May. 23 〜 May. 29 2005




マクドナルド、サラダの不思議



5月に入ってから、アメリカの『ヴォーグ』、『インスタイル』と いったファッション誌に、盛んに掲載され始めたのが、 「Fruit Buzz (フルーツ・バズ)」という銘打った、マクドナルドの新メニュー、フルーツ&ウォルナッツ・サラダの広告である。(写真右)
マクドナルドが、ファッション誌に広告を掲載するというのは、比較的珍しいことであるけれど、 こうした広告戦略を行うのは、当然のことながら、この新しいサラダが女性客をターゲットにしたプロダクトだからである。 既にマクドナルドでは、プレミアム・サラダというネーミングで、シーザース・サラダ、カリフォルニア・コブサラダ、ベーコン・ランチ・サラダという 3種類のサラダがメニューにフィーチャーされているけれど、データによれば、サラダをオーダーする人々の80%は女性であるという。
今回新たに導入されたフルーツ&ウォルナッツ・サラダは、2種類のリンゴとグレープのミックスに、キャンディド・ウォルナッツ(脂で揚げてシュガー・コートしたクルミ) を トッピングにして、甘いヨーグルト・ソースを添えたもので、女性がデザート、もしくはスナックとして味わえるように企画されたプロダクトである。

マクドナルドがこうしたヘルシー路線のプロダクトを開発し、そのプロモーションに巨額な費用を掛ける理由は、 消費者の健康志向に対応すると同時に、同社のメニューにヘルシーなオプションとイメージを持たせるためである。 しかしながら、マクドナルドの独自の調査では、同社の典型的カストマーは、「ヘルシーな食事を望んでいる」と言いながらも、 実際にはその10%程度のみがサラダを購入しているに過ぎず、さらに、消費者の健康志向を反映して生まれたはずの ヴェジー・バーガー (ヴェジタブル・バーガー) にしても、1日に2〜3個しか売れないため、今では多くの店舗がその取り扱いを止めてしまった状態であるという。
でも、こうしたヘルシー志向のアイテムが、マクドナルドのイメージ戦略だけで終わっているかと言えば、決してそうでもなく、 先述のプレミアム・サラダは、マクドナルドが過去10年間に発売した商品の中で、最大のヒットと言えるもので、 2003年3月の登場以来、3億食を販売しているという。そして この約4ドルのサラダは、マクドナルドに年間6億ドル (約642億円) の売り上げをもたらしているのである。

さて、マクドナルドといえば 誰もが知るアメリカ最大のファスト・フード・チェーンであるけれど、その店舗数は米国内だけで1万3700軒。 1日に2600万人分の食事をまかなう、近代アメリカの食文化の象徴とも言える存在である。
今では、「アメリカ国民を肥満に陥れたフード・チェーン」 という汚名を着せられている同社であるものの、 フード業界の歴史を遡れば、マクドナルドこそが アメリカ国内のビーフ、チキン、ポテト業者を育ててきたビジネスで、 同社のニーズに応じて、業者達が安定したクォリティを低コストで提供する努力を重ねた結果、 市場全体に活性化がもたらされ、アメリカの一般の消費者がその恩恵を受けることが出来るようになった訳である。

では、マクドナルドが実際にアメリカのフード業界にどれだけのインパクトをもたらしているかと言えば、 同社が年間に消費する牛肉とポテトの量は、それぞれ50万トンで、これは米国牛肉市場全体の4.1%、ジャガイモ市場全体の2.2%に当たる数字である。 すなわち、アメリカの牛肉の年間総生産量の約25分の1、ポテトの総生産量の約50分の1が一企業によって消費されているという訳で、 これは 「市場を支えている存在」 と言っても過言ではないと同時に、 マクドナルドほどのメガ・ビジネスが、新たなメニューの導入に伴う、新たな食材の仕入れを行った場合、 全米における食材価格に影響を与えるほどのインパクトを市場にもたらすのも事実である。
例えば、マクドナルドが2003年にプレミアム・サラダをメニューに加えて以来、同社はそのサラダに使うグレープ・トマトを年間5000万パウンド(2250万キロ) 仕入れているけれど、このことは、アメリカ国内におけるグレープ・トマトの価格が、過去5年間で25%アップしている要因と見なされているのである。 また今回、フルーツ&ウォルナッツ・サラダ、そして今年6月に登場予定のアップル・ディッパー (皮を剥いたリンゴをビニール・パックに詰めたもので、 キャラメル・ソースにディップしながら食べるもの。写真右下。) という2つのプロダクトをメニューに加えるにあたって、同社は年間で1億3500万個、 重さにして5400万パウンド (約2430万キロ) の リンゴを仕入れることになっているけれど、 この突如出現した全米最大のリンゴ仕入れ業者の影響で、昨年から今年にかけてのリンゴの価格がアップしていることも伝えられているのである。

私は、マクドナルドという企業は、そのマニュアルやトレーニング・システム、フランチャイズの展開、マーケティングから商品開発まで、 本当にありとあらゆる部分で、現代ビジネスのパイオニアとして、敬服に値する存在と思っているけれど、 そのヘルシー志向への取り組みについては、首をかしげる部分が多々あって、 同社は先述のプレミアム・サラダによって、ようやく利益が上がるサラダの開発にこぎつけたものの、これを生み出すまでの約10年間、 サラダ、ラップ、ヴェジー・バーガーなど様々なヘルシー商品で失敗を繰り返しており、 これによって商品開発費や広告費をかなり無駄にして来たことは、周知の事実なのである。

今回発売された、フルーツ&ウォルナッツ・サラダにしても、感心出来ないプロダクトというのが偽らざる感想で、 まず私が思ったのは、リンゴ1個分も使用せずして、約4ドルという割高感である。 でも、フルーツ&ウォルナッツ・サラダに限らず、マクドナルドのサラダは他のメニューに比べて割高になっていることは指摘されており、 この理由は、食材の保存が利かないために、デリバリーの回数を増やしているからだという。
また、食べてみると、使用されている2種類のリンゴのうち、グラニースミスと呼ばれる青リンゴは、 しびれるほど酸味が強く、添えられているヨーグルト・ソースは、安っぽいシュークリームの中のカスタード・クリームのような味で、 人工的な甘味が感じられるもの。トッピングとして付いてくる、キャンディド・ウォルナッツは、なかなか美味しかったけれど、 これとて脂で揚げて、砂糖が加えられているのだから、決してヘルシーとは言えない代物であったりする。
結局のところ、4ドルを出してこのサラダを食べるよりも、70セントでリンゴ1つを買ってかじった方が、安上がりで満足感が得られる だけでなく、ヨーグルト・ソースやナッツで余分なカロリーを摂取せずに済むというのが実際のところなのである。

私からみれば、マクドナルドがサラダを販売して、ヘルシー志向をアピールするというのは、タバコ会社最大手のフィリップ・モリスが 禁煙キャンペーンにお金を出しているのと同様、本来のビジネスと矛盾する行為に思えてしまうものである。 これは、私にとって、マクドナルドを始めとするファスト・フード・レストランが、「腹を据えて 身体に悪い物を食べるところ」 と割り切っている存在だからかもしれないけれど、そもそもマクドナルドの業績を支えているのは、「サラダやフルーツなど食べたくない」 と思っている人々な訳で、ヘルシー志向であれば「マクドナルドに行ってサラダを食べよう」という気は起こらないものである。
事実、同店で、サラダをオーダーしているのは、子供にせがまれてマクドナルドにやってきた母親達が圧倒的に多いとも言われており、 要するに、サラダをオーダーしている人でさえ、サラダが目当てでマクドナルドに足を運んでいる訳ではないとも言えることになるのである。
バーガー・キング等、マクドナルドのライバルと見なされるファスト・フード・チェーンでは、 昨今、ヘルシー志向とは逆行する高カロリー、高脂肪の メガ・バーガーを発売する傾向にあるけれど、ファスト・フードを本当に好む客層を引き付けるには、彼らの罪悪感を和らげるサラダを扱うよりも、 「めっぽう身体に悪そうなバーガー」を開発してギルティ・プレジャー (悪い事をしている喜び) をあおる方が 効果的、かつパブリシティが得られるというのはいくつかの例が立証済みである。
マクドナルドにしても、、現在最も売れている人気アイテムというのは、意外にもダブル・チーズバーガーで、 これは年間15億個を売り切るメガ・ヒット商品であるけれど、その栄養価をチェックしてみると、カロリーは460、脂肪分が23g、たんぱく質25g、 そして塩分が1140mgで、栄養の専門家が指摘するアメリカのファスト・フードの高カロリー、高脂肪、高塩分という三悪を 見事に満たしたアイテムとなっているのである。
この商品は、過去数年間、メジャーなプロモーションなど一切行っていないにも関わらず、 巨額な広告費を掛けたプレミアム・サラダ2年分の売り上げ数の5倍を 1年間で売り上げてしまう訳で、 労せずして稼いでいる理想的なプロダクトと言えるものである。
そう考えると、マクドナルドがどうしてそんなにまでしてサラダが売りたいのか?、私には全く理解に苦しむところなのである。


Catch of the Week No.4 May : 5月 第4週


Catch of the Week No.3 May : 5月 第3週


Catch of the Week No.2 May : 5月 第2週


Catch of the Week No.1 May : 5月 第1週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。