May 16 〜 May 22 2016

”Vegan Hypocrite”
美女レストラン・オーナーの転落劇に見るヴィーガンの偽善と限界



今週アメリカで最も大きく報じられていたのは、アメリカの空港で機内持ち込みの手荷物検査に時間が掛かりすぎるために、 乗客が 飛行機を乗り逃がすケースが増えている問題。その近年最悪の事態となったのが先週日曜日、シカゴのオヘラ空港でのこと。 手荷物チェックの大行列のために、3時間も並んでこの日の最終便に乗れなかった乗客が アメリカン航空だけで450人も出てしまい、 乗客の多くが航空会社が用意した簡易ベッドで眠る羽目になってしまったのだった。

こんな事態が生じるのは、現在アメリカの国内線利用者は1日200万以上という史上最高のレベル。 それと同時に航空会社がチェックイン荷物に フィーをチャージするようになってから激増したのが機内持ち込みの手荷物。 その手荷物や乗客の危険物持ち込みをチェックするのは政府機関であ るTSA(Transportation Security Administration)であるけれど、 高まるテロへの警戒を受けて 以前よりもチェックポイントで時間が掛かるようになっているのが現状。 そんな激務を苦にして毎月100人のペースで職員が辞めていった結果、現在 最悪の人手不足に悩まされているのがTSA。
TSA側ではスタッフのトレーニングを急ぎ、毎月200人の新スタッフを投入しているというけれど、一向に追いつかないのは このところの全米の空港での大行列が立証する通り。特に待ち時間が長いのは、前述のシカゴ、アトランタ、 ニューヨーク、マイアミなどで、比較的マシと言われるのはサンフランシスコとカンサスシティ。

ちなみに手荷物チェックで飛行機に乗り損ねた場合でも、もちろん航空会社側からの払い戻しはないけれど、 この状況に怒りを露わにしているのは航空会社側も同様。 ツイッター、インスタグラムといったソーシャル・メディア上には、”#IHateTheWait / アイ・ヘイト・ザ・ウェイト”のハッシュタグが登場して、 人々が空港での大行列に怒りを露わにしていたけれど、今週にはそれに航空会社も便乗。 乗客にソーシャル・メディアを通じてTSAに抗議をするよう呼びかけていたのだった。
今年は6月〜8月のバケーション・シーズン中に2億3100万人が飛行機を利用することが見込まれているだけに、 TSA側では航空会社に対して夏の間だけでもチェックイン荷物のフィーを無料にして、 乗客の機内持ち込み手荷物が減るようにと働きかけているというけれど、航空会社にとってそれは数百万ドル単位の利益のギブアップを意味すること。
したがって夏の間の空の旅のためには、4時間の余裕を持って空港に出向くことが奨励されているような有り様。 でも今のところ国際線については国内線ほどの悲惨な大行列は見られていないのだった。




今週、個人的に興味をそそられたのが、マンハッタンのグラマーシー・エリアのヴィーガン・レストラン、 ピュア・フード&ワイン(写真上、左)の美女オーナー兼シェフとして知られたサルマ・メルンガイリス(43歳)が 約2億円もの業務上横領の容疑で逮捕されたというニュース(写真上中央は逮捕写真)。 彼女は夫であり、ビジネス・パートナーである アンソニー・ストランジス(35歳、写真上右は逮捕写真)と共に逃亡中で、 2人が逮捕されたきっかけとなったのは、サルマの携帯電話と夫のクレジット・カードを使って、 ケンタッキー州のホテルから2人がドミノ・ピザのデリバリーをオーダーしたため。

サルマ・メルンガイリスはアイヴィ・リーグの大学を卒業した才女で、一時は金融業界で働いたものの、兼ねてからの夢だった フレンチ・シェフとしての修行を始め、レストラン・コンサルタントとして働き始めたのが2001年のこと。 当時 売り出し中だったシェフ、マシュー・ケニーと交際を始めた彼女は、彼をパートナーに 2004年にピュア・フード&ワインをオープン。
未だヴィーガン・レストランが少なかった時代に、ハチミツさえも使わない徹底したヴィーガン・ポリシーと 40〜49度以上の加熱をしないロウ・フードのレストランとして登場した同店は、ビル・クリントン元大統領と娘のチェルシー、 ケイティ・ホルムズ、アレック・ボールドウィン、ウッディ・ハリソンといったセレブリティも訪れるスポットして 多くのパブリシティを獲得。 日本の雑誌にも取り上げられており、やがてそのビジネスをジュース・バー、ヴィーガン・プロダクト&スキンケアの通販にも拡大。 ヴィーガン&ロウ・フードの料理本を2冊出版しており、最もサクセスフルな時代には 年間売上げが4億円を超え、銀行口座には常に数千万円の残高が記録されていたという。


そのビジネスにかげりが見えたのは、サルマ・メルンガイリスが元海軍海兵隊を装った巨漢のアンソニー・ストランジスとの交際をスタートして以来。 2013年から同店のマネージャーとなった彼は、イタリアのマフィアのような脅しを利かせたマネージメント・スタイルで ピュア・フード&ワインの職場環境を大きく変えてしまったとのこと。その彼にはいくつかの前科があり、 それをスタッフに知られないようにするため、サルマは彼の本名を偽ってスタッフに紹介。 自らの家族にさえ彼との結婚を秘密にしていたという。
そのアンソニー・ストランジスの前科の1つは親が所有するジャガーを勝手に売却した罪で、 彼は働かずしてミリオネアのような生活をすることを好んでいたという。 その彼がビジネスに関わり始めてからというものサルマは、 ビジネスへの関心が薄れる一方で、増えていったのがアンソニー・ストランジスを伴っての”ビジネス・トリップ”。
とは言っても、その行き先はもっぱらラスヴェガス。というのもアンソニー・ストランジスはギャンブル中毒。 2人が高額ホテルに滞在して、ギャンブルを楽しみ始めてからというもの、ピュア・フード&ワインの 銀行口座からは、何百万円というキャッシュがどんどん引き出されていき、遂に従業員の給与が支払えなくなった段階での、 サルマの言い訳は「母親の病気のために治療費が必要だ」というもの。
一時は資金不足のため閉店したピュア・フード&ワインであるものの、ヴィーガン・ブームとサルマ・メルンガイリスのネーム・バリュー、 その美貌で、直ぐに8000万円以上の投資を獲得。再び営業を再開したけれど、 2015年夏以降、サルマは投資家と取引先への借金、従業員への未払いの給与を残して、夫と共に忽然と姿を消してしまったのだった。
以来、従業員からは給与の支払いを求める集団訴訟が起こされていただけでなく、 業務上横領の容疑で2人にはNY市警察からの逮捕状が出ていたのだった。




サルマ・メルンガイリスは逮捕のきっかけとなった ドミノからオーダーしたピザとチキンのデリバリーは、夫であるアンソニー・ストランジスの 食事であったと主張しているけれど、 ピュア・フード&ワインの従業員によれば、彼女は当初はヴィーガンであったものの 途中から肉を食べるようになったフェイク・ヴィーガン。それだけでなく、ピュア・フード&ワインのディッシュにも 同店では使わないと宣言していたハチミツなどのアニマル・プロダクトを時折使用していたという。 さらに経営難に陥ってからは、”オーガニック・オンリー”を謳いながらも、オーガニックでない食材も用いられていたとのこと。
でも、現在服役している刑務所でメディアの取材に応じたサルマ・メルンガイリスのインタビューによれば、彼女はヴィーガンどころか実は摂食障害。 彼女はレストランが獲得するパブリシティが彼女のルックスやイメージから来ていることを熟知していただけに、 ”ヴィーガン=ヘルシー・ダイエット”をアピールするために、何年も過食嘔吐を続けていたことを告白しているのだった。

それほどまでにヴィーガン・ビジネスにおいては イメージが大切であるけれど、 それを損なってバッシングを受けることになったのが、 ロサンジェルスのレストラン、カフェ・グラティチュードとグラシアス・マドレのオーナー、マシュー&テルセス・イングルハート(写真左)や、 ”ブロンド・ヴィーガン・ブログ”で一躍有名になったジョーダン・ヤンガー(写真上右)。 前者は自らのオーガニック農園の家畜の肉や卵を食べるようになったことを明らかにした途端、 常連客から自分の店の従業員にまでに レストランをボイコットされてしまい、 後者は オーソレキシア(Orthorexia:食の健康志向に走りすぎて、食欲が失せる摂食障害)で死に掛けたことをメディアで告白。 バランスが取れた食生活をするために、ブログのネーミングを”バランスト・ブロンド”に変えた途端に 「動物を殺して食べるのか?」とバッシングを受ける羽目になっているのだった。
双方ともヴィーガンからのバッシングの中には 殺害予告まであったというけれど、事実、PETAを始めとする動物愛護主義者は、 動物は殺さなくても 人間に対しては残酷、もしくは破壊的な行為をすることが度々メディアで問題視される存在。
サルマ・メルンガイリスにしても、肉を食べ始める前の2005年に当時のパートナーであるシェフ、マシュー・ケニーに対して、 グレープフルーツや電話を投げつけたり、顔や頭部を殴るなどの暴力行為を複数のオケージョンでしていたことが明らかになっており、 ”ヴィーガン=温厚 / 肉食=アグレッシブ”は必ずしも事実ではないことが指摘されているのだった。




こうした一連の報道を受けて、ニューヨーク・ポスト紙のフード・クリティック、スティーブ・クォッツォは、 ヴィーガンというコンセプトそのものが”偽善的”であると指摘。彼がそう主張するのは、 ヴィーガンという食生活が 長く続けるのに適さないことをヴィーガン・ビジネスのオーナーたちが 立証しているのもさることながら、特にここ数年、 ヴェジタリアンやヴィーガンが増え、オーガニック農産物のニーズが高まった結果、 密かに起こっているのが 畜産業を縮小して、農地に変えるというビジネス転換で、 そのプロセスで多くの家畜が殺されているため。
したがって「野菜を食べていれば動物を殺す必要がない」 というヴィーガンの主張は実は大間違いなのだった。

また動物性の食材は一切食べず、動物実験をしていないスキンケア・プロダクトを使って、 レザー・ジャケットやレザー・シューズを身に着けなかったとしても、 車や自転車のタイヤには動物性脂肪から導出されたステアリン酸が用いられていたり、 ペンキには乳タンパク質のカセインが含まれているのが通常。それだけでなく 石鹸、キャンドル、ビニール袋、 コンピューター、楽器の弦やリップスティック、ネールにいたるまで、ありとあらゆるプロダクトが 動物性の素材を一切含まないヴィーガンで生産されるケースは極めて稀。 要するに、車や自転車に乗ったり、コンピューターを使っている限りは ヴィーガン失格。
加えて、ヴィーガンを謳っているプロダクトのパッケージに動物性の原料が用いられていることも多く、 ヴィーガンというコンセプトを完璧に実践するのは現代社会では不可能なこと。 それらを思うと ヴィーガンというものが商業的手段や偽善的コンセプトと見なされても仕方がないと思うのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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