Apr. 25 〜 May. 1 2016

”Who is Becky with Good Hair? ”
ビヨンセが夫の浮気相手と謳った ”ベッキー・ウィズ・グッドヘア” とは?



アメリカ大統領予備選挙は、4月26日のスーパー・チュースデーで ドナルド・トランプが5州で勝利を収めたことから、 浮上してきたのがオープン・コンベンションを待たずして、早ければ6月7日にもトランプが共和党大統領候補に擁立されるという予測。
彼以外の候補者は、既に大統領候補となるために必要な1237のデリゲートの獲得は不可能になっているだけに、 焦点はドナルド・トランプが果たして コンベンションまでに この数字に到達するか否か。 これを何としても阻止したいテッド・クルーズ陣営では、対立候補のジョン・ケイシックと共同戦線を張る一方で、 英語で言う ”ランニング・メイト”である副大統領候補に、 一時は予備選挙を争った 元ヒューレット・パッカードのCEO、カイリー・フィオリーナを選んだことを発表したのが今週。
多くのメディアが、こうした共和党側の「ストップ・トランプ・ムーブメント」を”遅すぎた”と指摘する一方で、 今週カリフォルニアで行われたドナルド・トランプのキャンペーン・イベントでは、2日に渡って抗議活動者と支持者、警察が衝突する 暴力沙汰になっており、トランプはその抗議活動があまりに激しいために会場まで車で乗り付けることが出来ず、 裏口から歩いて会場入りする様子が報じられていたのだった。

一方 今週は プロフットボールNFLのドラフトが行われたけれど、上位で指名を受けることが確実視されていた レアミー・タンシル(写真上右)のツイッター・アカウントに ドラフト10分前にポストされたのが、彼がガスマスクを付けて マリファナと思しきものを 吸い込んでいるビデオ。これはもちろん本人がポストしたものではなく、ハッキングによるものであったけれど、 これによって ボルティモア・レイヴェンズを含む数チームが彼をパスした結果、タンシルを指名したのは13番目のチーム、マイアミ・ドルフィンズ。
一部にはこのハッキングが、タンシルと法廷で争っていた義理の父親の仕業ではないか?との憶測が流れていたけれど、 これによって彼が失ったと言われるのが 数億円の契約金とサラリー。
見方を変えれば、アスリートやセレブリティ、政治家、企業は こうしたハッキングによる イメージやビジネスのダメージに 備えなければならない時代になっているということなのだった。




さて そんなメディアやソーシャル・メディアを巧みに使って人気とビジネスを盛り立て、財力、パワーを築いてきたのがビヨンセ。
その彼女が先週土曜日にケーブル局のHBOでプレミアを行ったのが 最新のビジュアル・アルバムで、 彼女にとってソロ6作目にあたる ”Lemonade / レモネード”。 既にビルボードのアルバム・チャートで、No.1デビューをすることが明らかになった”レモネード”は、 ビヨンセが今年のスーパーボウルで披露した新曲 『Formation / フォーメーション』を含む全12曲のアルバム。 それぞれの楽曲にアーティスティックなビジュアルのビデオが製作され、57分のフィルムとして仕上られたのが HBOで公開されたビジュアル・アルバム。
このアルバムは”Triumphs and Tribulations of Black Women in America (アメリカの黒人女性の苦難と勝利)”を描いたものと説明され、 R&Bの女王であるビヨンセが、ホワイト・ストライプのジャック・ホワイト、ザ・ウィークエンド、ジェームス・ブレークなどの アーティストをフィーチャーして、ロック、カントリー、フォーク等、これまでと異なるジャンルの音楽にアグレッシブに取り組んだもの。

またビデオの中では、カニエ・ウエストがデザインするイージーのブラトップ&レギンスや、ピーター・デュンダスがデザインするロベルト・カヴァーリのドレス、 フード・バイ・エアのファーコート、マーラ・ルチア・ホーガンのドレス、グッチのスーツ、ロージー・アスーランのトップなど、 ファッション誌よりも先を行くカッティング・エッジのアウトフィットが披露されていたけれど、 今週、そんなアルバムのアーティスティックな側面よりも 遥かに話題と物議をかもしていたのが、 ビヨンセが”レモネード”の中の楽曲 「Sorry / ソーリー」で謳っていた 夫の浮気相手、 ”Becky with Good Hair / ベッキー・ウィズ・グッドヘア” とは誰か?という疑問。







アルバム ”レモネード”の前半の楽曲で謳われているのは、夫の裏切りと それに対する怒り。 『Pray You Catch Me / プレイ・ユー・キャッチ・ミー』の歌詞にある "You can taste the dishonesty, it's all over your breath / 貴方の吐く息に満ちている不貞の味がするでしょ"というフレーズや、 楽曲 『Hold Up / ホールドアップ』の中に登場するフレーズ、 "What's worse, looking jealous or crazy? / クレージーとジェラシー、どっちがみっともない?"など、 夫、ジェイZの浮気を匂わせる歌詞が次々に登場するのが”レモネード”。
中でも人々が注目したのが『Sorry / ソーリー』という楽曲に登場する ”He better call Becky with the good hair, / 彼は きれいな髪のベッキーに電話するべき”という歌詞。 これを受けて週明けからは、このベッキーとは誰かの憶測が飛び交ったけれど、それに応えるかのように 「Good hair don't care / きれいな髪(の私)は気にもかけていない」とインスタグラムにポストしたのが、 デザイナーのレイチェル・ロイ(写真上、一番左)。彼女は 2014年にビヨンセの妹、ソランジュ・ノールズが エレベーターの中でジェイZに殴りかかっている様子をホテルのセキュリティ・カメラに捕らえられたスキャンダルで、 ソランジュとジェイZの喧嘩の原因になったと言われる女性で、ジェイZの友人であるデーモン・ダッシュの元夫人。

このインスタグラムのメッセージが ” Bey Hive / ビーハイブ”と呼ばれるビヨンセのファンの怒りを買って、 レイチェル・ロイのインスタ・アカウントは大炎上。あっという間に4000の バッシング・メッセージが寄せられ、彼女は直ぐにそのポストを削除したものの、殺害予告を受けただけでなく、 彼女の2人の子供は学校でいじめにあい、子供達のソーシャル・メディアのアカウントにも 「お前の母親は売春婦だ」というビーハイブからの書き込みが寄せられる有り様。 それだけでなく、レイチェル・ロイのウィキピディアのページは 職業の欄がファッション・デザイナーから ”ベッキー・ウィズ・グッドヘア”に書き替えられ、 ”レモネード”のプレミアの日に 彼女がレモネード売りのスタンドの下敷きになって死んだことになっていたとのこと。

これに恐れをなしたレイチェル・ロイは、後に「私は婚姻関係を尊重している」というメッセージをポストしたけれど、 大迷惑を被ったのが、料理家でTV番組のホストでもあるレイチェル・レイ(写真上左から2番目)。 ラスト・ネームの1字違いが災いして、ジェイZの愛人だと勘違いされた彼女は、 同様にビーハイブからの バッシングを受ける羽目になっていたのだった。やがてその容疑が晴れた後、レイチェル・レイは さすがに料理家とあって、ソーシャル・メディア上に彼女のスペシャル・バージョンのレモネード・レシピを公開して パブリシティを獲得。転んでもタダでは起きない しぶとさを見せていたのだった。

またレイチェル・ロイ同様にベッキーとして名乗り出るようなソーシャル・メディア・ポストを展開したのが シンガーのリタ・オラ。彼女は以前からジェイZとの噂が流れていた存在であるけれど、 今週彼女はビヨンセがビデオの中で着用したのと全く同じグッチのアウトフィットを着用して スナップされただけでなく、 レモンのアップリケがついたブラを着用し、Jのイニシャルのペンダントをした写真をインスタグラムにアップ(写真上右)。
でも彼女もビーハイブの猛攻撃を恐れてか、程なく「ビヨンセのことを尊敬している」というメッセージをポスト。 自分は”ベッキー”ではないと ほのめかしていたのだった。




それならば 「ベッキーは誰か?」という話になるけれど、これは特定の女性を謳ったものではないという説が有力で、 それはジェイZが 頻繁に女性を変えては つまみ食いをしていたという噂にも裏付けられているもの。
そこで浮上してきたのが ”ベッキー”が白人女性蔑視の意味を持つという指摘。 ”ベッキー”とは、エリザベスの愛称で、エリザベスという名前の愛称には他にも”べス”、”リズ”といったものがあるけれど、 エリザベスは 典型的な白人女性の名前の筆頭に挙げられるもの。
また”グッド・ヘア”は アフリカ系アメリカ人女性のヘアに比べて ストレートでツヤがある白人女性の髪の毛を総称する言葉。 すなわち、ビヨンセが”ベッキー・ウィズ・グッドヘア”と謳っているのは、 ジェイZの浮気相手の白人女性を ステレオタイプでひと括りにしていることになるけれど、 これはアメリカでは人種蔑視と見なされることなのだった。

言語やカルチャーが異なると、これがどのくらい失礼なことかが 分かり難いかと思うけれど、 例えば日本人の場合、圧倒的に知名度があるのは やはりヨーコ・オノ。 もし日本人女性がサンプル・セールの列に割り込もうとして、そこに並んでいたアメリカ人が 腹を立てた場合などに聞かれるのが 「私はちゃんと並んでいたのに、ここに居るヨーコ・オノが割り込んできたのよ」という文句。
日本人を良く知ないので、誰でも彼でもヨーコ・オノにしてしまうというのは ヨーコ・オノ本人だけでなく、その場にいた日本人女性にも失礼な言い分であることは理解できるかと思うけれど、 そんな風に 誰かを人種でひと括りにして形容する表現は ”ベッキー・ウィズ・グッドヘア”同様、蔑視と見られる行為なのだった。
このことは、トークショー・ホストのウェンディ・ウィリアムスやラッパーのイギー・アゼリアなどによって 指摘されていたけれど、このうちビーハイブが攻撃したのはイギー・アゼリア。 今週はビーハイブが、トランプ・サポーターを上回るパワーで ビヨンセの敵を攻撃しまくっていたけれど、 そんなビーハイブをコントロールしようとしないビヨンセに対しても 批判の声が聞かれていたのだった。

それと同時に、一部の人々が指摘していたのが 「何故浮気というものは、男性がしても、女性がしても 常に女性が悪者にされるのか?」ということ。 事実 今週、ビーハイブは 確証が無いにもかかわらず ”ベッキー”と思しき女性たちを攻撃しまくっていたけれど、 その浮気によってビヨンセを確実に傷つけた夫のジェイZには 一切の攻撃をしていないのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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