Apr. 16 〜 Apr. 22, 2012

” Fifty Shades of Gray, Best Selling Mommy Porn? ”

今週アメリカで最大のスキャンダルになっていたのが、オバマ大統領の警備のためにコロンビア入りした シークレット・サービスとアメリカ軍のスタッフが、 地元の娼婦を雇って パーティーを楽しんでいたという問題。
これはオバマ大統領が到着する前の出来事で、シークレット・サービスとアメリカ軍のスタッフが滞在していたホテルは、 コロンビア国内で、買春が合法とされるエリア。 しかしながら、高いモラルが要求されるシークレット・エージェントと、世界中何処に居ても、アメリカ国内の法律で常に裁かれるアメリカ軍のメンバーが、 税金で滞在費が賄われている 地元の高級ホテルで娼婦と関係するというのは大問題。
当初、このスキャンダルに加担したのは11人とされていたけれど、地元 コロンビアでの調査で 21人もの娼婦が雇われていたことが発覚しており、 シークレット・サービス12人とアメリカ軍11人が現在捜査対象になっているという。 このうち、シークレット・サービスではスーパーバイザー2人を含む6人が既に解雇されており、週明けにはさらにその数が増えると同時に、 これに関わったメンバー全員に何らかの処分が下されることが見込まれているのだった。
特に問題視されているのは、現地入りしてからのシークレット・サービスの あまりに手際が良すぎる集団買春ぶりで、 「これが初めてのグループ買春とは思えない」という指摘も飛び出していたけれど、 実際のところ、2002年に メディアが暴いたシークレット・サービスの実態レポートにも、エージェントがホワイト・ハウスのサテライトを使って、 勤務中にポルノ・チャンネルを観ていることや、 政府の施設内にストリッパーを派遣させて、パーティーを楽しんでいたこと、シークレット・サービスとホワイトハウスのスタッフが頻繁に不倫関係になっていることなどが 報じられていたのだった。このためシークレット・サービスには 政府機関という肩書きを隠れ蓑に、 好き勝手な振る舞いをするカルチャーが定着していることも指摘されており、このスキャンダルを機に、そうした風潮を一掃すべきとの声が高まっているのだった

事件が発覚したのは、シークレット・サービスのエージェントが支払いをめぐって娼婦と口論になったためで、 エージェントは「酔っ払っていたから、そんな値段に承諾した覚えは無い」と言って支払いを拒んでいたというものの、事件の捜査に際しては 「女性とはバーで出会っただけで、娼婦だとは知らなかった」という弁明を展開。
ちなみに娼婦が請求したフィーは、当初47ドルと報じられていたけれど、その後のニューヨーク・タイムズ紙の一面トップで800ドルであったことが報じられ、 「コロンビアの娼婦がそんなに高額なんて!」と人々を驚かせていたのだった。 結局女性は、元締めの男性に支払う金額である 250ドルを請求し、シークレット・サービスの男性から 225ドルを受け取ってホテルを後にしたというけれど、 この仲裁に警察が介入したために発覚したのが今回のスキャンダル。
問題のコロンビアの娼婦はフェイスブック上に掲載されていた写真の数々が、あっという間にアメリカのメディアで公開されたけれど、 そのうちの1枚が写真上、右側のニューヨーク・ポスト紙の表紙にフィーチャーされているビキニ姿のもの。
「ハリウッドに居るような女優の卵より、ずっとリアリスティックなブレスト・インプラント」とネット上で評価されていた彼女は、 自らを同じ娼婦でも、ハイクラスの”エスコート” だと語っており、ニュースの報道で 俗に言う ”ストリート・ウォーカー” (道でクライアントを拾う低クラスの娼婦) と言われたことに不満を訴えていたのだった。

その一方で、スキャンダルが原因で解雇されたシークレット・サービスのスーパーバイザーのフェイスブック上の写真も 大きくメディアがフィーチャーしていたけれど、彼は2009年にサラー・ペイランの警護に当たった際の 写真に不謹慎なコメントを付けていたり、2人の女性に両側からキスされている写真をアップするなど、 シークレット・サービスとしてだけでなく、既婚男性としても モラル・スタンダードがズレていることを露呈していたのだった。



さて、昨今のアメリカで話題沸騰のベストセラーになっているのが、SM行為を含むセックス描写がふんだんに盛り込まれた エロティック・ロマンス小説、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」。
過去4週間で200万部を売り切り、アメリカ国内で 1秒に1冊のペースで売れている 同書は、「マミー・ポルノ (ママさんポルノ)」として知られるだけあって、 メジャーな読者はミドルエイジの既婚女性と言われているのだった。
「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」の著者、 E L James/ E L ジェームスは ロンドン在住で、ティーンエイジャーになる2人の息子を持つ 元TVプロデューサー。 彼女にとって 「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」とその続編2冊から成る三部作(写真上)は初めての小説。
同作品を読んだ人ならば、誰もが感じるのが ストーリーや設定が、一躍ヴァンパイア・ブームを巻き起こしたティーン小説のベストセラー、「トワイライト」に 非常に似ているということだけれど、実際、著書のE L ジェームスは 「トワイライト」の大ファン。 「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」は、「トワイライト・フォー・グロウンアップ (大人のための”トワイライト”)」とさえ呼ばれているのだった。

E L ジェームスは 「トワイライト」の作家であるステファニー・メイヤーに刺激を受けて 「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」の執筆を始め、 2年を費やして3部作を書き上げたというけれど、 それをトワイライト・ファンのノンフィクション・ウェブサイトに掲載したことから オーストラリアの小さな出版社の目に留まり、三部作が小規模に出版されたのが1年数ヶ月前のこと。
これが口コミのセンセーションを巻き起こし25万部を売り上げたことから、 大手出版社、ランダムハウスのペーパーバック(単行本)部門が、Eブックスと単行本の出版権を手に入れ、 Eブックスがリリースされたのが今年3月。単行本は4月に入って出版されたばかり。
メディアが大々的に取り上げたことも手伝って、ニューヨーク・タイムズ紙やアマゾン・ドット・コムでは、既にベストセラー・チャートのトップになる売れ行きで、 3月末には ハリウッドの複数の映画スタジオが競り合った結果、ユニヴァーサル・ピクチャーズが同書映画化の版権を$5ミリオン(約4.1億円)で 買い取ったことがレポートされているのだった。

そんな大センセーションを巻き起こしている「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」のストーリーがどんなものかと言えば、 ヒロインは、21歳のヴァージン、アナスターシャ・スティール。
彼女はワシントン・ステート・ユニヴァーシティの学生で、 校内新聞のエディターであるルームメイトが出掛けるはずだった取材に、体調を崩した彼女に代わって出かけることになる。
その取材とは、グレー・エンタープライズのCEOで、若くして巨額の富を築いたクリスチャン・グレーとのインタビュー。 彼について何の予備知識も無しにインタビューに出かけたアナスターシャは、クリスチャンの27歳という若さと、そのルックスの良さに衝撃を受けると同時に、 インタビューの間、彼の非常に大人びた態度や自信に満ちた振る舞いに 終始緊張し、居心地の悪い思いをするのだった。
しかし、インタビューが終わってもクリスチャン・グレーのことが頭から離れなかった彼女は、 徐々に自分が彼に惹かれていることを悟り、その一方でクリスチャンも、意図は明確ではないものの 彼女との関わりを持とうとするのだった。
やがて彼はアナアスターシャを自宅に招待し、彼が望む2人の関係について切り出すことになる。
それは、守秘義務の協約から始まり、クリスチャンが彼女と契約の下で性的服従関係になるというもの。 その契約の中には、まず彼が望む高額なファッションを身につけ、きちんとした食事を取り、 週4回彼が雇ったトレーナーと1時間のエクササイズをすること、 ワックスをすること、喫煙や過剰な飲酒をしないこと等、ライフスタイルに介入する条件が記載されているけれど、 これらのファッション、ビューティー、エクササイズの支払いは全てクリスチャンが行なうのは言うまでもないこと。
加えて、彼が行なうSMプレーが 火を使ったり、首を絞めたりという行為を含まず、彼女の顔やボディに一切の傷やマークを付けないこと等、 プレーの安全性を協約としてリストしているのだった。 その上で、彼が望むのがアナスターシャが彼に服従すること、もっと具体的に言えばアナアスターシャが彼に服従したい、彼の望み通りにして 彼を喜ばせたいと切望すること。
SMプレーの道具が並ぶ ”プレー・ルーム” に案内され、生まれて初めて性的に惹かれた男性が、実はSM狂だったことに ショックを受けながらも、冷静なまでに落ち着いたリアクションを見せるアナスターシャ。 その契約を結ぶ前に、彼女はクリスチャンに彼女がヴァージンであることを告白するのだった。
それを聞いて逆に驚いたクリスチャンは、女性とはSMプレーはしても ロマンスはしない主義であるものの、 彼女を例外的に扱うことにするのだった。

そこから、チャプターごとにSMプレーを含むセックス描写の連続が始まるのがこの本で、 最終的には、クリスチャン・グレーとSMの主従関係ではなく、愛情で結ばれたいと望むアナスターシャが彼のもとを去るのが 3部作の1作目である「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」のエンディング。
そして2作目の「フィフティ・シェイズ・ダーカー」、3冊目の「フィフティ・シェイズ・フリード」では、 アナアスターシャが クリスチャンに自分を愛させようとする ラブストーリーに変わって行くとのことで、 「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」の内容について ”トゥーマッチ・ヴァイオレント・セックス(暴力的なセックスが多すぎる)”と批判する人々は、 2作目以降を好む傾向にあるようなのだった。

前述のように このストーリーは、 ルックスが良く、大人びていて、卓越した能力を備えたエドワードが実はヴァンパイアだったものの、 ヒロインのベラが それにひるまず彼を愛そうとする「トワイライト」に非常に似ていて、クリスチャン・グレーがヴァンパイアではなく、 コントロール・フリークのSM狂であるのが異なる部分。
私は、アマゾン・ドット・コムで公開されていた70ページ前後を読んだだけであるけれど、一部には ジュリア・ロバーツの出世作である「プリティ・ウーマン」に描かれていた リチャード・ギア演じる富豪のビジネスマン、エドワードと、ジュリア演じる娼婦のヴィヴィアンとの関係を彷彿させる部分もかなりあると思うのだった。

多くの一般読者やブック・レビューアーの「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」に対するリアクションは、大きく賛否に分かれているけれど、 マジョリティが指摘する問題が その文章力の乏しさ。
これについては、E L ジェームス本人が「自分は才能があるライターではない」とあっさり認めている状態で、 確かに文章は 非常に簡単。 タブロイド誌、ピープル・マガジンの記事と同じ程度のレベルと言えるのだった。 したがって、さほど英語の読解力やボキャブラリーが無い人でも読めるもので、 子供向けに書かれている「ハリー・ポッター」シリーズの方が 遥かに難しい英語と言えるのだった。

これ以外に不評のマジョリティを占めているのが、セックス・シーンのリアリティの無さ、エロティズムの稚拙さであるけれど、 同時にBDSM(ボンデージ、ドミナトリックス、サディズム、マゾキズム)のプレーが「リサーチ不足」、「実際を理解しないで、誇張して書いている」という指摘も多く、 同じSMプレーを取り上げていても、もっときちんとした文章で、きちんとリサーチされた小説は他に沢山あるという声も聞かれているのだった。
それもそのはずで、E L ジェームスは執筆にあたって、SMショップを1回訪れて ウンザリしてしまったそうで、 その他のリサーチは全てインターネット上で行なったとのこと。 ポジションの描写については、夫とシミュレーションをしたそうで、それもシリアスなプレーとして行なった訳ではなく、 夫は「またそんなことを試すのか?」という呆れ顔で協力してくれていたというから、 彼女と夫のセックス・ライフは、SM小説にネタを提供する類のものではないのは明らかなのだった。



今週食事をした私の友人は、職場であまりに話題になっていたため、クリスマス・ギフトで貰ったアマゾンのキンドルを初めて使って、 Eブックで同書を読んだと語っていたけれど、 その彼女は、今週、TVのインタビューに登場したE L ジェームス(写真上中央)が、あまりに ”普通のオバさん” なのに驚いて、 「あんなSMセックス小説を、こんなオバサンが書くとは思えない」と語っていたのだった。
私もネット上のビデオで、そのTVのインタビューを見たけれど、その中で彼女が語っていたのが、同書が ミッドライフ・クライシスを迎えた彼女自身のファンタジーを描いたものだということで、 まさかそれが1ヶ月足らずの間に200万部を売るようなベストセラーになり、 メディアの注目を集めるとは思ってもみなかったという。

私の意見では、同書がこれほどまでのセンセーションになり、特にミドルエイジの既婚女性にアピールするのは、 E L ジェームスが 実生活でドミナトリックスをして生計を立てているような人物ではなく、彼女自身のファンタジーと限られたリサーチでこの本を書き上げたため。 なので、レビューが指摘するリアリティやエロティズムの乏しさというのは、逆にごく普通の生活を送り、 頭の中だけで、情熱的なセックス・ライフや 自分を支配する完璧な男性像のファンタジーを描いている女性達にとってみれば、 自分の想像を超える、理解し難い 危険な世界が描かれていない分、「ストーリーに入って行き易い」 という利点になっていると思えるのだった。
また女性の多くは、「安全が保障されているなら、危険なことをしてみたい」という身勝手な願望を持っているけれど、 クリスチャン・グレーとアナスターシャの性的主従関係は、まさにそれ。彼女は身の危険や身体の傷を心配することなく、 申し分の無いルックスのパワフルな男性とのSMプレーに興じ、その見返りとして金銭的恩恵を受けるわけで、これは 実際のセックス業界では決してあり得ない旨過ぎる話。
なので、ストーリーにリアリティが無いという読者の指摘も非常に多い同書であるけれど、そのリアリティに裏づけされない純粋なファンタジーが この本をベストセラーにしていると言えるのだった。

私の考えでは、人々の興味を刺激し、ファンタジーを掻き立てるコンテンツをシンプルに分かり易く描く方が、 リアリティを追求して、難解な内容にするよりも 遥かに ベストセラーを生み出せるコンセプト。
そもそも、小説はフィクションである限りは リアリティを追求する必要性はゼロ。 だからこそ、小説にヴァンパイアや魔法使いが登場する訳である。
逆にリアリティを追求したい読者は、ノンフィクションのセクションから本を探すべきだと思うのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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