May. 8 〜 May. 14




Everything’s About Marketing




週末のCUBE New Yorkのホームページの巻頭でもお伝えした通り、今週の木曜に正式に発表されたのが、 激安アパレル、H&Mが今年11月に発売するリミテッド・ラインのデザイナーにパリのデザイナー・チーム、 ヴィクター&ロルフが選ばれたというニュース。
このH&Mのゲスト・デザイナーを迎えたリミテッド・ラインは、2004年からスタートしたプロジェクトで、 2004年はカール・ラガーフェルド、2005年はステラ・マッカートニーがデザインを担当して大ヒットを収めており、 2004年の11月の売り上げは前年比24%アップ、2005年の売り上げは前年費11%アップと、 いずれも売り上げに大貢献したラインなのである。
このH&M にとってドル箱と言えるプロジェクトは、消費者側にとってもH&Mの激安プライスで、 一流デザイナーのクリエーションが買える絶好のチャンスとなっており、 過去2年の発売日は、ストアの前に大行列が出来た上に、発売から数時間で売り切れたアイテムも多数あったのは記憶に新しいところ。
でも今回のヴィクター・ロルフについては、知名度は先の2人に比べて遥かに低く、シグニチャーとなるようなスタイルが 一般の消費者に認識されていないだけに、どうして彼らに白羽の矢が立ったのかについては、 ファッション業界のみならず、疑問視する声が多いのが実情である。

私はヴィクター&ロルフの服は2枚ほど持っていて、どちらも40%オフになってからサックス・フィフス・アベニューで購入したものであるけれど、 彼らの作品は、実際に売り場に並ぶとファッション・ショーで見るほどはドラマティックなものではないので、割に普通に着られるものだったりする。 でも商品としては悪くなくても、彼らのようにそれほど知名度が高くないデザイナーの服というのは、サックスのようなデパートでも40%オフになるまで 売れ残る訳で、果たして彼らがH&Mプライスになったところで、買いたいと思う一般消費者がどれだけ居るのかということ、 そしてヴィクター&ロルフがH&Mのためにどんな服をデザインするのかは、私としては非常に興味があるところで、 今年のH&Mのリミテッド・ラインについては、過去2年とは異なる好奇心で見守ることになりそうである。

でもヴィクター&ロルフ側にとってはこのH&Mのプロジェクトを手掛けることは、メリットをもたらすことが見込まれており、 それは、彼らが多くのパブリシティを獲得することによって、昨年発売したフレグランス、「フラワー・ボム」や、今後発売が決定している メンズ・フレグランスの売り上げが大きく伸びるであろうことが望まれているため。
そもそも、H&Mの客層と、彼らのコレクション・ラインの客層では、収入レベルが1桁も2桁も違うことは明らかであるから、H&Mのプロジェクトによって、 彼らの服の売り上げが伸びるということは 想像しにくいことである。しかし、服よりもずっと広い客層をターゲットにしたフレグランスについては、 その売り上げを左右するのはブランド知名度。このことはジェニファー・ロペスやブリットニー・スピアーズといったセレブリティが、 ヒット・フレグランスを連発させていることでも分かる通りである。 したがって、知名度が上がれば、売り上げも上がるというのがフレグランスであり、このフレグランスによる売り上げというのは、 彼らが服をデザインして得られる売り上げより 遥かに多額のものなのであり、彼らのビジネスを支えているのは、むしろこちらの方であったりするのである。

例えば、ファッション業界には、多額の製作費が掛かる反面、デザイン1型当たり、数枚しか売れない 「オートクチュール・コレクション」 という、赤字覚悟のイベントが存在しているけれど、これを手掛けるデザイナー・ブランドは、 何のためにこれを行っているかと言えば、 オートクチュール・コレクションで、ブランドのイメージを保ち、パブリシティを得ることによって、 フレグランスや化粧品、レザー小物などを一般大衆に売るためである。
グッチにしても、ヴィトンにしても、ブランドが大きく、有名になればなるほど、その売り上げを支えているのは、 3000ドルのスカートや、1万ドルのバッグを購入するリッチな顧客ではなく、 250ドルの財布や150ドルのキーホールダー、80ドルのオー・ド・トアレを購入している一般大衆であり、 多額の広告費や、ファッション・ショー、セレブリティへの衣装提供といったものは、全て一般大衆に向けてブランド・イメージをアピールするための マーケティング手段なのである。

でも、昨今このコンセプトに逆行する動きでサクセスを収めているのがラスヴェガスとブロードウェイである。
ラスヴェガスもかつては、ファッションの一流ブランドのように、超リッチなハイローラー(高額ギャンブルを行う客)を優遇し、 彼らをイメージ戦略に使う一方で、カジノ収益の70%を担っていたのは、ごく一般大衆の「100〜150ドル負けたら止める」という人々。 ハイローラーは、例えギャンブルで3億円負けても、ホテル側は彼らを顧客として繋ぎとめるために、 プライベート・ジェットで送り迎えをして、最高級のスウィートに無料で滞在させ、 ロレックスのダイヤ入りの時計のペアや、ベンツ1台などをカジノ側がギフトに贈るので、差し引き勘定ではそれほど割の良い客層ではないという。 ちなみに、ラスベガスの高級ホテル、べラジオで最高のスウィート、あの噴水池の畔にある”ヴィラ・ワン” に滞在するのは、 ほぼ100%ハイローラーの招待客であるという。
これに対して、一般大衆はホット・ドッグの無料クーポンや、ランチ・バフェの半額クーポンといった、ホテル/カジノ側にとっては、 タダ同然の優遇策で、1人当たりの額としては決して大きくなくても、それが大多数分になることによって、多額の利益をカジノにもたらしてきた訳で、 これが、ファッション・ブランドにおけるフレグランスやキーホール・ダーを買う人々とダブる図式となってきたのである。

しかしながら、昨今のラスヴェガスは、すっかり高額化が進み、ホテルもどんどんアップスケールになっていく一方で、 その客層のターゲットは、より若く、よりリッチな客層に急激にシフトして来ているのである。
この理由はラスヴェガスがギャンブル・シティから、総合エンターテイメント・シティへの転身を図っているためで、 実際、ラスベガス全体の収益のうち、現在ギャンブルが占めるのは40%、残りはシアター等のエンターテイメントや、レストランやクラブ、 そしてショッピングによる売り上げで、毎年猛然と売り上げを伸ばしているのは後者であるという。
その結果、「ブラック・ジャックやスロットマシンで100ドル分くらい遊んで、40〜60ドルのホテルに宿泊して、食事はカジノのバフェで済ませる」というような 従来のアメリカの中流以下の人々のヴェガス・ヴァケーションがどんどん消え去り、 シアター・チケットが150ドル、ディナーが120ドル、ホテルは1泊250ドルというアップスケールな観光のメッカとして、 収益を伸ばしているのが現在のラスヴェガスである。
高額にシフトすることによって、これまでヴェガスには寄り付かなかったアメリカ国内のリッチピープルのみならず、 海外からの旅行者も増えて、客層が変わって来ているのは、ヴェガスのビジネスが意図したとおりの展開であるけれど、 ラス・ヴェガスというのは、非常に小さなエリアであり、その中で売り上げを伸ばしていこうとした場合、客数増加に頼っては限界がある訳で、 その結果、高額化という道を選ぶことになる訳である。

同じことが言えるのが、現在のブロードウェイ。
ブロードウェイは、昨今ハリウッド・スターやTV俳優がステージに登場することによって観客動員数を伸ばしていることが伝えられているけれど、 現在までの今年と昨年を比較すると、観客動員数は4%のアップ。にも関わらずそのチケット売り上げは12%もアップしているのである。
どうしてこんな現象が起こると言えば、単純にチケット価格がアップしているからであるけれど、ブロードウェイの劇場というのは、 一部のヒット作を除いては、殆どのシアターの平日の入りはほぼ50%程度。すなわち劇場の半分が空席であるから、 チケットの値段をちょっとやそっと吊り上げただけでは、前年費12%アップなどという数字は稼ぎ出せない訳である。
実はこの現象の背景にあるのがプレミアム・チケットという、高額チケットの存在で、これを一番最初に取り入れたのは、 マシュー・ブロデリックとネイサン・レーンのキャストの「プロデューサー」であった。 これは、いわゆるダフ屋が、「幾ら出しても構わないから、観たい!」という人々にプレミアムを付けて高額でチケットを販売していたことを受けて、 シアター側が、ダフ屋の利益分を乗せる形で売り出した高額チケット。「プロデューサー」はブロードウェイの最高チケット価格の記録となる 480ドルのチケットを、このプレミアム・チケットとして販売している。
今ではこのプレミアム・チケットのシステムは、劇場に半分しか観客が入らないようなパフォーマンスにも取り入れられており、 例え劇場は埋まらなくても、プレミアム・チケットが売れている場合は多いという。 こうしたチケットを購入するのは、ブロードウェイに通いなれたシアター・ゴーワーではなく、 地方からやって来たクライアントの接待、郊外に住む両親の結婚記念日のプレゼントなどで、 「別にチケットが高くても構わないから、特定の日に良い席のチケットが欲しい」という人々で、その多くはアウト・オブ・タウナー(NY以外に住む人々)あるという。
シアター側はこのデータを熟知しているから、ニューヨークで行われるコンベンションのスケジュールなどをチェックして、 地方からの旅行者が増える時期はプレミアム・チケットを増やし、出来るだけ高額でチケットを売るように配慮しているそうで、 観客数を増やすためのディスカウント・チケットは さほど功を奏していないブロードウェイも、 チケット価格の操作で、これだけ売り上げを伸ばせるというのは、まさにマーケティング戦略の勝利と言えるものなのである。

さて、先日、ニュース・スタンドで雑誌を買っていた時に ふと目に留まったのが、そこで売られていた折りたたみ傘の価格票。
「晴れの日は3ドル、雨の日は5ドル」と書かれたので、思わず笑ってしまったけれど、良く考えてみると 人の足元を見たような商法。 とは言え、「ニーズがある時は高く売る」というのは、ビジネスの基本である訳で、これも立派なマーケティング戦略なのである。


来週のこのコラムは、筆者旅行中につき、更新が1日ほど遅れます。ご理解、ご了承をお願いします。



Catch of the Week No.1 May : 5月 第1週


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Catch of the Week No.4 Apr. : 4月 第4週


Catch of the Week No.3 Apr. : 4月 第3週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。