May 24 〜 May 30 2010




” SATC2, Old & Dated ”


今週もメディアはメキシコ湾の原油流出事故とその環境被害、そして流出阻止作業について最も報道時間が割かれていたけれど、 週末29日には 期待を集めていたトップ・キルという流出阻止手法がまたもや失敗。 その後、ブラウナー大統領補佐官による 「原油流出は8月まで続く恐れがある」という 気が遠くなるようなコメントが発表され、 アメリカは大きな不安を残しながらメモリアル・デイの3連休に突入したのだった。

さて、メモリアル・デイとは本来はその名の通り、主に戦没者の死を悼むホリデイであるけれど、多くのアメリカ人にとってこの3連休は ビーチが解禁になり、今年初のバーべキュー・パーティーをするなど、夏の始まりを意味するもの。 例年この連休を利用して 旅行に出掛ける人々も多いけれど、今年はリセッションがピークをつけていた昨年に比べて 旅行者数が5%アップしていることが報じられているのだった。
とは言っても ガソリン代の低下を反映してか、増えているのは 車による近場のミニ・ヴァケーションで、 飛行機による旅行は僅か2%のアップ。このことからも、まだまだアメリカが完全にリセッションから抜け切っていないと同時に、 ユーロ圏の経済不安の煽りを受けて リセッションに逆戻りすることを懸念し、人々が消費控えをしている 様子が指摘されているのだった。


さて、このメモリアルデイ・ウィークエンドの週に公開されたのが 「セックス・アンド・ザ・シティ 2」。
前作の「セックス・アンド・ザ・シティ :ザ・ムービー」から2年が経過しての公開であるけれど、ホリディ・ウィークエンドというスケジュールを受けて、 通常映画が公開される金曜ではなく、木曜に繰り上げ公開となったのが同作品。 その公開は、前作同様 封切日の午前零時からとなっており、ニューヨークでも大変なフィーバーを巻き起こしていると言いたいところだけれど、 実際のところ、公開初日木曜に私が出掛けた映画館はガラガラ。来ていたのはもっぱら年配の女性ばかり。
CUBE New York のスタッフも初日にタイムズ・スクエア近くの劇場に出かけていたけれど、やはりその劇場もガラガラで、 来ていたのはSATCジェネレーション(30代、40代)とは言いがたい 大学生くらいのキャピキャピした層であったという。
実際、明日メモリアル・デイのマンハッタンの映画館でのオンライン・チケットの売り上げ状況をチェックしてみたけれど、 全ての劇場の全時間帯が「空席アリ」で、売り切れの劇場や時間帯はゼロの状態なのだった。
事前の予測では、木曜の公開から週末までの間に$75ミリオン(約68億2500万円)を売り上げるだろうと言われ、 文句無しにボックス・オフィスのNo.1に輝くと見込まれていた 「SATC2」 であるけれど、 週末3日間の売り上げは、前作の「セックス・アンド・ザ・シティ :ザ・ムービー」の$54ミリオン(約49億1400万円)から大きく下がって $32ミリオン(約29億1200万円)。ボックス・オフィスでも 公開2週目の「シュレック・フォーエヴァー・アフター」の$43ミリオン(約39億1300万円)に遥かに及ばず、 第2位に甘んじる結果。
木曜の売り上げを加えても、その興行成績は$46ミリオン(約41億8600万円)で、 $75ミリオンの予想を大きく下回る結果となっていたのだった。

他のサマー・ムービーよりもずっと多くのパブリシティを獲得し、大々的な広告プロモーションが長きに渡って行われてきた同作品が、 これだけ期待はずれの興行成績に終わったのは、「レビューが悪かった」という指摘もあるけれど、レビューが最悪でも 蓋を開けてみれば大ヒットという作品は数多いので、この指摘は誤り。
個人的な意見では、「SATC2」は前作とは異なり、トレーラーや撮影エピソードなどをチェックしていて、 当初描いた「早く観たい」と思う気持ちがどんどん失せて行った作品で、私自身「ファッションはさておき、映画としてはかなり退屈」を覚悟して映画館に出かけたような状態だったのだった。 事実、いくつものメディアのレビューを読んでいても、目立つのは「Boredom/退屈」という言葉。そして実際映画を観ている最中に私自身が感じたのもこの言葉で、 メイン・キャスト4人がアブダビの砂漠に居るシーンに至っては、退屈を通り越して 眠気が襲ってきてしまったのだった。

では何がそんなに退屈なのかと言えば、ストーリーの展開がが全くと言ってよいほど無いこと。
当初、同作品は クリス・ノース扮するビッグ(ジョン)がリセッションで財産を失い、ロンドンに単身赴任をしている最中に、ぺネロピー・クルーズ扮する金融エグゼクティブと不倫をし、 キャリーはその事実を知って別れようとするものの、妊娠していることに気づく。ミランダは弁護士の仕事を辞めて、夫スティーブと一緒にバーを経営することになり、 シャーロットは夫婦間に亀裂が入り、サマンサはバーニー・メイドフのようなポンジー・スキーム(ネズミ講詐欺)でやはり財産を失うものの、 若いボーイフレンドに巡り会う、といった実に信憑性がある ”フェイクのあらすじ” が報じられていたのは、CUBE New Yorkの 「セックス・アンド・ザ・シティ 2 スポイラー」でもお伝えしていた通り。
でも実際の映画は、このフェイクの10分の1にも満たない展開という貧しいストーリー・ラインで、結婚2年目のキャリーは、夫との結婚生活が 他の既婚カップルのように退屈なものにならないようにと苦慮している最中。シャーロットは2人の子供の育児に苦しみ、ナニー(子供の世話役)の存在を有難いと思う一方で、 夫が若くて 胸が大きな彼女に惹かれることを心配し、神経質になっている。ミランダはセクシスト(性差別主義)の上司に不満を感じて仕事を辞めてしまい、 サマンサはメナポーズ(更年期)と戦いながらも、相変わらずの性欲旺盛ぶり、 というのが 「SATC2」で描かれている4人のメイン・キャラクター。
このうち、メディアや一般の人々のレビューで、今も変わらぬ 「セックス・アンド・ザ・シティ 」のキャラクターを貫いていると同時に、 「今となっては 同タイトルを象徴できる唯一の存在」 と指摘されるのが、キム・カトゥラル扮するサマンサ。 彼女無しでは「No More Sex and the City」になるところだった と言われるほどであるけれど、 それほどまでに既婚の3人のキャラクターは 実際にマンハッタンに住む既婚女性よりも 退屈に描かれてしまっているのだった。

さらに、私にとって今回の作品の最大の興ざめと言えたのは、かつてサラー・ジェシカ・パーカーが「SATCの5人目のキャラクターはニューヨーク!」と語っていたにも関わらず、 ニューヨークの街中のシーンやホットスポットが全くと言って良いほど登場しなかったこと。
バーグドルフ・グッドマンの店内のシーンは、実際にバーグドルフでロケを行っているけれど、ダラスのニーマン・マーカスのように撮影されていたし、 4人のブランチ・シーンもソーホーのギャラリーをレストランに仕立てた でっち上げロケーション。 前作に比べて マンハッタンでの外ロケが遥かに少なかったのもうなずけるほど、ニューヨーク不在に仕上がっているのが今回の作品なのだった。

その替わりに映画の大半を占めているのが、4人のキャラクターが出かけるアブダビでのヴァケーション・シーン。
「Sex and the Desert(砂漠)」というタイトルの方が相応しいほどに長々と描かれる4人のヴァケーションには、撮影費の大半が費やされたのでは?と 思われるけれど、 「SATC2スポイラー」でもお伝えしている通り、このアブダビのシーンが撮影されたのは実はモロッコ。 性のモラルに厳しい アラブ首長国連邦は 「セックス」という言葉がタイトルに入っているという理由で、同映画に撮影許可をおろさなかったとのこと。
でも私を含め、この作品を見た知人やインターネット上のレビューのリアクションは、「セックス・アンド・ザ・シティ 」はニューヨークが舞台だからこそ意味を成すコンセプト。 世界一 エキサイティングな街、ニューヨークを舞台に 4人の異なるキャラクターの キャリア、セックス・ライフ、ソーシャル・ライフ、ファッション がリアリティ溢れる ライフスタイル・パッケージで描かれていたのが 大センセーションを巻き起こした 本来の「セックス・アンド・ザ・シティ 」。
ところが「SATC2」で描かれているのは、 人のお金を使ってヴァケーションに出掛けた ミドルエイジ・ウーマンで、 オーバー・ドレスアップした姿で、ラクダに乗ったり、バーで愚痴ったりしている様子は、 本来のコンセプトとはあまりにかけ離れているというのが私の偽らざる感想なのである。

ニューヨーク・タイムズ紙のレビューアー(批評家)は、「実際より長く感じられる2時間27分の作品を見終えた後、自分がそれ以上に年を取ったのを感じた」と 書いていたけれど、私が感じたのは SATCのキャラクター4人が 移り変わるニューヨークという街の速さに取り残されて、年齢以上に年を取って見えたということ。
映画の中ではアブダビのホテルのプライベート・バーで、互いに母親であるシャーロットとミランダがそれぞれの悩みを語り合うシーンが出てくるけれど、 「子供が居て幸せだけれど、やっぱりそれだけじゃ満足できない。仕事をしていないとダメなの」というのがミランダ。 「2人の子供を愛しているけれど、時には助けが必要」、「サマンサに夫がナニーと浮気をするのでは?って言われた時、私からナニーを奪わないで!って思った」と 語るのがシャーロット。このコメント自体は既婚女性だったら多かれ少なかれ 普通に感じるものであるけれど、 一般のニューヨーカーが日常会話で普通に語っているような こうしたコメントを、ミランダとシャーロットはコスモポリタンをすすって、アルコールの力を借りながら 搾り出すように告白し合っているのだった。
この様子は 既婚女性が もっとずっとシリアスな愚痴を カジュアルに語る様子に慣れている私としては、 滑稽を通り越して 「この作品は1960年代のストーリーなのでは?」とさえ思えてしまったのだった。

さらに、あまりの時代錯誤に絶句したのは アブダビのカラオケ・バー(実際にはブルックリンのスタジオのセット)で 4人が歌うシーンで ミランダが選んだ曲、「アイ・アム・ウーマン」。
この曲は1972年に ヘレン・レディが歌って大ヒットしたもので、70年代に起こったウーマン・リブのムーブメントの旗印となった歌。 当時、「I can do anything. I am strong. I am invincible. I am woman」という歌詞に触発されて、弁護士や医師、宇宙飛行士などの 野心的なキャリアを目指し始めた女性が増えたと言われるけれど、この歌に感化された世代は今や60歳前後。
私はアメリカに約20年住んでいて、この歌の存在や社会的な意味合いは知っているけれど、そんなに頻繁に耳にする歌ではないだけに、 この歌のメロディーと歌詞を暗記していて、カラオケで歌いたがる女性と言えば 当然60歳くらいを想像するのである。
なので、SATCのキャラクターの4人が 未だ社会的自由が制限されているアブダビに対するメッセージとして、まるで女性の自由を謳歌するかのように この曲を歌っているシーンを観た時は、 唖然とする一方で、すっかりシラけてしてしまったのだった。


私は、今日久々に既婚の友達と電話で話していて、彼女が劇場で観るつもりは無いというので「SATC2」の詳細について説明してあげていたけれど、 彼女が最も反応したのが、「結婚生活に週2日程度の休息が必要」と夫のビッグに言われたキャリーが、それをアブダビに向かう飛行機の中で 打ち明けた際のシャーロットの反応。
「週2日の休息が必要なんて、結婚生活がまるで仕事みたいじゃない」というのがシャーロットのリアクションであったけれど、 これを聞いた友達によれば、「結婚と仕事を一緒にするなんて、セックス・アンド・ザ・シティ も落ちるところまで 落ちたわね〜。仕事は週5日こなせば、お金が稼げるのよ。 結婚生活なんて週7日やってても、一銭にもならないんだから・・・」 とのこと。
私はそんな彼女の言葉からも 「セックス・アンド・ザ・シティ 」が実際にニューヨークに暮らす女性達よりも立ち遅れた存在になっていることを実感してしまったのだった。
さらに言うならば、「SATC2」では そのジョークも年寄りじみていて、「Abu Dhabi-Do」、「Lawrence of my labia」といった駄洒落は、 SATCジェネレーションである30代、40代の女性の口から聞かれるとは信じがたいもの。これも60歳ジョークならば仕方無いかな?と思えるものなのだった。


今も強く伝統を重んじるアブダビと「SATC2」を結びつけたコンセプトは 映画の最後に登場するアブダビの女性達。
表面的には真っ黒なシャリア (ブルカ/チャードル) で顔や身体を覆って 伝統に従っているように見えても、その内側にはルイ・ヴィトンやプラダなどの最先端ファッションを纏い、 西側諸国のトレンドも熟知した、開けた考えを持っている彼女らを見て、キャリーも自分の結婚は表面的には伝統に従い、 その内側でオープンな思想を持とうと考える訳だけれど、このメッセージも「時代遅れで 弱い」 というのが私の感想。
脚本と監督を担当しているマイケル・パトリック・キングの 時代と女性の読みの甘さだけが 強く感じられた作品に仕上がっていたのだった。


個人的に「SATC2」で唯一、最大の収穫と言えたのは、映画の最後にビッグがキャリーに贈る写真右のリング。
最初は青っぽく画面に映ったので、「まさかサファイア?」と思ったけれど、これは5カラットのブラック・ダイヤモンド。 それまでは「今回の映画のベスト・ファッション・アイテムはクリスチャン・ルブタンの総クリスタルのピガールだけ・・・」と思っていた観ていた私も、 このリングにはノックアウトされてしまったのだった。
なので、今後の私の目標は何とかシミュレーテッド・ダイヤモンドでこの深いブラック・ダイヤが再現できないものか?を模索すること。 その意味で、この映画は最後に来てインスピレーショナルな作品となったのだった。

ところで、同映画の撮影に費やされたバジェットは$100ミリオン(約91億円)。円高のせいで、日本円に換算すると やや控えめに聞こえる金額であるけれど、 ハリウッドでは公開1週目に制作費の50〜60%を稼ぎ出せない作品は赤字という目安があるだけに、 果たして「セックス・アンド・ザ・シティ 3」が製作されるかは 微妙なところという印象なのだった。
「セックス・アンド・ザ・シティ 」のTVシリーズの大ファンであった私自身、前作の映画、そして「SATC2」を観た後で、 「SATC3」が観たいか?と言えば、 2つ返事で 「Yes」 とは言えないのが正直なところで、 これ以上、お金儲けに走って SATCのイメージを壊すよりは、ここで打ち止めにした方がベターのように思えるのだった。

「SATC2」に比べると、今日久々にケーブル局で観なおしたウッディ・アレン監督作品の「ヴィッキー・クリスティーナ・ヴァルセロナ」は、 2人の異なる現代女性が見事に描き出されていた作品。
私はこれまで マイケル・パトリック・キングを始めとする ゲイ男性の方が女性を理解しているのでは?と考えてきたけれど、 ウッディ・アレンのような存在を考えると、ストレート男性の方が ひとたび女性を理解すると、その核心を的確についてくるものだと 考えを改めたのだった。





Catch of the Week No. 4 May : 5月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 May : 5月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 May : 5月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 May : 5月 第 1 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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