May. 14 〜 May. 20 2007




” お金で買う眠り ”



今週の大きなニュースとしては、移民法改正案が下院提出されて、不法移民の合法化に道を開いたことが挙げられるけれど、 これは蓋を開けてみれば それほど不法移民たちが喜ぶには値しないものである。 というのも 罰金5000ドル(約60万円)を支払い、本人、もしくは世帯主が出身国に戻り、手数料を支払ってヴィザの発給を受けなければならないことになっており、 新たに発給されるヴィザも 就労可能なヴィザではあってもグリーン・カードではないので、期限付きのものなのである。
その一方で アメリカでは昨今、 IRS(国税局)が 移民局には通報しないことを保障して 不法移民からの納税を受け付けている。 不法移民が自ら税金を支払おうとする理由は、税金を納めていれば やがてヴィザ取得へ道が開けたり、 強制出国を免れる手段になると信じているためであるけれど、この可能性は移民局によって否定されているものである。
でも、こうした政府の不法移民への対応を見ていて感じるのは、アメリカが 苦しい国家予算の 財源として不法移民を利用しようと動き始めたということ。 罰金5000ドルから来る収入もさることながら、不法移民が一度就労ヴィザを取得すれば その後は例外なしに所得税を支払う義務が生じる訳で、 増税をしなくても税収がアップするのは、頭で計算するまでもなく 理解できることである。

こうした表向きの正義を謳った税収アップ法案として 現在ニューヨークで浮上しているのは、ストリッパーにライセンスを設けるというもの。 これは 職業斡旋を装った人身売買組織がロシア、北欧、東南アジア諸国から不法入国させた女性達を、 風俗ビジネスで強制労働させている実態を受けての法案と言われており、ストリッパーとして働くにはニューヨーク州から発行された ライセンスを必要とし、ライセンスを持たないストリッパーを雇えば、店側にも罰金が科せられるというのがその内容である。
でも実際には、同法案は 来店客からのチップで多額の、そして未申告のキャッシュ収入を上げているストリッパーから キッチリ税金を取り立てるのが本当の目的 と言われており、 ニューヨーク・タイムズ紙には この法案について取材された ストリッパーが 週に3日働いただけで、8000ドル(106万円)の月収を上げているという例が載っていた。 でもスコアーズやペントハウス・クラブのような大手の、しかもビジネス接待が多いクラブになると、どんなにビジネスがスローな夜でも 平均1000ドル、実入りの良い日は 「1晩で3000ドルは下らない」 と言われるのがストリッパーの収入。 このうちの殆んどがキャッシュ収入と言われるから、これに対して課税した場合、衣装代などが必要経費として差し引かれても、 かなりの税収があることは確実なのである。
当然のことながら 多くのストリッパー達はこの法案に反対していると言われるけれど、その反面、 「ニューヨークはストリッパーの数が多くて競争が激しすぎる」とボヤくストリッパー達には 同法案は歓迎されているという。 中にはこんな法案が出来たら、若くてキレイなストリッパーが皆、ラスヴェガスやロサンジェルスに行ってしまうと 危惧する男性客も居るというけれど、実際のところ ニューヨークは 物価や家賃を反映してか、最もチップが高い街で 例え税金を支払っても 他の都市で働くより ずっと儲かるとのことである。

さて話は全く変わって、先日フランス語のクラスメイト達と話し込んでいたら、その場に居た8人のうち4人が 入眠剤を服用しているという事実が判明して、 かなりビックリしてしまった。 こんな話題になったのも、私が 「最近は十分に睡眠が取れないから、覚えた単語を直ぐ忘れる」と言ったところ、 そのリアクションとしてクラスメートが 「何(の入眠剤)を飲んでいるの?」 と訊いてきたため。
「夜眠れない」というのには 「寝ようと試みているのに、ベッドに横になっても寝入ることが出来ない」というのと、「寝るのが遅くなって、時間的に十分な睡眠が取れない」 という2種類があるけれど、私の場合は典型的な後者で 4〜5時間しか睡眠時間が取れない日は少なくないのである。 なので、慢性的な寝不足になっているのは 昨今特に身に染みて実感すること。
でも私のクラスメートのうちの4人は、ベッドに入っても 身体は疲れているのに 眠りにつくことが出来ないという 前者のタイプで、 タイレノールPMやルネスタ、アンビアンといったTVCMで馴染みのある入眠剤を服用しており、 「タイレノールPMは何処にも痛みが無いなら使わない方が良い」などと、情報交換をしていたのだった。
この4人のうちの2人は 未だ20代で、眠れない理由を 「ストレス」 、「カフェインの取り過ぎ」などと説明していたけれど、 自分とは違った意味で ”眠れない人” がこんなに居て、しかも20代のうちから不眠症が始まっているという事実には、正直なところ 驚いてしまったのだった。

実際、アメリカでは入眠剤 が製薬会社の大きな収入源になっているようで、昨年1年間の処方箋入眠薬の売り上げは 40億ドル(約4800億円)に達しているという。
更に心地良い眠りを模索する人々が、枕や、ベッド、アイマスク、眠りを促す音響効果マシン、アロマ・セラピー、 カシミアのパジャマなどの快眠グッズに費やすお金は全米で200億ドル (2兆4000億円) だそうで、 人々に眠りを提供することは 言うまでも無く メガ・ビジネスになっているのである。
英語では不眠症のことを ”Sleep Disorder / スリープ・ディスオーダー” というけれど、現在 スリープ・ディスオーダーと診断されるアメリカ人の数は 7000万人。大人の3人に1人の割合であるという。
セント・レジス・ホテルには顧客のために20種類もの枕を用意していると言われるけれど、 ラグジュアリー・ホテルはいち早く、快眠の追求を取り入れ始めたビジネスで、その努力は80年代に既にスタートしていたいう。
その一方で、ラグジュアリー・スパ・ファインダー誌によれば、2007年のスパ・トレンドのトップは ”眠り”。 この”眠り”というキーワードには、不眠症の治療から、眠りそのものの提供までが含まれているという。
また人のトレンドはペットにも移行すると言われている通り、目下ペットにも快眠を提供するビジネスがどんどん 登場しているとのことで、人もペットも ストレスが原因で 快眠を求めているというのが世の中の現状のようである。

とは言っても、こうしたお金で買う眠りというのは決して安くはないのが実情である。
例を挙げれば、かつてはビジネス・エグゼクティブの朝食や昼食を、パワー・ブレックファスト、パワー・ランチなどと呼んだものだけれど、 これを受けてパワー・ナップ(昼寝)なるものを提供するマシーンとして登場したのがエナジー・ポッド。(写真左)
身体のポジションを自在に調節できる上に、ドーム型のカバーが降りてきて 昼寝中のプライバシーが守れるという このマシーンは20分のパワー・ナップが終了すると、緩やかな音とバイブレーションで 起こしてくれるというもの。 その後頭がスッキリして、エネルギーも満ちてくるというもので、ベッドより効率良いナップが出来るので メーカー側はオフィスだけでなく、自宅での使用もプロモートしているけれど、これ1台のお値段は8000ドル。
ちなみに同じマシーンは、2004年にエンパイア・ステート・ビル内に昼寝専用サロンとしてオープンした ”MetroNap / メトロナップ” でも 使用されているものである。
またマンハッタンのアッパー・ウエスト・サイドには、今年1月にYelo (イエロー)という 眠りのスパがオープンし、 リフレクソロジー+アロマセラピー+20分のナップで77ドル、ナップだけならば20分で12ドルという価格になっている。
こうしたサロンは オーバー・ワーク、オーバー・ストレスの人々をターゲットにしたものでであるけれど、 夜 十分な睡眠が取れない分、昼間 眠たくなる不眠症の人にとっても、 このような昼間に短時間の眠りを提供するビジネスは、 ありがたいものだという。

眠りについては、以前 ビューティーのセクションの記事 ( 肥満、老化、ストレスへの最も確実な特効薬! 今、見直される眠りの重要性) でも特集したことがあったけれど、 お金を払わずに不眠症を治すには、まずは快適なベッドルーム作りから始まるようで、風通しが良い、静かな部屋で、 窓から外の光が入らないようにカーテンやブラインドを設置し、TVやコンピューターのような電器製品とは隔離されているのが理想的である。
更にベッドルームではTVを見たり、本を読んだりなど、眠る以外の行為は控えるべきで、決して厚着をせず 通気性、吸汗性に優れた素材を身に着けることが大切であるという。
また眠る 3時間前以降のエクササイズやカフェインの摂取は控えるべきで、胃に負担が掛かる食べ物を夕食に取るのも 不眠症の原因になるという。 そもそも人間はエネルギーの約70%を食べ物の消化に使っているのだそうで、 脂分の多いものなど消化に時間と負担が掛かるものを食べれば、消化にエネルギーが使われている間は 仕事の効率が落ちたり、不快感を伴う場合さえあるもの。したがって当然、安眠も難しくなる訳である。 ジュース・ダイエットが身体の浄化と不眠症治療に効果的といわれる一因は、栄養分を液体で摂取することによって 消化器官の負担を大幅に軽減させるためである。
眠りを促すフードと言われるのは バナナなど 脂分を含まない炭水化物 とミルクで、 アルコール類は 直ぐに眠りにつけても 眠りが浅くなる上に、REM睡眠が取り難くなるため 少量以外は奨励されないもの。
更に快眠のためには、眠る時間の数時間前から気分が高揚するようなアップ・ビートな音楽や 精神的な興奮を煽るアクション・ムービー、ホラー・ムービーを避けて、 静かなクラシック・ミュージック、ニューエイジの環境音楽などを聴くこと、ぬるい温度での入浴、 リラクセーションのためのマッサージなどが効果的であるという。

さて、日ごろから寝不足の私が身体の疲れを取るために12時間睡眠を取ったのが先週の土曜日。 友人達と食事をした後、飲みに行って 帰宅したのは午前1時過ぎだったけれど、ゆっくりお風呂に入って、 アラームをオフにして、眠れるだけ眠ろう!という硬い決意のもとに眠ったところ まず一気に8時間眠って 1度目を覚ましたけれど、そこから更に4時間眠り続けてしまったのである。
自分では、「こんなに疲れていたんだ」と思って反省してしまったけれど、友人に言わせると「8時間以上眠れるのは健康な証拠」なのだそうである。
でもこの12時間睡眠の後、再びお風呂に入ったら 寝ている間に日ごろと違う新陳代謝が行われていたようで、 身体の皮膚が消しゴムのカスのようにボロボロ剥けて来たのにはビックリしてしまったのだった。 そもそも私は AHA入りのボディ・ローションをつけているし、頻繁にボディ・スクラブもしているので、 穏やかなピーリングを促す努力はしているけれど、ふくらはぎの皮膚が日焼もしていないのに ポロポロ剥けて来たというのは これまでに無い経験だったのである。
これで、眠りの大切さを実感した私は、以来 暫くご無沙汰していた7時間睡眠を復活させることにしたけれど、 REM睡眠が取れているせいか、凄くクリアな夢を見るようになったのが自分で自覚する最大の変化である。

それにしても、ふと思うのは 水にしても、コーヒーにしても 睡眠にしても、かつては無料、もしくはタダ同然で手に入っていたものに対して、 昨今 いかに人々が大金を支払っているか?ということ。
ガソリン価格の高騰が嘆かれるアメリカだけれど、輸入物のボトルド・ウォーターやデザイナーズ・ウォーターと呼ばれるファッショナブルな ペットボトルは ガソリンよりも高額なのに誰も文句を言わずに支払っているもの。 コーヒーにしても、かつてはオフィスのコーヒー・マシンで無料で飲んでいたところを、スターバックスで1杯4ドルを支払って カフェ・ラテやらカプチーノを購入している訳である。 この上に昼寝まで 20分12ドルなどと言うビジネスが登場していることを思うと、滑稽にさえ思えてしまうけれど、 ニーズを見出して、付加価値さえつければ 本来タダのものでも ビッグ・ビジネスになるのは紛れも無い事実なのである。





Catch of the Week No.2 May : 5 月 第 2 週


Catch of the Week No.1 May : 5 月 第 1 週


Catch of the Week No.5 Apr. : 4 月 第 5 週


Catch of the Week No.4 Apr. : 4 月 第 4 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。