Apr. 30 〜 May 6, 2012

” Addiction Destroys Your Face ”


今週土曜日、5月5日に行なわれたのが 今年で138回目を数えるケンタッキー・ダービー。
同ダービーはアメリカで最も歴史があるホース・レーシングであるだけでなく、アメリカで 最も歴史の長いスポーツ・イベント。 この日には、世界中のメガ・リッチやセレブリティが ケンタッキー州ルイヴィルに集結するのだった。
ケンタッキー・ダービーには、ファッション・イベントとしての側面もあって、女性達がこぞってお金が掛った派手なハットで登場するのは 例年のこと。この日のために半年以上を掛けてハットをオーダーメイドする例も少なくないとのことで、その華美なハットの オンパレードは 昨年のロイヤル・ウェディングが気の毒なほど地味に見えるもの。 この日ばかりは、服のデザイナーより ミリナリー(帽子デザイナー)が大注目されるのだった。

ケンタッキー・ダービーは年々規模を拡大していて、今年の観客数は16万人という史上最高記録を更新。 訪れるセレブリティの数も毎年増えているけれど、驚いたのは ニューヨークでもウォッチパーティーが行なわれるようになってきていること。
かつては、ウォッチ・パーティーと言えば スーパーボウルかオスカーと相場が決まっていたけれど、このところはグラミー賞のようなイベントでも ウォッチパーティーが行なわれるようになっていたのは事実。 でもケンタッキー・ダービーまで ウォッチ・パーティーが行なわれるというのは かなりの驚きで、この日、私は興味半分で そのウォッチパーティーに出かけることにしたのだった。
中には、ダービーの観客顔負けの凄い帽子で登場した女性ゲストも居たけれど、このパーティーで出されたドリンクが、 1938年以来、ケンタッキー・ダービーのオフィシャル・ドリンクになっている Mint Julep / ミント・ジュレップ。 ミント・ジュレップとは、その名の通り ミントの葉っぱがふんだんに入ったバーボン・ベースのドリンクで、 ピーチ・シロップで甘く仕上ているけれど、かなりの強さ。
ケンタッキー・ダービーでは、ワインやシャンパンを飲むのは 「邪道」どころか「恥知らず」なのだそうで、 私は生まれて初めてミント・ジュレップというものを飲んだけれど、バーボン・ヴァージョンの”モヒート” のような印象なのだった。



正式なサーヴィングは、写真上、左のようにピューターのカップにクラッシュ・アイスを盛り上げるように入れて ストローで飲むというもの。ダービーの季節のケンタッキーは、既に夏のような気候になっている場合が多いけれど、 ピューターのカップを使うことによってドリンクを冷たく保つことが出来るのだった。
ちなみに写真のカップはケンタッキー・ダービーのオフィシャル・ピューター・カップ&シルバーのストローで、 お値段は1000ドル。でも毎年完売するコレクターズ・アイテムで、今年はダイヤモンド入りの純金カップもリミテッド・エディションで発売されたけれど、 あっという間に完売してしまったという。

ケンタッキー・ダービーは、レースそのものは僅か2分程度。それまでTVの中継を見ながらパーティーを楽しむというのは、ニューイヤーズ・イヴの カウントダウに似た雰囲気と言えるもの。
今回のダービーは、誰も勝利を予想しなかったダーク・ホース中のダーク・ホース、 「アイル・ハヴ・アナザー」(写真上右)が最後のストレッチで大逆転劇を見せるという ドラマティックな展開で、ホース・レーシングに全く興味が無かった私でも、 大興奮で見守った2分間。ケンタッキー・ダービーに熱くなる人々の気持が初めて理解出来てしまったのだった。


余談ではあるけれど、その前日 5月4日は、「スター・ウォーズ」の日。
「スター・ウォーズ」で最も有名な台詞が、「May the force be with you (フォースと共にあれ)」であるけれど、 この台詞は、「スター・ウォーズ ファントム・メナス」でジェダイ・マスターを演じた サミュエル・L・ジャクソンが、 「ギャラ無しでも良いから言わせてくれ」とジョージ・ルーカス監督に懇願したというエピソードがあるほど。 この”May the force” を ”May the 4th” に引っ掛けるという 駄洒落のようなルーツで ファンの間で広まったのが5月4日の「スター・ウォーズ」の日。
当日は、映画のキャラクターのコスチュームを着用したファンが、ソーシャル・メディアを通じてアレンジされたイベントに 集まったと言われるけれど、「スター・ウォーズ」のクリエーターであるジョージ・ルーカス監督未公認の日であるため、 「アンオフィシャル・スター・ウォーズ・デイ」と呼ばれているのが実情なのだった。



話は変わって、 昨今、劣勢が伝えられるブラックベリーの発売元、RIM (リサーチ・イン・モーション)が今週、ソフトウェアのデベロッパーに公開したのが 同社の最新商品、ブラックベリー10のプロトタイプ。 現在スマートフォン市場は その51%をグーグルのアンドロイドをOSに使用するスマートフォンが占め、 それに次いで市場の33%占めるのがアップルのアイフォン。かつてはビジネス・エリートがこぞって使っていたブラックベリーのシェアは 僅か6.7%にまで落ち込んでいるのだった。
その起死回生のプロダクトとなるはずのブラックベリー10から消えてしまったのが、多くの人々が「アイフォンを使いたくても 使わない 唯一の理由」 とまで言われるキーボード。 私自身、ブラックベリーからアイフォンに変えた時は、あまりにタイプがし難くて 何度もアイフォンを投げ捨ててしまいたいと思う フラストレーションを味わったけれど、多くのブラックベリー・ユーザーが、 アプリが少なく、インターネットのスピードも遅いブラックベリーを使い続けているのは、 指が太い男性でも、両手の親指を使って とにかく早くタイプが出来るため。
ホテルのスパの中には、1日中ブラックベリーを使ってコミュニケーションをし続けるビジネス・トラベラーのために、 ”ブラックベリー・マッサージ”と呼ばれる親指の付け根を中心としたハンド・マッサージを提供するところさえあったほどなのだった。
そのブラックベリーから、未だプロトタイプの段階とは言え、キーボードが消えたことは 早くもメディアから 「史上最悪のマーケティング・デシジョン」 と叩かれており、「キーボードの無いブラックベリーなんて、燃費が悪いトヨタ・プリウスのようなもの」と、 言いえて妙の表現で、批判されていたのだった。

ブラックベリーは、テキスト・メッセージとEメールが1つの画面で見られる上に、自分が送信したメッセージがチェックし易い等、 極めて優秀なコミュニケーション・ディバイスとして幅広い支持を集め、一世を風靡したしたプロダクト。
多くのユーザーが肌身離さず持ち歩いて、5分置きにブラックベリーをチェックするなど その麻薬のような中毒性が指摘され、 「クラックベリー」というニックネームさえついていたけれど、 今週のアメリカで メディアが大きく報じたのが「日焼け中毒」。



写真上は 今週、5歳になる娘を日焼けサロンに連れて行って、タンニング・ベッドを使わせた容疑で逮捕されたニュージャージー州の母親、 パトリシア・クレンシル。
この逮捕のきっかけとなったのは、4月に彼女の娘が 肌が焼けて赤くなっている理由として 「マミーと一緒に日焼けサロンに行ったから」と説明したこと。ニュージャージー州では 子供がタンニングベッドを使うことを法律で禁止しているため、 子供が通っている デイケアから警察に通報が行われたという。 パトリシア・クレンシルは、子供を日焼けサロンに連れて行ったことは認めたものの、タンニング・ベッドは使わせていないとして、 「逮捕は単なる誤解によるもの」 と反論しているのだった。

この事件が今週、アメリカはもとより、ヨーロッパやサウス・アメリカでも報じられるきっかけになったのは、 パトリシア・クレンシルが子供にタンニング・ベッドで日焼けさせようとした容疑よりもむしろ、彼女自身が 人種が分からないほどに真っ黒に焼けた肌で、日焼けが肌に与えるダメージを印象付けたと同時に、 彼女が明らかに ”日焼けのアディクション(中毒)状態”であることを露呈していたため。
パトリシア・クレンシルは44歳であるけれど、多くの人々の印象では彼女の外観は54〜60歳。 彼女は、日焼けサロンの月間フリーパスを99ドルで購入し、1回 20分のタンニング・ベッドの使用を 1ヶ月に20回も続けていたという。
誰の目から見ても 極度に日焼けてしている パトリシア・クレンシルであるけれど、本人は 「少し焼き過ぎた」程度にしか思っておらず、 彼女が 日焼けで批判される理由は、「批判する人達が 太っていて アグリーだから、 自分に対してジェラシーを感じているだけ」とまで コメントしているのだった。

日焼けが肌を老化させるというのは、ビューティー業界だけではなく、一般社会の常識になって久しいけれど、 特にタンニング・ベッドは、皮膚細胞に深く浸透し、老化を促進するUVAで肌を焼くため、自然の日光の日焼けよりも遥かに肌に悪いだけでなく、 皮膚がんになる可能性も高いといわれるもの。 実際、イギリスでは18歳以下のタンニング・ベッドの使用を法律で禁止しており、皮膚がんの専門医は、 35歳以前にタンニング・ベッドを初めて使用した場合、皮膚がんになる可能性が75%も高まることを指摘しているのだった。
これはタンニング・ベッドが、最も紫外線が強いといわれる日中の日差しの10〜15倍の強さのUVAで肌を焼くためで、 それによって皮膚細胞のDNAが破壊され、年令に関わらずシワやシミが増えて、肌がハリを失って萎んでいくという老化現象が急ピッチで進むことになるのだった。

「日焼けと喫煙による肌のダメージはリバースできない」というのは皮膚科医、及びビューティー関係者の共通した見解であるけれど、 どんなにメディアを通じて警告が行なわれても、肌を日に焼く人、喫煙をやめない人は多いもの。
今回のパトリシア・クレンシルのような 悲惨な日焼けが報じられた場合も、その肌の老化具合を見て 恐ろいと感じるのは もっぱら 日頃から肌を焼かないように心掛けている人々。 日焼けを好む人々は 「自分は あそこまでやらないから大丈夫」的な考えを抱くので、今回のような報道が 日焼け肯定派に対する警鐘にはならないらないと言われているのだった。

同様のことは禁煙キャンペーンにも指摘されていて、見るも無残な痛々しい姿のヘビースモーカーをフィーチャーしたCMを見て、 喫煙の恐ろしさを痛感するのは タバコを吸わない人や、既にタバコを止めて久しい人々。 逆に喫煙者は「タバコの悪影響には個人差がある」、「自分はあんな風になるまで吸っていない」程度にしか考えないことが明らかになっているのだった。


でも、そう言ってはいられない 喫煙と日焼けがもたらすダメージの動かぬ証拠となっているのが写真上。
これは、同じDNAをシェアする双子の写真で、左半分は日焼け止めを塗る等、日に焼かない努力をしながら生活をするノンスモーカー。 右半分は日焼けを気にせずに生活しているスモーカー。でも、右側はパトリシア・クレンシルのような日焼け中毒でもなければ、 ニコチン中毒でも無く、ごく普通に日焼けをして、喫煙をするというライフスタイル。
右側には口の周りに喫煙者特有のシワが見られるけれど、シワやシミだけでなく、 左右で 明らかに肌のハリや血色、潤い感が異なるのは一目瞭然。 同じDNAで これだけの差が出る事を思えば、同じ人間が喫煙&日焼けを続ける、続けないケースでも、同様の違いが出るのはほぼ確実と言えるのだった。

日焼け、喫煙以外で、日常生活の中で容認されがちなものに、カフェイン中毒があるけれど、これも放置すると乾燥肌とシワが酷くなり、 不眠症、慢性的な脱水症状、高コレステロールといった問題を伴うようになり、 引いては心臓病の危険が高まると言われているのだった。
とは言っても、やはり中毒の中で最も恐ろしいと同時に、最も短期間に外観を悪化させるのは覚せい剤。 アメリカでは クリスタル・メス (Crystal Meth:メタンフェタミンの俗称)の中毒者が後を絶たず、 大きな社会問題になって久しいけれど、 クリスタル・メスは 使用することによって興奮状態、食欲不振になり、もちろん覚醒効果もあるもの。 このため、疲れを簡単に取る目的や、無理なく体重を落とす といった理由で、 軽い気持で手を出す人々が多いことが指摘されているのだった。

この状況を受けて、アメリカ国内各州のシェリフ・オフィスが クリスタル・メスの撲滅キャンペーンの一環として 公開しているのが、 「フェイス・オブ・メス」とネーミングされた逮捕者の顔写真。
「フェイス・オブ・メス」にフィーチャーされるのは、クリスタル・メスの使用で 複数回逮捕された人々のマグショット(逮捕時に警察署で撮影される写真)。 最初の逮捕時と その後の逮捕時に撮影された写真を比較することによって、クリスタル・メスが常用者の外観に与える 恐ろしい影響を 人々に知ってもらおうというのが その目的になっているのだった。



これが男性になると、頭髪のダメージがもっと ずっと顕著であるけれど、写真上は あえて極端に悲惨な例をフィーチャーしないように選んだ結果。
「フェイス・オブ・メス」には僅か数ヶ月後で、ルックスが悪化している例、数年でルックスが激変している例が 沢山見られるけれど、 これらのマグショットの共通点と言えるのが肌のコンディションの悪化で、赤黒い斑点が多く見られること。 これはクリスタル・メスに 蕁麻疹のような発疹が出るという副作用があるためなのだった。

この「フェイス・オブ・メス」のキャンペーンにしても、ドラッグの恐ろしさをアピールする効果をもたらすのは ドラッグを使用したことが無い人々。 既にクリスタル・メスを常用している中毒者に対しては、それを止めさせるだけの効果は望めないという。
そもそも、中毒者というのは、ドラッグでも、 ニコチンでも、アルコールでも、自分が中毒であるということを認めない、もしくは否定する、隠そうとするのが一般的なケース。 なので中毒者の治療は、 まず本人に中毒であることを認めさせる ことからスタートする という長い道のりを辿るのが通常。

マーク・トゥエインの言葉に ”It is easier to stay out than get out” (一度関わってから止めるより、最初から関わらないようにする方がずっと簡単) というものがあるけれど、このフレーズはこれまでタバコやドラッグ、悪い交友関係などに対して用いられてきたもの。 でも今週のパトリシア・クレンシルの報道で、日焼けサロンもこのフレーズの対象になりそうな気配なのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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