May. 23 〜 May. 29 2011

” NYPD Rape Trial : Why Not Guilty? ”

今週、アメリカで最も大きく報じられていたのは、ミズウリ州ジョプリンを襲った竜巻の被害のニュース。
アメリカでは今年に入ってから、死者が出るほどの竜巻が60回も起こっていることが報じられており、 あっという間に殆どの木造建築の家が崩壊したジョプリンの町の様子(写真上)は、日本の津波の被害同様に ショッキングな映像として捉えられていたのだった。

その一方で、今週ロンドン入りしていたのがオバマ大統領夫妻。でも前回ロンドンを訪れて、エリザベス女王と 初対面を果たした時に比べるとその報道は小規模なもの。
でも、オバマ大統領の失態として報じられたのが以下のYouTubeのビデオで公開されている、晩餐会での乾杯の際の一幕。
乾杯スピーチのBGMとして流れているイギリス国歌が終わってから 「To The Queen / 女王のために(乾杯)」と言わなければならなかったオバマ大統領であるけれど、 シェイクスピアの言葉を引用したスピーチを終えて、イギリス国歌が終わらないうちに 「To The Queen 」と言って、グラスを挙げてしまったため、 賛同するものは誰もおらず、オバマ大統領も、そのままグラスをテーブルに戻す有様。 大統領にとって 気まずい空気が流れてしまう羽目になったのだった。




その後、音楽が終わってから 乾杯が行なわれたけれど、オバマ大統領はグラスを挙げても、グラスに口をつけなかったのは ビデオにもある通り。
晩餐会の列席者が誰も大統領の乾杯に賛同しなかったのは、プロトコールで事前に国歌が終わってからの乾杯という指示が ゲストにも徹底されていたため。
前回のエリザベス女王との対面では、「女王陛下の身体に触れてはいけない」、「握手は女王陛下が差し伸べた手に応じるのがマナーで、 自分から手を差し伸べ手はいけない」、「女王陛下に自分から話しかけてはいけない」というプロトコールを全て破った上に、 ミッシェル夫人がたとえアライアのものとはいえ、女王陛下との対面にカーディガンを着用していたというのが 物議を醸していたけれど、今回は晩餐会というフォーマルな席だったこともあり、大統領のプロトコール破りは通じない状況になっていたのだった。
この様子は、オバマ夫妻を あまり出が良くないと思っているスノッブな英国人を優越感に浸らせたとも言われるけれど、 これを報じたアメリカ・メディアの中には、「大統領は晩餐会の式次第を頭に入れるよりも、やらなければならないことが沢山ある」と同情を示す声も 聞かれていたのだった。



ニューヨークで今週 最も物議を醸したと同時に、女性の怒りを買ったのが、 4月から行なわれていたニューヨーク市警察(NYPD)の警官による 泥酔した女性に対するレイプ裁判で、容疑者である2人の警官が無罪の判決を受けたこと。
判決の翌日には、これを不服とする女性たちが裁判所の周りで抗議デモを行なったことが報じられているけれど、 事件が起こったのは2008年の12月7日のこと。
ファッション業界で働く女性、当時27歳が自らの昇進祝いをブルックリンのバーで行い、 そこで飲み過ぎた女性は、友人にタクシーに乗せられて、イースト・ヴィレッジのアパートに戻ってきたのだった。 しかし泥酔状態で、自力でアパートに帰れないと判断したタクシーの運転手は911(日本で言う110番)に通報。 これを受けて駆けつけたのが、ケネス・モレノ(43歳)とフランクリン・マタ(29歳)という2人の警官。
2人は女性をアパートまで エスコートして、7分後には女性の住むアパートのビルから出てきた様子を、近隣のビルディングの防犯カメラによって 捉えられているのだった。 しかしながら、2人はその後、同じ夜に3回にも渡って女性のアパートに戻ってきており、そのうちの2回は女性の鍵を使ってビルの中に入っているのだった。 ちなみに女性が暮らすアパートのビルディングには防犯カメラは設置されておらず、2人の動向はこの近隣ビルの防犯カメラによる映像、 すなわち、2人が女性のアパートの建物に入る様子と 出て来る様子しか捉えられていないのだった。

女性は 翌朝、ベッドの上で ピンクのブラだけをつけたほぼ全裸状態で、うつ伏せになって目を覚まし、自分がレイプされたことを悟っただけでなく、 部屋の中が物色され、パスポートがテーブルの上に出ていたこと、ブラインドが閉まっていたことなどに気付いたという。
その数日後、この女性はケネス・モレノを警察署に尋ね、彼を呼び出して当時の様子を問い詰めたところ、 ケネス・モレノが彼女と関係したことを認め、パートナーは彼女とセックスをしていないこと、コンドームを使用したので妊娠の心配は無いことを語っており、 女性はこの会話をテープに録音し、今回の裁判の証拠として提示していたのだった
このテープ以外にも、事件を裏付ける状況証拠として、2人の警官が、この夜 別の現場に行くようにとの指示を無視し続けただけでなく、 ケネス・モレノがカナダからの旅行者を装って、女性のビルの傍に「ホームレスが居て困っている」と、虚偽の通報を自ら行い、 女性の住むアパートに戻る口実を作っていたことも明らかになっているのだった。

同事件は、NYPDの警官が ファッション業界に勤める若く、ルックスの良い女性が 泥酔している状況を利用して、 本来彼女を助けなければならないという立場にありながら、ベテランのケネス・モレノが意識の無い彼女をレイプし、 そのパートナーであるフランクリン・マタが見張り役を務めていたとして 大きく報じられ、 被害者の女性は、2人の警官とニューヨーク市を相手取って$57ミリオン(約46億円)の刑事と民事の双方の訴えを起こしていたのだった。

今週判決が下ったのは そのうちの刑事裁判であったけれど、明らかに警官が不審な行動を繰り返した上に、その裁判での証言も 筋が通っていなかったにも関わらず、2人に対するレイプ容疑の判決は無罪。 警官としての違法行為でのみで有罪という結果になっており、2人は恩給を取り消されての免職処分となったけれど、 この判決は多くの女性達を怒らせたと同時に、メディアやネット上のサイトの多くも 異論や疑問を唱えるリアクションを見せていたのだった。

では、弁護側がどのように2人の警官のレイプ容疑を無罪に導いたかと言えば、 まず、ケネス・モレノが行なった虚偽の通報については、「女性のアパートに戻る時間を稼ぐため」 と認めながらも、戻った理由は、 自らがアルコール中毒であった過去を持つケネス・モレノが、女性の酔い方を見て彼女も 自分と同じようにアルコールの問題を抱えていると判断し、女性を心配したためと 説明されているのだった。
加えて、女性が立ち去ろうとする度に 「様子を見に戻ってきて欲しい」と せがんだとのことで、 3回目に部屋に戻った理由については 「女性に朝食を一緒にしたいと誘われたけれど、 それを断るため」と証言。 また警察官という立場にありながら、「虚偽の通報が犯罪とは知らなかった」と見え透いた言い訳をした上で、 「今となっては馬鹿なことをしたと思っている」と語っていたのだった。
また、ケネス・モレノは自らがアルコール中毒になった理由について、9・11のテロの救出活動を境に、精神的に落ち込んでしまい、 当時別居中の妻に子供の親権を奪われそうになって、アルコールに依存するようになった説明。 その後、アル中から立ち直り、親権も取り戻したという同情を誘うシナリオを持ち出してきたのだった。


さらに、ケネス・モレノは女性が自ら衣類を脱いで、彼を誘惑しようとしたという説をも展開。
「私のことが嫌いなんでしょう?」と からむように迫る女性を、落ち着かせるために肩や頬にキスをして、一緒にベッドに横になったことは認めているのだった。
そしてトイレで、吐いている女性に、自分の好きなバンドはボン・ジョビだと語って、そのヒット曲「リヴィング・オン・ザ・プレーヤー」を 歌って聞かせたという、訳の分からない説明までが その宣誓証言に飛び出してきていたのだった。
女性が録音していた会話の内容については、彼女が取り乱していて、「レイプを認めなかったら署に行ってわめき散らす」と言ったため、 「彼女を落ち着かせるために、適当なことを言った」と証言。 一方の彼のパートナー、フランクリン・マタについては、ベッド・ルームの隣のリヴィング・ルームのソファーで眠っていただけと説明しているのだった。
でも、基本的に弁護側の言い分は、「女性が$57ミリオンという、一生働かずに済む大金を手にするために訴訟を起こした」、 「DNAの証拠が無い」、「警官2人は馬鹿げた行動を取ったけれど、だからと言ってレイピストという訳ではない」というもので、 アメリカの裁判における「疑わしきは罰せず」というセオリーに基づく 無罪判決を勝ち取った結果となっていたのだった。

一方の原告側の女性は、その証言台で 「自分以外の誰かが 自分の服を脱がせて、タイツと下着を引きずり下ろすのを感じた」こと、 その後 防弾チョッキを脱ぐ際の「ベルクロ(マジック・テープ)を剥がす音を聞いた」こと、「酔っ払っていたものの レイプされたことは覚えている」と語ったものの、 肝心な部分の質問になると「I don't remember」という答えが多く、本当に泥酔していた様子のみが陪審員に伝わっていたのだった。
また、「ボーイフレンドが居ない」とフランクリン・マタに語ったと言われる 彼女のベッドからは、 3人の男性の陰毛と精液のシミが発見されたものの、いずれもケネス・モレノ、フランクリン・マタのものではなかったことが報じられているのだった。


ニューヨーク・タイムズ紙の判決翌日の報道によれば、2人の警官に無罪の判決を下した陪審員の1人は、「陪審員全員が、被害者、警官2人のいずれの証言も信じておらず、 それぞれの証言には筋が通らない部分が多すぎた」と語っており、 また別の陪審員は「彼らのうち3人は 被害者証言の後、レイプを信じたけれど、それ以外の陪審員は最初からレイプを疑って掛っていた」ことを 明らかにしていたのだった。

ニューヨーク・ポスト紙も、判決翌日の同紙の中で、女性コラムニストが厳しくその判決を批判していたけれど、今日、5月29日、日曜付けの同紙の中では、 2人の警官が無罪になった理由を専門家にインタビューし、以下の3点に纏めているのだった。
  1. 人気TV番組「CSI」の影響

  2. 女性被害者に厳しい、女性陪審員の存在

  3. 女性被害者の同情されにくい状況


1の「CSI」は、「クライム・シーン・インヴェスティゲーター」の略で、 事件現場で働く法医学の専門家を描くドラマ。 同番組の高視聴率によって、法医学のプロセスが知られるようになった関係で、90年代のO.J.シンプソン裁判の際には有罪立証に 全く役に立たなかったDNA証拠の絶対性が一般に認められるようになったと同時に、DNA証拠の不在が、特にレイプ裁判の場合、致命的な証拠不足と見なされる傾向にあるという 。

2については、今回の裁判では12人の陪審員のうちの5人が女性であったというけれど、通常女性は女性に対して非常に厳しいジャッジを下す傾向にあるという。 具体的には「自分だったら帰宅できないほど酔っ払うことはない」などと自分と比較した、見下し目線で被害者の人格を判断することが珍しくないとのこと。 同様のことは、法医学の女性専門家にも言えることで、女性被害者の中には女性のドクターや捜査員と関わることを拒むケースが少なくないともいわれるのだった。
ことに被害者が若く、魅力的な場合、女性陪審員から反感を買うケースは少なくないようで、女性だから被害者女性の立場になって裁判を見守るかと言えば、むしろその逆が多いことが 指摘されているのだった。

3については、今週、同じく レイプ裁判で、老人ホームの寝たきりの61歳の女性が被害者である事件が、目撃者無しで、犯人が有罪となったことからも分かる通り、 犯人有罪を勝ち取れる可能性が高いのは、被害者が自分の意思で逃げられない、同情されるべき存在であるということ。
これに対して、被害者が1人で歩けないほどの泥酔状態で、ベッドから検出されたDNAサンプルから、 彼女がフリー・セックスを楽しんでいたかも知れない様子が垣間見られること、さらに その賠償金が$57ミリオンという 一生働かずに贅沢が出来る金額となると、 陪審員が被害者に同情し難い状況になることが指摘されているのだった。


状況証拠だけで犯人を有罪に導けない一方で、 状況だけで 被害者に対しは厳しいジャッジを下すのは大きな間違いだと私は考えるけれど、 その一方で、レイプというのは 非常に立証が難しい犯罪。
陪審員は 50%のレイプが でっち上げであると簡単に信じてしまうと言われているけれど、 実際の狂言レイプは、窃盗事件の狂言と同じ 3〜5%の確率で、極めて低いことが指摘されているのだった。
しかしながら、レイプの有罪を立証したところで、その刑期は3年程度。服役中の行いが良ければ、1年半ほどで出所するのが通常であるという。 これに対して被害者側の女性は、自分の下着や裸の写真が証拠物件として扱われ、 自分の性関係が法廷で語られるような辱めを受けて、勝訴する確立が極めて低いだけでなく、勝訴しても犯人を2年足らず刑務所に送り込めるだけとなれば、 訴えを起こさなくなるのは当然のこと。
FBIでは、アメリカ国内で 未遂を含むレイプ事件が全体の37%しか通報されていないと見積もっているけれど、連邦司法局では さらに低い28%と 見積もっているのだった。
なので、今回の判決や ホテルのメイドを襲った元IMFのマネージング・ディレクター、ドミニク・ストラウス・カーンに対する訴追の行方が、 今後のアメリカにおけるレイプ裁判において、女性被害者の更なる重荷になるだけでなく、今後 被害者が泣き寝入りをする傾向に益々拍車が掛ることが 懸念されているのだった。

ドミニク・ストラウス・カーンのケースでは、メイドのユニフォームから彼の精液が検出されているけれど、 レイプ裁判が男性にとって有利に働くのは、「レイプをしていない」と言い切れない際に、「セックスが合意のものだった」という 言い訳がまかり通ること。
なので、アメリカでは被害者が修道尼で、DNA証拠とレイプの様子を撮影した音声入りのビデオ画像でもない限りは、レイプの立証は極めて難しいと言わなければならないけれど、 私が今回の事件を特に腹立たしく思うのは、レイプをした、しないは別として、警官ともあろう者が 女性の鍵を使って部屋に何度も出入りして、その間に出向かなければならない通報を無視し、虚偽の911通報までしたこと。 私の目から見れば、ここには窃盗、公職放棄、そして虚偽通報という3つの違法行為が含まれており、 しかも警官が2人して、どちらかが止めることもなく、 その違法行為を行なっていた訳である。
そんな、警官がやって来るかも知れないと思ったら、たとえどんな事件が起こっても 女性は警察に通報することを躊躇するようになっても不思議ではなく、 通報するような事件が起こらなかったとしても、酔った友達をタクシーに乗せて帰らせることが 突如危険な行為と考えられるようになってしまったのである。
事実、この事件が報じられた直後に 私の女友達2人が酔っ払ってしまった際、「タクシーに乗せるだけじゃなくて、アパートまで送り届けないと、あのレイプ事件みたいなことになるかも・・・」と 別の友人が言い出し、その場に居たメンバーの2人は 厳寒の真夜中にタクシー代を負担して、酔っ払った2人をそれぞれ送って行くという 酷い目にあっているのだった。

もし、この現場でレイプが行なわれたのであれば、 合法的に女性のアパートに足を踏み入れることが出来る 警官という立場を利用した犯罪行為であり、 被害者を含む市民の税金から彼らの給与が支払われていることを考えると、 通常のレイプより 遥かに性質が悪い犯罪と言えるもの。
私の男友達は 「男はセックスが目的でなかったら、同じ場所に1晩に3回も戻ったりしない」と語っていたけれど、 これには私も全くの同感。
さらに言うならば、このレイプ裁判の報道がきっかけで、ランニングの最中、好んで聴くアイポッドのリストに入っていた ボン・ジョビの「リヴィング・オン・ザ・プレーヤー」を聴く度に、 白々しい警官の言い訳を思い出して 不愉快さを覚えるようになってしまったのも、 私にとっては大迷惑なのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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