May 30 〜 June 5 2005




Fake 活用の薦め



今週金曜の夜から、CUBE New Yorkのサイトで取り扱いがスタートしたのが、バレンシアガのモーターサイクル・バッグのコピーである。
サイトでも「瓜二つ」と謳っているように、本当に見分けがつかないほど精巧にリクリエイトされたこのバッグのリアリティをチェックするために、 私は数日前にバーニーズに出掛けて、本物と自分が持って行ったコピー・バッグを2つ並べて、 打ってある鋲の高さや、ストラップの太さまでチェックしたし、実際にモーターサイクル・バッグを2〜3年愛用している友人に コピーであることを伏せて見せたりしたけれど、その友人も、そしてバッグを販売している店員でさえも 見抜けなかったのが、今回取り扱いをスタートしたコピー・バッグである。

このバッグをクリエイトしているのは、CUBE New Yorkで2年前に大ヒットとなったジェリー・ケリーのメーカーでもあるベッソで、 5月の頭に 「バレンシアガのコピーを作ったけれど、それが物凄く売れているから、CUBEでも取り扱わないか?」と、ベッソの社長から打診を受けて、 サンプルを取り寄せたところ、あまりに上手く出来ていたので、急遽取り扱いを決めたのがこのバッグである。 サイトでは先週の時点で 、取り扱い予告をしていたこともあって、 モーターサイクルバッグは発売から48時間で、既に50個以上を売り上げており、これはジェリー・ケリーを凌ぐ勢いのハイピッチと言えるものである。

ここまで精巧なバレンシアガのコピー・バッグを扱うにあたって、「法律問題をクリアしているか?」という疑問を抱く人も居るかもしれないけれど、 デザインにコピーライトが発生していない場合、オリジナルのブランド名を謳わない限り、すなわちこの場合、 バッグの内側に「バレンシアガ」と書かれたタグを縫い付けない限りは、 ”リーガル(合法)・フェイク” と見なされるものなのである。 これは言ってみれば、グッチやシャネルの服のコピーが堂々とデパートで販売されていたり、 オスカーでセレブリティが着用した一流デザイナーのドレスのコピーが、翌週にはデパートののフォーマル・セクションに並ぶのと同じである。
このように、デザインというものは、バレンシアガのモーターサイクル・バッグのように、ちょっとでもファッションに関心のある人なら 誰にでも認識できるものであっても、コピーライトが生じるというケースは非常に稀な訳であるけれど、 逆にブランド名やロゴというのは、トレードマークそのものな訳であるから、 例え作り手がオリジナル・デザインで、ヴィトンと似ても似つかないバッグをクリエイトした場合でも、そこにヴィトンのロゴを入れてしまえば、 それは違法のコピー・プロダクトと見なされる訳である。

それでも中にはデザインがコピー・ライトでプロテクトされている商品もある訳で、その最たる例は、エルメスのバーキン、ケリー・バッグである。
エルメスは既にいくつかのメーカーを相手取って訴訟を起こし、そのコピー商品の生産差し止めと、ダメージに対する賠償金を受け取っているけれど、 同社が各国にコピー商品摘発用の法律事務所を擁して、常にコピーの出回りに目を光らせていることは有名である。
2年前の夏に ジェリー・ケリーが大流行した際も、当初エルメスが「デザインを盗まれた」として複数のメーカーを訴え、ジェリー・ケリーを 販売していたヘンリ・ベンデルを始めとする小売店に対し「取り扱いをやめない限り、訴訟の対象にする」と警告を発したため、 一時的にジェリー・ケリーが市場から消えてしまい、「幻のバッグ」となったのは、2年前の8月に このコラムでも書いた通りである。 でも、 同じ年の秋以降、CUBE New Yorkを始め、世界各国の小売店にジェリー・ケリーが蔓延することになったのは周知の通りで、 どうしてこれが可能になったかと言えば、その理由の1つは カリフォルニアのメーカーがジェリー・ケリーのネーミングで トレードマークを獲得してしまったこともあるけれど、最大の要因は エルメスのインテレクチャル・プロパティ(知的財産)として認められている ケリー・バッグやバーキン・バッグのデザインのコピー・ライトは、レザーで生産した場合にのみ保護されているもので、 ラバー素材については適用されなかったためである。

今や、世界中で取り扱われているフェイク・プロダクトの売り上げは、一流ブランドのバッグ、サングラス、時計から、DVD、乾電池、ヴァイアグラ等の薬品まで含めると、 年間で5000億ドル(53兆5000億円) にも達していると言われており、ブランド・ビジネスを脅かす存在にもなりつつあるという。 また、こうしたフェイク・プロダクトの売り上げの約60%がアメリカ国内におけるものだそうで、 このうちマンハッタン内で販売されているフェイク・プロダクトの年間売り上げは、230億ドル(2兆4610億円)。 この殆どは、チャイナ・タウンや、ブロードウェイ30丁目付近の小売店、もしくはストリート・ベンダー(露店)で販売されているものであるけれど、 昨今ではインターネット上での売り上げも急激に伸びているという。
また、フェイク市場としては日本も、アメリカとは違った形で お得意様であるようで、「日本でディスカウント販売されているブランド物の70%はAAAAクラスの精巧なコピーで、 その生産コストは販売価格の20分の1程度」という話を以前 聞かされたことがある。 アメリカの場合、コピー商品を買い手が偽物と認識して 非常に安価で手に入れているのに対して、 日本では、買う側が精巧なコピーを本物と信じて、本来の価値に見合わない高額を支払わされている傾向があり、 私の目から見れば、フェイク市場としては日本の方がアメリカよりも、遥かに悪質なものに思えてしまうのである。
それでも、正規とは異なるルートで購入するということは、偽物の可能性があることは折り込み済みな訳であるから、 騙される方も 自業自得 という気がしなくもないのは事実である。

一流ブランドの中で、フェイク・プロダクトのせいで最もダメージを受けていると言われるのは、 ルイ・ヴィトン、グッチ、シャネル、フェンディが4大ブランドで、時計ではカルチェ、ローレックスが圧倒的な市場占有率である。
カルチェに関しては今年に入ってから、チャイナ・タウンで55万個のフェイク・ウォッチが押収されているけれど、 中国からの輸入価格は1つ 僅か1ドル69セントであるという。
昨今では、こうした違法コピーの製造業者がどんどん大きくなっていることもあって、「摘発されたら、夜逃げをすれば良い」というような ビジネス規模ではなくなってきており、そのお陰でブランド側にとっては、ダメージの賠償金を請求出来るという利点(?)も生まれてきている。 例えば昨年2004年には、ニューヨークの高等裁判所が、カルチェの違法コピーを扱っていた33の業者に対し、カルチェ側に総額 約19億円の損害賠償と 裁判費用の支払いを命じる判決を下しているし、同じく昨年中には、ルイ・ヴィトンとフェンディのコピーを扱っていたチャイナ・タウンの29の業者に対し、 この2ブランドの親会社であるモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン側に、各業者17億円ずつ、合計493億円分の損害賠償と裁判費用を支払う判決が下されているのである。 同様の違法コピー裁判においては、他にロレックス、ポロ・ラルフ・ローレンなども勝訴を勝ち取っており、 一流ブランド側にしてみれば、自らのブランドの売り上げに打撃を及ぼすほどに、フェイク業者がビジネスを拡大しているものの、 そのお陰で億円単位の賠償金が取れるようになったというのは、決して喜べない朗報と言える訳である。

こうした一流ブランドが、違法コピーに対して非常にナーバスになる理由は、一流ブランドのビジネスを支えているのが、ごく一部の大富豪、 すなわち、1シーズンに軽く1000万円もの商品を買ってくれるようなリッチ・ピープルだからではなく、 「3000ドルのバッグは買えないけれど、200ドルのキー・ホールダーや、300ドルのサンダルなら買える」という一般大衆の 購買パワーだからで、違法フェイクを街角で購入するのも、やはりこの一般大衆なのである。 すなわち、グッチやヴィトンやフェンディといったブランドは、街角で売られているフェイクとこうした客層を争う競合関係にあるといっても 過言ではないことになるのである。
一方、ここ数年、違法コピーの取り締まりにかなりの力を注いでいるのが、ニューヨーク市警察であるけれど、 市側がこの摘発や取り締まりを強化する理由の1つは、店でブランド物が売れる代わりに 街角で違法の偽物が売れてしまえば、 売上税が徴収できない分、税収が減るためで、ニューヨーク市だけでこうした違法コピーのせいで 年間に1000億円分の税収が 失われていることが見積もられている。

さて、私は個人的にはフェイクという物は、本物の隣でつけて見劣りがするようでは価値が無いと考えていて、 本物と見紛うほどのクォリティであるからこそ、本物より遥かに安い値段で購入して、本物のように持ち歩いたり、身につけたりして意義があるもので、 「こんなにそっくりな物がこんな値段で買えるなら、本物なんて買うんじゃなかった」と、本物に大金を叩いた人に後悔させるのが 気分が良い事だと思っていたりする。
だから CUBEのベストセラー・セクションであるCubicle Julesで扱っている、シミュレーテッド・ダイヤモンドも、ティファニーやカルチェにつけて行って、 店員の反応を見てからGOサインを出したし、今回のモーターサイクル・バッグとて、先述のようにバーニーズで本物と見比べてしまったけれど、 私が 「クォリティが良くて、自分さえ気に入っていればフェイクでも構わない」と考えるのは、本物を買ったところで自分がより魅力的に見える訳でもなく、 その本物のバッグによって自信がついたり、気分が良くなったりする訳でもないからである。 バッグやジュエリーが本物だろうと、偽物だろうと、大切なのは本人が魅力的で輝いていること、自信に満ちていることで、 これは大金を叩いてバッグやジュエリーを購入したところで、手に入らないし、身につかないものなのである。
世の中には、高い本物のバッグやジュエリーを持ったり、身につけたりしても、本物に見えなかったり、 全然似合っていない人も居るし、そうかと思えば正規のルートではないところで、本物と信じるバッグを購入したものの、 それが「偽物かもしれない?」という疑いを持ち始めて、バッグとそれを持っている自分に 自信が持てなくなる人も居る訳で、 そんな風にお金や神経を無駄に使い果たすのはあまりに寂しいと思えてしまうのである。

そもそも マルチ・ミリオネアにでもならない限り、普通の人であれば限られたバジェットの中で生活をしている訳で、 美味しいレストランにも行きたいし、旅行にも行きたい、習い事もしたいし、ネール・サロンやフェイシャルには行かなければならない、 ゴルフやテニスもしたいけれど、シューズや化粧品や服も買いたい と、人生に対して欲張りで、貪欲であればあるほど、 バジェットのやりくりが必要になってくるのは言うまでもないことである。 その意味で、フェイクを上手く活用するというのは、ライフスタイルにゆとりをもたらしてくれるだけでなく、 無くしたり、盗られたり、壊れたりした場合のダメージが小さい上に、本物1つより少ない予算で、複数購入することも可能になってくるのである。
だから私自身、今回のベッソのコピーに出会って、バレンシアガの本物を買う気持ちは全く失せてしまい、 代わりにスモールサイズのホワイトとブロンズ、ラージサイズのパープルを購入することにしたけれど、この3つを買ったところで、 本物のラージサイズの半額にも満たない価格 というのは、私にとって実に気分が良い事なのである。


Catch of the Week No.5 May : 5月 第5週


Catch of the Week No.4 May : 5月 第4週


Catch of the Week No.3 May : 5月 第3週


Catch of the Week No.2 May : 5月 第2週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。