Apr. 26 〜 May. 1 2005




時計仕掛けの日本?!



CUBE New Yorkも、今年の8月でビジネスがスタートして9周年になるけれど、 過去約9年間、常に私の頭をよぎる事と言えば、物流の経路が逆だったら、 すなわちアメリカのプロダクトを日本に輸出するのではなく、日本のプロダクトを アメリカに輸入していたら、どんなにビジネスが楽だっただろう・・・という事である。
というのも、アメリカは日本に比べて いろいろな事がかなりいい加減な社会であり、 そのいい加減さに合わせていても 回っていく世界であると同時に、 ある程度細かいことを諦めないと、やっていけない社会なのである。 これに対して日本は、期日、期限に忠実な社会、 細かい正確さが要求される責任社会であり、この細かい日本側をカストマーにし、 いい加減なアメリカ側をサプライヤーにして、中間で小売業を営むというのは、 「至難の業」と思える事が少なくないのである。

アメリカの業者に商品をオーダーして、予定より1週間〜10日遅れで入荷してくれば、 業者側は罪悪感のかけらさえ抱いていない場合が多いけれど、日本のお客様にとって この1週間〜10日の遅れというのは、時にCUBE New Yorkを「いい加減な会社」と判断する基準となったりする訳である。
また商品についても、前回までは長さ2cmで仕上がっていた商品が、 次に入荷してきた時は2.15cmになっていることなど アメリカでは決して珍しくない訳であるけれど、 この0.15cmの違いは、一部の日本のお客様にすれば、「どうして同じ規格の商品が、違うサイズで仕上がるなんて事が 起こるのか?」とか、「サイトのサイズ表示が間違っている」という、 当社に対する質問やクレームの対象になってしまう訳で、 入荷した商品の検品や送付商品の確認の際、CUBEスタッフは かなりピリピリした思いをしなければならなかったりするのである。
でも、アメリカに暮らして、アメリカの価値観、社会観が身について来ると、 日本で要求される正確さ、物事に対する細かさというのは、時にトゥー・マッチに思えるのは事実で、 「日本人は細かすぎるから、日本に対して商品を製作したくない」という 業者達の苦労話の数々を聞かされたりすると、まんざら彼らに同情出来なくもない気持ちになってしまうのである。

日頃からそんな気持ちがあったせいか、今週、日本で起こったJR福知山線脱線事故については、 本当に事故原因が、オーバーランのせいで遅れた 僅か1分半を取り戻すためであったのならば、 あまりに稚拙で、馬鹿げたものに思えてならないのが正直なところである。
この事件については、NYタイムズ紙も「日本社会における時間厳守のオブセッション(強迫観念) が生み出した事故」と報じていたけれど、実際のところ1分半、すなわち僅か90秒の遅れが あのような大惨事を生み出すきっかけになりうるというのは、アメリカ及び、諸外国からは 信じられない感覚なのである。
逆に言えば、私が日本に一時帰国をする度にスゴイ!と思うのは、交通機関が至って時間通りに走っていることで、 バスまでが時間通りに運行されているというのは、世界でも恐らく日本だけなのでは?と、 感心するやら、驚くやらである。でも、そうやって全ての交通機関が 秒刻みの正確さで運行されている社会というのは、非常に便利であると感じる一方で、 不思議であったり、非人間的なイメージを抱かざるを得ないのも実際のところである。

それに比べると、ニューヨークのバスや地下鉄というのは、非常に人間的かつ、頼りにならない、 時間が読み難い交通機関であり、例え地下鉄が20分来なかったとしてもニューヨーカーは誰も驚かないし、 長く待たされた挙句にやっと来たバスや地下鉄が、後続車が控えていることを理由に、 自分の駅を通過して行ったとしても、いつもの事であるから、特に眉を吊り上げる必要など 無かったりするのである。
そんなルーズなNYの交通機関に慣れているはずの私でも、さすがに驚いたのは 先日、各駅停車の地下鉄に乗っていたところ、私が降りようとしていた駅だけに電車が止まらず、 次の駅まで行ってしまった事で、慌てた私が隣に座っていた乗客に、 「どうしてこの駅で停まらないの?」と訊いたところ、「さぁ〜、分からない。 特にアナウンスも無かったみたいだけど・・・」と、非常に冷静な答えが返ってきてしまった。 私以外にも、同じ駅で降りようとしていた乗客が、何人か不思議そうにキョロキョロしていたけれど、 これが日本だったら、ニュースで報道されるような事件でも、 NYだと、駅間が近いこともあり、降りられなかった人間が、次の駅で降りて歩くだけの話だったり するのである。

では、ここで国民的イメージというものを考えてみると、日本人とアメリカ人を一般的に比較した場合、 より勤勉な民族と見なされるのは、日本人に訊ねても、アメリカ人に訊ねても、 答えは、「日本人」ということになる。だから、日本で交通機関が時間どおり運行されるのは 全く不思議ではないけれど、日本人とアメリカ人を比較して、より忍耐強い国民性と見なされるのは? と訊ねれば、これに対しても日本人、アメリカ人ともに、やはり答えは「日本人」ということになる。
ところが、その日本人は電車が2〜3分遅れただけで、イライラする場合があると言い、 アメリカ人は15分待たされても問題なく平静を保っていられる事を考えると、 一概にはそうとは言えない事になる。
しかしながら、日本人の場合、自分が納得しない職場、アメリカ人だったらとっくに辞めているような職場で、 我慢しながら働き続ける忍耐に長けているのは紛れも無い事実で、 例えば今回のJRのケースにしても、もしアメリカ人の鉄道運転手に対して、 「遅れは秒刻みで報告する」ことを義務付けたとすれば、彼らが直ぐに別の仕事を探すであろうことは 目に見えているのである。

誤解しないで頂きたいのは、私は日本の時間に正確な交通機関のシステムを本当に凄いと思っているし、 NYの時間どおりに動かない交通機関を決して評価はしていないけれど、 でもNYの交通機関には期待が無いだけに、たまに直ぐに電車やバスが来て、目的地に 予想より短時間で到着しただけで、なんとなくラッキーな気分を味わえて、1日の物事がスムースに流れたりするし、 その反面、必要以上に交通機関で時間を取られる日は、当然ツイテいない日であるから、 それなりに自分の行動が消極的になったり、慎重になったりするきっかけになったりするものである。

人生というのは、決して時計仕掛けではない訳で、特に今回のJRのような事故が起こって、 沢山の尊い命が失われた後では、「電車が時間どおりに運行される社会」というのには、 それほど魅力を感じないのが私の偽らざる心境である。



Catch of the Week No.4 Apr. : 4月 第4週


Catch of the Week No.3 Apr. : 4月 第3週


Catch of the Week No.2 Apr. : 4月 第2週


Catch of the Week No.1 Apr. : 4月 第1週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。