May 12 〜 May 18 2008




” レイオフのソーシャル・インパクト ”


今週もアメリカでは 様々なニュースがあったけれど、今日ニューヨークで行われていた世界最大のエイズ・チャリティ・イベント、 エイズ・ウォークに参加していたゲイ・ピープルにとって 最も センセーショナルなニュースだったのが、 木曜にカリフォルニア州最高裁が、ゲイの婚姻を禁止した法律が憲法違反に当たるとして、ゲイの結婚を認める判決を下したこと。
これを受けて、早速レズビアン・トークショー・ホストで、2年前にはオスカーのホストも務めたエレン・デジェネラスが 長年のガールフレンドで女優のポーシャ・デ・ロッシ(「アリー・マクヴィール(邦題:アリー・マイ・ラブ)」でブロンドの弁護士、ネルを演じた女優) との結婚を発表していたけれど、もちろんこれに反対するキリスト教保守派を始めとする団体は既に この判決を覆すべく動き始めていることが伝えられていたりする。
その一方で、このところ売り上げは落ちているものの ストレート男性向け雑誌の先駆者的存在であるプレイボーイ誌の発行元、 プレイボーイ・エンタープライズが、早ければ来月から ホモセクシュアルの男性をターゲットにした ゲイ・ポルノ専門のケーブル・チャンネルをスタートすることを発表。 イメージを守るために「プレイボーイ」 という名称は使わないとの事であるけれど、同社のスポークマンは、 「セックスにおけるパーソナル・チョイスの自由を反映させたプロジェクトである」と語っているという。
でも実際には 社会的にゲイのポジションが認められ、ゲイであることをオープンにする人々が増えたのに加え、 経済力のあるゲイ男性市場に未だ開拓の余地があることに着眼したプロジェクトであるのは言うまでも無い事実である。

さて、アメリカは来週末に メモリアル・デイの3連休を控えているけれど、このホリデイは”メモリアル”というだけあって、 本来の意味は主に戦争で失われた命を追悼する日。同時にアメリカでは 夏の到来を意味するホリデイで、 多くのビーチがこの週末を境に解禁となり、家族や友人達が集まって今年初めてのバーベキューを行うのもこの週末である。
もちろんこの3連休を旅行に当てる人々も多いけれど、アメリカの観光地の中で リセッションに突入してから 徐々に客足が遠のいていると言われるのがラスヴェガス。 かつては毎年のように旅行者数、コンベンションの開催数を増やし続け、「リセッション・フリー(リセッション知らず)」と言われて来た ラスヴェガスであるけれど、街全体の収入は2005年をピークに、ホテルの宿泊収入は2006年をピークに 徐々に 下降線を辿っており、まだまだ沢山の人々が訪れてはいるものの、1人当たりが 使って行く金額が確実に減っていることも伝えられているのだった。 このため、エッフェル塔をかたどったホテル&カジノ、パリスでは1セントでプレーが出来るスロット・マシーンが登場していることも レポートされているけれど、その一方で、現在建設中のホテル&カジノのプロジェクトは資金繰り難から 大幅に遅れていることも指摘されていたりする。
その反対に、リセッションになっても一向に客足が衰えないと言われるのはディズニー・ワールド、ディズニー・ランドを始めとする ウォルト・ディズニーのテーマ・パーク&リゾート。
そもそも親会社のウォルト・ディズニー自体がリセッションに突入した2008年に入ってからも 売り上げを伸ばし続けていることが 報じられているけれど、テーマ・パーク&リゾート部門は今年1月から3月までの四半期に27億ドル(約2700億円)の売り上げを記録し、 前年と比較して33%という大きな伸び率を見せているという。 なので、ディズニーについては「リセッション・フリー」という肩書きが相応しいと言えるけれど、 これについては、「親達がリセッションで以前ほど子供に物を買ってあげていない償いの気持ちから、バケーションの行き先を 子供の好みで選んでいる」という説もあれば、「子供に物を買って欲しいとせがまれた時に、 もう直ぐディスニー・ランドに連れて行ってあげるから我慢しなさい、と言ってあしらえる」 という説なども聞かれているのもまた事実である。

さてそのメモリアル・デイをいつもよりも重たい気持ちで迎えているであろうと察せられるのが、レイオフされてしまった人々。
2008年に入ってからアメリカでは 24万の仕事が失われたとレポートされているけれど、 特にニューヨークに関しては金融業界で多数のレイオフがあったことは以前もこのコラムで触れた通り。
こうした人々にとってメモリアル・デイの休日がどうして気が重いかと言えば、仕事をクビにされて旅行に行くお金が無いのではなくて、 メモリアル・デイの休暇で久々に会う友人や家族に レイオフされたことを話すべきか?否か?、話すとしたら 何て説明すれば良いか? に思いを巡らせているためだという。
このことは今週、友人を交えて一緒に飲みに行った男性が話していたもので、 彼は未だ29歳の若さであるけれど、見るからに金融で働いていた雰囲気が漂う グルーミング&身なりの良さで、なかなかのグッドルッキング。 彼がレイオフされたのはサブ・プライムのダメージが少なかったゴールドマン・サックスで、 以前ゴールドマンで働いていた私の友人とは職場仲間として知り合ったとのことだった。
でも レイオフされると 今もゴールドマンで働く友人には連絡する気になれないのだそうで、 最近は 別の会社で働いている”元ゴールドマン”、もしくは 同じくレイオフされた友人などとよく出掛けているという。
その彼が言っていたのが、メモリアル・デイに 毎年恒例で彼のファミリーがハンプトン(ニューヨーク郊外の高級リゾート地)の サマーハウスで行うバーベキューで 久々に家族に会った時に、果たして自分がレイオフされたと話すか?話さないか?で迷っているということ。
奇しくも今日、5月18日、日曜付けのニューヨーク・タイムズのスタイル・セクションにも全く同じような記事が掲載されており、 レイオフというものが経済状態だけでなく、ソーシャル・ライフにも影響することを実感させていたのだった。

ニューヨーク・タイムズの記事では郊外に住む男性がレイオフされて、スーツ姿でバスを待つことが無くなって、 平日にジーンズ姿で歩いているのを見た隣人が 「何て声を掛けて良いか分からない」と話していることや、 女性の方がレイオフをあっさり周囲の人々に話す一方で、男性は他人のレイオフの話を聞いているのさえ 心地良くない表情をする といったこと、 更にはカップルのうちのどちらかがレイオフされた場合、「1人は家に居て子供の世話をしないと・・・」と言い訳する傾向があるなど、 幾つかの言い訳のパターンが掲載されていたのだった。
でも、元ゴールドマンの男性の話を先に聞いてしまった私としては、正直なところ ニューヨーク・タイムズの記事の内容が かなり退屈な読み物に感じられてしまったのだった。

この元ゴールドマン男性は、金融業界&グッドルッキングということで、話を聞けばレイオフ前はかなり華々しく遊んでいたようで、 シリアスではないガールフレンドが4〜5人居たようだけれど、 レイオフされたことを話したのはそのうちの1人で、話した途端に相手の態度が変わって 「言わなければ良かった」と後悔したという。
また興味深かったのは、彼が 「 自分の仕事のステイタスについて適当にウソを付くことが 如何に難しいか」と語っていたことで、 レイオフ直後に 未だに人気のクラブ、マーキーに出掛けた彼は その場で会った女の子に「仕事は何?」と訊かれて、 「金融だけど、つい最近レイオフされたばかり」と正直に答えてしまう自分に驚いてしまったという。
かつては毎晩食事やクラブに出かけるのが仕事のストレス解消になっていたという彼だけれど、レイオフされてからは ソーシャル・ライフがめっきり大人しくなってしまったそうで、その理由のひとつは 「今の自分に自信が持てないから、 レストランやクラブできれいな女の子をみつけても引っ掛けられないと思うし、それだったら遊びに行く意味が無い」というもの。
とは言っても彼はダウンタウンのドアマン付きコンドに暮らしていて、サブ・プライムではないローンは払っているものの、 暫く生活には困らない程度には蓄えがある身。世の中にはもっとずっとお金に困っている人が沢山居る訳だから そんなに引け目を感じなくても・・・と私は内心思いながら話を聞いていたのだった。 彼によれば 金融の人間というのは 往々にして 自分の仕事や職場環境が 嫌いなもので、何時かは辞めたいと思っているものだけれど、別の仕事をするために自分で辞めるのと 会社からレイオフされるのは 精神的なインパクトが全く異なるという。
彼のセオリーによれば、そもそもレイオフというのは 仕事の能力が無いからされるものではなく、 アンラッキーだから されるケースの方が多いのだそうで、 金融の世界では アンラッキーだということは ルーザー(負け犬)に等しいという。 したがって彼自身も かつては レイオフされる同僚を 「ルーザー」 と思って見ていて、心から 同情したことなど 無かっただけに、 ある日突然、自分もルーザーという目で見られることになったのには かなり落ち込んだという。
また彼によれば、レイオフされてからは「UBSが6500人のレイオフ」などというニュースを聞く度に 気分が良いそうで、「金融のレイオフが増えると再就職の競争が厳しくなるんじゃない?」という私の指摘にも、 「そんな風に考えたこともなかった」などとケロッとしているのだった。
「次に仕事をするならもっと小規模なヘッジ・ファンドで働きたい」と言っていた彼だけれど、 仕事を見つけてから 真っ先にしたいと思っているのが 「未だレイオフについて話していないガールフレンド達に 自分がレイオフされたことを話して、その反応をチェックすること」 とも語っていたのだった。

そんなレイオフ話を聞かされた後なので、この日のワイン・バーの支払いはもちろん割り勘だったけれど、 ふと気付くと、元ゴールドマンの彼も、私の友人も 私も全員 グッチの財布を使っているのだった。
聞けば、ゴールドマン・サックスでは、Gucci の G が 「Gain / 稼ぎ、勝つ」を意味するとして好まれ、 ルイ・ヴィトン の L は「Loss, Lose / 損失、負ける」 を象徴するとして、グッチの財布の愛用者が多い反面、 ヴィトンの財布を敬遠する傾向があるとのことだった。
いろんな縁起のかつぎ方があるものだと感心してしまったけれど、 確かにそんな風に縁起をかつぐ世界でアンラッキーだと見なされるのは屈辱的なもの。 私もかなり縁起をかつぐ方なので、自宅に戻った後に 万一アンラッキーのオーラ が 付いて来た場合に備えて 思わず塩を降りかけてしまったのだった。
良く考えてみると、元ゴールドマン男性には失礼な行為だけれど、 アンラッキーな人間がレイオフされるというのは彼の展開した説。 そして、私にとってこの説明はある意味で非常に理にかなったものに感じられたのである。

ところで この日話題になったレイオフに、ベア・スターンズを辞めてリーマン・ブラザースに移った20代のトレーダーが、 ベア・スターンズが安価で買収され、事実上崩壊した後のメディアとのインタビューで、「I got last laugh ! (最後に笑ったのは自分!)」という コメントをしたのが顰蹙を買って、リーマン・ブラザースからクビを言い渡された というものがあったけれど、 アメリカという国は、人種差別、性差別など差別が理由でクビを切るのは 労働法に違反すると同時に、 クビにされた側が訴えることが出来るケース。
でも 同じ仕事の能力に関係しない理由でも、「態度や言い分が気に入らない」、「人間的に嫌いだ」という理由で クビにするのは 合法である上に、真っ当な言い分として まかり通る社会なのである。





Catch of the Week No. 2 May : 5 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 May : 5 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Apr. : 4 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Apr. : 4 月 第 3 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。