May 5 〜 May 11 2008




” ダルフールと北京オリンピックの関係 ”


私がこれを書いている5月11日は、ご存知のように母の日。
母の日が1908年にスタートした アメリカでは今年が母の日の100周年に当たるけれど、 私にとって意外だったのは、母の日というのは”アース・デイ” のように 世界中で特定の日に決められている訳ではないこと。 先進国の殆どを含む 多くの国が母の日に制定しているのは 5月の第2 日曜日であるけれど、 ハンガリー、ポルトガル、スペインでは5月1週目の日曜であるというし、 ポーランドでは5月26日、ボリヴィアでは5月27日など、国によってまちまちで、モンゴルでは年に2回も母の日があるという。

以前もこのコラムに書いたように、母の日と言えば アメリカでは夫や子供達が母親のために朝食を作ってあげる例が多いけれど、 昨今では家族が集まってレストランでサンデー・ブランチをするというのが一般的。 それだけにブランチが好評なレストランは、母の日のブランチの予約が 早くから一杯になってしまうようであるけれど、 日本のように ”母の日と言えばカーネーション” という習慣は無かったりする。
さて、その母の日に先駆けて発表されたアンケート調査が 「Sex and American Mom / セックス・アンド・アメリカン・マム(マザー)」。 この調査はクッキー・マガジンによってAOLのウェブサイトを通じて 過去6ヶ月間に 3万人のアメリカン・マザーを対象に行われたものである。
それによれば 34%の母親達が 「子供を産んでから浮気をしたことがある」 と答えており、 浮気のファンタジーを抱いていると答えたのは何と 53%。 日常生活が忙しすぎてセックスレスになりつつあると指摘される アメリカの夫婦生活であるけれど、77%の母親が 「もっとセックスが必要」と回答しているという。
でも 「結婚当時と同じように夫に魅力を見出せる」 と 答えたアメリカン・マザーは36%。 「夫も浮気をしている、もしくは したことがあると思う」 と答えたのは48%で、離婚が多いアメリカ社会を象徴するような結果が得られている。 ちなみに、アンケートに答えた母親達が 浮気相手として 選ぶ男性は、ジョージ・クルーニやNFL クォーターバックのトム・ブレイディなどで、 ルックスが良いのはもちろんだけれど、比較的正統派のイメージのある男性。 中には民主党のバロック・オバマ候補を挙げた女性も居たというけれど、調査対象の母親達は 自分の良き夫 兼、 自分の子供にとっての良き父親になって欲しい男性を 往々にファンタジーの対象としており、 これに対して夫側は ストリップティーズに出かけたり、インターネットでポルノをダウンロードするなど、 家庭と セックスを切り離した 非現実的なファンタジーを描いているものである。
すなわち女性側が描くファンタジーは、自分が置かれている状況の夫の部分、時にその経済力も含めての夫の存在を、 理想の男性に摩り替えたものである場合が多く、非常に現実に根ざしているもの。 しかもファンタジーの対象は、自分にとっての良い夫というだけでなく、 子供のことも考慮して 「 経済力がある 良い父親」 である訳だから、 母親の子供に対する愛情が非常に 強いことを痛感させられるばかりなのである。


ところで、話は全く変わって 私が先週の火曜日に友人に連れられて出かけてきたのが 世界中のライターによって構成されている PEN American Center / ペン・アメリカン・センターが主催した アフリカのスーダン、ダルフール地区で起こっている民族浄化紛争に関するトーク・イベント。
このディスカッションは ゲスト・パネラーとして ユニセフの親善大使でもある女優のMia Farrow / ミア・ファローと フランスの哲学者、Bernard-Henri Levy / ベルナール=アンリ・レヴィ (写真右)を迎えたもので、 ベルナール=アンリ・レヴィ の大ファンである友人に誘われて出向くことになったのだった。
ちなみに ミア・ファローと言えば、古くは「ローズマリーの赤ちゃん」、「華麗なるギャッツビー」で知られる ハリウッド女優で、80年代後半から90年代前半に掛けては、当時パートナーであったウッディ・アレンの作品に 何本も出演しているけれど、自ら生んだ4人の子供の他に、国内外から11人の子供を養子にしており、 90年代後半からは ことにアフリカの子供達を救うチャリティを熱心に続けて来ている。 昨今では2003年に勃発したスーダンのダフルール地区の紛争救済のために ハリウッドで最も積極的に 活動していることで知られる存在である。

一方のベルナール=アンリ・レヴィは、俗っぽい言い方をしてしまえば サルコジ大統領夫人となったカーラ・ブルーニに、元夫であり 哲学者のラファエル・エントヴェンを寝取られてしまったベスト・セラー作家、ジュスティーヌ・レヴィを娘に持つフランスの哲学者。 彼の最もセンセーショナルな著書には1981年に出版した 「L'Ideologie francaise (邦題:フランス・イデオロギー)」や 2000年に出版した「Le Siecle de Sartre (邦題:サルトルの世紀)」 などがあるけれど、 哲学者というお堅い肩書きとは正反対に、スポットライトを好むとも言われる人物。 現在の彼の3人目の妻で フランスのベテラン女優、 アリエル・ドンバールとセレブリティ・カップルとしてメディアにフィーチャーされることもしばしばである。
アメリカでは2003年に出版された「Who Killed Daniel Pearl / 誰がダニエル・パールを殺したか?」 が最も有名であるけれど、 この書は、パキスタンでテロの真相を追っていた最中、イスラム過激派によって拉致され、その後殺害された ウォールストリート・ジャーナルの記者ダニエル・ パールの死の真相に迫ったもの。 ダニエル・パールについてのストーリーは、 昨年アメリカで公開された映画「マイティ・ハート」で アンジェリーナ・ジョリーが パールの妻、マリアン・パールを演じるなど、アメリカでは非常に関心が高かった事件である。

トーク・イベントは、昨年ダルフールに視察に出向いたベルナール=アンリ・レヴィと、今月5月にダルフールに8度目の 支援と視察に出向くというミア・ファローが それぞれに現地での実情を語り、その後2人がホストを交えて語り合い、 最後に会場からの質問を受けるという段取りで行われたけれど、 私が最も感銘を受けたのが 女優、ミア・ファローが 非常に熱心に、自分の言葉でダルフールの現状を語っていたことで、 自らのチャリティ基金を設立して チャリティに熱心と言われるハリウッド・セレブリティのうちの 一体何人が 彼女のように 事前に書かれたスクリプトなどを読まずに 人々にストレートに問題を語りかけられるだろう?と思ってしまったのだった。
ダルフール紛争については、2006年末頃から 俳優のジョージ・クルーニがジャーナリストの父親と現地視察を行い、 チャリティ活動と救援を呼びかけたのがきっかけで その悲惨な実態が一般の人々の間にも知れ渡るようになったけれど、 ピープル・マガジンのような一般誌や、シカゴ・トリビューンのようなパワフルなメディアがダルフールの記事を掲載するきっかけになったのは、 ミア・ファローが記事を執筆したり、自ら視察した際に撮影した写真を提供したためである。

私はダルフールの紛争については未だに分からない部分がいろいろあるけれど、 簡単に説明してしまえば、ダルフールはスーダンの西側に位置する地区。スーダンは同じムスリム(イスラム教徒)でも、 アラブ系と非アラブ系の人種に分かれており、現地で人種的に優位であると見なされるのはアラブ系であるという。 両者間では歴史的に緊張した関係が続いてきたけれど、現在も続く”ジェノサイド ” とも言われる民族浄化の大量虐殺が 行われるきっかけとなったのはスーダンの南部から石油が生産されるようになってから。
石油から得た富は 非アラブ系民族が多く暮らすダルフールを除く地域で分けられ、 ダルフールはその富の恩恵を受けることなく取り残されてきたという。 現在の紛争に発展するまでの経緯については複数の説があるものの、”ダルフール紛争” と言われる問題の実態は、 アラブ系住民の民兵組織 ”ジャンジャウィード ” が ダルフール地区の 非アラブ系住民、それも武器など持たない一般市民に対して 略奪、レイプ、大量虐殺、村の焼き払いを繰り返していることで、これまで殺害された非アラブ系住民の数は もう推測不可能な状態になっているという。
状況は年々悪化する一方で、家を失った生存者達はどんどん1つの地域に追いやられ、 その地域では水や食料が不足しているのは当然であるけれど、この地域が武装したジャンジャウィードの標的となって 非常に危険であることから、今年に入ってダルフールの食糧援助のプログラムが半分に減らされるという事態になっているという。

中でも最も悲惨なのが現地の女性に対するレイプの実態で、ミア・ファローが公開した写真の中には、 30人のジャンジャウィードにレイプされたという女性が写し出されており、腕には焼いた刃物で切りつけたような深いキズが刻まれ、 思わず目を覆ってしまったのだった。 ジャンジャウィードは女性をレイプするだけでなく、 レイプの被害者に何らかのマークをつけるのだそうで、中には胸を焼かれた女性なども居るとのことだった。 でもこうした女性達は 「世界中の人たちに、ダルフールで起こっている実態を伝えて欲しい」として、写真の撮影には 進んで応じてくれたという。

さて今回のダルフールのトークで ミア・ファロー、ベルナール=アンリ・レヴィ が共に 同じ結論に至っていたのが、 問題の解決の鍵を握っていると同時に、ダルフール紛争で 非難されるべき存在であるのが中国であるということ。
というのも、国連の武器禁輸措置に違反しながらも 石油と引き換えにジャンジャウィードに大量の武器を輸出しているのが中国だそうで、 一部ロシアからの武器もあるものの、その80%が中国からの輸入によるもの。 この実態についてはアムネスティ・インターナショナル等が報じているだけでなく、ミア・ファロー、ベルナール=アンリ・レヴィの2人も、 現地の視察中に中国製の武器を多数 目にしたと語っていたのだった。
武器と引き換えに中国に輸入された石油が 中国の製造業などを潤しているかと思うと、 中国が平和の祭典であるべき オリンピックをホストすること自体に疑問を覚えてしまうけれど、 当然のことながら、ミア・ファロー、ベルナール=アンリ・レヴィの両氏は 各国首脳の開会式ボイコット、 必要とあらば選手団の開会式ボイコットを呼びかけ、中国政府に圧力を掛けるべきと 熱く語っていたのだった。
事実、ミア・ファローは当初 北京オリンピックのアーティスティック・アドバイザーを引き受けていたスティーブン・スピルバーグ監督を説得して、 アドバイザーを辞退させたことが伝えられているけれど、 その一方で、中国政府は大手のインターナショナルPR会社を2社も雇って、オリンピック前に 中国政府のダルフール関与がメディアで大きく取り沙汰されないように手を回していることもミアファローによって明らかにされている。

ダルフール問題のディスカッションのフォーカスがいつの間にか中国政府批判と、北京オリンピック・ボイコットに波及したのは、 ダルフール問題に明るくなかった私としては意外な展開であったけれど、 それと同時にこの日、興味深かったのは 会場から スーダンでの 民族対立 の原因を尋ねられたベルナール=アンリ・レヴィ が 「人種差別や、民族対立を理解しようと思ったら、気が狂ってしまう」とあっさり語っていた点。 ベルナール=アンリ・レヴィといえば 著書 「サルトルの世紀」 の中で、「ヒューマニズムこそが、収容所、大量虐殺に通じる全体主義のルーツ」 という論理を展開していただけに、もっと複雑な 解説を予想していた人々は会場にも多かったようで、 心が重くなるようなディスカッションで、この彼のコメントが唯一笑いを誘っていたのだった。

この2時間半ほどのイベントが終わって 友人と私が 外に出た時には、精神的にかなりグッタリ疲れてしまったけれど、 そのまま帰るの気にもなれないので ワイン・バーに寄ることにしたのだった。
ワイン自体は大して美味しくなかったけれど、2人でしみじみ感じたのは ダルフールの問題を話として聞いて、 それが終わったらこうしてワインを飲んでいられる自分達がいかに幸せでラッキーであるか ということ。 それと同時に不思議な罪悪感さえ覚えてしまったけれど、個人的に恥ずかしいと思ってしまったのは 友人に ダルフール問題ついての日本政府のポジションを訊かれて、全く知識が無くて 答えられなかったこと。 胸を張って国際人と言えるようになるには、まだまだ勉強が足りないと思って反省してしまったのだった。

でも、ダルフール問題については 信頼できるチャリティがあれば何らかの寄付をしようと思っているのが今の私の気持ちである。
それはその分が税金で取られて イラク戦争の戦費になるよりはずっと世の中のためになるという考えもあるけれど (アメリカではチャリティへの寄付は税金控除の対象となる)、 今回のイベントを通じて知ったミア・ファローの勇気ある活動に敬意を表する意味合いも非常に大きいのである。





Catch of the Week No. 1 May : 5 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Apr. : 4 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Apr. : 4 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Apr. : 4 月 第 2 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。