May 7 〜 May 13, 2012

Gay Money Has Replaced Wall Street Money?


今週のアメリカで、大きな物議をかもしたのが、まず写真上左側のタイム誌のカバー。
これは、26歳のカリフォルニア在住の母親ジェイミー・リン・グルメットと、彼女の3歳になる息子の授乳シーンであるけれど、 若くグッドルッキングな母親が、あまりに大きく育った息子に授乳する姿には、70%以上のアメリカ人が 「不愉快」という見解。 このため、先週の日焼けサロン中毒の母親、パトリシア・クレンシルに替わって、 今週はジェイミー・リン・グルメットが メディアに登場して、3歳の息子に授乳する理由を説明していたのだった。
ジェイミー・リンによれば、彼女自身も6歳まで授乳をされていたとのことで、夫も3歳の息子に授乳することには 全く問題を感じていないとのこと。ちなみに「Are You Mom Enough?」とタイトルされたタイムズ紙のカバー・ストーリーは、 親が幼い子供と よりフィジカルに関わって育児をする ”アタッチメント・ペアレンティング”を取り扱ったものなのだった。

もう1つ、今週末の大報道となったのが JPモルガン・チェースが僅か過去1ヶ月半程度の間に出した20億ドル(約1600億円)以上の損失のニュース。 どうして、チェースほどの大銀行が、短期間にこれほどまでの大金を失ったかといえば、 リスキーなデリバティブ(金融派生商品)の取引がその原因。
5月12日、土曜日付けのニューヨーク・タイムズには、この経緯が詳しく説明されていたけれど、 チェースが扱っていたデリバティブがどんなものであったかといえば、ジェネラル・ミルズ、マクドナルドといったアメリカの大手企業の指数連動型保険。 指数連動型保険は、企業の業績が悪化すれば保険の価格が上がり、もし倒産した場合はチェースがその保険金を払い戻すことになるけれど、 企業業績が良ければ 保険の価格が下がり、保険を購入した金融会社がチェースに対してフィーを支払うという仕組み。
とは言ってもチェースは、 保険をより多く販売することによって 保険価格のアップを回避することが出来るというのがこのシステムで、 昨年夏から取り扱いをスタートしたこのデリバティブで、当初 チェースは順調な収益を得ていたのだった。
同デリバティブは、当初は売り手が分からないまま取引されていたけれど、あまりの規模の大きさから、 それが出来る金融企業ということで、JPモルガン・チェース、それもそのロンドン・オフィスのトレーダーで、「ロンドンの鯨」の異名を取るブルーノ・イクシルが その1000億ドル(約8兆円)にものぼる取引を行なっているというのは、直ぐにヘッジファンド・マネージャーやブローカーに分かるほどであったという。
そして今年1月、2月に入ってからも、景気の動向が明るくなってきた数字を受けて保険の価格は下がり続けたけれど、 その頃からチェースが価格をコントロールするデリバティブに不満を募らせると同時に、その問題点に逆にチャンスを見出した ニューヨーク、ロンドンのヘッジ・ファンド数社が始めたのがチェースに対する逆張り。 その後 3月に入って、景気回復が予想通りには進まないという見通しが強まってからは、保険の価格が急騰。 当然 これはチェースに損失をもたらしていたけれど、3月31日に第一四半期を終えた時点では、 チェースのエグゼクティブはこの問題をさほど重要視していなかったという。

それが、僅か数週間で20億ドルの損失になったと言われるけれど、メディアの中にはこの数字を既に23億ドルに訂正して報じるところもあって、 損失は今後も膨らむことが見込まれているのだった。 しかもチェースが販売した保険の期限は2017年。したがって向こう5年間、これによる損失が続く可能性を指摘する専門家もいるほどなのだった。

ニューヨーク・タイムズの記事の中では、バンク・オブ・アメリカ・メリル・リンチのトレーダーが4月初頭に「Fast Money Has Smelt Blood (悪銭は血の匂い)」と いうメッセージで、チェースに対する逆張りのヘッジファンドを投資家にプロモートしていたことが紹介されていたけれど、 この損失が発表された木曜以降、JPモルガン・チェースの株価は9.3%も下落。 とは言っても、この規模の損失がJPモルガン・チェースを経営危機に追い込むものではないのは一目瞭然なのだった。
それより この損失がチェース、およびウォールストリート全体にインパクトを与えると指摘されるのが、 今後導入が見込まれる、 金融機関による高リスク取引を規制する「ボルカー・ルール」に対して JPモルガン・チェースのCEO、ジェイミー・ダイモンが、 ウォールストリートを代表して反論を唱える存在であったため。 加えてJPモルガン・チェースは規制強化反対のロビーイングに金融機関の中で最も多額の資金を投じてきているけれど、 その JPモルガン・チェースが、規制が必要であることを立証するようなリスク・マネージメントの大失態を見せたこと、 そして2008年のファイナンシャル・クライシス以降も、銀行の経営体質が変わっていないことを露呈したことは、今後金融規制派の追い風になることが 見込まれているのだった。



でも、今週最大のニュースになっていたのは、オバマ大統領が現職大統領として、初めて「同性愛者の結婚が合憲であるべき」という見解を ABCテレビとのインタビューで明らかにしたこと。
これは先週末に、報道番組に出演したジョー・バイデン副大統領が、彼個人の見解として 「同性愛者の結婚を認める」と発言をしたことをきっかけに、 大統領の同性婚に対する考えを問う声が高まることを見越して、大統領が明らかにしたと言われるもの。 これを歓迎する、しないは別として、誰もがこの見解を「歴史的」なものと捉えているのだった。

当然のことながら、この大統領の発言を大歓迎したのはゲイ・コミュニティで、数多くのゲイ・セレブリティがツイッターで、 大統領に感謝のコメントをしていた他、 トークショーに出演したヴォーグ誌の編集長、アナ・ウィンターも 大統領の発言を歓迎すると同時に、 ヴォーグ誌編集部では、喜びのあまり 涙するスタッフまで居たことをコメントしていたのだった。

アメリカでは過去2〜3年の間に、国民の同性婚に対する考えが急速にポジティブなものに変わり、今では国民の半数以上が 同性婚に肯定的であると言われるけれど、それでも全米の30の州が同性婚を法律で禁じており、 今週にはノース・キャロライナ州が投票の結果、同性婚を禁じる法律を大差で可決しているのだった。
そのノース・キャロライナ州では、8月にオバマ氏が大統領選を戦うための民主党党大会が行なわれることになっているけれど、 キリスト教右派を中心に、同性婚には激しい拒絶反応を起こすアメリカ人が今も非常に多いのは事実。 従って、オバマ大統領が同性婚を認める発言をしたことが、11月の大統領選挙に好影響をもたらすのか、悪影響をもたらすかは 蓋を開けてみなければ分からないというのが大方の意見なのだった。

でも確実視されているのが、ゲイ・ピープルがオバマ大統領再選に投票することに加えて、多額のゲイ・マネーが 大統領の選挙資金として流れ込むであろうということ。
今週木曜には俳優のジョージ・クルーニーのハリウッドの自宅で、オバマ大統領の選挙資金集めのパーティーが行なわれたけれど、 この席だけで集まった選挙資金は、何と1500万ドル。(約12億円)
パーティーは、1人の参加費が4万ドル(約320万円)というもので、ロバート・ダウニー・ジュニア、トビー・マグワイアといったセレブリティを含む、 150人のゲストを迎えて行なわれたけれど、通常この規模のパーティーで集められる寄付金は100万〜400万ドル(約8000万円〜3億2000万円)がせいぜい。 ニューヨークの不動産王、ドナルド・トランプが、共和党候補、ミット・ロミニーのために行なった同様のパーティーで集まった選挙資金が60万ドルであったことを思えば、 このパーティーが如何に効率良く選挙資金集めをしたかは容易に想像が付くところだけれど、 今週の同性婚肯定発言が その寄付に拍車を掛けたことが指摘されているのだった。

これを受けてメディアが指摘するのが、かつてはウォール・ストリートの金融リッチが政治献金を行なうと同時に、ロビーストをワシントンに送り込んで、 規制や法律をウォール・ストリートに有利に操ってきたけれど、昨今はそのウォール・ストリートの金銭パワーが衰えて、 それに代わって、ハリウッドのスタジオ・エグゼクティブやメディア、IT関連のリッチなゲイ・ピープルが 政界に資金を投入して、影響力を高めているということなのだった。



その好例として、このところ立て続けにニューヨーク・タイムズ紙が大きく記事にしたのが、フェイスブックの共同設立者のクリス・ヒューズ(写真上右、28歳)。
フォーブス誌がその総資産700万ドル(約560億円)と見積もっている彼は、2007年にフェイスブックを去り、2008年の大統領選挙では、オバマ陣営の オンライン・キャンペーンをオーガナイズしたことでも知られる人物。彼は 今年に入ってからはニュー・リパブリック誌を買収しているけれど、 彼自身はゲイで、現在は25歳のインベスター、ショーン・エルドリッジと婚約中。彼とショーンは、 様々な政治家のための選挙資金集めのパーティーを主催しており、 ニューヨーク州において同性婚を合法に導いたアンドリュー・クォモ州知事もその1人であるのは言うまでもないこと。
政治資金集めのパーティーといえば、これまでは極めて裕福な実業家や金融エグゼクティブが、同じように裕福な人々との交友関係を生かして行なってきたもので、 パーティーを主催する側も、出席する側も若くて40代、通常は50代〜60代という年齢層であったもの。 それがここへ来て大きく若返っているのは、クリス・ヒューズのような存在が徐々に出てきているためなのだった。

その一方で ハリウッドでは、特に過去数年、 映画やTVに好感が持てるゲイ・キャラクターを登場させることによって、ゲイに対する 社会の偏見を取り除く努力が行なわれてきたけれど、アメリカ社会が過去3〜4年の間に 急速に同性婚に理解を示し始めているのは、 そうしたエンターテイメントの影響力が大きいのは誰もが認めるところ。
加えて昨今は、ドリーム・ワークスの創設者の1人、ジェフリー・カッツェンバーグを始めとするハリウッドの ゲイ・ミリオネア達が 今までに無く 政治に資金を投入するようになってきており、人々のゲイ・ピープルに対する意識をエンターテイメントを通じて変えながら、 その一方で、政界に働きかけを行なって 法律を変えさせようという動きに出ていることを感じさせているのだった。

政治の専門家は、大統領選挙の争点はあくまで経済問題であり、同性愛結婚ではないという見解を示しているけれど、 今週のオバマ大統領の同性婚肯定発言で、既に3月末の時点で日本円にして約150億円の選挙資金を得ていたオバマ陣営が、ゲイ・マネーを 獲得して、資金集めを有利にするであろうことは確実視されるところ。
5月14日にはオバマ大統領は、自らゲイであることをオープンにしているリッキー・マーティンが主催する 選挙資金集めのパーティーに出席することになっており、参加者1人当たりが約300万円を支払うこのパーティーでも、多額の寄付を集めることが見込まれているのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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