May. 16 〜 May. 22 2005




日米ピーコック比較


こんな事を書くと、日本人女性に怒られてしまうかもしれないけれど、 世界的なファッション・レベルのポジショニングを考えた時、日本の男性と女性のどちらが上にランクされているか?と言えば、 日本の市場を知るファッション業界の欧米人に言わせれば、答えは男性である。
もちろん、日本人女性はいつも小奇麗にしているし、装いのアヴェレージという点で競えば、恐らく世界のトップ・クラスに入ると思うけれど、 日本やニューヨークの高級レストランにドレスアップして 出掛けてきている日本人女性の服やシューズを実際に見たり、 日本の雑誌にフィーチャーされている女性達のパーティー・スナップを見る限りにおいては、 正直なところ、欧米諸国のファッショナブルな女性達を負かすパワーは、さほど感じられないのは事実である。 このことは、日本の女性向けファッション誌が、頻繁に諸外国の女性のライフスタイルやスナップ・ショットを、 「お手本」としてフィーチャーしていることからも、明らかであると思う。

これに対して、男性マーケットの方は ファッションに対するコンシャス・レベルや、市場の成熟度が、女性のそれに比べて ぐっとスケール・ダウンすることになる訳で、 女性のファッションを世界的に比較するよりも、低レベルの争いにはなるけれど、 その中において、日本の20代〜40代程度の男性のファッションというのは、意外に欧米のファッション関係者から評価される存在で、 アメリカ人のデザイナー、スタイリスト、小売関係者などは、日本人女性のファッションよりも、 日本人男性のファッションの方をずっと興味深いと思って見ているのである。
アメリカ男性と比較して、日本人男性のファッション・センスの方が秀でていると言われる理由の1つは、日本人男性には「ゲイ・フォビア」が 無いからだと指摘されるけれど、このゲイ・フォビアとは 「ファッショナブルに装うことによって、ゲイだと思われたくない」という恐怖心のことで、 これが長年、アメリカ人男性のファッション・センスが磨かれない要因とも言われて来たものである。 でも、このゲイ・フォビアも2000年以降のメトロ・セクシャル・ブーム、すなわちストレート男性であっても、マニキュアやフェイシャルなどのグルーミングをし、 ファッショナブルに装うというトレンドのお陰で、かなり和らいだ感があるのが実際のところで、 先日行われたドルチェ&ガッバーナのサンプル・セールに早朝から行列していたのも6:4の割合で、男性の方が多かったとも言われている。

では、日本人男性のファッションの何処が、欧米のファッション関係者に評価されるのかと言えば、 少し前に話しをしたデザイナーによれば、「地味過ぎず、派手すぎず、プレーンすぎず、かといって個性的過ぎない、クリーンでちょっと遊びやひねりのある 着こなし」なのだそうだけれど、これはもちろん典型的なビジネス・ルック以外のファッションで、街を歩いている人々のことを言っている訳である。
実際私も、つい最近日本に一時帰国をして、日本人男性のファッションを随分気をつけて見てきたけれど、 確かに一部の、ことにノータイで、スーツを着ている男性などは、かなりファッショナブルだし、ネクタイをしていない分、 一目見て高いと分かる仕立ての良いシャツを着ていたりして、なかなかカッコ良いのである。
もちろん体系的なことを言えば、欧米の男性の方が、平均的に長身で、肩幅があり、胸板も厚い訳で、「メンズ・ウェアは肩で着こなすもの」と考えた場合、 日本人男性には 若干の体系的ハンディキャップがあることは否めない訳であるけれど、 それでも、日本人男性のファッションが欧米のファッション関係者に興味深く映るのは、彼らがしないようなコーディネートや、 彼らとは違う部分にこだわってお金を掛けたりする部分もあるようである。

私の知人で、メンズウェアのビジネスをしているアメリカ人によれば、国別に見て、最もファッショナブルなのはイタリア人男性、 そして次に日本人男性なのだそうで、先進諸外国の中で最もファッションが立ち遅れているのがアメリカ人男性であるという。
とは言っても、アメリカの男性とて、週末にフットボール・ジャージーを着ているようでは「女性にモテない」ことは、 既に90年代のうちから認識して来ており、私がアメリカに来た15年前に比べれば、スポーツ・ユニフォームをスタジアム以外の場所で 街着として着用している人の数は激減したのは事実である。
でも、かつてカジュアル・フライデーが大企業を中心に一斉に導入された際は、男性が判で付いたように、ツイル・パンツとブルーのボタンダウン・シャツを着用していたかと思えば、 数年前のハンプトン(NY郊外の高級リゾート地) では、黒か白のラコステのポロシャツにジーンズ、という出で立ちが非常に目立っていたりして、 アメリカ人男性のファッションが 姿形を変えてユニフォーム化されている傾向は常に顕著なものである。

私から見てアメリカ人男性のファッションで最も感心出来ないのは、ネクタイの趣味で、ビジネス街を歩いていてもシャツとタイが 上手くコーディネートされている男性、趣味の良いネクタイをしている男性というのに、1日1人でも巡り会えれば良い方である。 さらに私が嫌いなのは、ビジネス・スーツにバックパックを持っている男性で、これはニューヨークの若いビジネスマンには良く見られるものである。
ネクタイに関しては、3月上旬にバーニーズのウェアハウス・セールに出掛けた際、メンズ・フロアのレジの行列に並んでいたところ、 すぐ傍のネクタイ売り場で、若い男性がブルーとピンクのシャツを数枚抱えて、それに合わせながら、悪趣味な茶色やベージュのタイを何本も選んでおり、 最初はあまりの趣味の悪さ、というか、コーディネートというものを理解しない悲しさを目の当たりにして 唖然としていたものの、 遂に見かねて、「そんなタイをしていたら、デートでフラれちゃうんじゃない?」と声を掛けてしまったところ、その男性が真剣にアドバイスを求めてきたので、 こちらの方が逆に驚いてしまった。結局、私はその男性のために ピンクとネイビーのタイを見立ててあげたけれど、その後もレジで並んでいる間、2〜3人の男性から、 「このシャツにこのネクタイで大丈夫?」などと質問を受けることになってしまった。

こうした男性達が、従順にも私のアドバイスに従ってくれるのは、自分で選ぶコーディネートに自信が無い、もしくは何を選んだら良いかが分からない ということもあると思うけれど、基本的には女性の視点で選べば、女性にアピールするタイが手に入ると思っている部分は窺えるところである。
そもそも、男性がファッショナブルになることを「ピーコック現象」と呼ぶのは、今さら説明するまでもなくオスの孔雀がメスの孔雀を引き付けるために、 美しい羽を広げることから来ている訳で、男性がファッショナブルになろうとする背景には、女性を惹きつけたいという意思があるのは明らかであるし、 特にニューヨークにおいてはこの傾向は顕著である。
日本の男性を見ていると、きっかけはどうあれ、一度ファッションにお金を掛け始めると、自分のテイストやこだわりをデベロップして、凝り始めるけれど、 アメリカ男性の場合は、ファッションにこだわる女性と付き合っていれば、服にお金を掛けるし、ファッションに無頓着な女性と付き合っていれば、 どんどん手を掛けないファッションになっていく訳で、女性がファッションのモチベーションと言っても過言ではなかったりするのである。 また、女性側も、昨今では男性のファッションにはどんどんうるさくなってきており、以前ならJ・クルーやバナナ・リパブリックでも、 見た目に整っていればOKであったけれど、メトロ・セクシャル・ブームを前後して、クラブに出掛けて女性を口説こうなどと思ったら、 プラダのシューズ、シャーべのシャツにブルガリのカフ・リンク、グッチのジャケット等、 デザイナー・ブランドのエッセンスを加えなければ、目的達成は難しいとも言われるご時世である。

さて、ファッションについては、日本の男性よりも立ち遅れているアメリカ男性であるけれど、 グルーミングについては、現在日本人男性が猛烈な勢いで追いつこうとしているものの、やはり軍配が上がるのはアメリカ人男性である。
これは、やはりアメリカ人男性の方が、ヒゲも、体毛も濃く、しかも女性がその始末に関してうるさいからで、 ここ数年のトレンドは、体毛は無ければ無い程良く、肌がスベスベで小麦色に日焼けしているという状態。 こんなことを言うと、まるで「女性と一緒」と思われるかも知れないけれど、 ワックスで体毛を除去したり、スプレー・タンニングをしたりと、 確かに、彼らの努力は女性並みだったりするのである。


Catch of the Week No.3 May : 5月 第3週


Catch of the Week No.2 May : 5月 第2週


Catch of the Week No.1 May : 5月 第1週


Catch of the Week No.4 Apr. : 4月 第4週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。