May 21 〜 May 27, 2012

” With Or Without Pre-Nup ”

今週のアメリカでは興味深い2つの判決が大きく報じられていたけれど、そのうちの1つが ラトガー大学の学生寮で、ゲイのルームメイト、タイラー・クレメンティが相手の男性と関係している様子を盗撮し、 ツイッターでウォッチ・パーティーをプロモートしていたダーラム・ラヴィ(写真上)に対する裁判。
クレメンティが後に それを苦に自殺しており、同事件が起こった2010年は ゲイ学生に対する差別やいじめ、それが引き金となった自殺が 大きく取り沙汰されていたこともあり、メディアと一般の人々が 大きな関心を寄せていたのがこの裁判なのだった。 ダーラム・ラヴィはプライバシーの侵害、及び英語で Bias Crime/ バイアス・クライム と表現される 差別犯罪等で既に2ヶ月前に有罪となっており、最高で10年の禁固刑に直面していたけれど、判事による刑の言い渡しが行なわれたのが今週の月曜。
その内容は、30日間の拘留と300時間のコミュニティ・サービスに加えて、1万1000ドルの罰金というもので、 これは飲酒運転で複数回逮捕されたケースの刑罰とほぼ同等と言える内容。 ダーラム・ラヴィは、外国人であるため 裁判で実刑判決を受けることで、国外追放の可能性も見込まれていたけれど、 これについては、判事が 追放を妥当とはしない判断を移民局に書面で通達する意志を明らかにしているのだった。
とは言っても、国外追放の判断を下すのは移民局であるため、判事の意志に法的効力が無いのもまた事実なのだった。

同裁判は、サイバー・ブーリング(インターネットを通じたいじめ)に実刑判決を下したという意味では 意義あるケースではあったものの、 多くの人々が驚いたのが その刑の軽さ。 裁判審議の全てを見守った陪審員の1人は、ニューヨーク・タイムズ紙に対して「30日の刑期は短かすぎる。6ヶ月〜1年の禁固刑が妥当。」と語っており、クレメンティの家族は その刑の軽さにショックを受け、予定されていたプレス・カンファレンスをキャンセルして法廷を後にしたことが伝えられているのだった。



もう1つ、今週アメリカで話題になったのは、運転中に 携帯メールに返信した途端、バイクを跳ねて事故を起こしたドライバーに対する 損害賠償で、大怪我をし、共に片足を切断する羽目になった被害者カップルが、ドライバーに携帯メールを送った女性に対しても、 賠償責任を追及しようとしたケース。
運転中、携帯メールを打つ、もしくはチェックすることは、今では全米の多くの州が法律で禁止しているけれど、 この事件で、携帯メールに気を取られてカーブに気付かず、反対車線を走っていたバイクに激突したドライバーに賠償責任があるのは当然のこと。
被害者側は それに加えて、「運転中のドライバーに対して 携帯メールを送付するのは、助手席に座ってドライバーの気を散らすのと同じ行為」 だとして、携帯メールを送付した女性が ヴァーチャルに事件の現場に存在し、それに関わったという言い分を展開したのだった。
携帯メールが送られてくれば、チェックしたくなるのは当然の心理とは言え、「たまたま運転中だった相手に対して メールを送った側に、果たして責任があるのか?」 という判断が興味深く見守られたけれど、結果的に判事は 「送付した側には責任は無い」という判決を下したのだった。

ただ、一部の専門家が指摘するのは、もしドライバーが タクシーの運転手やトラック・ドライバーなど、運転を職業としている場合、 携帯メールを送付する側は、相手が運転中であることを知りつつ 送付していると見なされるわけで、 そのケースでは同じ判決が出るとは限らないということ。
現在、アメリカの18〜24歳の若者は1日に平均110通の携帯メールを送付しているというけれど、この事件でメールを送付した 女性(20歳)も、裁判で1日に100通の携帯メールを送付すると証言。 ドライバーの男性(21歳)は、メールを受け取った44秒後にそれに返信しており、その8秒後には 事故を起こして911(アメリカの119番)に通報した記録が残っているのだった。



さて、今週もフェイスブックの株式公開をめぐるゴタゴタが大きな報道になっていたけれど、 先週末から始まっていたのが、フェイスブック株式公開の失敗の原因が何処に、そして誰にあるかという指摘合戦。
その最大の矛先になっていたのは、株式公開をメインで担当したモルガン・スタンレーで、 公開価格を上げすぎたことに加え、株式公開直前にフェイスブックの業績見通しを引き下げておきながら、 一般投資家にはそれを伝えず、ヘッジ・ファンドなどマーケット・メーカーと呼ばれる大口取引先にのみ その情報を流したことで、 証券取引委員会が捜査に乗り出すことになっているのだった。
次いで、批難の矛先になっているのはフェイスブック。同社に対しては 一般投資家からの集団訴訟が金曜日に起こされているのだった。 ことに株式公開直前に、その公開株数を25%も増やす決断を下したフェイスブックのCFO(チーフ・ファイナンシャル・オフィサー)、デヴィッド・エヴァースマンには 批難が集中しているけれど、確かに4億2100万株がいきなり市場に出回れば、株価が伸び悩んでも不思議ではないもの。
ちなみにフェイスブックより 遥かに規模が小さいとは言え、その株価が現在も公開時の2倍である90ドル台を保っているリンクトインが公開した株数は 700万。しかもフェイスブックが売りに出した株式の57%は社内のインサイダーが所有していたもので、 IPO(株式公開)の失敗は「社内のエグゼクティブが強欲になり過ぎた結果」と指摘する声も聞かれているのだった。

その一方で ニューヨーク・タイムズ紙の社説欄では、このIPOを「ブリリアントな失敗」と皮肉交じりに讃えており、 その理由は、通常なら IPOで大儲けするはずの金融機関を儲けさせることなく、フェイスブックのみが株式公開による資金を手中にしているため。
そもそもIPOがウォール・ストリートで歓迎されるのは、公開と同時に株価がアップしたところで、大手の金融機関が優先的に入手していた 大量の株式を売却して多額の利益が得られるため。
先述のリンクトインの場合、その株価が公開価格、45ドルの2倍を保っているということは、株主がそもそも同社の株式に90ドルの価値を見出していたことになるけれど、 これを最初から90ドルで売り出していたとすれば、リンクトインが株式公開で2倍の資金を株主から集めることができていたはず。 しかしながら45ドルで公開されて、90ドルに跳ね上がれば、その価格差の利ざやが転がり込むのは、 株式を公開時のピークで上手く売却した金融機関。 したがって今回のフェイスブックの場合、金融機関の思う壺にはまらず、IPOが行なわれたという点で、”ブリリアントな失敗”と指摘されていたのだった。

でも、発表によればヘッジ・ファンドや大手金融機関は、設け損ねたどころか、フェイスブック株で大損をしており、 大手ヘッジファンドのナイト・キャピタル、シタデル・セキュリティは、それぞれ3000万〜3500万ドルの損失。 これにUBSがやはり3000万ドル、シティ・グループ傘下のオートメーテッド・トレーディング・デスクが2000万ドルの損失を出しており、 これだけでも既に1億ドルを超える大損失。
また一般投資家も被害を被っており、その損失はナスダックの不手際でさらに痛々しい結果をもたらしているのだった。 ニューヨーク・タイムズ紙には、バンク・オブ・アメリカ・メリル・リンチを通じて フェイスブック株を38ドルで 1000株購入した53歳の男性の例が紹介されていたけれど、彼は月曜に株価が大暴落したため、 5000ドルの損失を覚悟で、フェイスブック株を 全て33ドルで売却したという。
ところが、2日後に彼にコンタクトしてきたメリルリンチが請求してきたのが、さらなる4000ドル。 これは男性が38ドルだと思っていた購入価格が、実際には42ドルであったためで、この例に見られるように、 株式公開当日、パンク状態になったナスダックのせいで、購入&売却のオーダーができず買いそびれたり、売り損ねた人々が 続出しただけでなく、実際に行なわれた売買取引の確認が取れない例が非常に多く、 そのせいで一般投資家は、マーケット・メーカーよりも額は小さいとは言え、遥かに大きな痛手を受けているのだった。


そのフェイスブック株は、今週 大きく値を下げて、週末の終値は31ドル91セント。先週末の公開時から16%価格を落としているのだった。
これによってフェイスブック創設者であるマーク・ザッカーバーグの個人資産も191億ドル(約1兆5280億円)から160億ドル(約1兆2800億円)に目減りした計算になるけれど、 先週末 5月19日に結婚した彼が、夫人となったプリシラ・チャンとの間で 「結んだであろう」 と見込まれるのが、 通称 ”プリナップ” と呼ばれる ”プリナプチャル・アグリーメント” 。
プリナプチャル・アグリーメントとは離婚後の財産分与を予め決めておく協約で、特にカリフォルニア州において、収入に格差があるカップルが結婚する場合、 極めて大切と言われるもの。



カリフォルニア州の法律では、離婚の際の財産分与は”コミュニティ・プロパティー”という法律に基づいて分配されることになっており、 全米で ”コミュニティ・プロパティー”を今も採用するのは、テキサス、アリゾナ、ネヴァダ州を含む10州。 この法律では、夫婦が離婚をする場合、結婚期間に2人が得た財産を50/50に分配することになっているのだった。 したがって離婚した場合、妻でも 夫でも、収入が少ない側に利益をもたらすのは言うまでもないこと。
例えば、シンガーのニック・ラシェイとの結婚後に キャリアが花開いたシンガー兼デザイナー、ジェシカ・シンプソン(写真上)などは、 自らのファッション・ブランドで稼ぎ出した 当時100億円以上の財産の半分を、 離婚で失ったと言われているのだった。
このように離婚によって財産が半分になるのを防ぐのがプリナップであるけれど、ニック&ジェシカの場合、周囲が薦めたプリナップを拒んで 結婚に臨んだのは、当時 ポップ・グループ ”98ディグリーズ” でジェシカよりも遥かに稼ぎが良かったニック側。 時に、離婚する意志が無いことを相手に示す愛情表現としてプリナップを結ばないケースもあるけれど、 この場合、当時 ジェシカをプロテクトしようとしたニック・ラシェイの行為が、彼自身に恩恵をもたらす結果になっているのだった。

でも”コミュニティ・プロパティー”の法律が50/50で分配を保障しているのは、結婚中に夫婦が得た財産のみ。 結婚前に購入した不動産や株式がセパレート・プロパティ(個人の財産)と見なされるのはもちろん、 結婚前に購入した不動産から得た家賃収入、結婚前に購入した株式の配当金も、セパレート・プロパティ。
したがってプリシラ・チャンの場合、マーク・ザッカーバーグがフェイスブック株で、何億ドルもの配当を手にしても、 それは彼が婚前から所有していたものなので、彼女が離婚後にその半分を手に入れることは無いのだった。

メディアの中には、マーク・ザッカーバーグが結婚したタイミングが株式公開の翌日だったことを受けて、 彼が”コミュニティ・プロパティー”を意識して、あえて株式公開後に結婚したと見る声も聞かれたけれど、 株式公開が何時であろうと、彼が婚前に所有していた株式、及びその配当金が彼個人の財産と見なされることには変わりはないのだった。
しかしながら、マーク・ザッカーバーグが 一般の株式投資家とは異なる点が、 彼が所有する株が、彼がCEOを勤める会社の株式であるということ。 その場合、「株価を上げるのが彼の仕事」と裁判所が判断すれば、その配当金が彼の仕事から得た収入と見なされて、 離婚の際にそれが折半されても不思議ではないのだった。



私は以前、日本からニューヨークに来たばかりの若い女性が「大金持ちとちょっとだけ結婚して、慰謝料をたっぷり貰って別れる」という 結婚願望(?)を披露しているのを聞いたけれど、もし彼女がニューヨークで それを実現しようとしていたのならば、大きな間違い。
ニューヨークの法律は 離婚の場合、その財産を Equitable distribution / エクイタブル・ディストリビューションで 分けるというもので、これはカリフォルニアのような50/50で財産を分配する法律とは全く異なるもの。 エクイタブル・ディストリビューションは、結婚期間の長さ、生活レベル、それぞれの収入、年齢、健康状態などを考慮して公平に分配するというもので、 離婚弁護士の手腕によって、特に妻側の取り分が変わってくるのがこのシステム。現在、全米50州のうちの40がこの法律になっているのだった。
とは言っても結婚前にそれぞれが所有していた財産は、個人の財産と見なされるので、分配の対象にはならないのは当然のこと。 結婚の期間が短く、夫婦としての財産が少ない場合は、簡単に離婚が成立するけれど、それは相手から得る物も少ないということなのだった。

逆に離婚で最も揉めるのは、総資産3億〜10億円程度で、結婚生活が10年以上、 子供が居て、しかも妻が働いていないカップル。
というのも、このレベルの経済状態の夫婦は、お互いに ある一定の生活レベルを保ちたいと考えているけれど、 離婚後、家が2軒になって、子供の大学の学費を払うというだけで、資産がかなり目減りするのは目に見えていること。 したがって 互いに出来るだけ多くを自分のものにしようと譲らないケースが多く、最も時間が掛って、弁護士が儲かるのが このレベルの離婚。 
これがもっと大金持ちになれば、相手を経済的に満足させるだけの支払い能力があるだけに、 離婚訴訟まで辿り着くケースは少なく、示談で成立するので 弁護士が儲からないケースと言われているのだった。



ところで マーク・ザッカーバーグ夫人であるプリシラ・チャンは、カリフォルニア大学の 医学部を卒業したばかりで、小児科医を目指している身。 今日、5月27日付けのニューヨーク・タイムズ紙のスタイル・セクションでは、彼女がスティーブ・ジョブス夫人で、アントレプレナーのローレン・パウエル・ジョブス(写真上左)や、 グーグルの設立者、セルゲイ・ブリンの夫人で、遺伝子検査の会社を共同設立したアン・ウォジツキ(写真上右)など、著名なシリコン・ヴァレー・ワイフ同様に、 独自のキャリアを築こうとしていると書かれていたのだった。
記事の中には、マーク・ザッカーバーグの姉で、かつてフェイスブックのマーケティングを担当していたランディ・ザッカーバーグと一緒にショッピングに出かけたプリシラ・チャンが、 600ドルのシューズ手にとって うっとり眺めていた際、 「お金があるんだから、買うべきよ」というランディの言葉に対して、 「私のお金じゃないから・・・」と言って、シューズを棚に戻したエピソードが紹介されていたけれど、 確かに人々がマーク・ザッカーバーグとプリシラ・チャンの結婚に好感を持っているのは、彼女がマーク・ザッカーバーグの財産を 我が物顔で使うタイプではないため。

これを読んで 私が思い出したのが、 もう10年以上も前の友人のエピソード。
私の友人は、夫の弟が頻繁にニューヨークにやって来ては、ホテル替わりに2人のアパートに滞在し、 その都度、彼女の生活がメチャクチャになるので、ある時、堪忍袋の尾が切れて 弟に文句を言ったところ、 彼に「ここは兄のアパートで、君のアパートじゃない」と言い返されたという。
確かに結婚前の彼女は、出身国の領事館に勤めていて、 ほんの僅かな貯金しかなかった状態。その彼女が、結婚によってグリーン・カードを取得し、仕事を辞めて、 夫が所有するコンドミニアムに メイドを雇って暮らし、彼と一緒に世界中にヴァケーションに出かける状況は以前とは段違い。 彼女は常々、「自分はお金や条件ではなく、愛情目的で結婚したけれど、それでも結婚は便利なもの!」と言っていたのだった。
そんな彼女が、弟の厳しい指摘に対して 言い返した というか、怒鳴り返した台詞というのが 「I'm his wife. Everything he owns is mine as well! (私は彼の妻なんだから、彼が所有するものは、全て私のものでもあるのよ。)」というもの。 ちなみに、このエピソードは彼女が夫と結婚して2年後のこと。10年結婚していて こう言えるのには驚かないけれど、 僅か2年の結婚で、しかも子供が出来る前に こう言い切れるのには 「凄い!」と思ったし、 こういう考え方が出来る女性こそが 結婚で恩恵を受けると痛感したのを覚えているのだった。

私には絶対に こんなことは言えない替わりに、もし 血迷って結婚することがあって、夫が 「Everything she owns is mine as well!」などと言っているのを聞いたら、 大切なシューズやバッグやジュエリーを全部安全な場所に隠すと思うのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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