May 3 〜 May 9 2010




” New Yorker とは? ”


今週の初めにアメリカのメディアを賑わせていたのは、何と言っても 先週末にタイムズ・スクエアで起こった自動車爆弾テロ未遂事件と、 その容疑者で JFKからドバイへの逃亡を試みようとしていた ファイサル・シャザード逮捕のニュース。
飛行機の中で逮捕されたファイサル・シャザード容疑者は 「I was expecting you. Are you NYPD or FBI ? (君等を待っていたんだ。NYPD(NY市警察)? それともFBI?)」 と落ち着いた様子で尋ね、その後の捜査にも協力的であることが伝えられているのだった。
でも当初は シャザード容疑者の自供通り、彼が単独で及んだ犯罪と見られていた同事件は 週末に入ってから、パキスタンのタリバンが絡んだテロ未遂であることが確認され、 その資金調達や爆弾製造のトレーニングがアルカイダのサポートによって行われていたことが明らかになっているのだった。
FBI によれば、シャザード容疑者のようにアメリカ国籍を獲得した アラブ系の移民が、インターネットを通じて アルカイダやタリバンへの勧誘を受けて テロリストになるケースが増えているとのことで、 今後、テロリストのプロファイリングが益々難しくなることを指摘しているのだった。

でも、そんなテロのニュースが一気にかすんでしまったのが、5月6日 木曜午後に NYダウ平均が あれよあれよと言う間に1000ポイントも下落するという、 ウォール・ストリートの史上最大の下げ幅を記録したというニュース。特に午後2時42分から47分までの5分間には、 1万408.62ポイントだったダウ平均が9869.62ポイントにまで下落。ちなみに、英語ではこうした急降下のことを ” Nose Dive / ノーズ・ダイブ ” すなわち ”鼻から飛び込む” という言葉で表現するけれど、これは人間の鼻ではなく、飛行機の先端のことだそうで、飛行機が真逆さまに落ちる 様子を指しているという。
いずれにしても、その後の 株価はあっという間に持ち直して、終値では347.8ポイントのダウンに止まったけれど、NYダウは翌日も100ドル以上値を下げて、 今週は5.7%の下落となっているのだった。

この株価の急降下の原因と言われているのが、トレーダーが ミリオン(100万)と打ち込むはずの”M”の替わりに、ビリオン(10億)の”B”を打ち込んだ という タイプ・ミスで、当初はシティ・バンクのトレーダーのミスだとの噂が流れていたけれど、これは後からシティ・バンクによって否定のコメントが発表されているのだった。
この報道を受けて 夜のトークショーや、人気コメディ番組 「サタデー・ナイト・ライブ」では 「ウォール・ストリートには、フェイスブックに写真をアップロードする時のように しつこく確認をするシステムは存在しないのか?」とか、「スターバックスで 50ドル札を使おうとすると、4人の店員が本物の紙幣かを 確認するのに、ウォールストリートでは ビリオン単位の金額をそんなに軽率に扱うのか?」といった ジョークが聞かれていたのだった。
果たして このタイプ・ミス説が本当かウソかは定かでは無いけれど、マーケット関係者の間では この急降下の間にショート・セリングを(空売り)していれば、 トリリオン・ダラー(一兆ドル)の利益が得られているのだそうで、大混乱が一段落した後のトレーダーの間では 「誰かが裕福なリタイアをしようとしているぞ!」といった ジョークも聞かれていたという。

メディアでは、マーケットがこのような異常反応を見せる背景となっているのが、ギリシャの財政難であると指摘する向きが強く、 実際、株価が大暴落した木曜は、ギリシャの反政府暴動で遂に死者が出たことが報道された日。
週末には IMF (The International Monetary Fund) が そのギリシャを救済するための$40ビリオン(約3兆6615億円)のベイルアウト・マネーの投入を 可決したばかりであるけれど、果たしてギリシャに返済能力があるのか?ポルトガルやスペインの経済は大丈夫なのか?、 イギリスの膨らむ一方の負債はどうなるのか?、そしてそれらがアメリカ経済にどんな影響を及ぼすのか?が、 株式市場の深刻な不安材料になっているのは言うまでも無いこと。
特に心配されるのは ギリシャという国が ベイルアウト・マネーを投入したところで、立ち直れるような体制になっていないことで、 その大きな問題点の1つが国民の脱税問題。 例えばギリシャ北部の高級住宅街では、自宅にプールがあると申告して その税金を支払っていたのは435世帯。 ところが このエリアの航空写真を調べたところ 実際には 1万6974世帯が、大邸宅の高い塀の内側で プールを所有していたという。
さらに国税局が アテネの街の 近隣にシャネルやプラダのブティックが立ち並ぶトレンディ・エリア、コロナキ地区で 医療クリニックや病院を経営する150人のドクターの税金申告を調べたところ、そのうちの半分が年収を 360万円以下と 偽っており、そのうちの34人は 税金の支払い義務の無い 年収110万円以下 という恐ろしいほどに白々しい 申告していたという。
ニュースで暴動の映像などを見ていると、「さぞや国民の生活は厳しいに違いない」 などと思えてしまうギリシャであるけれど、 裕福な層は しっかり脱税で財産を増やしており、この国民の脱税総額は年間で何と$30ビリオン(約2兆7462億円)。 すなわち、ベイルアウト・マネーの75%に当たる金額を 国民の一部が脱税という手段で不当に着服していることになる訳である。
ギリシャ政府は、今年中にこのうちの$1.6ビリオン(約1465億円)を取り戻す予定という、”焼け石に水” のような目標を打ち出しているけれど、 実際のところは 国税局の役人は簡単に賄賂を受け取ることで知られており、ギリシャがこれだけの財政難を抱える大きな 一因となっているのだった。
したがって、この国民の脱税体制が改善されないまま、ベイルアウト・マネーを投入するというのは、言ってみれば穴の開いたバケツに 水を注いでいるようなもの。 なので、このベイルアウトが 川で溺れている人間を助けようとして、飛び込んだ人間が次々と一緒に溺れて流されていくのと同じように、 ポルトガル、スペイン、イタリア、ドイツなどを次々と巻き込んで、ユーロ圏全体の経済問題をさらに悪化させていくことを懸念する声は アメリカ国内でも 多く聞かれているのだった。


さて、タイムズ・スクエアに話を戻せば、今週の金曜にも不審物発見の報道を受けて、1週間に2度目の道路封鎖が行われていたけれど、 結局この日の不審物は単なる 置忘れの荷物であることが発覚。 テロ未遂事件を受けて、今週に入ってからはNYPDへの 不審物や不審者の通報が増えていることが伝えられているのだった。
さて、そのタイムズ・スクエアというのはマンハッタンの中心で、ニューヨークのシンボルのように捉えられているけれど、 実際にはニューヨーカーが嫌うエリアであり、普通のニューヨーカーは寄り付かない、寄り付きたがらない場所。
というのは、道が混みあっている上に、旅行者が多くて歩き難いエリアであるためだけれど、 ニューヨーカーが旅行者を苦手とする理由の1つに挙げられているのが、旅行者の歩き方が遅すぎて、 そんな ゆっくり歩く 人ごみに囲まれたら、時間を無駄にしてしまうため。

そもそも ニューヨーカーの典型的なイメージやキャラクターはと言えば、 誰もが真っ先に挙げるのが、「忙しい」、「いつも急いでいる」という2点。
「忙しい」という点については、今回のリセッションでレイオフされた人でさえ、毎日仕事探しや趣味で忙しくしていることからも 分かるとおり、「ニューヨーカーの辞書には見当たらない」とさえ言えるのが「暇」という言葉。 ニューヨーカーにとって「忙しい」というのはビジネスでも社交面でも充実している証。 暇そうにしていることは、人に弱みや恥をさらす事のように考える人さえ居たりする。
また中にはビジネスでも 私用でも食事やミーティングをセットアップしようとする際に、ブラック・ベリーのカレンダーを見て、 開いている時間ではなく、自分の都合の悪い時間や日程を理由をつけながら次々と列挙してくる人も居るけれど、 これは自分がいかに忙しいか、自分がいかに社交的で生活が充実しているか を誇示する行為に他ならないのである。

ニューヨーカー2つ目のキャラクターである 「いつも急いでいる」という点は、実際のニューヨーカーの日常の様々な行動に如実に現れているもの。
例えばニューヨーカーは信号が赤でも 車がいなければ横断歩道を渡るのは周知の事実。 また車が居たとしても、その交通の切れ目を 見つけては無理で 危険な横断をするものである。
道を歩く速度にしても、ニューヨーカーのスピードは全米No.1。
道を歩く側がこれだけ急いでいるのだから、車を運転する側も同様で、ニューヨークのドライバーは、 青信号になった時に 前の車が3秒間 車を発進しないと クラクションを鳴らすとのことで、これは全米で最短であるという。 車社会、ロサンジェルスでは平均5秒以上待ってからクラクションを鳴らすとのことだけれど、 これはロスの人々の方が おおらか というよりも、ロスのドライバーの方が1日の運転時間が長い分、 社内でメークをしたり、物を食べたりと、運転中別のことをしていて気が散っているため だと指摘されているのだった。
さらに、ニューヨークではドクターでさえ急いでいるので、患者の話をさえぎるタイミングは他州の医者より平均で5秒早いという。 そして、職業に関係なく人々が話すスピードも速いのがニューヨーク。

では ニューヨーカーが何故そんなに 急いでいるか?と言えば、その理由の1つは 先述のように 忙しいから。 それと同時に、「Time Is Money」というコンセプトを シリアスに捉えていることも挙げられるし、 「待つことが嫌い」、「時間を無駄にしたくない」 というのも ニューヨーカーが急ぐ理由と言われるのだった。
とは言っても、ニューヨークに暮らしていれば、急ぐのはライフスタイルになっているので 理由に関係なく急ぐのは当たり前。 したがって ニューヨーカーに対して「 What's the hurry / 何を急いでいるの?」と尋ねるのは愚問であったりする。

そんなニューヨーカーが時間の無駄を気にせずに行列を作る店はレストランでも、デリでも信用ができるし、列を見ると何のために並んでいるのかを知りたがる ニューヨーカーは非常に多いもの。
「忙しい」、「急いでいる」 以外にニューヨーカーのキャラクターとして頻繁に挙げられるのが 「物事に動じない、滅多やたらに驚かない」というもの。 私はもう何年も前に某レストランで食事をしていた際、突如電気のブレーカーが落ちたのか、店内の電気が消えてしまったことがあるけれど、 確かにその瞬間は それまで煩かったレストランが、一瞬水を打ったように静まり返ったのだった。 でも その2秒後には、 人々が何も無かったかのように 以前と同じ、もしくはそれ以上のペースでガヤガヤと会話を始めた様子を目撃して、 「さすがにニューヨーカーはタフだなぁ」と思ったことがあるけれど、 ここに暮らしていると 不思議な人間や不思議なトラブルに遭遇することが多いせいか、ちょっとやそっとじゃ驚かない神経の持ち主になっていくのもまた事実なのである。
そんな部分も手伝ってか、セレブリティの間ではニューヨーカーはアメリカだけでなく、世界中で最も「セレブリティ慣れ」している人々としても認識されていてるのだった。

ニューヨーカーというキャラクターは業界別にも様々な見方があって、 ファッション業界ではニューヨーカーと言えば 圧倒的にブラックを好み、どんなアイテムでもブラックが最も売れる市場。 ジーンズはダーク・ブルーが良く売れて、ホワイト・ジーンズ、薄くブリーチしたジーンズが売れない街。
インテリア・アート見地から言えば、ニューヨーカーはヴィンテージ・ポスターを黒いフレーム(額縁)で飾ったものを好むという。 クラシック音楽の世界では「ニューヨーカーはオペラ好き」、出版業界では「ニューヨーカーはミステリー好き」ということになっている。 さらに香草では ニューヨーカーはコリアンダーを嫌い、ローズマリーを好むという。

ニューヨーカーのキャラクターが世間一般でどのように捉えられているかは別として、 ニューヨークに住み始めた人間が、徐々に ”ニューヨーカー” になっていくのは 街が放つ 独特のオーラやエネルギーを感じて、それに反応したり、順応していくため。
そして、一度ニューヨークに住み始めると、ニューヨークで最もニューヨークらしいものは、タイムズ・スクエアや自由の女神、エンパイア・ステート・ビルディングのような 観光名所としてのシンボルではなく、ここに暮らしているニューヨーカーである ということを実感するようになるのである。





Catch of the Week No. 1 Apr. : 5月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Apr. : 4月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Apr. : 4月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Apr. : 4月 第 2 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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