May 10 〜 May 16 2010




” Sexless And The City ”


今週は、週明けこそは ギリシャを始めとするヨーロッパ諸国への$957ビリオン(約8兆8424億円)のベイルアウト・パッケージが株式市場で好感材料と受け取られて、 ダウが大きく値を上げてスタート。でも、週末には そのベイルアウトが不安材料に替わり、 果たしてそんな巨額なパッケージが捻出できるのか?といった疑問もさるころとながら、ベイルアウトが単なるその場凌ぎの解決策に過ぎず、 長期的にヨーロッパ経済を益々悪化させる結果となり、やがてはアメリカを再びリセッションに引きずり込むのでは?といった懸念が飛び交い、 ダウが値を下げて取引が終了していたのだった。
このため、金曜に発表された アメリカの 4月の小売、製造業の売り上げが前月比でそれぞれ0.4%、0.8%の上昇を見せたニュースも 霞んだ印象であったけれど、先週から今週にかけては、オークション・ハウスのクリスティーズで パブロ・ピカソの 「ヌード、観葉植物と胸像(Nude, Green Leaves and Bust)」(写真右)が 史上最高額である$106.4ミリオン(約101億円)で落札されたり、マンハッタンのアッパー・ウエストサイドのアパートが 1平方フィート当たりの史上最高額で買い手がつくなど、徐々にお金がある人が大金を使い始めているという ニュースが報じられてきたばかり。
でも一般のアメリカ人の消費動向と言えば、スポーツグッズ、家電製品、インテリア、食料品店、百貨店といったカテゴリーが 軒並み売り上げを下げており、小売の売り上げを引っ張っているのは もっぱら建築資材とディスカウント合戦を繰り広げる車の売り上げであることが 指摘されているのだった。


なので、一般の人々は金融業界 とは打って変わって リセッションが明けたとは思っていない状況が見て取れるけれど、 昨今 私がよく日本の知人に聞かれるのが、「ニューヨークの景気はどうなの?」という質問。
季節が穏かになってきたため、外食やドリンクに出掛けるニューヨーカーが増えているのは紛れも無い事実で、 人気のあるレストランは、1ヶ月前に電話をしてもディナーで4人テーブルの予約が取れるのは夜の9時半以降という状況は 引き続き。 また先週の母の日のギフトの売り上げも好調だったようで、サックス・フィフス・アベニューの私の担当者が 「今年の母の日商戦は忙しい」と言っていたのだった。
そうかと思えば、ニューヨーク・ポスト紙では「BYOB(ブリング・ユア・オウン・ボトル/ワイン持込可)」ならぬ、 「BYOF(ブリング・ユア・オウン・フード/食事持込可)」の 超チープ・スポットを集めた記事を掲載。手弁当で お金を節約しながら ピクニック気分で夜遊びをする ニューヨーカーを特集していたりする。

確実に言えるのは 若い世代の女性が一時ほどにはクレージーにクリスチャン・ルブタンやマノーロ・ブラーニックにお金を使わなくなってきているということ。
とは言っても、バーグドルフ・グッドマンのシューズ・セクションには今も買い物客がわんさか居る訳だけれど、 ここに来ているのは景気の影響をあまり受けない人々が多いので、世の中の指標にはならない場所であったりする。
全米の統計では、アメリカ人はリセッションに入ってから貯蓄の金額が減っていると言われているけれど、 これはもっぱらレイオフやペイ・カットで収入が減る一方で、借金の支払いや 食費で 貯蓄にお金を回すほど生活に余裕が無いため。
これに対してシティ・サーヴェイの調べによれば 18〜39歳の独身女性は 48%が「以前より貯蓄をするようになった」と語り、43%が 「お金があまれば、努めてカード・ローンなどの返済に当てる」と言っていて、 60%が「向こう6ヶ月の間に借金の金額を減らすつもりである」と 回答しているという。
また年齢に限らず女性達は リセッションを通じて 「物質至上主義やラグジュアリー・グッズよりも 家族や友人、質の高い人生に 価値を見出すようになった」と答えており、33%が「リセッション時代に 無駄を省き、生活コストを落とすことを学んだ」とも語っているのだった。

この貯蓄と節約のトレンドは、ニューヨークの女性の間にも顕著で、 「ドッグ・ウォーカー(犬の散歩を請け負う業者)を止めて、自分で犬の散歩をさせ、映画のチケットをディスカウントで買うようになった」、 「オフィスまで歩いて行き、早起きをしてランチを用意して持参するようになった」、「タクシーを使わず、地下鉄に乗るようになった」、 「外食の回数を減らすようになった」など、若い女性達がセーヴィングを積極的に行っていることが伝えられているのだった。
女性達がこれだけお金の使い方に慎重になっているのは、リセッションが明けて景気が良くなるといった展望を信じておらず、 自分が突然レイオフされたり、ペイカットなど収入が減った場合に備えているためと説明されているけれど、 それと同時に 一部の女性達については「ボーイフレンドや愛人関係にある男性から、もはや かつてのような金銭的な恩恵が期待できなくなったため・・・」 という指摘も聞かれているのだった。
事実、好況時代には ウォールストリートの金融マン達は、妻と愛人の双方に高額ギフトを購入していたもの。 これは 妻と愛人に同じ店から、同じようなギフトを送っておくと カードの請求書を見られても、口を滑らせたとしても、 浮気がバレ難いという利点があるため。 でも深刻なリセッションを乗り越えた後の男性達にとっては、リセッションの間中、高額ショッピングを我慢してきた妻の 物質的欲求を満たす義務は感じても、愛人のために大金を支払うほどの余裕は無いことが伝えられているのだった。
加えてタイガー・ウッズや元民主党大統領候補、ジョン・エドワーズなど、愛人スキャンダルで転落するセレブリティや政治家 のインパクトが強烈であるため、好況時ほどには 愛人との不倫に積極的になれないのが目下の男性側。
このため 自分の収入に加えて 男性からの+アルファで生計を立てていた若い女性達は、 その失った+アルファの部分を節約やディスカウントの利用などで埋め合わせていることが伝えられているのだった。

このように女性達が徐々に地に足の着いた、まともな経済生活を始めた結果と、リセッションを通じて 徐々にコンサバティブになってきたアメリカの現在を受けて、今、 「セックス・アンド・ザ・シティ 」の舞台である ニューヨーク女性の間でさえ 広まってきたのがセリベーション(Celibation)、もしくはセリバシー (Celibacy)。すなわち セックスをしないという風潮。
この風潮は、数年前にカレッジの女子学生の間でも流行っていたもので、 ハイスクール時代に 好奇心や友人からのプレッシャーなどでロスト・ヴァージンをした女学生が、 「本当に好きな男性と出逢うまで、もしくは結婚するまではセックスをしない」という誓いを立てるのは、 親の世代よりコンサバティブと言われる 現代の若い層を象徴する傾向として捉えられていたのだった。

これに対して昨今の もっと年上の女性達の間で徐々に広まりつつあるセリベーションは、 それまでのセックス中心の男女関係や、セックスに囚われていた自分自身をあらためて、 恋愛は性欲が介在しないピュアでロマンティックなものを求め、 自分自身の中ではセックスに囚われていたエネルギーを 他の もっとクリエイティブで充実感が得られるものに傾けるというというもの。 加えて、セックス中心でしか女性を見られない男性に対する嫌気や、ボーイフレンドとの後味の悪い別れがきっかけで セリベーション・モードになる女性も少なくないというけれど、 この風潮は 5月11日付けのニューヨーク・ポスト紙でも 「No More Sex In The City」 というタイトルで特集され(写真右)、 記事の中では、地下鉄で出逢った男性と一夜を共にし、朝 帰ろうとした時に 男性に「君の名前、何だっけ?」と訊かれたのが きっかけで、 「もうカジュアルなセックスはしない」と誓った女性のエピソードなどが紹介されていたのだった。

セリベーションは一般女性の間だけの風潮ではなく、コートニー・ラブ、レディ・ガガといったセレブリティも 公にセリバシーを貫いていることを語っていたりする。 さらに 2000年代前半に、アメリカで大人気を博したポルノ女優、ジェナ・ジェームソンや 元ニューヨーク州知事エリオット・スピッツァーを辞任に追い込んだエスコート・サービス嬢、アシュレー・デュプリーといった セックスで有名になったセレブリティでさえ、「今はセックスをセーブしている」と語っているほどで、 今や若い女性達がセーブしているのはお金だけではないことが、トレンドとして現れているのだった。

では お金を節約し、セックスを控えている女性達のエネルギーや時間が何処に注がれているかと言えば、 昨今こうした女性達をアトラクトしていると言われるのが、パーソナル・ファイナンスやヨガのクラス。 要するに女性達が昨今求めているのは金銭面や精神面の安定と健康。
そもそも 人間の欲望のレベルというのは リンクしているものでであるから、1つの欲望のレベルが下がれば、別の欲望のレベルも下がってくるもの。 したがって、リセッションで物欲のレベルが衰えた女性達の間で 性欲のレベルが衰えたとしても、 構造的には決して不思議ではないのである。





Catch of the Week No. 2 May : 5月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 May : 5月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Apr. : 4月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Apr. : 4月 第 3 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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