Apr. 18 〜 Apr. 25 2005




私の風水観



今年に入ってからのこのコラムで、最も質問が多く寄せられたのが、 1月2週目の「インテリア・メイクオーバー」 についてである。
これによって 私だけでなく、多くの方達が風水に興味を持っていることを 実感することが出来たけれど、そんな寄せられた質問や、 コラムを読んだ友人から個人的に訊かれた事などを総合して感じたのは、 日本人が一概に捉えている「風水」というものが、本来の「風水」というものと やや異なっているのではないか?という事だった。

まず、私が受けた質問で多かったのが、「風水の良い本を教えてください」という ものだったけれど、私の考えでは、何かを学ぼうとする時、 本や学校を選ぶ時点からその勉強がスタートしている訳で、 このプロセスを人任せにするということは、大切なファースト・ステップを 省こうとしているように思えてしまうのである。
私が最初に風水に興味を持ったのは1996年のことだったけれど、 この時に買った1冊目の本を選ぶために、私は2日に渡ってブックストアでそれぞれ3〜4時間は 粘ることになったし、 いろいろな本を閲覧するうちに、少しでも風水について学べたとも記憶しているのである。 結局私が選んだのは、香港で有名な女性風水師の著書で、この本を特に 選んだ理由は、分かりやすい英語で書かれていることに加えて、写真や、 ケース・スタディ(風水で改善を試みた実例)が沢山載せてあって、 初心者でも、フォローし易い内容に編集されていたからだった。
また風水というのは決してインテリアだけに限ったセオリーではなく、 書籍のレイアウトや、名刺といった印刷物にも 風水のアイデアは存在しているので、「レイアウトや表層からインスピレーションが 得られない本から、風水が学べるはずが無い」とも考えていたため、本を選ぶ際には、 「私が気に入る色彩、レイアウトで、ビジュアル的に学ぼうという気持ちを 駆り立ててくれるもの」というのも基準の1つにもなっていた。
でもビギナー用の本というのは、基本は分かりやすく書いてあっても その先に進めないという問題点があるので、ビギナー用の本が頭に入った時点で、 もう少し専門的で、文字だらけの本を購入することになったけれど、 この2冊は、どちらも私が風水のバイブルとして常に取り出しては読み直すもので、 時々もっと良い本があったら買ってみようと思ってブック・ストアを見回しても、 私にとってこの2冊を越える風水の本は見つからなかったりする。
「私にとって」と書いたのは、風水が人それぞれの生まれに合わせて様々であるように、 風水の本にしても、私にとって学び易い本が 必ずしも誰にでも理解し易い優れた本とは限らないわけで、 それだけに、自分の視点で本を探すというプロセスは非常に大切だと私は考えているのである。
でも1つだけ言えるとすれば、コマーシャリズム、すなわち商業性に走った本は信頼できないということで、 軽薄な言い回しやら、インスタントな解決法だけを説明しているような本は、 下手をすると書いている本人が風水の学問としての本質を理解していないという可能性さえあると 私は考えていたりする。
特に未知の状態から最初に取り込む知識というのは、スポンジが水を吸い込むように 吸収されて、その後の「風水観」に大きな影響を与えるものであるから、 それが間違っていた場合は、誤った知識による判断を下したり、偏見を持ち続けることにもなりかねない訳で、 一番初めに学ぶ段階で、良き指導者や自分にあった教材に恵まれるということは、言うまでも無く非常に大切なことなのである。

さて、それ以外に風水に関して寄せられた質問、私が個人的に知人から受ける質問で多いものに、 「何処に何を置けば・・・」というのがあるけれど、これは、すなわち、 「何処に何を置けば彼氏が出来ますか?」とか、「何処に何を置けばキャリア運が向上しますか?」というもの。
きつい言い方をしてしまえば、そんな簡単な事で人間が幸せになれるはずはないし、 人生がそんなに簡単に好転してくれるのならば、逆に風水に頼る必要などもそれほどないはずだと思うのである。
私がこの類の質問の答えとして言うのは、風水とはもっと奥が深い学問であるという事、そして 「間違った風水を鵜呑みにして、変なところに余計な物を置くと、 かえって運が悪くなる」ということである。
実際私の周囲には、所謂「いい加減な風水」を鵜呑みにして、家具を動かしたり、 「指示通りの方位 に 指示通りの物」を置いたけれど「一向に開運しない」とか、「一層運が悪くなった」という人が 多く、そういった人達が行ったことを聞いてみると、「本当にまっとうな風水のアドバイスなのだろうか?」 と首を傾げるものが多かったりする。
だから逆に言えば、「何処に何を置く」的なアドバイスに徹している本や風水師というのも、 かなり当てにならないと言えることにもなる訳である。

根本に帰ってみれば、まず風水というのは、人間に幸福と開運、豊かさをもたらす学問であり、 長年受け継がれた知恵であるけれど、こうした幸福をもたらす細工を施す以前に、 家の中の不安材料、人間心理に圧迫感や不快感を与える要因を除去することからスタートするべきで、 事実、多くの風水の書物が「ビギナーは、まず悪運から身を守る事から始めるべき」と 記しているのである。
その初歩段階で 大切とされることの1つに、部屋に置く机やベッドの位置があるけれど、 風水では、ベッドで横になっている時や、机で仕事をしている時に 身体の向きを変えることなく、部屋の入り口を見渡すことが出来るポジションが正しいとされるのは、 比較的広く知られるものである。 これは、外部からの侵入者に対する潜在的な不安を取り除くことが目的とされるもので、 これにより安眠や仕事への集中力がもたらされる事になるのである。
この他に風水ではベッドの頭の上の部分に額や棚を吊るすことが悪いとされているけれど、 これも睡眠中という最も無防備な状態の時に、「釘が外れたり、地震が起こったりして 頭の上に物が降って来るかもしれない」という潜在的な不安を取り除いて 安眠を確保するためのものであるし、角が尖った家具が奨励されないのも、 人がぶつかった際に危ないという理由からである。
このように風水というのは、基本的な部分は非常に実用的な知識であり、 家の中からのありとあらゆる不安材料を取り除いて、ゆったりとくつろげて、 勉強や趣味が捗り、家族が団欒できる環境を整え、引いてはそれが住む人間に活力や 健康、さらには裕福さや幸福をもたらすことをゴールとしているのである。

こうした基本的な不安材料と共に、風水の初期段階で取り除かなければならないのものには、 ポイゾン・ビーム、コーナー・ビームと呼ばれるものがあるけれど、 これは部屋のコーナーの角、柱の角等、凹凸に限らず角の頂点から発せられる目に見えないビームのことで、 ことに私自身は先端恐怖症であるせいか、このビームには他の人よりも敏感に反応する傾向があると自覚している。
コーナー・ビームについては、部屋の角にプラントやフロア・ランプを置く、もしくは 部屋のコーナーに沿って、本棚や飾り棚を設置するというのが一般的な解決法とされているけれど、 これが天井や壁の柱の角となると、その対処法はもっと厄介である。
例えば山小屋風に建てられて、屋根を支える四角い材木が部屋の中で剥き出しになっている家などは、 風水の見地からは全く歓迎されない建物で、1本1本の材木から 発せられるポイゾン・ビームのパワーは、後にビジネスの不振、夫婦仲の悪化、 子供の非行など、様々な形で そこに暮らす人間に降りかかって来ることになる訳である。

さて、これらの不安材料やポイゾン・ビームが取り除かれてから取り組むのが、 実際に自分が暮らしている家全体、部屋ごとの方位の把握であり、ここからがやっと本格的な風水への取り組みになってくる訳である。
ちなみに私が風水を学び始めた96年に暮らしていたアパートは、私の財運を示すエリアが バスルームになっていて、そこでトイレを流す度に私の財運も流れていっていることを 本で学んだ時は、本当に愕然としたのを今でもはっきり覚えていたりする。
そもそも当時、私が「風水でも勉強してみよう」という気になったのも、そのアパートに越してきてからというもの、 それまで務めていた雑誌が休刊になり、フリーランスとしてそこそこに収入をあげても、 そのお金がどんどん出て行ってしまい、「財運に見放されている」ことを 心から実感していたからで、そんな私の現状が風水によって立証されたことは、 衝撃的でさえあったのだった。
そこで、私がしたのが、バスルームのリデコレートで、フロア・マット、トイレット・カバーを 高額かつ、紫色のものに変えて、ウェッジウッドの花瓶や時計を置いて、とにかくバス・ルームに 高級感を持たせること、そしてトイレは、必ず蓋を閉めてから流すということだった。
この他にも仕事運に恵まれるように、キャリアを意味する方角の壁には、当時持っていた中で一番高額な 額縁を吊るすことになったし、それ以外にも掛けるお金を最小限に抑えながら、ありとあらゆる インテリアの工夫をすることになった。 その結果、500ドルもしたテーブル・ランナーは額縁に納められて壁に飾られることになったし、 ドレープ(カーテン)を吊って部屋を仕切る方法を考え出すことにもなったけれど、 この当時はインテリアのカタログと首っぴきで、ありとあらゆるインテリア・ショップにも出掛けて、 部屋を風水のセオリーでデコレートすることで頭が一杯になっていたし、 そのデコレートを実現するために、要らない物を沢山捨てて、収納を良くする一方で、 夜を徹してまで とにかく掃除をしていたものだった。

よく風水をかじった人は、家のインテリアに手を入れる前に 風水グッズを置くという方法で、 問題を解決しようとするけれど、私に言わせれば、風水にとって 最も大切なのはバランスとハーモニーであり、まず部屋の環境全体を自分を幸せにするものに 変えなければ、風水上のシンボルなど力を発揮するはずはないし、特にそのシンボルが 自分にとって思い入れの無い品物であった場合、そんな物をいきなり部屋に置いたところで、 幸運などもたらされるはずは無いのである。
風水の世界におけるバランスとハーモニーというのは、陰と陽のバランスであり、 風水における火、水、木、金、土という5つのエレメントのバランスやハーモニーでもあるけれど、 これについてのエピソードを書き出すと、とてつもない長い話になってしまうから、 これは別の機会にさせて頂くとして、簡単な例を挙げれば、 例えばベージュのカーペット、ベージュのレザー・ソファー、 ベージュのテーブルというように、ベージュに統一されたインテリアがあったと想定する。 一見スタイリッシュで纏まりがあるように思えるインテリアかもしれないけれど、 そこに暮らしているうちに、人間はだんだんとダラダラした 退屈な生活を送るようになってしまうのである。 すなわち風水の世界ではアクセントが無く、同じ色彩や要素だけで纏められた インテリアというのは決して奨励されないものなのである。
ベージュのソファーの上に真っ赤な絵が掛かっていれば、気分が高揚するだろうし、 ソファーの前に置かれたテーブルがブラウンだった方が、ソファーとのコントラストが 楽しめる訳で、こうしたバランス&ハーモニーのルールとして存在するのが風水な訳である。 だから、私は風水師と呼ばれる人は風水の知識だけでなく、インテリアの知識もしっかり備えていないと 適切なアドバイスが出来ないとも、個人的に考えていたりする。

ところで風水グッズに話を戻すと、私自身も部屋の中、オフィスの中に風水のシンボルを 置いているけれど、これは自分でいろいろな物を見た末に、気に入って、 部屋に置きたいと思ったからで、例え風水の効果が望めなくても 部屋に置いていたであろう物である。 そのくらい気に入って、思い入れのある物でなければ、風水グッズなど意味はなさないし、 基本的に部屋の中に見た目にアグリーで、自分の気に入らない物があるという状態では、幸福など訪れにくいものである。
では、私の風水に効果はあったか?ということだけれど、 経験上、まず起こる変化というのは「自分自身がポジティブになる」ということで、 キャリアや人間関係、金銭面にまでその好影響が及ぶまでには、やはり多少は時間が掛かるものである。
デザイナーのトミー・ヒルフィガーは、かなり以前に香港の企業とパートナー契約を結んで以来、 パートナー会社が雇っている風水師に、オフィスを全て改装させられたというけれど、 その効果を彼が実感するまでには約2年ほど掛かったとコメントしているのである。

そして最後に私が思うことを付け加えるならば、風水というのは人生に前向きに取り組む人のための 学問であって、生活の中に風水を取り込むと決めたら徹底的に行うべきであるし、 「一度インテリアに手を入れたらお終い」というのではなく、常により良い環境を求めて、 お金や思い入れを注いでいくべきものであるということ。
だから「ここにこれを置いたら幸せになれるらしい」などという、貴方任せの姿勢や、 「そんなところまでお金や手が回らない」というような諦め前提の後ろ向きな気持ちで 取り組むのは、かえって時間と労力の無駄にしてしまうだけ、というのが私の考えである。



Catch of the Week No.3 Apr. : 4月 第3週


Catch of the Week No.2 Apr. : 4月 第2週


Catch of the Week No.1 Apr. : 4月 第1週


Catch of the Week No.4 Mar. : 3月 第4週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。