Apr. 26 〜 May. 2 2010




”Digital Pain ”


今週のアメリカで大きく報じられていたニュースと言えば、まず先週のこのコラムでも触れたメキシコ湾海上の石油掘削施設爆発による 大量のオイル流出事故。
イギリスの石油会社BPが操業していた海底5000フィートの油田からは、当初1日1000バーレルの石油流出が見込まれていたけれど、 BP側は週半ばに入ってこの流出量をその5倍に当たる5000バーレル=20万ガロンに訂正。 流出した石油は僅か2ミリの厚さで海面に急速に広まって、ルイジアナ州沖合に到達しており、 アメリカ国内に広くカキやエビを卸しているルイジアナ湾岸の漁業に多大なダメージを与えると同時に、 同州の野生動物保護区域の希少な生物達を脅かしているのだった。


それと同時に今週の大ニュースになっていたのが、やはり先週のこのコラムで触れたアリゾナ州の新しい移民法。
この移民法が施行された場合、移民は合法移民であることを証明する書類を持ち歩くことが義務付けられ、所持していない場合は軽犯罪扱い。 しかも警察には 何の理由も無しに 不法移民と思われる人物に その書類の提示を求める権限、 移民を逮捕、強制出国させる権限を与えられるというもの。
これに対して、「まるでナチスのような法律だ」、「人種差別だ」 と反旗を翻したのが全米の人権運動家や移民、親や祖父母世代が移民であったアメリカ人。 メイデーだった昨日5月1日には、ニューヨーク、ワシントン、ロサンジェルス(写真左)、デンバー、シカゴ、ダラス等、全米の大都市で、 これに反対するデモンストレーションが大々的に行われていたのだった。
また、同法律に反対するムーブメントはデモに止まらず、アリゾナ州とそれに関連するビジネスやプロダクトをボイコットするという動きにも広がっており、 アリゾナ州フェニックスのリゾートで行われる予定だったビジネス・コンベンションがキャンセルされたり、アリゾナ州へのヴァケーションを控えるようにとの 呼びかけが行われるなど、旅行&観光がメジャーな収入源になっている同州にとっては厳しいボイコットが繰り広げられているのだった。
でもこのボイコットで とんでもない とばっちり を受けつつあるのが 人気のソフト・ドリンク、アリゾナ・アイス・ティー。 このアイス・ティーは 名前こそアリゾナでも 生産はニューヨーク州ロング・アイランド。 同社は 「アリゾナ・ボイコット運動に巻き込まれては大変」 とばかりに、慌ててメディアを通じて「アリゾナ・アイス・ティーは一切アリゾナ州とは関係なく、 アリゾナ州の移民法にも強く反対する」というコメントを発表しているのだった。
地元のアリゾナ市民の間では、この法律を支持する人々が未だに圧倒的であることが伝えられているけれど、 さすがに全米からの大規模なバッシングに加えて、オバマ大統領にまで批判されたこともあり、 今週に入ってからは 同法律を「警察が何らかの犯罪に絡んだ行為で職務質問をした場合に、合法移民である証明を求めることが出来る」と 若干トーンダウンさせているのだった。
でも今のアリゾナ移民法に対するアンチ・ムーブメントの前では、その程度の緩和は焼け石に水の状態で、 加熱するボイコット運動の中、同州が苦しい状況に置かれているのは紛れも無い事実なのである。


今週アリゾナ州同様に、全米に悪役扱いされることになったのは、火曜日に上院の公聴会で CEOのロイド・ブランクファインを始めとする 計7人のエグゼクティブが証言を行ったゴールドマン・サックス。
ゴールドマン・サックスが、今回の金融危機、ベイルアウト、そして昨年の多額のボーナスといった一連の出来事で、 かつてのアメリカ国民の敵、AIGよりも 嫌われる存在になって久しいけれど、 今回行われたエグゼクティブの証言では、その高慢な態度が顰蹙を買っており、 この日の報道で メディアは ゴールドマン・サックスを Villain/ヴィラン(悪人)という言葉で非難したのだった。
私もこの公聴会の様子はTVのニュースやインターネットのヴィデオ配信で見たけれど、 正直なところ「同社のPRは一体何をしているのだろうか?」 と疑いたくなるようなエグゼクティブの対応だと思えたのだった。 もちろんゴールドマン・サックスにはPR会社がついていて、同社のイメージアップには多額の資金が投じられているけれど、 昨年11月にはCEOのロイド・ブランクファインがメディアとのインタビューで 「ゴールドマンは神の仕事をしているだけ」という 大失言をしており、たとえ企業ポリシーで 「ロー・キー、(豊かさを)ひけらかさない」 を掲げていても、 証言を行ったエグゼクティブ達のプライドの高さと 世の中とのズレは埋められないように感じられるのだった。



ところで、今日5月2日付けのニューヨーク・タイムズ紙で報じられていたのが、アメリカの12歳〜17歳の半分が1日に50以上の テキスト・メッセージ(携帯メール)を送っており、その3分の1は、100以上のテキスト・メッセージを送っていることが、 ピュー・リサーチ・センターが行った 「インターネット&アメリカン・ライフ・プロジェクト」の調査で明らかになったというニュース。
この調査によればアメリカの8歳から18歳が、1日に何らかのエレクトロニック・ディバイス、すなわちコンピューター、携帯電話、携帯端末機、 MP3プレーヤーなどを使用している時間は1日平均で7時間半。 特に携帯電話に関しては、電話をかけるよりもテキスト・メッセージを送付する目的で使用されているという。
携帯電話の使用目的については、大人とて実際に電話をするよりもテキスト・メッセージを送るケースが多いと言われているけれど、 こうしたティーン&トゥイーン(8〜12歳)の間では、電話で話をするというのはかなり時代遅れの行為。
この世代が 離れた距離に居る相手とリアルタイムで話す場合に用いられるのは もっぱらビデオ・チャットで、 中には1日中ビデオ・チャットを繋いだままにして、 自室のプライバシーをあえて友人とシェアしたがるティーンも少なくないという。

こうしてテキスト・メッセージを1日に100通以上も送付する生活が子供の学力低下を招いていることは以前から指摘されてきたこと。
その理由の1つには、テキスト・メッセージの場合、「See You Later!」と打つ代わりに「CUL8ER!」という略式を用いるので、 ちゃんとした文章を書かなければならない時に「Cee You」などとスペルを間違えるなど、まともな綴りを忘れてしまう傾向にあるという。
さらに指摘されるのは、勉強時間に 頻繁にテキスト・メッセージが届いて、それに返信をするので、 集中力が損なわれるのに加えて、学習力も低下するという事実。 それだけに、親達や学校関係者の間では テキスト・メッセージを禁止しようという動きが全米の各地で起こっていたりするのだった。

でも、今日のニューヨーク・タイムズ紙の記事のポイントになっていたのが、こうしたテキスト・メッセージの氾濫で、 現在のティーン&トゥイーン達が フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーション力に欠く人間になりつつあるという問題。
子供の頃からコンピューターや携帯端末機を使いこなしてきた世代は、今や「デジタル・ネイティブ」というネーミングで 呼ばれているけれど、同世代はハイテク・ガジェットやメディアにめっぽう強い一方で、 人の顔の表情から 相手の意図や 言葉に示されない感情を読み取る能力、人を惹きつけるような会話力、コミュニケーション力に劣る傾向があるという。
このため、親達の間では 子供にスポーツや課外活動など、グループで行うアクティヴィティに加わるようにとプッシュするケースが増えている そうだけれど、その親とて 携帯メールで子供に 「早く寝なさい」などと打っている訳で、 フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを省きたがるのは 子供の世代だけとは言えないのが実情であったりする。

かく言う私も、目下、ビジネスで最も使うコミュニケーション手段はEメールであるけれど、友達と交信する手段として一番頻繁に用いているのが テキスト・メッセージ。 携帯番号を交換し合っても、電話をかけることなどはまずないし、昨今では電話をするという行為は よほどの緊急でない限りは、 プライバシーを侵害しているか、さもなくば相手の予定を狂わせているような気分にさえなるのだった。
実際、友達が 「誰々 がこんな事でわざわざ電話を掛けて来た」と愚痴っているのをよく耳にするけれど、 確かに私も メールや携帯メッセージで済む用件で誰かが電話してくると、「何でこんなことでわざわざ電話をくれたんだろう?」と 不思議に思ってしまうもの。

アメリカでは携帯メール(テキスト・メッセージ)のことは、Texという言葉が略語で動詞と名詞を兼ねていて、「後で携帯メールを送るから・・・」というのは、 「I'll tex you later」もしくは「I'll send you tex later」というセンテンス。 携帯メールを送りあうことは ”Texing”ではなく、 ”Texting” になるけれど、 タイガー・ウッズが愛人に送ったようなセックス絡みのコミュニケーションについては ”Sexting” という造語が別に存在しているのだった。
アメリカのティーン&トゥイーンだけでなく、大人の世界でも テキスト・メッセージは交友関係や、コミュニケーションに大きな影響を与えていると言われるけれど、 例えば初めてデートした相手のことを気に入ったら、その日のうちにテキスト・メッセージを送るのは特に男性側の常識。
相手が恋愛対象であっても、そうでなくても、初めて貰ったテキストには出来る限り迅速に返事をするのも大事だけれど、 すぐに返信してばかりいると、それが自分のペースだと思われて、返信が遅れると 何かあったのかと思われてしまうので、 返信にあえて時間を置くようにするのは、テキスト・メッセージ漬けになりたくない人の常套手段。

私の場合、昨今言えるのはテキスト・メッセージでコミュニケートしている友人と会う機会が増える反面、 Eメールでやり取りしている友人と会うケースが減っているという現象。
例えば昨日の土曜にセントラル・パークでのテニスを終えたところ、友達からテキスト・メッセージが届いたけれど、以下が私達のやり取り。 ちなみに、彼女には私が土曜午後にセントラル・パークでテニスをしていることは通達済み。



この9通の携帯メールがあっという間に行き来して、パークの入り口で落ち合った私達は、彼女が買ってきてくれたアイス・ラテを飲みながら パークを散歩して、芝生の上でマン・ウォッチングをして1時間ほど 一緒に過ごしてから、お互い次の予定に出掛けたけれど、 簡単にアレンジして、簡単に会えるのがテキスト・メッセージでコミュニケートしている友達の利点。
ちなみにこの日のテニスにしても、テキスト・メッセージでスケジュールをアレンジしていて、ヒッティング・パートナーともテキスト・メッセージ以外の手段でコミュニケートした例はゼロ。
まだニューヨークでは日本語が使える携帯電話を使っている人がさほど多くないこともあって、昨今はどうしても英語でコミュニケートする友達と会う機会の方が増えているのだった。

アメリカのティーンやトゥイーンがテキスト・メッセージばかり送っているのが問題視される一方で、 昨今、大人の世代で問題視されているのはアイフォン・ユーザーのアプリ依存症。
確かに、アイポッドのアプリケーションは巨大な駐車場で 車を駐車した場所を記憶してくれるのに始まり、 その時掛かっている曲が何かを識別して、それをアイ・チューンから即座に購入するものなど、 便利なものが多いけれど、中にはハリー・ポッターの映画の中の何処でトイレに行けばストーリーを理解するのに支障が無いかを 知らせるものまであって、このように 生活の中の様々なことをアイフォンのアプリに頼る結果、 分からないことや困ったことがあるとすぐにアプリを探したり、アプリに頼らないと物が決断できないというような 依存症が増えているという。

こうした現象を受けて、昨今のアメリカのメディアでは 「テクノロジーがどんどん賢くなって、人間がどんどん馬鹿になっていく」といった 特集記事が頻繁に見られているけれど、確かにハイテク依存症はハイテク音痴と同じくらいの 問題を抱えていると言えるのである。





Catch of the Week No. 4 Apr. : 4月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Apr. : 4月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Apr. : 4月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Apr. : 4月 第 1 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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