May 13 〜 May 19, 2013

” It's About DNA Or Money? ”


今週のアメリカでは、オバマ政権を揺るがすスキャンダルが大きく報じられていたけれど、その1つは 司法省がAP(アソシエーテッド・プレス)の20回線の通話記録を約2ヶ月に渡って収集していた というニュース。
司法省がAPの電話回線をモニターしていた目的は、2012年5月にイエメンで CIAがアルカイダのテロを阻止した報道の 情報ソースを調査しようとしたためで、政府関係者の中には 「APの報道に含まれていた国防秘密が 何処から漏れたかを調べるのは、 司法省にとって当然の義務」という声が少なくないのだった。 でも、AP側は これに対して、取材&報道権利の侵害として猛反発しているのだった。

それより大きなスキャンダルと言えるのは、IRS(Internal Revenue Service/国税局)が、 俗に”ティーパーティー”と呼ばれる、共和党保守派関連団体に対する 税額控除審査をわざと厳しくしていたことを認めて、 正式に謝罪したというニュース。
要するに IRSの審査プロセスに、政治的意図が介入したというのが このスキャンダルで、 今週半ばには IRSのトップが責任を取って辞任しているのだった。でも、それでは怒りが収まらない共和党側は、 刑事責任を問う姿勢を見せており、同スキャンダルとの関わりを否定している オバマ政権についても、 事実関係を厳しく追及する構えなのだった。

これに加えて、引続き アメリカで問題になっているのが 昨年9月11日、リビアのベンガジで起こったアメリカ領事館襲撃事件において、 政府による情報隠蔽が行なわれたという疑惑。 この3つのスキャンダルは 野党、共和党側 にとって 格好のオバマ政権攻撃材料になっていると同時に、 移民法改正、税制改革 といった大きな課題に取り組もうとしていた 2期目のオバマ政権にとっては、大きな障壁になるという見方が有力なのだった。



それ以外で、今週最も大きく報じられたのが 女優、アンジェリーナ・ジョリーが 遺伝性の 乳がん、卵巣がんを避けるために、両乳腺切除手術を行なっていたことを 3月14日火曜日付けの ニューヨーク・タイムズ紙の記名記事で告白したニュース。
「My Medica Choice / マイ・メディカル・チョイス(写真上、左)」というタイトルの記事によれば、 アンジェリーナの母親(写真上右、左側)が、2007年に 56歳の若さで 乳がんで命を落としていることを受けて、 アンジェリーナが遺伝子の検査を行なった結果、乳がんの発症率が非常に高い ”BRCA1”という遺伝子の変異が 見られたという。
通常 ”BRCA1”の遺伝子に変異が見られる場合の乳がん発症率は 平均65%とされているけれど、 ドクターによれば、アンジェリーナの乳がんの発症リスクは87%、卵巣がんが50%と診断されたという。 そんなリアリティを付き付けられて彼女が決心したのが両乳腺切除手術。 すなわち、がんの発症を恐れながら 生きるよりも、乳房を摘出することによって そのリスクを激減させる選択をしたという。

2月2日から 施術を始めたアンジェリーナは、両乳腺切除とブレスト・インプラント(豊胸手術)を 約3ヶ月掛けて行い、全工程を終えたのは4月27日のこと。
彼女は記事の中で、この手術が がんの危険に怯えることなく、子供達と長い人生を過ごすためのものであること、 そして手術の全プロセスにおいて、パートナーであるブラッド・ピットが 彼女をサポートしてくれたことを 明かしていたけれど、同時に告白していたのが 「乳房を摘出することによって、女性としての自信を失うことを恐れていた」ということ。
しかしながら、実際に摘出とブレスト・インプラントを受けて、 小さな傷こそは残ったものの、自分の健康における重要な選択を自ら行なえたこと、 それによって自分の女性としてのアイデンティティに変わりが無いことを 強く実感したという。 しかも手術後には、乳がん発症リスクが5%以下に軽減されたとのことで、アンジェリーナは 自分と同じ境遇の女性達にも 彼女が行なったようなオプションがあることを知ってもらうために、あえてその経験を 記事にしたと説明しているのだった。

同記事のリアクションは アンジェリーナの選択を 「勇気あるヒロイックなもの」と讃える声が多かったものの、 特に医療関係者を中心に多かったのが 「乳がんの遺伝子を持っているからといって、必ずしも両乳腺切除手術が適切とは限らない」という意見。
加えて、多くのメディアが指摘していたのは、アンジェリーナが記事にしたようなオプションが、 どんな女性にも平等に与えられている訳ではないということ。 アンジェリーナ自身も 記事の中で触れていたけれど、アメリカでは DRCA1、DRCA2といった 乳がんのDNAを調べる テストだけで、 その費用は3000ドル(約30万円)。 アンジェリーナのように 母親を乳がんで亡くしている等、遺伝性がんの発症率が高いケースでは、 同検査が保険でカバーされる例もあるようだけれど、それは加入しているプログラムによりけり。
その上で、両乳腺切除手術とブレスト・インプラントをした場合のコストは、2〜5万ドル(約200〜500万円)。 アンジェリーナの場合、これから卵巣の摘出も行なうようだけれど、 それについても、同様のコストが見込まれているのだった。

またコストもさることながら 多くの女性にとって、約3ヶ月を費やして両乳腺切除とブレスト・インプラントを行なうのは 時間的にかなり難しいこと。仕事のアシスタントとハウス・キーパーが居なければ不可能とも指摘されているのだった。 さらにパートナーが そのプロセスに終始立ち合う というのも、ブラッド・ピットのようなハリウッド・スターであれば可能であるけれど、 普通の夫婦間であれば、どちらかが手術を受けて働けない場合、それを補うために伴侶が 働かなければならないのは当然の成り行き。
したがって、アンジェリーナが記事で訴えたオプションというのは、殆どの女性達にとって 「あって無いようなもの」 とも言われているのだった。



この記事が掲載されてからというもの、アメリカ中のクリニックで BRCA1テストの問い合わせが殺到したことが 伝えられており、タイム誌も これを 「アンジェリーナ・エフェクト」、すなわち”アンジェリーナ効果”というタイトルで カバーストーリーにしていたほど(写真上中央)。 今週は女性が集まる場所では、必ずと言って良いほど アンジェリーナの選択とその手術が話題になっていたのだった。
このリアクションを受けて 医学関係者が説明していたのは、まず第1に 家族が がんを発症していない女性については、 大金を投じて DNA検査をする必要やメリットは無いということ。そして両乳腺切除、卵巣摘出という手術自体にも 医学的なリスクが付き物であるということ。

でも アンジェリーナのように、 DNAレベルで 非常に高いリスクが見込まれていた場合、 「オプションがあるのならば、それを選択するべき」 と思わせる記事が掲載されていたのが、 アンジェリーナの記名記事が掲載される前日、3月13日付けのニューヨーク・タイムズ紙の第1面。
これは 若くして心臓病を発症するDNAを持つファミリーが、 その原因を調べるために医学調査プロジェクトの被験者としてアプライしたという記事で、 その中に登場したリック・デル・ソントロ氏のファミリーは、兄や父親を含む男性が55歳以下、 母親や姉を含む女性が65歳以下で、全員心臓病に診断されていたとのこと。
これを恐れたサントロ氏は、 健康的な食生活をして、コレステロール値、血圧、体脂肪を いずれも低く保ち、トライアスロンを完走するほどに 身体を鍛えて、努力をすれば健康と長寿を手に入れられると信じていたという。

ところが彼が43歳の時に、当時47歳の姉が深刻な心臓病であることが発覚。 その主治医に薦められて、37歳の妹が検査を受けたところ 案の定、 心臓病と診断され、既に心臓外科医に通っていた37歳の弟は 程なく冠動脈のバイパス手術を受けることになったという。 ソントロ氏も心配になって検査を受けたところ、表面的には全く健康にも関わらず、診断結果は やはり心臓病。
これによって彼の家族は両親、祖父母、彼を含む5人の兄弟、2人の姉妹が 全員心臓病という メディカル・ヒストリーになってしまったという。
このため ソントロ氏のファミリーは、子供達の世代のために DNAレベルで 心臓病の原因を調べるために、政府資金で行なわれる 医療プロジェクトの被験者に名乗りを上げたとのことだったけれど、 「どんなに努力をしても、DNAには逆らえない」というこの記事は、かなり衝撃的と言えるものなのだった。

したがって、「DNAレベルのリスクは決して軽視するべきではない」という意見には 私も賛成で、 両乳腺切除や卵巣摘出まで行かなくても、定期検診は必ず行なうべきだと思うのだった。
ところでアメリカでは 医療がらみのニュースが報じられる際に、必ず出てくるのが その医療コストと、健康保険がそれをカバーするか?という問題。 その結果、裕福で 高額の健康保険プログラムに加入できる人々や、プライベートなメディカル・サービスが受けられる人々でなければ、 質の高い医療が受けられないという イメージが定着しているけれど、 実際には、そんな裕福でヘルス・コンシャスな人々が 陥る可能性が高いのがOverdiagnosis/オーバーダイアグノシス(過剰診断)。
オーバーダイアグノシスは、発病していない、もしくは発病の可能性が低い症状に対して、不必要な検査や治療を行なうことで、 治療や検査が無駄になるだけならまだしも、それによる副作用で体調を崩すケースも少なくないという。 その好例がMRIで、 非常に高額な検査であるため 安い保険のプログラムでは 必要があっても行われないのが通常。
ところが保険が利かない高額な医療クリニックに通える人々や、高額保険の加入者の場合、 希望すれば受けられることから、これを受け過ぎるために起こる 医療放射線被ばくが指摘されて久しい状況になっているのだった。

アメリカでは 医療機関が がん等の初期症状を見落とした場合、訴訟に発展するケースが多いけれど、 裕福な層ほど 訴訟を起すのは言うまでもないこと。 したがって、富裕層相手の医療機関が過剰診断になるのには、それなりの理由があると言えるけれど、 お金があれば、医療費がいくらでも掛けられる分 長生き出来るか?と言えば、実際にはそうでも無いのが実情なのだった。
結局のところ 確実に言えるのは、DNAを軽視するべきではないということ。 そしてリスクが認められた場合には、お金がある方が 質の高い医療サービスによって、命が長らえる可能性が高いということなのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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