May. 29 〜 June 4




今週のAnger




今週は、月曜がメモリアルデイの休日で、以前にも何度かCUBE New Yorkで書いている通り、この日は アメリカでは夏の到来、ビーチ&バーベキュー・シーズンの到来を意味するホリデイ。
そして、メモリアル・デイ以降に始まるものと言えば、デザイナー・ブランドのセール・シーズン。 今年もニューヨークの高級デパート、バーグドルフ・グッドマンで5月31日からプライベート・セールが始まったのを皮切りに、 バーニーズやサックス・フィフス・アベニューといったデパートも6月1日からデザイナー・ブランドの30〜40%オフをスタートしており、 セリーヌ、プラダ、グッチといった一流ブランドの直営店ブティックでも 同じくセールが始まっているのである。


さて、話は全く変わるけれど、人間の怒りには自分に対するもの、他人に対するものがあり、 このうち他人に対する怒りの要因をカテゴライズしてみると、以下のようになる。

1. 他人が自分を見下したり、侮辱したり、不当な評価を下す場合。
2. 他人が自分についての 悪い評価や悪い噂を吹聴した場合。
3. 他人の態度や言い分が気に入らない場合。
4. 他人が責任を怠ったり、手を抜いた結果、自分に迷惑が掛かった場合。
5. 他人に騙されたり、盗まれたり、横取りされた場合。

今週のニューヨーク、そしてアメリカでは、この5種類の怒りのケース・スタディ的な事件や出来事が報道されていたけれど、 まず、上記の1、2、3の怒りをニューヨーカーに抱かせたのが、今週水曜に発表されたホームランド・セキュリティのテロ対策予算の内訳。
これによれば、誰の常識でも最もテロの対象になると思われるニューヨークとワシントンの予算が大幅に削られ、 逆に地方都市のテロ対策予算が大幅に増やされているのである。 ことにニューヨークは、そのテロ対策費が$207ミリオン (約232億円)から $124ミリオン (約139億円)へと 40%も削られ、 代わりにネブラスカ州オマハのような、テロリストはもとより、アメリカ人でさえ、その場所を地図上で指差すことが出来ないような街の予算が 前年費で60%もアップしているのである。
テロ対策のエクスパート、スティーブン・エマーソン氏によれば、世界中の都市で最もテロのターゲットとなり得るトップ5は、 第1位がニューヨーク、次いでワシントン、ロンドン、エルサレム、テル・アヴィヴの順番。 テロというのは、人々に恐怖を抱かせるインパクトを狙って行うものであり、テロ行為の背景にあるテロリスト達のメッセージが 明確となる場所が選ばれるもので、専門家がどんなに頭をひねっても ネブラスカ州オマハがテロの対象となる理由は 見当たらないのである。
また同件で、さらにニューヨーカーを激怒させることになったのは、ニューヨークの予算が削られた原因として、 「過去にニューヨークに対してテロ対策予算を十分に割いてきた」という理由と共に説明されたのが、「ニューヨークには テロから守るべきモニュメントや歴史的建造物が無い」という言い分。 このため、ニューヨーク・メディアは、木曜の朝刊でホームランド・セキュリティと そのトップであるマイケル・シェルトフに対して、 大々的なバッシング記事を掲載。加えてニューヨーク州のヒラリー・クリントン、チャールズ・シューマー上院議員やブルームバーグ市長らが それぞれに猛烈な抗議を行ったけれど、中でもシューマー上院議員は 「大統領はこの予算を変えるまでニューヨークに戻ってくるべきではない」と強烈な怒りの警告を記者会見でコメントしている。
このニューヨーカーの怒りは24時間も経たないうちに、マイケル・シェルトフを辞任に追い込もうとするムーブメントにまで 盛り上がってしまったけれど、当初、「ニューヨークからの脅しには屈しない」という強い態度を見せていたシェフトフ氏も、 週末にはその態度が かなり揺らいでいることが報道されている。
予算の見直しを匂わせるコメントをしたシェフトフであるが、それを行わない場合3〜4週間後に開かれる公聴会で、 ニューヨークやワシントンに対する予算カットについての説明、 及び質疑に応じなければならないこととなっている。


次いで、上記「4」の怒りを煽る事件として今週報道されたのは、交通事故の死体の取り違いというとんでもないアクシデント。
今年4月26日にインディアナで起こったのが、1台のバンに乗り合わせていたテイラー大学の学生4人を含む、 5人の死亡者を出した交通事故。 この事故で死亡していたテイラー大学の学生ローラ・ヴァンリン(22歳,右の記事写真の左側)は重傷患者とされ、同じくテイラーに通い、 生存していたホイットニー・セラック(18歳、右の記事写真の右側)は死亡が確認され、 ヴァンリン家のファミリーは、大怪我を負ったホイットニーを自分達の娘だと思って介護を続け、 セラック・ファミリーはローラの遺体を自分達の娘、ホイットニーだと思い込み、5週間前に多数の参列者と共に葬儀を行って、火葬していたのだった。
通常こうした事故死の場合、死亡者の家族によって遺体確認が行われるものであるけれど、同事件の場合、 あまりに遺体の損傷が激しかったために、検死官が家族に対して「遺体を見ないように」と勧めていたとのことで、 さらに悪いことには、この検死官は遺体のきちんとした身元確認も怠っていたという。
最初に身元の取り違いを疑い始めたのは、死亡したローラのボーイフレンドと、生存していたホイットニーのルームメイトだったというけれど、 この入れ違いがはっきりと判明したのが、看護婦に自分の名前を書いてみるように言われたリハビリ中のホイットニーが、 「ホイットニー・セラック」と書いたためで、 これによって娘の生存を神に感謝していたヴァンリン家のファミリーは、娘を失った上に、他人によって火葬された状態で彼女の死を悼むことになり、 一方のセラック・ファミリーは、死亡したと思った娘が生きていた喜びを味わう反面、ヴァンリン・ファミリーに対する同情、自分の娘だと思って 火葬したローラに対する思いで、複雑な気持ちは隠せず、 大学関係者を初めとする地元の人々や両家族は、この普通ならあり得ない取り違いを招いた検視官らに対して 怒りを露わにしていたのだった。
死亡したローラも生存者のホイットニーも同じブロンド、鼻や口元、そして歯並びが非常に似ており、背格好もほぼ同じだそうで、 ホイットニーの顔が腫れあがり、アザや傷を覆う包帯などで、ローラの家族でさえ、彼女がローラでないことを判別できなかったという。
身元違いのきっかけを作ったのは 事故現場の混乱で、ここでホイットニーはローラのID入りの財布と共にヘリコプターに乗せられ、 そのまま病院に収容されてしまった訳だけれど、それにしても本人確認がされないまま 死亡が確認され、 それが5週間も判明されずに いたというのは 前代未聞の出来事である。


変わって、「5」の怒りをニューヨーカーから買うことになったのは、べーブ・ルースが持つ714本のホームラン記録を「ステロイド疑惑アリ」の 注釈付きで破ってから、初めてニューヨークを訪れたバリー・ボンズである。
シェイ・スタジアムでのニューヨーク・メッツVS.サンフランシスコ・ジャイアンツの試合は、金曜は記録的な大雨で中止となり、 土曜にダブル・ヘッダーが行われたけれど、ニューヨーカーの誇りであるベーブ・ルースの記録を ステロイド疑惑の中で破ったボンズに対するニューヨーカーの野次とブーイングは激しく、 彼がバッター・ボックスに立つ度に、スタジアム内はブーイングや「Cheat! Cheat! Cheat!(ごまかす、騙し取るといった意味)」の大合唱。 彼が守備についてもフライをキャッチする度に激しいブーイングが起こり、これほどまでにニューヨーカーに嫌われたプレーヤーは 歴史上に存在しないと言っても過言ではないほど。
また客席では、ボンズに対する様々なバッシング・メッセージが掲げられており、「Got Juice?」 (ジュースはステロイドの俗称、 すなわち「ステロイドやってる?」といった意味合い)、「アーロン755、ルース714、ボンズ***」(これまでボンズの記録は、”715*” と表現され、 これは「ステロイド疑惑アリ」の注釈付きの記録であることを意味していたけれど、このニューヨーカーの野次はそれより厳しく、 疑惑だらけで数字にならないことを意味している)、さらには「The Babe Did It With Hot Dogs & Beer」(べーブルースはホットドッグを食べて、 ビールを飲んだだけで、(ステロイドなど使わずに)記録を打ち立てた)」というメッセージなど、 バッシングに関しては極めてユニークでクリエイティブなニューヨーカーの側面を垣間見せていた。
私は個人的に、バリー・ボンズは優れたベースボール・プレーヤーであると思うけれど、彼の記録を認める気にならないのは、 ステロイド疑惑が、「疑惑」と言われる以上に真実に近いのに加えて、彼にはハンク・アーロンやベーブ・ルース、ウィリー・メイズといった 歴史に残るプレーヤーが持ち合わせている品格や、人格が欠落していると思うためである。
今週末の試合が もしヤンキー・スタジアムで行われていたら、ニューヨーカーの怒りの度合いにはさらに拍車が掛かっていたと思うし、 「べーブ・ルースの呪い」がボンズにかかることを望むヤンキー・ファンが、さらにクリエイティブな野次を展開していただろうと思う。


さて、人間の怒りが収まるのは、怒りの原因が解決するか、さもなくば時間が経過し、怒りの感情が和らぐ時。
野球の試合の腹立たしいプレーに対する怒りならば、10年も経てば誰もが忘れるはずだけれど、 特に 「そうであって欲しいと望んでいる」 といわれるのは、カレッジ・ベースボールのスター、ジェフ・マイヤー(写真左)である。
現在22歳になる彼が、初めて新聞の大見出しになったのは、12歳の時。今から10年前の1996年10月9日にヤンキー・スタジアムで行われた ヤンキーズ VS. ボルティモア・オリオールズのアメリカン・リーグ・チャンピオン・シップの際。 外野に陣取っていたジェフ少年は、この年のルーキー・オブ・ジ・イヤーに輝いている デレク・ジーターのフライ・ボールを オリオールズの外野手頭上で、身を乗り出してグローブでキャッチし、 誰がどう見てもフライというボールをホームランにしてしまったのである。
これによって試合は一時中断、ホームランの判断を不服としたオリオールズは猛烈に抗議をしたものの 認められず、 試合の流れはガラリと変わってしまう。連敗していたヤンキーズはオリオールズを降して、ワールド・シリーズに駒を進め、 26年ぶりのワールド・チャンピオンとなり、その後ヤンキーズは黄金時代を迎えることになるのである。
この試合の翌日のニューヨーク・メディアでは、ヤンキーズに幸運をもたらしたジェフ少年が大絶賛され、 ヤンキー・ファンの間では「この子を養子にしたい!」などというジョークが飛び交っていたけれど、 今では、その彼もすっかり成長し、コネチカットのウェスリーアン大学でサード・ベースと外野の守備をこなす野球選手。 4年生で迎えたシーズンには、189本のヒットで4割3厘という同大学の新記録となる打率をマークする強打者となり、 6月6日火曜日に行われる メジャーリーグのドラフトに登録されているプレーヤーなのである。
そして、その彼を「ドラフトで獲得するかもしれない」と言われているのが、他ならぬボルティモア・オリオールズ。 ヤンキーズにとって「幸運の天使」だったジェフ・マイヤーは、10年前のオリオールズ・ファンの間では、「悪魔の申し子」であり、 怒りとフラストレーションのターゲット。 当時、地元では、「I Hate Jeff Maier / アイ・ヘイト・ジェフ・メイヤー (ジェフ・メイヤーなんて大嫌いだ)」という短編映画まで製作されたそうで、 ヤンキー・ファンが「ラッキー・ブレイク」としてジェフを覚えていると同様に、 オリオールズのファンは「全てを変えた悪夢」として彼の事を覚えており、 オリオーズ関係者は、「彼をドラフトで獲得するかは、ファン感情を考慮して検討する」とまで語っているという。

噂ではヤンキーズも彼に興味を示していると言われているけれど、ヤンキー・ファンの私としては、ジェフ・メイヤーと、彼がフライをキャッチした デレク・ジーターが もし一緒にヤンキーズでプレーをすることがあれば、それこそ「ベースボール・ロマン」と呼ぶに相応しいものだと思えてしまうのである。





Catch of the Week No.4 May : 5月 第4週


Catch of the Week No.3 May : 5月 第3週


Catch of the Week No.2 May : 5月 第2週


Catch of the Week No.1 May : 5月 第1週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。