Apr. 28 〜 May. 4 2008




” マイリー・サイルス & クリスチャン・ルブタン ”


今週末のアメリカでは「リッチ・ピープルズ・ナスカー」とも言われるケンタッキー・ダービーが行われていたけれど、 レースの翌日の今日、日曜に ダービーのニュースが例年よりもずっと大きく報じられる要因となったのが、 2位となったエイト・ベルが両足首を骨折し、レースの直後、トレーナーが駆けつける前に安楽死させられたこと。
もちろん エイト・ベルが味わうであろう激痛を思えば安楽死をさせる決断は正しいのだろうとは思うけれど、 決断を下した医師のあまりに事務的で、冷たい会見模様を見てホース・レイシング(競馬)というスポーツに対して アニマル・クルエルティ(動物虐待)では?という疑問を抱いたアメリカ人は少なくないようだった。
今日、日曜付けのニューヨーク・タイムズ紙では、生まれた時点から足をストレッチするなどして ホース・レース用の馬を 育成する行為を”動物虐待” と考える人々や、そうした人々を「オーバーリアクション(過剰反応)」と見なす人々の 2分したリアクションが掲載されており、タイムズの記者の記事でさえも 2通りの見解が見られていたのだった。

この他、 今週末はマイクロ・ソフト社がヤフーに対する買収オファーを取り下げたニュースなども ニューヨーク・タイムズ紙の一面を飾るなどして 大きく報じられていたけれど、 今週1週間のアメリカで 最大のニュースとなっていたのが ディズニー・チャンネルが生み出したティーン・センセーション、 15歳のマイリー・サイルスのセミヌード写真を巡るリアクションである。
この写真(上2枚)が掲載されたのは、90年代に妊娠中のデミー・ムーアのヌードを表紙にフィーチャーしたのに始まり、 物議を醸す写真を掲載することで有名な『ヴァニティ・フェア』誌の5月号。 一方、マイリー・サイルスと言えば ディズニー・チャンネルで放映されている「ハナ・モンタナ」のメガ・ヒットで 2007年には12億円を稼ぎ出し、今年は既に50億円を稼いでいることが伝えられ、 先週 フォーブス誌が 「世界1 リッチなティーンエイジャー」と報じた ドル箱スター。
昨年から行われていた彼女のツアーでは、何とか子供をコンサートに連れて行ってやりたい親達が、彼女のコンサート・チケット1枚に 50〜100万円を支払っていたのがニュースになっていたけれど、彼女は全世界で グッズ販売や、 放映権、映画、ライセンス等を通じて$1ビリオン(1000億円)を稼ぎ出すパワーがあると言われる ディズニーの ”ビリオン・ダラー・ベイビー” なのである。
でもマイリー・サイルスのそんな ビリオン・ダラーのマーケティング・パワーの根源となっているのは、 ブリットニー・スピアーズやリンジー・ローハンなど親達が決して奨励しないアイドル像とは正反対のクリーンなイメージと、 彼女の父親であり、カントリー・シンガーのビリー・レイ・サイルスと TVでも、ツアーでも常に仲良く共演している という 敬虔なクリスチャン・ピープルが好む ファミリー重視の雰囲気で、 「ハナ・モンタナ」がTVで大ヒットになってからというもの、マイリー・サイルスは アメリカの 特に トゥイーンズ (10歳〜12歳)と呼ばれる世代の ロール・モデル(お手本)的存在だったのである。
ところが そのマイリーがシーツにしか見えない布を巻きつけただけの姿で ヴァニティ・フェアの グラビアにフィーチャーされたために、メディアはこの写真を「セミ・ヌード」として 大きく騒ぎ立て、マイリーのファン、及びその親達からは「アンダーエイジ・セックス(未成年のセックス)をイメージする」 として 大バッシングを受けることになってしまったのだった。

でも「セミ・ヌード」と言っても、実際に この写真で露出していたのはマイリーの背中だけで、撮影中の彼女はシーツに見えるシルク・ラップだけでなく、 ジーンズを着用しており、撮影は ダークな写真のイメージとは裏腹に 日がさんさんと照り注ぐ屋外で行われたもの。
当初、マイリー本人は 「アーティー(アーティスティック)な写真で、決してイヤらしい写真ではない」 と反論コメントをしていたけれど、 そのバッシングの激しさにすっかり驚いてか 「恥ずかしいことをしたと思って 反省している」と、直ぐに反論を翻すコメントをしており、 ディズニー社も 「ヴァニティ・フェア誌が雑誌を売るために、未だ15歳のマイリー・サイルスを利用した」と抗議。
これに対してヴァニティ・フェア誌は、「撮影には マイリーの父親で一緒にフォト・セッションに応じていたビリー・レイ・サイルスを始め、 マイリーの家族が勢ぞろいし、リラックスした中で行われていたもので、マイリーも望んでフォトセッションに応じていた」として、 その様子のビデオをウェブサイトで公開した他、撮影を担当したスタイリストも マイリーが身に着けていたシルク・ラップについて 「あれはシーツではなく、特注で作らせたシャンペン・カラーのショールだ」と反論。 その一方で、この写真撮影したセレブリティ・フォトグラファー、アニー・リーヴォウィッツは、彼女自身もディズニーの プロモーション写真の撮影を手掛けており、ディスニーが非常に大切なクライアントであるためか、「自分の撮影した写真が 不愉快な印象を抱かせていたら申し訳ないと思う」 という異例の謝罪コメントを発表しており、 ドル箱 ティーン・スターのグラビアの波紋は各方面に広がっていたのだった。
更に、今回のヴァニティ・フェアの写真で人々が眉を吊り上げたのが、マイリーとビリー・レイが2人一緒に映った写真(上右側)で、 「セミヌード・フォトのリアクションは行き過ぎ」という人々も、「マイリーとビリー・レイの写真が親子としては親密過ぎて、気持ちが悪い 」 と批判していたのだった。

今回の騒動で、多くのメディアのコメンテーターは 年間1000億円も稼ぎ出すマーケティング・パワーがある マイリー・サイルスとその周囲が 彼女の イメージをきっちりコントロールしていなかったことについては、かなり厳しく批判をしており、 ディズニー側では急遽マイリーがミッキー&ミニー・マウスに挟まれた写真を公開するなど、 ダメージ・コントロールに躍起になっている状態。 でもこのスキャンダルにも関わらず、マイリーが今年のオスカーで着用した真っ赤なヴァレンティノのドレスのコピーは、 ハイスクールのプロム・ドレスとしてメガヒット商品になっていることも同時に伝えられているのだった。
私は正直なところ、アメリカの大半の大人たちと同様、マイリー・サイルスの魅力というのはあまり理解出来なくて、 今回のアニー・リーヴォウィッツの写真は、たまたまロリータっぽく写っているけれど、彼女自身は 年齢の割りにオバサンみたいに太い声と 南部訛りでズケズケ喋るので、色気とか可愛気は感じられない存在。 なので 彼女の「セミヌード」写真を巡ってアメリカ中が 大騒ぎするのは滑稽にさえ思えてしまったけれど、 このリセッション時代に、親の財布を開かせるものと言えば 子供が熱愛するプロダクト。 それだけに 「ハナ・モンタナ」プロダクトで大儲けしたいディズニーが必死でマイリーのダメージ・コントロールをするのは理解出来るし、 ドル箱クライアント、ディズニーを逃したくないアニー・リーヴォウィッツが 自分が写した写真に対して 異例の謝罪コメントをする気持ちも理解できるところである。
そもそもプロダクトを売るにはやはりイメージが命な訳で、通常は そんなセレブリティのイメージを写真で クリエイトするのがアニー・リーヴォウィッツの仕事な筈だけれど、 彼女の写真の手法だと 常にダークな美しさに仕上がるだけに、今回のマイリー・サイルスが 変にロリータ的なセックス・アピールを帯びたり、マイリー&ビリー・レイの親子写真が近親相姦イメージに仕上がっているのも また 事実なのである。

さて話は変わって、今週の木曜に私が出かけたのが バーニーズ・ニューヨークで行われたクリスチャン・ルブタンの トランク・ショー。
トランク・ショーとは、次のシーズンの商品を顧客に見せて その場で受注するイベントのことで、 デザイナー側としては 次のシーズンの生産に入る前に どの商品の人気が高いかを知るバロメーターになる一方で、 顧客側は次のシーズンに自分が欲しい商品が確実に手に入る手段なので、バーグドルフ・グッドマン、 バーニーズ・ニューヨーク、サックス・フィフス・アベニューといった一流デパートでは この時期トランクショーが頻繁に行われるである。
トランク・ショーには デザイナー自身が姿を見せるケースも多くて、 以前バーニーズで行われたランバンのトランク・ショーでは、デザイナーのアルベル・エルベが 自分にはどんな服が似合うかを直接アドバイスしてくれて とても楽しめたけれど マノーロ・ブラーニックやクリスチャン・ルブタンのようにシューズのトランク・ショーで デザイナーがやってくる場合、 トランク・ショーがデザイナーのサイン会と化してしまう場合が殆どで、 正直なところあまり面白いイベントではないのである。 なので 通常はパスしてしまう場合が多いけれど、今回に関してはCUBE New York のシューズのお取り寄せで マノーロと並ぶ 一番人気のルブタンなだけに、初秋ラインのスタイル・チェックを兼ねて出かけることにしたのだった。
その初秋ラインに関しては ヒールが益々高くなっていて、何足か 欲しいシューズがあったけれど、 全体的には 素晴らしい出来のシーズンという感じではなくて、少々ガッカリしてしまったのだった。 でもバニーズの シューズ・セクションはクリスチャン・ルブタンのサインをもらおうというファンが、 ルブタンのスプリング・コレクションを買い漁っており(ルブタンのシューズを購入しなければ、サインには応じてもらえないことになっている)、 700ドル、800ドルのシューズが、バーゲン会場みたいに飛ぶように売れており、 私と友人は 「What's recession? / ワッツ・リセッッション?(何がリセッション?)」 などと言いながらその様子を眺めていたのだった。
面白かったのは 、クリスチャン・ルブタン氏は あの真っ赤なシュー・ソールほどは その顔が売れていないこともあって、 彼自身が姿を見せた時に、パブリシストが拍手を煽るまで 多くの人々が ムッシュ・ルブタンが 彼だと気が付かなかったこと。 でも、顔は知らなくてもルブタン・ファンである女性達は 大行列を作っており、 自分の番が来ると一緒に写真を撮ったり、 握手したりと、彼をロックスター並みに扱っていたのだった。

そんな中、私と友人はと言えば、混み合っているルブタン・エリアからあえて少し離れたソファーに陣取って、 運ばれてくるシャンペンやスウィーツを味わいながら、バレンシアガやジヴァンシー、アライアのシューズを片っ端からトライして いたけれど、そうするうちに向かいのソファーに座ったメガリッチな 女性2人と話し込んでしまうことになってしまったのだった。
2人も 今日はルブタンのトランク・ショーであることを意識して、足元はルブタンであったけれど、 1人の女性は6カラットのアッシャー・カットのダイヤモンド・リング、バッグは今シーズン、ストアに並ぶ前に完売している バレンシアガの 3,267ドル のルーン・バッグで、コートの下に着ていたブラック・ドレスはジヴァンシー。 私は頭の中で 2,690ドル という値札を思い浮かべながらドレスのディテールをチェックしていたのだった。
もう1人の女性は カジュアルなジーンズ姿だったけれど、ジャケットがやはりジヴァンシーで、 昨今のジヴァンシー・パワーをまざまざと感じてしまったのだった。 そこで 弾んでしまった会話というのが 「ルブタンやマノーロも良いけれど、今シーズン1ブランドを選ぶなら 私だったらアライアや アレクサンダー・マックィーンを買うわ・・・」、「私ならジヴァンシーのグラディエーター・ブーツにする・・・」といったもので、 ちょうど その時、二コル・リッチーも履いていたバレンシアガの 2375ドルのグラディエーター・サンダルをトライしていた私は、 そのあまりの履き易さと 美しさに惚れ惚れして 「私だったらコレ!」などと言って、買ってもいないのに大喜びしていたのだった。
彼女らの場合、明らかにバレンシアガのサンダルでも買えそうな雰囲気であったけれど、確かにドレス・シューズでもない 通常のシューズがアライア、バレンシアガ、二ナ・リッチといったブランドで どんどん1000ドルを軽く超えるお値段になってくると、 ルブタンやマノーロが 比較的な良心的な価格に思えてきてしまうのは不思議なこと。
その一方で、今シーズンのジミー・チューなどは、 それまで400ドル代のシューズが多く、かなり庶民的なイメージが付いてしまったために、 あえて高額なマテリアルを使って、価格と共に ブランド・イメージをアップさせようとしているのだそうで、 そんな話を聞いていたら、またしても 「What's recession?」 という気持ちになってしまったのだった。

さて、その2人の女性が友人と私を 誘ってくれたのが、ジュエリーのトランク・ショー。
昨今はシャネルなどのファッション・ブランドが 益々ファイン・ジュエリーに力を入れていることもあり、 ハーパーズ・バザールの今月号でもファイン・ジュエリーをイブニング以外のファッションに付けるコーディネートが グラビアで特集されていたけれど、彼女らも今はジュエリーが欲しくてたまらないのだそうで、 「もっと高いシャンパンがタダで飲めるわよ!」と、熱心にジュエリー・イベントに誘ってくれていたのだった。
良く見ると、ジーンズを着用している側の女性は、深いVカットのトップの内側に長さにして70〜80cmはある ロング・テニスネックレスをしていて、この日 私が最もカルチャー・ショックに感じたのがこのネックレス。 実はロング・テニスネックレスは、昨年からジュエリー業界ではトレンドとされていたものだけれど、 私はこの日まで実際に付けている人、しかもこんなにカジュアルに付けている人を見たことが無かったのである。
なのでこれを見て 改めて 「What's recession?」 と呟いてしまうことになってしまったのだった。

ところで、リセッションというのは景気の後退が2四半期続いた状態を言うのだそうで、通常は突入から6ヶ月前後で脱すると言われるもの。
今週に入ってから アメリカでは 4月も 4ヶ月連続で 2万人分の仕事が失われたことが報じられていたけれど、 それでもこの数字は アナリストが見込みを下回ったのだそうで、 大量の失業にも関わらず 「リセッションが以前の予想ほど酷くならないかもしれない」という、比較的明るいニュースとして捉えられていたのだった。
その一方で、サックス・フィフス・アベニューやニーマン・マーカスといったアメリカの一流デパートは、 「顧客達が リセッションだからといって買い控えはしていない」という強気のコメントをしているけれど、 実際には これらのデパートは毎週のように 購入金額の10%を商品券で返すイベントや、期限付きのセール、 一部の顧客に限ったセールなどを行っており、ことにアパレルに関しては ディスカウントがスタートするスピードが非常に速くなっていたりする。
でも こうしたご時世だからこそ、マイリー・サイルス関連のプロダクトや、クリスチャン・ルブタンのシューズのように、 ディスカウントをしなくても 人々が奪い合って買っていく ”リセッション・フリー” のプロダクトが 売り手側にとって 非常に貴重に思えるのは紛れも無い事実。
これらの”リセッション・フリー” プロダクト は政府が今週から支給をスタートした 景気刺激策のチェックよりも 遥かに強力な 景気のカンフル剤 と言えるのである。






Catch of the Week No. 4 Apr. : 4 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Apr. : 4 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Apr. : 4 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Apr. : 4 月 第 1 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。