May. 11 〜 May. 17 2009




” Food & Romance ”


今週のニューヨークでは週末になって 再びH1N1インフルエンザで閉鎖される学校が3校出たことが 報じられているけれど、金曜の時点で感染が確認されたのはこのうちの1校における5人。 もう1校は欠席者が200人を超えているものの、親が感染を恐れて子供を休ませたケースが多く、実際の感染状況は把握されていないのが実情。 残りの1校は インフルエンザの症状を訴えた生徒が 29人出たものの、未だH1N1ウィルスへの感染は確認されていないのだった。 でも日曜に入って、ニューヨーク州で初のH1N1ウィルスによる死者が出たことが報じられ、 その他の学校でも 父母の間で学校閉鎖を要求する声が高まっているという。

アメリカ全体で 今週大きく報道時間が割かれていたのが、既に過去数週間に渡って報道されている ブッシュ政権下で行われていたアメリカ軍による拷問についてで、今週になってから民主党の ナンシー・ペロッシ下院議長がこれを容認していたことが報じられ、その一方で政権の透明化を謳っていたはずのオバマ大統領が 拷問写真を非公開とする決定を下し、リベラル派の反発を買っていたのだった。

でも今週エンターテイメントの世界で最も大きく報じられていたニュースと言えば、ガンとの闘病生活を続けているファラー・フォーセットについて。 5月15日の金曜には その闘病のドキュメンタリー 「ファラーズ・ストーリー」がNBCで放映されていたのだった。

ファラー・フォーセットと言えば、アメリカでは70年代後半に 「チャーリーズ・エンジェル」 のジル役で、 一躍そのヘア・スタイルが大センセーションを巻き起こし、セックス・シンボルとなった存在。
当時、アメリカで 「Farah Phenomenon / ファラー・フェノメノン(ファラー現象)」と呼ばれるほどの 大ブームを巻き起こしただけに アメリカ人にとって彼女の存在というのは やはり特別なもの。その頃思春期を迎えていたアメリカ人の部屋には 必ずと言って良いほど彼女のポスターが貼ってあったと言われるほどで、 実際、ファラー・フォーセットのポスター(写真左)は 当時1200万枚を売上げ、今もポスター売上の世界記録を持続しているのだった。
でもその彼女も今はガンと闘う身。彼女の場合、2006年にガンを宣告され、化学療法で翌年 2007年にはキャンサー・フリーになったと 思われた状態からの再発で、今回は生存の確率が極めて低いと言われる状態。 これまでにも セレブリティが 助かると分かっているガンの闘病生活をリアリティTVや著書で描く例は多かったけれど、 ファラーの場合、かなり進行したガンとの闘病生活の詳細を描いている分、特にTV関係者の間では 同番組は アメリカのポップ・カルチャーの最後のタブーと言われる ” 死 ” にフォーカスが当たっていると指摘する声も聞かれ、 従来とは全く異なる リアリティTV だと言われているのだった。

さて、話は全く変わって、今日5月17日付けのニューヨーク・タイムズのビジネス欄に掲載されていたのが、 ニューヨークの4つ星レストラン、ダニエルのシェフ、ダニエル・ブリューがマンハッタンのダウンタウンにオープンする レストラン、”DBGB” の ビジネス・サイドの舞台裏を描いたストーリー。
このレストランは 2006年にクローズしたパンク・ロックのメッカであったライブ・ハウス、CBGBから15メートルくらい離れたところに位置しており、 レストランのロゴもCBGBのロゴに非常に似ていたことから、当初はトレードマーク絡みの問題も起こっていたことが報じられていたのだった。
ダニエル・ブリューにとって10軒目であり、マンハッタン内では5軒目にして初のダウンタウン出店となる DBGBは、 リセッション時代を反映した カジュアル・レストランであるけれど、ダニエルの他のレストランに比べれば安価であっても、 普通のカジュアル・レストランに比べれば 決してリーズナブルとは言えないレストラン。 ニューヨークのイースト・ヴィレッジやローワー・イーストサイドというと、場所柄NYUの学生を始めとする 若い客層が多いエリアであるけれど、 DBGBが狙っているのは ダウンタウンのリッチなヤング・アダルト層。 大学を出て2〜3年以下の 食事にお金を掛けず、バーにたむろして騒ぐタイプの客層は お呼びではないどころか、 そんな客層の溜まり場になってしまったら、経営が成り立たないのが同店である。
このためDBGBでは、20代前半の客層を寄せ付けない手段の1つとして、店内で掛ける音楽に あえて過去10年以内にリリースされたものを 殆ど含めず、30代アップにアピールする選曲にしていることが記事に報じられていたのだった。

実際、私の20代の友達を見ているとディナーには本当にお金を掛けていなくて、バーに出かけてバー・フードでディナーを 済ませてしまう場合も非常に多かったりする。 もちろん家が裕福だったり、年上のボーイフレンドと付き合っている場合は、お金が掛かったディナーに価値を見出している場合も多いけれど、 そうでもなければ 高いお金を払って美味しい物を食べたいという願望さえ無いというのは珍しくないし、 たとえ人が払ってくれても、「高級レストランの堅苦しい雰囲気の中で食事をするのはまっぴら」 という 人は多いのである。
以前、パーティーで出会ったアート・ギャラリーのオーナーが、知り合いのアーティストのモデルで、24歳の女の子を 高級フレンチ・レストランでの 友達とのディナーに連れて行ったら、 「食材を理解していない上に、テーブル・マナーも最悪で赤っ恥をかいた」 と言っていたけれど、 具体的にこのモデル嬢が何をしでかしたか?と言えば、まずアペタイザーの上に乗ってきたキャビアを「気持ち悪い」と言って、 フォークで掻き落として食べていて、さらに テーブルに肘をついて 喋りながらフォークをクルクル振り回し、 人が食べている最中に平気で 席を立って化粧室に行ってしまったことを愚痴っていたのだった。
でも私に言わせれば 食に興味がなくて、マナーを学ぶ機会が無かったら、24歳でも こうした行いになってしまうのは仕方が無いこと。 相手のバックグラウンドも知らずに アーム・キャンデイ (社交のお飾り)として彼女をディナーに連れて行ったギャラリー・オーナーの方に 落ち度があるように思えるのだった。

以前、このコラムで ”ディール・ブレーカー” (デート相手に愛想を尽かす要因) について 書いたことがあったけれど、こうした食に対する考えやテーブル・マナーが ディール・ブレーカーになるケースは実際に非常に多かったりする。
私は今週女友達とブランチをしていたけれど、 その時に出てきたのが29歳嬢のデート話。 彼女は6月に仕事関係の資格試験を受けることになっていて、今年に入ってからは、日曜の午後は必ず家の傍のカフェで 2〜3時間 勉強をするようになっていたという。
そうするうちに知り合ったのが、ソフトウェア・エンジニアの30歳の男性。2人の最初の会話は5分程度で終わったというけれど、 2度目に会って隣のテーブルに座った時に30分程度話し込んで、その時に携帯電話の番号を交換したという。 そして3度目はカフェで待ち合わせをして、その後セントラル・パークを 2時間ほど楽しくおしゃべりをしながら散歩したとのことで、 前回彼女に会った時点では、その様子をのろけ口調で語っていたのだった。
なので 今週のブランチでは 私を含む女友達が、彼女と彼がその後どうなったか?に興味深々であったけれど、 29歳嬢はあっさりと 「It's Over!」 と言いながら、フレンチ・トーストを口に運んでいたのだった。 では どうして It's Over!になってしまったかと言えば、2人はその後 ディナーに出掛けたそうで、 その時の彼のありとあらゆることが 彼女には気に入らなかったのが原因。
まず彼は、自分でディナーに誘っておきながら、ディナーのレストランを予約しておいてくれなかったそうで、 その日は金曜の夜とあって、たとえリセッションのご時世とは言え、 行きたいと思うレストランはことごとく 「テーブルが一杯」、 「1時間待ち」 などと言われて、路頭に迷ってしまったという。 結局 お腹が空いたので、仕方なく適当なレストランに入ったところ、 相手はメニューもろくに見ないで、ステーク・フリット(ステーキ&フライドポテト)と レッド・ワインをグラスでオーダーしたそうで、 それがまた 彼女が気に入らなかった部分。 彼女は、メニューを決めるときに 「君は何にする?」とか訊いてもらって、迷っているものが2つあったりすると、 それを2人で両方オーダーして、シェアするような食べ方が好きだそうで、そうしたメニュー選びのコミュニケーションが ゼロで、ワインについても彼女への気遣いが無く、さっさと自分の分だけオーダーしたことに失望していたのだった。
更にそのエンジニアの男性はステーキが運ばれてくると、ナプキンをシャツの中にたくし込んで食べ始めたそうだけれど、 彼女が最も許せなかったのは 時折、肉をナイフで刺して口に入れていたことだったという。
この日は、彼女が彼のテーブル・マナーを呆れながら眺めていたこともあり、話も弾まず、食事が終わってあっさり家に帰ってしまい、 彼とはそれっきりになっているという。 「一緒に食事をするまでは良い人だったんだけれど・・・」 というのが彼女の弁であったけれど、 それを聞いた女友達は「エンジニアなんてそんなものなんじゃないの?」 といった冷めたリアクションをしていたのだった。
でも、話を聞いた印象では、その男性は決してデートにやる気がなくて ディナーの場所を考えなかったり、予約を入れなかったのではなくて、 予約を入れるようなディナーを日頃からしていないという印象だし、メニューをろくに見ずにステーキ&フライを頼んだ というのは、 日頃からそればかりオーダーしていると思しき訳で、要するに食べることには あまり興味が無いのは明らかなこと。 そこで、29歳嬢に カフェやセントラル・パークでの会話に ”食” というトピックは出てこなかったのか?と訊いてみたところ、 「朝食はいつもシリアルを食べていて、昼はテイクアウトが多い」というような 一般的な会話しかしていなかったとのことだった。

これをきっかけに この日のブランチの席では 食に関するディール・ブレーカー話に花が咲いてしまったけれど、 例えば、お寿司が食べられない男性をフッてしまったアメリカ人女性の話や、お寿司屋さんで ワサビを別にもらって、それをたっぷり ネタの上に乗せて食べる男性がどうしても嫌で別れた日本人女性の話。 ヴェガンの彼女に連れられて ヴェジタリアン・レストランに行くのに飽き飽きしてしていたところに、 肉食の女の子と出会い、2人でステーキを食べてすっかり意気投合してしまい、ヴェガンの女の子をフッてしまった男性の話、 何も断らないで いきなり人のお皿にフォークを侵入させて料理を取っていく女性の話、 ダイエット中だからといって 料理が運ばれてきた途端に自分の料理を両隣の人のお皿の上に取り分けて、 自分は一口程度しか食べない女性の話など、食の好みからマナーに至るまで、 様々なディール・ブレーカーが存在していることを実感してしまったのだった。
テーブル・マナーについては、やはりヨーロッパ人の方が遥かにきちんとしているので、 ヨーロッパで正式な教育を受けた人から見ると、 特にフォーマルなレストランや、フォーマルなオケージョンで食事をした場合、 相手がどの程度の出 だか直ぐに見抜けるのだという。 事実、私の知り合いのヨーロピアンの男性は テーブル・マナーがなっていないという理由で、 アメリカ人ガールフレンドをフッてしまった過去があると語っていたのだった。 彼曰く、テーブル・マナーを知らないのであれば、学ぶ機会が無かっただけなので それは仕方が無いけれど、 その女性は かなりお嬢様ぶって、スノッブな振舞いをしており、それでいてまともに食事も出来ないという ギャップに失望したのだという。

その一方で、テーブル・マナーにカジュアルなアメリカ人の間では ディール・ブレーカーになりがちなのは マナーよりも むしろ 食に対する好奇心やこだわりの違い。
食に対する好奇心やこだわりが強い人間と、そうしたこだわりや興味が希薄な人間の間では、どうしてもロマンスも芽生えないようで、 これに着眼して、昨今ではグルメのシングルを集めたマッチ・メイキング・ディナー・ビジネスもニューヨークに登場しているのだった。 この参加者によれば、「食に好奇心がある人は、人生に対しも冒険的で意欲的」と、マッチ・メイキング・ディナーで 出会える人々との共通点を語っているけれど、 こだわりがある同士というのも、一見上手く行くかと思いきや、こだわりの度合いが違うと これも全く噛み合わないようである。
こうしたパーティーやディナーの参加者は、誰もが自分を「ワイン好き」、「グルメ」 だと思っているけれど、 40ドルのワインを高いと思うワイン好きと、500ドルのワインを高いと位置づけるワイン好きの話が噛み合わないのは当然のこと。 私も、自称「グルメ」と威張っていた男性が「一度もフォアグラを食べたことが無い」と言ったのを聞いてちょっとビックリしたことがあるけれど、 「ワイン好き」 とか「グルメ」 というような 大まかなくくりで集まった場合、こうした程度の違いがメンバーの中に生じるのは 仕方が無いことなのである。

マナーに話を戻せば、アメリカ人の場合、年齢が若いとやはりテーブル・マナーについて あまり知識が無い場合が多くて、 私の友達の中には 「みっともない事をしていたら注意してね」 という人も居るので、そういう友達には マナー違反を教えてあげるようにしているけれど、 それ以外は、一緒に居て恥ずかしいと思うような場合のみ 教えるようにするのが私のポリシーであったりする。
彼女らが頻繁に行うミスとしては、食事の最中に席を立つ場合、テーブルの上にナプキンを乗せて行ってしまうこと。 みっともないので注意したケースは、ワイン・テイスティングの席で友達がグラスをブランデー・スニッファー(ブランデー・グラス)のように 中指と人差し指の間にステムを挟んで、手のひらで覆うように持っていた時。 「ブランデーは手のひらで温めて、それによって湧き上がってくる香りを楽しみながら味わうから グラスを手で覆うように持つけれど、 ワインの場合は手の温度がグラスに伝わらないように ステムを持つのが正式」と説明したけれど、 これはワイン・テイスティングの席で、その不思議なグラスの持ち方があまりに目立ったから指摘したまでで、 それ以外のケースではグラスやナイフの持ち方が間違っていても、それは自己責任と思って何も言わないのが通常である。
でも私の個人的な見解では、やはり食事のマナーがきちんと出来ない人は、食べ方もあまり上品でないし、食べ物を残す場合、 お皿の上に残った食べ物の状態の見場が悪く、どうしても食べ物を乱雑に扱ったという印象が残るのである。 これはカジュアル・レストランでは目立たなくても、高額レストランの見目美しい食器の上だと物凄くみっともなく思えるのだった。
なので、食にこだわりがある男性が高級レストランでデートをして、女性の分の食事まで払おうという時に、真っ白いテーブル・クロスの上の 女性の前のお皿に 醜く引っ掻き回されたフードが残っているのは興醒め&ディール・ブレーカーになるのは当然のこと。 したがって、 もしテーブル・マナーに自信が無い人が 粗(あら)をさらけ出したくないと思ったら、 「出された物は全て食べるべき」 というのが私の見解なのである。





Catch of the Week No. 2 May : 5 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 May : 5 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Apr. : 4 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Apr. : 4 月 第 3 週







執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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