May. 21 〜 May. 27 2007




” チャリティのトリック ”



今週のアメリカは、「アメリカン・アイドル」、「ダンシング・ウィズ・スターズ」という2つの人気リアリティTVが、 シーズン最終回を迎え、それぞれの勝者が決定したしたため 多くのメディアがその報道と勝者のインタビューに時間を割いていたのだった。
このうち全米の3000万人以上がチャンネルを合わせ、今年放映された番組の最高視聴率となった 「アメリカン・アイドル」については、 番組の生放送が予定より9分長引いてしまい、これによって留守番録画していた人々が味わうことになったのが、 今年のアメリカン・アイドルが誰であるかが発表される前に録画が終わってしまうというジレンマ。 このため放映局であるFOXには苦情が殺到し、同局もこのことを正式に謝罪するという異例の事態も起こっていたりする。
今やアメリカでは毎年、オスカー授賞式よりも視聴率が高くなっているのがこの「アメリカン・アイドル」であるけれど、 実は私も同番組はシーズンNo.1 から殆んど欠かさずに観ているもので、オーディションの時には ちょっと上手なアマチュア・シンガー だったコンテスタント達が、毎週のようにヘア&メークアップ・アーティストとスタイリストによってメイク・オーバーされ、 それに連れてどんどん歌の実力をつけて、スターっぽくなっていく様子は 毎シーズン観ていても飽きないもの。 同番組は、火曜日にパフォーマンスが行われ、それに対する視聴者の投票結果が発表されて 毎週1人ずつ戦列を離れていくのが水曜というスケジュール。この水曜の結果はありとあらゆるメディアが直ぐに報じるので、 見逃しても大丈夫であるけれど、火曜のパフォーマンスについては、私を含め 出掛ける時に必ずDVD録画をセットしている人は多く、 特に候補者が絞られてきて 番組が佳境を迎えてくると、パーティーで会った初対面の人とも 話が盛り上がってしまうのが 「アメリカン・アイドル」である。

さて、その「アメリカン・アイドル」と同様に今週アメリカのメディアが頻繁に報じていたのが5月16日からスタートし、私がこれを書いている今日、 27日に幕を閉じるカンヌ映画祭。
これまでハリウッドやアメリカのプレスは それほどカンヌには強い関心を払わない傾向が強かったけれど、同映画祭が60周年を迎えた 今年に関しては ありとあらゆるハリウッド・スターが それぞれの新作映画のプロモーションのためにカンヌ入りしたこともあり、 これまでに無く アメリカのメディアで大きく報じられていたのだった。
さて、その中でちょっとした話題になっていたのが、同映画祭の開催期間中に毎年行われるエイズ・チャリティ、AMFAR の パーティー・オークションで、ジョージ・クルーニのキスが35万ドル、日本円にして約4200万円で落札されたというニュース。 先週のこのコラムで、昨今は「本来タダだったものに付加価値をつけて、高値を請求するのがビジネスになっている」ということに 触れたけれど、いくら相手がジョージ・クルーニでもキスに4200万円を支払うなら、そのまま銀行に入れておきたいというのは 庶民なら誰もが考えること。
同オークションでガールフレンドのために キスを落札した男性が大金持ちであるのは容易に想像できるけれど、 でも もし彼がアメリカ人であった場合、実質的にはこの落札は税金対策となるのがチャリティ・オークションに隠されたトリックである。
諸外国の税法は分からないけれど、アメリカに関してはチャリティに寄付をした場合、その金額が税金から控除されることになっており、 これはチャリティ・オークションの落札に支払う金額も一部のケースがこれと認められるのである。 この一部のケースというのが、落札したものが「物」ではなく「サービス」など、形に残らないものである場合。 つまりチャリティ・オークションでセレブリティが所有していた車や、セレブリティの記念の品などを落札してしまうと、 それは物を購入した対価交換と見なされるので、いくら多額を支払ってもチャリティに寄付をしたとは見なされないことになってしまうのである。 ところが、その落札対象がセレブリティとの1日デートや、オスカーのアフター・パーティーでチャリティ・オークションに掛けられた ”デヴィッド・ベッカムとの1日サッカー・レッスン” などの 形で残らないサービスの場合、 落札した金額がそのまま税額控除の対象となる訳である。
したがって、今回のカンヌのチャリティ・オークションにおけるジョージ・クルーニのキスも、もしアメリカ人が落札したのであれば 彼は4200万円をチャリティに寄付したと見なされて その分が税額控除になる訳で 、IRS(国税局)に持っていかれるより カンヌでVIP待遇されながら支払う4200万円の方が 遥かに気分が良いであろうことは容易に察しが付くところ。 もちろんこの男性は、銀行にキャッシュで4200万円以上を持っているだけでなく、毎年支払う所得税が4200万円以上でなければ この税額控除の恩恵を受けない訳であるから、言うまでも無くリッチであるのは事実であるけれど、 この落札は 庶民が考えるほどは彼の懐には響かないのも また事実なのである。

こうした税額控除のトリックがあるために、チャリティ・オークションでは サービスや体験を提供するものが非常に多く、 カンヌのチャリティ・オークションでは「モニカ・セレスとのテニス・レッスン」がオークションに掛けられていたし、ハリケーン・カトリーナの 被災者救済のため 映画「マイアミ・ヴァイス」撮影中に、コリン・ファーレルとジェイミー・フォックスが マイアミで行ったチャリティでは、「コリン・ファーレルとの1晩のデート」がオークションに掛けられており、 この時、コリン・ファーレルは より高額の寄付を集めるために彼とのデートの競り落としに残った2人の女性とのデートに応じたことも伝えられている。

このようにチャリティには税額控除という利点があるため、アメリカでは 「自分の支払った税金がイラク戦争などに使われるよりは、 本来もっと税金が使われるべきだと考える問題に取り組むチャリティに寄付した方が世の中のため」 と考えるリッチ・ピープルは多く、 子供の教育や、貧困家庭の救済、エイズのチャリティ、また特定の美術館やアート・プログラムなどに 多額の寄付を行って、それらをサポートする人々が多いのが実情である。
なので、地方都市ではコンサート・ホールやアート・センターなどが個人の寄付だけで建設・運営されているケースも少なくないけれど、 そうしたことが実現するのも 「何に使われるか分からない税金に取られるより、自分がサポートしたいチャリティにお金を使いたい」という 考えからである。

チャリティ・オークションで サービス、体験をオファーする傾向は 私立学校が行う資金集めのオークションでも顕著で、 例えばTV俳優やTVプロデューサーの子供が通う学校では、必ずといって良いほど彼らが出演、もしくはプロデュースする番組への ゲスト出演がオークションに掛けられるという。
これを落札すれば、数百万円を払って TVに数十秒出演するという 耳で聞くだけだと馬鹿げたお金の使い方をすることになるけれど、 実際には支払った金額全てが税額控除となる訳で、同じチャリティ・オークションに出品されたアンティークの壺などを購入するよりも 遥かに割りが良いのである。

税額控除は、美術館のメンバーシップなどについても然りで、例えばMoMA(ニューヨーク近代美術館)などは年間75ドルを支払って 個人メンバーになれば、その75ドルは100%税額控除の対象となる訳である。 したがって、MoMAに年間3回以上行く人は メンバーになれば、何回行っても 大人20ドルの入館が無料になる上に、 チケットを並んで買う必要もなく、その分の税金も差し引かれる訳であるから メンバーになった方が絶対に得!ということになる。 なので、私もメトロポリタン美術館のメンバーになっていたりするけれど、それほど行ける回数はなくても 十分に元が取れているのである。

さてカンヌ映画祭に話を戻せば、今年の同映画祭で台風の目のような存在だったのが 「オーシャンズ13」。
ジョージ・クルーニ、ブラッド・ピット、マット・デーモン等が出演する「オーシャンズ」シリーズの3作目は、 今年カンヌでワールド・プレミアを行っており、キャスト達にプレスからの取材攻勢が集中していたのは言うまでも無いこと。 同作品は アメリカでも各都市でプレミアを行うことになっており、このプレミアはチャリティになるとのことである。 ということは、通常は無料のプレミア・チケットに値段がついて、1000〜1500ドル程度を支払うとキャスト・メンバーが参加する アフター・パーティーにも招待されるというのが通例である。 同様のチャリティ・プレミアは今週末公開された「パイレーツ・オブ・カリビアン:アット・ワールズエンド」でも 行われており、ゲストが支払った1人1500ドルのチケット売り上げは、同映画主演のジョニー・デップがサポートするチャリティ、 ”メイク・ア・ウィッシュ・ファンデーション” に寄付されている。

昨今ではブラック・タイのチャリティの晩餐会となると、チケット価格は最低で1人1000ドル。 チャリティ晩餐会は、ホリデイ・シーズンや人々が夏のバケーションに出掛けてしまう前の5月に 多く行われる傾向にあるけれど、こうしたチャリティ晩餐会のチケットも きちんとレシートさえ取って置けば もちろん税額控除の対象。
したがって、リッチなソーシャル(最近では”ソーシャライト”より”ソーシャル”という言葉がインサイダーを中心に好まれて使われている)達は、 チャリティという名の下で、税額控除を受けながらキャビアやシャンペンを味わっている訳だけれど、 アメリカでチャリティが盛んなのも 言って見れば こうした利点があるからである。
もちろん純粋に「困っている人々を助けたい」と 寄付をする人も居るとは思うけれど、 動機は何であれ、税金がジョージ・ブッシュ大統領の友人の会社を儲けさせている事実を考えれば、 使い道がはっきりしているチャリティに寄付をする人々が多いというのは 決して悪い事ではないのである。





Catch of the Week No.3 May : 5 月 第 3 週


Catch of the Week No.2 May : 5 月 第 2 週


Catch of the Week No.1 May : 5 月 第 1 週


Catch of the Week No.5 Apr. : 4 月 第 5 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。