May 6 〜 May 12, 2013

” Anti Slavery = Fair Trade ”


今週、アメリカで最も大きく報じられていたのが、オハイオ州クリーブランドで 誘拐され、過去 約10年間に渡って空家に監禁され、レイプ、 虐待を受け続けてきた3人の女性が、無事救出され、その犯人、アリエル・カストロが逮捕されたというニュース。
誘拐、監禁されていた女性は、ミッシェル・ナイト(2002年の誘拐、当時20歳)、アマンダ・ベリー (2003年の誘拐、当時17歳)、 ジーナ・デへズース(2004年の誘拐、当時14歳)の3人で、彼女らは家の中でも鎖で繋がれ、動き回ることは出来ても 外に出ることは許されず、毎日、扉越しに食べ物を与えられていたとのこと。 またミシェル・ナイトは過去に5回に渡って妊娠したものの、その都度カストロが 彼女の腹部を殴って、流産させてきたという。
でもアマンダ・ベリーが妊娠した際には、カアストロは出産を望んだというけれど、 病院に行くことは許さず、彼女が現在6歳になる娘を出産したのは 監禁されていた家のプール。

カストロの監禁の手口は極めて陰湿で、わざと扉を閉め忘れたふりをして、逃げ出そうとした女性を待ち構えていて、体罰を与えるという手口により、 たとえ自分が鍵をかけ損ねても、女性達が それをワナかと疑って、逃走に踏み切れない精神状態にしていたという。
今回彼女らが救出されたのは、カストロが実際に扉を閉め忘れたことが きっかけになっているけれど、最初に救出されたアマンダ・ベリーは、 カストロが扉を閉め忘れたふりをしていることを恐れて、逃走する替わりに、大声で助けを求め、それに気付いた通りがかりの男性が 彼女を助けるに至っているのだった。
3人の救出後に逮捕されたアリエル・カストロであるけれど、当初は彼の2人の兄弟も共犯と見られており、3兄弟が3人の女性を監禁し、 セックス・スレーブ(奴隷)として扱っていたと報じられたのだった。しかしながら、犯行は アリエル・カストロ1人によるものだったようで、 彼の家族は 誰も この長年に渡る 誘拐・監禁・レイプに気付いていなかったという。
同事件が 地元コミュニティにショックを与えていたのは、カストロが こんな残忍な犯行を続けながらも、至ってフレンドリーで、ごく普通の隣人として振舞っていたこと。 そのフェイスブックのページにも、過激な書き込みなどは一切無く、コミュニティに溶け込んだ状態を保ちながら、完全な二重生活を 誰にも悟られること無く 続けていたのだった。
最年少の被害者、ジーナ・デへズースに関しては カストロの娘の学校友達でもあり、彼女が行方不明になった際には、カストロの娘がニュース番組に登場して 「ジーナを最後に見かけたのは自分だと思う」と証言を行なっていたほど。 その娘は 父親の犯罪にショックを受けると同時に、「死刑が相当」とコメントしていることが伝えられているのだった。

カストロの自宅から見つかった数年前に書かれた遺書によれば、彼はセックス中毒であることを認めていたものの、 「自分の車に乗った3人の女性が悪い」と、被害者を責めていたことが明らかになっているけれど、 カストロ同様に、地元の人々の怒りを買っているのが警察の対応。 というのも、クリーブランドの近辺では過去数年に何人もの少女、女性が失踪しているにも関わらず、 警察は 「空家であるはずの家の中で、助けを求めている女性が居る」 といった通報を 過去に何度も受けながら、 十分な対応をしていなかったことが明らかになっているのだった。


このクリーヴランドの誘拐&監禁事件がきっかけで、今週大きくフォーカスが当たったのが ヒューマン・トラフィッキング(人身売買)や モダンデイ・スレイバリー(現代版奴隷制)。
現代社会は、かつての奴隷制時代よりも 人身売買される奴隷人口が多いと言われるけれど、 今週はニューヨークでも、家出した17歳の少女を 男性がブロンクスのアパートに監禁し、 売春を強要していた罪で逮捕されているのだった。

ヒューマン・トラフィッキング、モダンデイ・スレイバリーというと、このような売春絡みの組織のイメージが強いけれど、 実際には驚くほど身近なレベルにも存在しているもの。 例えば、数年前にニューヨークのロング・アイランドに住む裕福なカップルが逮捕されたのが、住み込みのベイビーシッターを 奴隷扱いしていたという罪。このカップルはベイビー・シッターのパスポートを取り上げ、 外界と接触させないようにして、ろくに給与を支払わないだけでなく、休日も与えず、食べ物もごく僅かな残り物を与えるだけの 待遇をしており、ベイビーシッターが不法移民であることを利用して、「警察に通報する」と脅しながら 明らかに人権を無視した待遇で扱ってきたのだった。
当時のニューヨークでは、このカップルの逮捕に驚いて、ベイビーシッターの待遇を改善した家庭が少なくなかったと言われるけれど、 このような 人を人と思わない待遇をする傾向にあるのは、良家ではなく、もっぱら金融等、ニューリッチ・タイプの モラルが欠落した富裕層。 しかも恐ろしいのは、そうした待遇が犯罪に当たるとも考えずに、夫人同士が どうやったらベビー・シッターを 最低の待遇で、長く働かせることが出来るかを 世間話として情報交換するような罪の意識の無さなのだった。

ベビー・シッター以外でも、アメリカの大学留学のスポンサーになると偽って、後進国から若者を連れてきては、 理由をつけてレストランで働かせ、家でも使用人として使って、毎日 無給で18時間労働を強いるような、 ヒューマン・トラフィッキングが非常に多いのが昨今。
移民の若者が奴隷扱いされても逃げ出せないのは、移民法に対する正しい知識が無く、 「雇い主が通報すれば、ヴィザが切れている不法移民は逮捕され、劣悪環境で拘留される」といった 、 誤った情報を植えつけられているためと指摘されているのだった。

農業、畜産業の世界でも、 「アメリカに留学しながら、農畜産業を学ぶチャンス」というプログラムで、 後進国から若者のグループを連れてきては、ヴィザが切れるまで最低待遇かつ、無給で 扱き使うといった行為が 堂々と行なわれていたりするけれど、今では、そんな被害に遭っている 移民救済のボランティア・グループが 活発に 活動していることも 伝えられているのだった。



今週、それ以外に大きく報じられたのが インターネットを使った21世紀バージョンの銀行強盗のニュース。
同事件では、犯人グループは先ず VISAとマスター・カードのプリペイド・デビット・カードを発行している クレジット・カード・プロセス会社をハッキング。 次に銀行をハッキングして、 プリペイド・カード支払い用口座の 引き落とし限度額を大幅にアップさせているのだった。 そうすることによって可能になるのが、デヴィッド・カードを使って通常の銀行のATMマシーンから、キャッシュを引き出すという形で行なわれる銀行強盗。
まず第一回目に同犯罪が行なわれたのは、2012年12月21日で この日に 世界各国の 4,500台のATMから 引き落とされた金額は 約5億円。 次いで2月 19日に行なわれた際には、世界中で合計 約40億円が盗み出されたと言われるけれど、 ニューヨークでも、2,904台のATMマシーンから 10時間の間に、約2億4000万円が 引き出されているのだった。

世界各都市で、同犯罪の加担者が どういったネットワークで結ばれていたのかは、未だ操作中であるけれど、 ニューヨークでは、2度目の犯行時に撮影されたビデオから、続々と逮捕され始めているのが事件に関わった犯人達。 写真上は、今週木曜のニューヨーク・タイムズ紙の表紙を飾った 犯人2人であるけれど、見ての通り、盗んだ札束を横に置いて、 得意気にポーズをしているのだった。

現時点でニューヨークで逮捕された容疑者8人は、いずれも高卒で 前科があるのはたった1人。
彼らはそれぞれ スクール・バスのドライバー、ドミノ・ピザのデリバリー、Kマートの従業員といった低賃金の職に就いていたというけれど、 突然大金を手にした犯人達が、何をするかといえば、湯水のように使うこと。 彼らは昨年のクリスマスから、突如高級車を乗り回し、ロレックスの時計をし、マイアミで豪遊するといった贅沢を始めたという。
そして彼らが それぞれ携帯電話で撮影した、ラグジュアリー・グッズや豪遊の様子の写真は、 警察側の犯行立証の証拠として 大きく役立っていることも指摘されているのだった。



同事件の犯人達のように、今や何でもかんでも携帯電話で写真を撮るのは 現代人の習性。 事実、世界中で1日に最も多くの写真を撮影しているカメラは、アイフォンであるという。
そして多くの人々が好んで被写体にするものと言えば フードであるけれど、 トロント大学のウーマンズ・カレッジ・ホスピタルのヴァレリー・テイラー博士が先週明らかにしたのが、 インスタグラムでフードの写真をアップする ”フードスタグラミング” や フード・ブログを 熱心に行なうことにより 食障害や 肥満に繋がるケースがあるということ。
いかにも美味しそうなフードが出てくれば、 誰もがスナップしたくなるけれど、テイラー博士も それはごく一般的な行為として認めているのだった。 博士が問題視しているのは、フードをスナップすることが 食事や社交の目的になるほど重要になっている人で、 フードのビジュアルに関わる時間が増えると、それが不必要に食欲を煽るきっかけになることは、 テイラー博士以外の ドクターも指摘しているのだった。

アメリカでは、ここ数年 ”フードポルノ” という言葉が一般的になっているけれど、 これは、ポルノグラフィーが性欲をそそるのと同様に、食欲を猛然とそそるフードのビジュアルのこと。 それを撮影してブログに載せるために、 ドーナツやカップケーキを 何度も違う角度から、 かじっては撮影することを繰り返したり、 隣のテーブルの人がオーダーした美味しそうな料理まで 撮影させてもらおうとするなど、時に食べることをそっちのけで 食欲をそそる写真の撮影に情熱を傾けている人々は 決して少なくないのが実情。
そして そんな写真を撮り続けるために、常に新しいフードを探しては そこに出掛けることが、 生活の中心とは言わなくても、余暇の中心には なっているようなのだった。



ところで、モダンデイ・スレイバリーにフォーカスが当たった今週、ニューヨーク・タイムズ紙がビジネス欄で報じたのが、 今や消費者が、商品の生産国における労働環境や、フェア・トレードにも厳しいモラルを持ち始めたということ。
4月末にバングラディシュのファクトリー・ビルディングが崩れて、1000人以上の死者を出したニュースは アメリカで大きく報じられたけれど、それもそのはずで、今やウォルマートに代表されるアメリカの大衆ディスカウント・ストアや、 大衆アパレルの生産の大半を請け負っているのがバングラディシュ。 現在バングラディシュは、中国に次いで世界第2位のアパレル輸出国になっているけれど、それと同時に問題視されているのが 現地の劣悪な労働環境。 バングラディシュでは、昨年11月にも 工場の火災で100人以上の犠牲者を出したばかりで、 4月末の事件を受けて インターネット上では、 現地で安価に商品の生産を行なっているギャップ、H&Mに対して 労働条件の改善を求める署名が、87万5000人から寄せられているのだった。
その抗議内容は、企業側がバングラディシュの月給37ドル という最低レベルの賃金を利用して、 多大な利益を上げながら、火災対策さえ出来ていない工場で現地の人々を働かせているというもの。 また、ヨーロッパでも同様の抗議が バングラディシュで生産を行なうベネトン、H&M等に対して行なわれているけれど、 消費者団体だけではなく、今月に入ってからはアメリカのカトリックの団体も、大手小売チェーンが生産国で行なっている非人道的なビジネスに対する 不快感を書面で表明したことが明らかになっているのだった。

アメリカでは、コーヒー、チョコレート、コットンといった分野で、フェア・トレード、すなわち 商品を買い叩く事無く、生産に見合う フェアな価格で入手していることが、 ”オーガニック” 同様に 消費者の間で、 購入のポイントになって 久しい状況。
フェア・トレードによる品物を購入するためには、農薬を使わないオーガニックの食材同様、 多少余分な価格を支払っても構わないという 消費者は増え続けているのだった。 それだけでなく 消費者団体が、生産の労働条件についても ソーシャル・メディアを通じて 大手企業に圧力を掛け始めたというのは、 歓迎すべきムーブメント。
アイフォンが引く手数多だった昨年春には、当時中国の生産工場で起こっていた劣悪な労働状況の改善については、 今ひとつ消極的だった米国消費者であるけれど、今回は深刻なバングラディシュの現状を受けて、 改善しない企業に対する 非買運動をほのめかす等、かなり厳しい姿勢で臨んでいるのだった。
そのアイフォンやアイパッドの生産については、昨年末からの需要の目減りという形で 状況が改善されそうな気配なのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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