May 14 〜 May 20, 2012

” Facebook Is Bigger Than... ”

今週も、引き続きJPモルガン・チェースの20億ドルの損失が大きなニュースになっていたアメリカであるけれど、 ニューヨーク・タイムズ紙は水曜に その損失額が少なくとも30億ドルになっていることを報じているのだった。
また、木曜にはセンサス・ビューローがアメリカにおける人種別の新生児のデータを明らかにしたけれど、 それによれば ヒスパニック、黒人層、アジア人を含むいわゆる”マイノリティ”の新生児数が史上初めて 白人層を上回ったとのこと。 もちろん、アメリカはその人口の64.3%が白人層であるけれど、2011年7月までの過去12ヶ月のデータにおいては、 マイノリティの新生児数が全体の50.4%を占め、マジョリティになったことがレポートされているのだった。
とは言っても、人種別で最も多いのは白人層の新生児で、全体の49.6%。 したがって、この先も暫くは白人層がマジョリティの社会が続くことは間違いが無いかと言えばそうでもなく、 2001年〜2010年までの10年間でアメリカで増えた人口の92%がマイノリティという数字も明らかになっているのだった。 この増加の内訳は新生児や海外からの養子縁組に加えて、移民の存在が大きいことは言うまでもないこと。 それだけに、11月の大統領選挙では移民問題もその争点の1つになっているのだった。



さて今週金曜日、5月18日にはフェイスブックの株式がナスダックで公開となったけれど、 当初予定されていた売り出し価格は1株当たり28〜35ドル。ところがそれが火曜日には34〜38ドルに値上げされ、 最終的に決まった売り出し価格は一株38ドル。
これによって 株式公開後のフェイスブックの企業価値は、 ディズニーやフォード自動車、クラフト・フーズといった一流大手企業を超える約1050億ドルとなり、 アメリカ国内第23位の企業となっているのだった。
ちなみにアメリカ最大の企業はエクソン・モービル、次いでマイクロソフト、IBM、ウォルマート、グーグルというのがトップ5。
株式公開によって、同社創設者のマーク・ザッカーバーグの資産は193億ドル(約1兆5440億円)となり、 7年前にフェイスブックに120万ドルを投資したヴェンチャー・キャピタルのアクセルは約1000倍のリターンを得たという計算になるのだった。

しかしながら 蓋を開けてみれば、エキサイティングとは言い難い展開となったのが、金曜の株式公開。
まず午前11時の公開が、テクニカル・プロブレムで30分遅れ、正午過ぎには一時株価が45ドルを付けたものの、それからは あっという間に下降線を下り、終値は公開価格を僅か23セント上回る38ドル23セント。 しかもこの価格というのも、同社の株式公開を担当したモルガン・スタンレーが3000〜4000万という膨大な量の株式を購入し、 買い支えをした結果、やっと保たれた数字であることが明らかになっているのだった。
この公開価格を僅か23セントしか上回らない終値は、市場関係者を大いにがっかりさせたけれどそれもそのはずで、 昨年5月に株式が公開されたキャリア・ネットワークの LinkedIn/リンクトインは、35ドルの公開価格を45ドルに引き上げたにも関わらず、 初値が公開価格を84%上回る83ドル。終値は94.25ドルとなっているのだった。 また、その将来性を疑われながら株式が公開されたグルーポンでさえ、20ドルで公開された株価が初日の終値こそ26ドル11セントだったものの、 一時的に公開価格を56%上回る31ドル14セントを付けており、当然 フェイスブックにも同様の公開価格30〜50%アップが期待されていたのだった。

したがって、ファイナンス・メディアの中にはフェイスブックの株式公開を「失敗」と見なす声も聞かれたけれど、 公開前に株式を手に入れて「フリップ」すなわち、ご祝儀相場のピークで売り逃げて大きな利益を上げようと狙っていた投資家にとっては、 フェイスブックの株式公開は期待はずれ以外の何物でもなかったのは事実。 でもフェイスブックにとっては、予定していた$160億ドルを株式公開で手に入れているので、とりあえずは予定通りの結果と言えるのだった。
逆にルーザー(負け犬)扱いを受けたのが、フェイスブック株を取引するために かなりの努力と犠牲を払ったといわれるナスダック。 ナスダックは、フェイスブックが公開した4億2100万株という膨大なボリュームをさばききれず、マーケットがクローズしても 取引のコンファメーションが得られないバイヤー、セラーが続出するという失態を見せたのだった。

ではどうしてフェイスブックの株式が、パッとしないデビューに終わったかといえば、理由の1つは、 火曜に公開価格の見積もりを引き上げたことで、アナリストの多くが 企業の実態よりも株価が高過ぎるとして、 「フェイスブックが良い投資とは思えない」という指摘をメディアで展開したため。
そもそも投資というのは「安く買って、高く売る」ことであるけれど、株式公開の売り出し価格で計算した場合、フェイスブックはマクドナルド(企業価値:約913億ドル)や VISA(企業価値:約917億ドル)よりも 大きな会社であるにも関わらず、フェイスブックがユーザー1人当たりから得ている利益は年間で僅か4ドル(約320円)。 私は、クレジット・カードをプロセスするビジネスをしているので、VISAという会社が いかに一般の人々が 何気なくしているショッピングから 逐一利益を上げているかを熟知しているけれど、そのVISAカードのユーザーが フェイスブックより遥かに多いのは言わずと知れた事実。 しかも、そのユーザー1人1人が 確実に年間4ドル以上の手数料を 小売店を通じてVISAに支払っている訳で、 「フェイスッブックの企業価値が明らかにオーバーバリュー」というのは 容易に想像がつくことなのだった。


さらに同じく火曜日には GM ことジェネラル・モーターズが、フェイスブックに掲載する同社広告から 思うような結果が得られないことを理由に、広告掲載打ち切りを発表。 ジェネラル・モーターズは、アメリカ企業としては、プロクター&ギャンブル、電話会社のAT&Tに次いで第3位の広告費を誇っており、 これによってフェイスブックは年間1000万ドル(約8億円)の広告収入を失う計算になるのだった。
ジェネラル・モーターズ側は、広告を打ち切っても、フェイスブックに無料で掲載出来る会社のページは引き続きキープするとのことだったけれど、 その広告掲載打ち切り発表のタイミングが、フェイスブックの株式公開に影響したと指摘する声も多いのだった。

以下は 株式公開前に、「フェイスブックの今後の不安材料」としてアナリストが指摘していた問題点。
  1. フェイスブックは利益の87%を広告収入で得ているものの、その広告収入が伸び悩む傾向にある。


  2. フェイスブックはユーザーの50%がスマートフォンやタブレットで サイトにアクセスしているものの、そうしたモバイル・ユーザーの アクセスには広告が掲載できないため、これらのアクセスから一切収入を得ることが出来ない。


  3. 今週 ジェネラル・モータースがフェイスブックへの広告掲載取り止めを発表する以前から、広告業界では、既にいくつもの企業がフェイスブックの 広告から利益が上がらないことを理由に、その掲載取り止めを検討していることが伝えられている。


  4. フェイスブックが、株式公開で売り出した 株の 57%が、フェイスブックに早くから投資をしていたインサイダーの所有株で、 これはテック関係の株式公開では極めて高い割合。税金対策もあるとは言え、インサイダーが大量に株を売りに出すのは良いサインとは言えない。


  5. COOのシェリル・サンドバーグが古巣のグーグルから引き抜いてきた移籍組のコメントによれば、 グーグルが2004年に株式を公開した時点では、 今後グーグルがどんなビジネスを展開していくかという企業ビジョンが非常にクリアであったとのこと。それに対してフェイスブックは、 「これからどういった形で利益を増やしていくのか?」など、将来の展開が 企業内部に居ても不明瞭であるという。


上記以外にも、フェイスブックの今後に影を落とすと見込まれるのがプライバシー侵害などの訴訟。
事実、5月17日木曜には カリフォルニア州で同社に対するプライバシー侵害の訴訟が起こされており、賠償請求金額は150億ドル(約1200億円)。 これはフェイスブックがログアウトした後のユーザーの情報をトラックしていたことに対する訴えで、既に起こされていた21件の同様の訴訟を 併合したもの。
フェイスブックは、ドイツ政府からも フェイス・レコグ二ション・ソフト(写真映像から個人のIDを認識するソフト)を使用したことから、プライバシー侵害で 罰金が科せられる見込みであるけれど、フェイスブック 及び、マーク・ザッカーバーグと言えば、 これまでにも数多くの訴訟と戦ってきた存在。でも今回の株式公開で 賠償金の支払い能力を世の中に示しただけに、 今後も訴訟が増えると予測する声は多いのだった。
訴訟に巻き込まれるということは、賠償金の支払い以外に、裁判や弁護士に破格の費用を投じることを意味しており、 利益が伸び悩み始めた同社にとって、こうした訴訟を抱えることは業績悪化を招く恐れが否めないのだった。


さらに気になるのは、フェイスブック・ユーザーを含む一般の人々の同社に対する意見が、フェイスブックを将来性がある 有望企業とは見なしていないという事実。
今週発表されたアソシエート・プレスとCNBCが共同で行なったアンケート調査によれば、 フェイスブックが 「ピークを過ぎようとしている一過性のブーム」と考える人々は51%で、フェイスブックが「サービスとして生き残る」 と答えた人々の44%を上回っているのだった。
また、「フェイスブックは個人情報をプロテクトする」と答えた人々は僅か13%。フェイスブックのサイトを通じてショッピングをすることを 安全だと考えている人々は12%で、フェイスブックに1日複数回 アクセスするようなヘビー・ユーザーでも、 フェイスブックのサイトを通じて物を購入することにリスクを感じていることが明らかになっているのだった。

加えて、フェイスブックが広告メディアとしても さほど有効でないと思しき数字が、ユーザーの57%が「一度もフェイスブック上の広告を クリックしたことが無い」と回答している点。 実際、通常のウェブサイトに掲載されているターゲット広告(ブラウザの履歴に関連して掲載される広告)は、1000回のページ閲覧につき1回の割合で クリックされるというけれど、フェイスブックのページに掲載されるターゲット広告は、その半分に当たる 2000回のページ閲覧につき1回の割合でしかクリックされていないとのこと。 これがグーグルになると、その割合は1000回につき4回に跳ね上がっており、単純計算しただけでもフェイスブックに広告を掲載するよりも、 グーグルに広告を掲載した方が8倍効果が上がるということになるのだった。
にも関わらず、フェイスブックは広告費の値上げを検討しているとのことで、これによってGMのようにフェイスブックにページは持っていても、 広告は出さないという企業が増えることが見込まれているのだった。

フェイスブックの株価が週明けからどんな展開を見せるかは興味深く見守れるところだけれど、同社株式が公開された金曜は、 フェイスブック上のゲームをデザインしている Zynga / ジンガ が13.42%株価を落とすなど、テック関連株の下落が相次いだ日。 グルーポンにしても、この日 6.7%値を下げて、現時点の株価は11ドル58セントとなり、徐々に株式公開時の半分近くの値段に落ち込んできているのだった。
ちなみにグルーポンは、グーグルによる60億ドルの買収案を断っての株式公開で、株価が10ドルを切った場合、グーグルに売却していた方が 利益が上がっていた計算になるという。 でも今や同業ライバルが力をつけて、オペレーション・コストがアップしている同社は、 6月1日にロックアップ・ピリオド(株式公開後、社内株主の売買を禁止する期間)が終了することになっており、 これによってより多くの株式が市場に出回れば、その価格が下がるのは当然見込まれること。
同様の事態は5月28日にロックアップ・ピリオドが終了するジンガ、そしてフェイスブックも6ヶ月後には直面することになるのだった。

ところで、前述のアソシエート・プレスとCNBCが共同で行なったアンケート調査に話を戻せば、 映画「ソーシャル・ネットワーク」ですっかり有名なったCEOのマーク・ザッカーバーグについては、意外にも5人に1人が「彼の名前さえ聞いたことが無い」という回答。 彼を「好まない」と答えた人々は14%で、33%が彼に「好感を持つ」と回答しているけれど、これは 彼に対して「特に何とも思わない」と答えた人々と同じ数字。
その彼は、先週月曜に28回目のバースデーを迎え、株式公開の翌日である 昨日5月19日土曜日に ハーバード大学在学時に出会ったプリシラ・チャンと、 9年間の交際を経て結婚。式が行なわれたのは彼の自宅のバックヤードで、ゲストはプリシラのドクター・コース卒業のセレブレーションだと思って 訪れたというサプライズ・ウェディングなのだった。
そのゲストの数は100人弱で、メディアがジョークのネタにしていたのが、株式公開で投資家に挨拶するイベントでも フーディーズ(フード付きのスウェット)姿で顰蹙を買った彼が、さすがにスーツを着用していたこと。
エンゲージメント・リングはマーク・ザッカーバーグ自身がデザインした極めてシンプルなルビーのリングだったことも同時に報じられており、 彼の資産が膨大であるだけ、プリナップ(プリナプチャル・アグリーメント:離婚した場合の財産分与を取り決める協約)を結んでからの結婚と見込まれているのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


PAGE TOP