Apr. 25 〜 May. 1 2011

” Glad To Be Over ”

今週のアメリカのメディアで、最も大きく報じられていたニュースと言えば、南部を襲った竜巻の壮絶な被害のニュースと 英国のロイヤル・ウェディングという 2つの正反対のニュース。
日本を襲った地震と津波の恐ろしさがまだ記憶に新しいうちに、今度は竜巻の被害を目の当たりにして、 自然災害の恐ろしさを改めて痛感したアメリカ人は多かったけれど、 今日付けのニューヨーク・タイムズ紙によれば、アメリカ国内では例え何処に移り住んだとしても、地震、竜巻、ハリケーンの被害を 100%避けることは出来ないとのこと。でも自然災害のリスクが極めて低いのはオレゴン州のコーヴァリス、逆に最もリスクが高いのは、 テキサス州ダラスのアーヴィングと同紙の記事は指摘しているのだった。

その一方で、ロイヤル・ウェディングの報道は、少々度が過ぎるほど加熱しており、 アメリカでは 本国イギリスや、かつてのイギリスの植民地で、 今もイギリスの影響が強いオーストラリアよりも、ロイヤル・ウェディング報道に長い時間を割いていることが指摘されていたのだった。
事実、今週のアメリカは 朝のニュース番組や芸能番組が、全てロイヤル・ウェディング関連報道一色。 でも、アンケート調査によれば、ロイヤル・ウェディングのニュースに関心を抱いてフォローしている人々は、全体の6%程度に過ぎないといわれており、 特にアメリカ人男性は、街頭インタビューで 「プリンス・ウィリアムの結婚相手は?」と尋ねられて「ケイト・ウィンスレット」と答えたり、 ケイト・ミドルトンの写真を見せられて、「名前は分からないけれど、ブライズ・メイド(花嫁の付き添い)でしょ?」 などと答えるロイヤル・ウェディング音痴ぶり。 プリンス・ヘンリーとプリンス・ウィリアムの区別が付かない人々も多かったけれど、それでいて 全員、シンガーのプリンスは識別出来るというオチが付いていたのだった。

今週末は、昨夜のディナーでも今日、日曜のブランチでも、ロイヤル・ウェディングのことが話題に上っていたけれど、 私を含め、友人の共通した意見は、「Glad To Be Over」、すなわち「終わって良かった!」というもの。
というのも、それほどまでにロイヤル・ウェディング報道にウンザリしていたためで、 その報道内容は、ウェディング・ドレスのデザインを予測したり、ケンジントン・パレスの内装を紹介するといった非常に 退屈で下らない内容。スーパー・ボウルの試合の予測ならば、まだ理解できるけれど、 ウェディング・ドレスの予測というのは、あまりに馬鹿げていると思えるのだった。

アメリカでは時差の関係で、午前4時からTV放映がスタートしたロイヤル・ウェディングであるけれど、 一部のレストランや教会ではウォッチ・パーティーが企画されており、果たしてどんな人が 出かけるのやら?と思っていたけれど、案の定、教会は僅か数人のみが見守るというガラガラぶり。 シャンパン・ブレックファストをサーブするホテル・レストランのウォッチ・パーティーも、 参加者はほぼ全員女性で、TVの取材が困ってしまう程度の規模でしかなかったという。
実際、私自身、生中継でウェディングを観たという人には 未だ出会っておらず、 皆、ニュース番組で放映された2分程度のダイジェストを観て、ケイト・ミドルトンのドレスだけをチェックしたというような 状態なのだった。


そんなロイヤル・ウェディングに興味が無いと言っている人でも、チェックせざるを得なかったのが、 ウェディング・ドレスであるけれど、 「火の無いところに煙は立たない」という諺通り、 ドレスをデザインしたのは、かねてから噂があったアレクサンダー・マックィーンの後釜デザイナー、サラー・バートン。
これまでケイト・ミドルトンが着用したデザイナー・ブランドと言えば、ティンパーレイ・ロンドン、イサ、BCBGなど、 一流とは言えないラインばかりであったため、 サラー・バートンがデザインしたウェディング・ドレスによって、ケイト・ミドルトンが それまでの「安全、退屈、庶民的」と指摘される 彼女のファッション・イメージを一新することが出来るのでは? と、予測するファッション・インサイダーの声が事前に聞かれていたのだった。
でも、実際のドレスは アレクサンダー・マックィーンというよりは、ケイト・ミドルトンのスタイルを サラー・バートンがデザインしたという印象のもの。 一様に評価は高かったけれど、多くの人々の第一印象は、「予想したより地味」が正直なところだったようで、 私も一目見た時は、「ごく普通のウェディング・ドレス」という印象なのだった。

でも見慣れてくるうちに、ケイト・ミドルトンのイメージには 合っているチョイスだと思い始めたし、 彼女はスタイルは良くても、アレクサンダー・マックィーンのランウェイに登場するようなドラマティックなガウンを着こなせるタイプではないので、 イギリスで言われるコモナー(平民)という彼女のソーシャル・ステイタスを考慮するにつけても、 クラシックに纏めた安全で無難なドレスだと思うのだった。
とは言え、個人的には、2メートル70センチとプレス・リリースで発表されたトレーンが、もう1メートル程度 長い方がゴージャスだと思ったし、 ガーゼのように見えたシルク・ヴェールの素材は明らかなミス・チョイス。 カルティエのティアラとのコーディネートを狙ったと思しきイヤリングもあまり感心できなかったのと、ブーケも少々小さ過ぎると感じたのが本音なのだった。

欧米では、ウェディング・ドレスよりもヒットだったのが、同じくサラー・バートンがデザインした、ケイトの妹、ピパが着用した ブライズ・メイドのスリムなシルエットのドレス。 ヒップラインにぴったりカットされたこのドレスの方が、冒険的なチョイスという見方が多く、 フェイスブック上では、その日のうちに5万人が、ピパのドレス姿に 「Like!」のメッセージを送っていたのだった。

ケイト・ミドルトンはその後、レセプションで、再びサラー・バートンがデザインするストラップレスのドレス+ニットのシュラッグを着用したけれど、 インターネット上のアンケートでは、レセプション・ドレスの方がモダンで評判が良いという結果になっていたのだった。
その一方で、”玩具の兵隊”とも ”くるみ割り人形” とも言われた プリンス・ウィリアムの真っ赤なミリタリー・ユニフォームは、 あまり評判は芳しくなく、レセプションで着用した タキシード姿の方が精悍な印象だったという声が殆ど。 ベスト・マン(花婿の付き添い)を務めたプリンス・ヘンリーのミリタリー・ユニフォームは「マイケル・ジャクソンのようだ」とも言われていたのだった。



ところで、アメリカで加熱していたロイヤル・ウェディング報道の中には、少々意地悪でシニカルな視点のものも見られており、 ケイト・ミドルトンの母親が、プリンス・ウィリアムがセント・アンドリューに入学することを知って、ケイトにも セント・アンドリューに行くように薦めたというエピソードに始まり、 ケイトの叔父で、腕が刺青だらけのゲーリー・ゴールドスミスが、警察のおとり捜査官にコカインを売ろうとして、2009年に逮捕されていること。
ケイトの従姉妹で20歳になるカトリーナ・ダーリングがバーレスク・パフォーマーで、 真っ赤なタッセルが付いた乳首飾りとGストリングスだけで踊っていること、ケイト兄妹、ジェームス、ピパが共に ロンドンのクラブ・シーンで有名なパーティー・アニマルであることなどが 先週のニューヨーク・ポスト紙やインターネット上に書かれていたのだった。 でもイギリスの人々にとっては、これらは以前から報道されている織り込み済みの事実。
こうした報道を見ると、よくぞケイト・ミドルトンが未来のイギリス国王との結婚までこぎつけたと思ってしまうけれど、 現代の若い女性がプリンセスに憧れるかと言えば、決してそうではないことも 同時に指摘されているのだった。

今や、「ハリー・ポッター」シリーズの主演を務めた方が、プリンス・ウィリアム&プリンス・ヘンリーの財産を合わせた以上に稼げると言われ、 王室=メガ・リッチという方程式は成り立たない時代。
しかもプリンセスとなれば、プライバシーはゼロ。1人で外出することも許さず、ヘア・スタイルやドレス1枚にも 批判の目が光っていて、センスが悪くても、贅沢をしても標的になるのは歴史が証明する通り。 1日何百人もの人々と、笑顔で握手をしたり、テープカットをするのが 生涯の仕事になるというのは、 現代女性には非常に難しい役割。
それだけに、イギリス国内では ケイト&ウィリアムの結婚も最終的には破局を迎えるだろうと予測する人々は 少なくないといわれるのだった。
実際、エリザベス女王の子供の世代である、プリンセス・アン、プリンス・チャールズ、プリンス・アンドリュー の結婚は全て破局を迎えており、歴史を遡ってもイギリス王室にとって離婚は決して珍しいことではないのである。

ところで、ウェディング・ドレスに話を戻せば、私がケイト・ミドルトンのドレスを見て、つくづく思ったのは、 ウェディング・ドレスというのは、特殊なカテゴリーであって、やはりウェディング・ドレスをデザインし慣れているデザイナーが 手掛ける方が良いのでは?ということ。
昨日のディナーで 友人達と話していたのが、ケイトのドレスよりも、昨年夏に結婚したチェルシー・クリントンのドレスの方が 洗練されていて、スタイリッシュだということ。ちなみに、このドレスを手掛けたのは、ウェディング・ドレス・デザイナーとして ファッション業界にデビューしたヴィラ・ウォン。
ケイトのドレスも良く見ると、バッスル・スカートに付いたトレーンにプリーツのデザイン・ディテールが施されていたり、 サテン・ガゼルの素材にレースのアップリケが縫い付けられたもので、ボディのレースはチュールにレースのフラワーをハンド・ステッチで縫いつけたものであったりと、 細かいクラフトマン・シップが感じられるもの。
でも、ホワイトというカラーは 素材やシルエットを工夫しないと、ディテールが目立たないだけでなく、写真に写した際に 陰影が出ず、 フラットな印象に見えてしまうカラー。 写真映りというのはウェディングの最も重要な部分であると同時に、ウェディング・ドレス・デザイナーにとっては、 顧客を増やすPRツール。それだけに、ウェディング・ドレスのデザイナーは、 写真映りの良いシルエットや素材を知り尽くしているのだった。
ケイト・ミドルトンのウェディング・ドレスは、そのディテールにアレクサンダー・マックィーンのアトリエとロイヤル・スクール・オブ・ニードルワークの クラフトマン・シップがふんだんに盛り込まれている割には、それが写真映りやビデオ映像には あまり現れていないのが実情。 なので、サラー・バートンの作品が決して悪いとは言わないけれど、ドレスの醍醐味になっているハンド・ワークやクラフトマン・シップが さほど気付かれずに終わってしまうのは、非常に残念に思うのだった。


最後に私がこのコラムを書いている最中に、アメリカ軍によるオサマ・ビン・ラディン殺害のニュースが報じられ、午後11時半過ぎ(5月1日)から オバマ大統領のTV演説が始まったけれど、ホワイト・ハウス周辺やニューヨークのグラウンド・ゼロには 大勢の人々が集まってきて、早くもセレブレーション・ムードになっているのだった。
なのでこれから数日の間は、オサマ・ビン・ラディンの報道がロイヤル・ウェディングに取って替わると思われるけれど、 多くのアメリカ人にとっては 9・11のテロ以来、この道のりはあまりに長かったというのが偽らざる心情。
そして 歓喜とは裏腹に、アルカイダの報復があるかもしれないことも、今後 危惧しなければならないことなのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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