキャリアを築く前の20代。ブルックリンのスタイリッシュとは程遠いアパートに暮らしていて、ファッショナブルでもセクシーでもないアウトフィットを身につけ、 経済力が非常に乏しい、金欠状態。
ニューヨーク・タイムズ紙の同番組のレビューのタイトルは「There is Sex, There is the City, But No Manolos」、すなわち「セックスはアリ、シティもアリ、でも マノーロはナシ」というもの。 写真上は プロモーション・フォトなので 4人のルックスが向上したバージョンになっているけれど、 実際の番組の中に登場するメイン・キャラクターは、何処にでも居そうな普通の20代の女性。 私の印象では、ブルックリンというよりも、フィラデルフィアにでも居そうなタイプに思えてしまったけれど、 要するに「セックス・アンド・ザ・シティ 」のグラマラスさが全くナシのキャラクターが、 ニューヨークに暮らす20代の女性たちのリアリティを演じていると言われるのが 新たにスタートした「ガールズ」なのだった。

ガールズに描かれている20代は、 ”ジェネレーションY”と呼ばれる世代で、大学卒業のタイミングとリセッションが重なったこともあり、 フルタイムの仕事に就けないまま学費ローンを抱えている人々が多いジェネレーション。
この世代はソーシャル・メディアでコミュニケートをするのを好み、 フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーション力に劣るのに加え、物事が長続きしないと言われる世代。 これまでのアメリカのジェネレーションの中で 最も野心や上昇志向に乏しく、あまり後先のことを考えないとも言われるのだった。
そのジェネレーションYの世代にとってありがちなトラブルやミステイクである 性病、中絶、タトゥー、ドラッグ、ランチを抜かないとニューヨークで暮らしていけないような貧乏暮らし等が、 辛らつさを伴わずにストーリーに組み込まれているコメディが同番組なのだった。


メイン・キャラクターの4人はそれぞれ「セックス・アンド・ザ・シティ 」の4人のキャラクターと 何処と無く 位置づけが似ていると指摘されていて、 まず主役であるハナは、サラー・ジェシカ・パーカー扮するキャリー同様のライター。ライターとはいっても、インターンで 無給の仕事をするだけのライターで、 自らのライフストーリーを描いた著書のを執筆中。常に自分の本のことばかり話している割りには、執筆が一向に進んでいないという、 何処にでも居る典型的な”自称ライター”。

彼女の友達、ジェサは 4人のキャラクターの中で最もグラマラスな存在で、「セックス・アンド・ザ・シティ 」のキャラクターで言えばサマンサに近い存在。 海外旅行好きのイギリス人で、セックスには非常にオープンであるけれど、サマンサのようにセックスを心から楽しんでいる訳ではなく、 またサマンサのような上昇志向も持ち合わせていないキャラクター。何かにつけて言うことがズレている彼女の仕事は ベイビー・シッター。

ジェサの従姉妹、ショシャーナはジェサとは正反対の性格で、4人の中では最も年下。常に自分の経験不足を気に掛けている大学生で、 携帯メールに使う略語で喋り、「セックス・アンド・ザ・シティ 」のキャラではシャーロットに当たるといわれる存在。

そして「セックス・アンド・ザ・シティ 」のミランダに当たるキャラクターは、ハナのルームメイトで、親友でもあるマーニー。 彼女はアートギャラリーの受付のアルバイトをしていて、長く交際しているボーイフレンドがいる身。

メイン・キャラクターがこれほどまでにダウン・スケールなので、当然のことながら男性キャラクターも「セックス・アンド・ザ・シティ 」の ミスター・ビッグのように金融業界で働くリッチという訳にはいかなくて、ハナが過去7ヶ月付き合っているボーイフレンド、アダムは 失業中のアクター。 彼のセックス・ファンタジーはビデオ・ゲームとポルノ映画から来ていて、 彼とハナのセックスは、多くのジェネレーションYのセックス同様、精神的なコネクションが無いのでセクシーさはゼロ。
実際アダムはセックスの最中、ハナの腹部を掴んで 「どうしてダイエットをしないのか」と訊ねるあり様。

基本的に「ガールズ」と「セックス・アンド・ザ・シティ 」の大きな違いと言えるのは、「セックス・アンド・ザ・シティ 」のキャラクター達は、 時に迷いはあってもそれぞれが自己確立されていて、自分に合ったキャリアを持ち、経済的にも自立して、唯一欠けているのが 理想の男性とのロマンスであったという点。 そして 何度失敗しても、デートで酷い目にあっても、妥協することなく 自分が求める男性を追求していたのが 「セックス・アンド・ザ・シティ 」であったけれど、 「ガールズ」の場合、キャラクター達の人生は無いものだらけのビギナー・レベル。 まずは自分が自分自身を理解するところから始めなければならないような段階で、逆にその部分が番組のポイントになっているのだった。

私は、今週の土曜日にヨガのクラスで知り合った20代の女友達とブランチをしながら、この番組の話をしていたけれど、 彼女はドクターを目指して 現在はインターンをこなしている真っ最中で、1日14時間も働く日が少なくない多忙な身。 でも、パートタイムの仕事しかしていないハイスクール時代の友達が何人も居るとのことで、 中には アントレプレナーと称して、フェイスブックにページがあるだけの ビジネスをしていることになっているケースもあるという。
とは言っても 彼女の場合、マンハッタンで生まれ育った比較的裕福なタイプなだけに、その友達も 仕事が無いとは言え、 親が投資目的で購入したウエスト・ヴィレッジのコンドミニアムに家賃を支払わずに住んでいたりするとのこと。 しかしながら、昨今のニューヨークはレントが非常にアップしていることもあり、彼女のその友達の親は、突然 「ウエスト・ヴィレッジのコンドを 月5000ドル以上で他人に貸し出し、自分の娘には もっと小さい物件を安くレンタルさせるべき」と考えたそうで、 彼女の友達は、気乗りはしないものの 仕方なく 親から提示されたバジェット内で暮らせるアパートを探していると言っていたのだった。
私にとって興味深かったのは このストーリーが、奇しくも「ガールズ」の第一話のエピソードと非常に類似していた点。 第一話では、自称ライターのハナが両親とブランチをしている最中に、「もう散々サポートしてきた」ことを理由に 経済的援助を打ち切る と両親に告げられるところからスタートしているのだった。



「ガールズ」と「セックス・アンド・ザ・シティ 」の間には、時代と年齢を考慮すると、20年のギャップが存在するけれど、 では、ガールズのキャラクターが10年経って 「セックス・アンド・ザ・シティ 」のキャラクターに成長するかといえば、 現在の30代のニューヨーク女性を見ている限りでは、決してそうとは言えないのが実際のところ。
私の32歳の女友達は、MBAを取得してからファイナンスの仕事を始めて、給与が高かったので、学費ローンを順調に返済して、 昨年ルームメイトと暮らしていたアパートを出て、ミッドタウンの新しいアパートで1人暮らしを始めたばかり。
かつてはトリー・バーチのシューズを履いていた彼女が、シャネルのブーツを履くようになり、バッグも何処へ行くにも ルイ・ヴィトンのスピーディーだった彼女が、シャネルのキルト・バッグを持ち始め、 昨年はパリ、メキシコ、ロンドンにヴァケーションに出掛けていたのだった。 なので、別の女友達も 彼女が「お金回りが良くなった」と指摘していたけれど、 その彼女が 今週の木曜に突如レイオフされてしまったのだった。
私は木曜の午前中を、ショックを受ける彼女を励ます携帯メールを何本も打つことに費やしていたけれど、 私の友人の例からも分かる通り、現在の30代と、1998年に放映がスタートした「セックス・アンド・ザ・シティ 」の中で描かれていた30代の大きな違いは、 現代にはジョブ・セキュリティが無いこと。すなわち、どんなに良い職場に勤めてキャリアを築いていても、 突如レイオフされるリスクは誰にでも存在しているのだった。
また、現代の30代は高学歴である場合、学費ローンを抱えて、それを返済しているケースも非常に多く、 「セックス・アンド・ザ・シティ 」の中に描かれていたキャラクターよりも、 ずっと経済面とキャリア面で、不安定な状態にあると言えるのだった。


加えて 「セックス・アンド・ザ・シティ 」の時代と 現代で変わりつつあるのが、 マルチ・ミリオネアの職業。今週、フェイスブックがモービル・フォトシェアのインスタグラムを$1ビリオンで買収したニュースが報じられたけれど、 今や若くして百億円以上の財産を築くのは金融よりもハイテク関連のエンジニア。
ことに、スマートフォンやタブレット絡みのテクノロジーは今や引っ張りだこ状態で、今週の買収を受けて、シリコンヴァレーはもちろん、ニューヨークのシリコン・アレーのハイテク企業をターゲットにした 買収ラッシュが始まることが見込まれているのだった。

インスタグラムに関しては、社員僅か13人の会社で、サンフランシスコのオフィス(写真上) には最小限の家具しか無く、ミーティングは床に座って行なっていたような状態で、 これまで売り上げゼロであった企業。 でもフェイスブックによる買収で、2006年にスタンフォード大学を卒業したばかりのインスタグラムの創設者、 ケヴィン・サイストロムは、突如$400ミリオン(約323億円)の資産を得たことになるのだった。
こうした新しいテクノロジーでリッチになる若い層は、「セックス・アンド・ザ・シティ 」のミスター・ビッグのように、ビシッとスーツを着こなして、 トレンディなレストランやエクスクルーシブなクラブに出入りするタイプではなく、 スウェットとジーンズ姿で一日中、コンピューターと格闘しているエンジニアで、 英語で言う ”Geek / ギーク”。 すなわち オタク型。
なので、今のご時世は キャリーのように装って 金融で働くミスター・ビッグような男性を 捜し求めること自体が、 既に時代遅れになってしまったとも言えるのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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