May. 28 〜 June. 3 2007




” 今週のメディアと TB 騒動 ”



今週のアメリカのゴシップ・メディアではリンジー・ローハンの再度リハビリ入りに加えて、ニューヨーク・ヤンキーズの アレックス・ロドリゲスが ブロンドのストリッパーをロード先に何度も同行させていたニュースが大きく報じられており、 これを受けて週末行われた対レッド・ソックス戦では、Aロッドが打席に立つ度に ボストン・ファンがブロンド・ギャルのマスクを付けて野次っていたのだった。
この奇抜なアイデアは 「プレーヤーの私生活はプレーとは切り離すべき」とAロッドをサポートする ヤンキー・ファンをも笑わせる結果になったけれど、これは野次られて当然のAロッドよりも 夫人に対して気の毒と言える光景であった。

また今週、小さなニュースとなっていたのは、ミス・ユニヴァースのコンテストが行われたメキシコで、 ミスUSAが猛烈なブーイングを受けていたというニュース。
メキシコは言うまでも無く、アメリカに最も不法移民を送り込んでいる国であり、ことに西海岸では低賃金で働くメキシコ人不法移民が 重要な労働源になって久しいけれど、こうした不法移民を通じてアメリカからメキシコに流れるお金は 年間1000億円に達するとも言われており、昨今の移民法の改正は主にメキシコからの不法移民をターゲットにしたものとも言われるもの。 これに両国の歴史的背景も加わって、昨今のメキシコでは対米感情が悪化していることがレポートされており、 今回 そのターゲットにされてしまったのがミスUSAであったというのがプレスの分析である。
とは言っても スチュワーデスが花形職業で、ミス・コンテストの勝者のプレステージが高い国は 女性の社会進出が遅れている後進国 と言われて久しいご時世。(ただし日本は何故か例外)
事実アメリカでも、1960年代のスチュワーデスは花形職業だったし、ミス・コンテストも80年代くらいまでは、 将来弁護士や医者になりたいという才色兼備の女性が、奨学金欲しさに ミスUSAに応募したものだった。 しかし女性の社会進出が世界で最も進んでいると言われる現在のアメリカでは、 ミス・ネヴァダがインターネット上で、酔っ払った時に撮影されたヌード&レズビアン・キス写真が原因で、 その資格を剥奪されたことが象徴する通り、ミスUSAに応募する女性というのは売れない水着モデルなどが多いのが実情。
さらにアメリカではこうしたミス・コンテストが年々視聴率を大幅に下げており、今回のミス・ユニヴァースも史上最低の視聴率を記録しているのである。 こうした事実から察しがつく通り、アメリカ国民はミスUSAが誰かも知らないし、コンテストそのものにも関心を払っていない訳である。 なので、メキシコの人々が ミスUSAを まるで アメリカの象徴のように扱って、彼女に対してブーイングをした様子は かなり ”お門違い” という印象を与えたのみのインパクトにとどまっていたのだった。
でも今回のミスUSAは、ブーイングについて一部の報道機関が簡単に報じ、インターネット上では イブニング・ドレス審査の際に見せた 尻餅シーンがビデオで出回っていた分、 例年のミスUSAよりは、遥かにパブリシティを獲得していたのは事実である。

さて今週のアメリカで最も大きく報道されていたのは、何と言っても薬が効かない結核に感染した男性が 医師からの警告にも関わらず、結婚式&新婚旅行のためアトランタからパリに飛び、そこからギリシャ、イタリアを旅して、カナダ経由でアメリカに戻っていたというニュース。 この男性は、ローマで医師からのコンタクトを受け 「コマーシャル・フライト(民間旅客機)では飛ばないように」 との指示を受けたというけれど、プライベート機のチャーターに必要な約1千万円を持ち合わせていないこと、 さらに「アメリカで治療を受けたかった」ことを理由に、イタリアから先ずカナダに飛び、そこから空港よりも検問の甘い陸路で アメリカに入国を試みたという。
案の定、検問所では 職員がアンドリュー・スピーカーの名前が結核患者リストに載っていたのを知りながら、 「病気に感染しているようには見えない」ことを理由に 入国させてしまい、 その後 彼はマンハッタンのベルビュー・ホスピタルに治療を受けに来て、初めて隔離されることになっている。
この男性はアトランタの31歳の弁護士、アンドリュー・スピーカーで(写真左の男性)、結婚によって彼の義父となったのが 同じアトランタにある COD(疾病予防管理センター)で結核を専門にしている医師。 スピーカー氏は、その後アトランタの病院に隔離され、現在はコロラド州デンバーにある専門施設で治療を受けているという。

気になるその感染ルートは、義父が務めるCODでは無いことは既に指摘されており、現時点で浮上しているのは 彼が昨年夏、ロータリー・クラブのチャリティ大使として訪れたヴェトナムの貧困地域の児童病院で 結核に感染したのでは?という説。
スピーカー氏は、「他人に迷惑を掛けるつもりは無かった」、「一般旅客機を利用したのは正しい決断とはいえなかった」 などとインタビューで語っているけれど、これを受けて彼と同じ飛行機に乗り合わせ、 彼の前後数列に座っていた乗客達は 現在 検査を受け、その結果を待っている状態。 しかしながらヨーロッパで彼が移動に使った飛行機や船に乗り合わせたアメリカ人以外の乗客の検査については、 他国任せで 管理していないという。
報道によれば、感染者アンドリュー・スピーカーの義父がCODの結核専門医だったためか、彼の結核感染に対するCDCの対応は 不思議なことだらけで、同機関は結核感染者がイタリア入りしていることを 本来知らせるべきである政府機関には通達せず、 ローマに居る かつてCDCに勤務していた医師、すなわち”身内”と呼べる医師のみにコンタクトしており、 彼がスピーカー氏に電話で 結核についての警告を行ったという。 またスピーカー氏は、旅行前に医師から「結核に感染しているけれど、他人を感染させる心配は無いと言われた」、 「出来れば旅行をしない方が良い 程度の警告しか受けていない」と主張しており、 その医師の言葉を 何故か 彼がテープに録音しているなど、謎は深まるばかりである。

ところで、結核は英語では、Tuberculosis / テュバーキュロシス と言うけれど、その略称はTB(ティー・ビー)。 今回 アンドリュー・スピーカーが感染していた薬が効かない結核は ”Multi Drug Resistant / マルチ・ドラッグ・レジスタント” テュバーキュロシスと 呼ばれるもので、その略称は ”XDR TB”である。
アメリカでは1993年〜2006年までの間に49件の XDR TB が報告されているけれど、これが南アフリカとなると 確認されているだけでも 約1年間にその感染者数は600人。 現在、世界28カ国で感染者が認められている XDR TB であるけれど、 国別に最も多いのはインド、中国、ロシアである。
XDR TB が存在するようになった理由は、結核治療には通常 数種類の抗生物質が投与されるけれど、 これによって激しい吐き気をもよおすため、一部の患者は結核が完治する前に抗生物質の摂取を止めてしまうそうで、 それによって結核菌には一時的に投与された抗生物質に対する抗体が出来てしまうのだという。 したがってその後、この患者から結核に感染した場合、抗生物質が効かず、治療が非常に難しい病状となる訳である。

結核は空気感染することで危険視される病であるけれど、 事実、直接的な接触、すなわちキスや食べ物や飲み物のシェア、握手などでは感染しないものである。
感染は 結核感染者、及び保菌者による咳(せき)やクシャミはもちろんのこと、彼らが喋ったり、カラオケで歌ったりする度に 空気中に振り撒いた結核菌を吸いこんだ場合に起こるもので。しかも結核菌は空気中に数時間存在するという。
でも人間の身体には自然に備わった免疫組織というものがある訳で、健康に問題の無い人であれば 結核患者の近くに居ても 感染するのは そのうちの20%程度。さらに実際に深刻な症状に至るのは5〜10%であるという。

写真左上でアンドリュー・スピーカーと共に写っている彼の新婦は、今年初めに行った検査では 結核とは認められなかったというけれど、プレスが先走って 彼女が ”ネガティブ(陰性:感染していない)” であると報じた一方で、 スピーカー氏の担当医でTB専門医であるドクター・ヒューイットは、 新婦に対しては「 未だ何も新しいテストが行われていない」とコメントしている。
また新婦のテスト結果が ”ネガティブ” であったとしても、約17%の結核が 塗抹検査で ネガティブとされた患者が 病源となっていることもレポートされているので、結核患者の傍に居た人物は 例え検査結果が ネガティブでも他人に対して安全であるという保障は無いことになる。

今回の1件は、アメリカへの入国が禁じられている結核患者が いとも簡単に国境を越えてしまったことで、 ホームランド・セキュリティにも大ショックを与えているけれど、例え本人に悪意が無くても 空気感染する結核菌を持って国に入ってくるということは、テロに相当する恐怖を人々に与えるもの。
その一方で、アンドリュー・スピーカーは プライベート機をチャーターする約1千万円が無かったことを理由に 民間旅客機で飛んだ と言い訳していたけれど、 彼によって結核の恐怖にさらされた乗客は、感染していても、していなくても、 スピーカー氏が自身の結核を認識した上で搭乗していただけに、 民事裁判で そのダメージを請求する権利がある訳で、現在検査を受けているという約30人が全員で訴訟を起こした場合、 その賠償金は1千万円どころでは済まないのは 弁護士であれば当然理解しているべきことである。

こうした事件が起こると、ロシア、インド、アフリカ、中国などを初めとする、TB感染が多い国を旅した人とは、 帰国後 直ぐには会いたくない などと思ってしまうけれど、実際これらの国々の 特に未開発エリアを訪れれば、慣れない水や食事で 旅疲れした身体が さらに弱っていることが考えられるだけに、日頃なら免疫組織で戦える病に 感染してしまう危険が高まるのは 紛れも無い事実なのである。
アンドリュー・スピーカーの結核感染ルートと疑われるヴェトナムに、彼と共に訪れた友人は スピーカー氏について 「病気で貧しいヴェトナムの人々を助けようとした善良な人間」と語っていたけれど、 最近では アンジェリーナ・ジョリーの影響か、諸外国の貧困エリアの視察旅行や民間のチャリティ活動が 増え続けているという。
でもその結果、結核などの病気に感染してしまい、医師の警告を無視して 一般の人々の健康をを脅かすことがあれば、 それは本末転倒としか言い様の無い、 愚かな行為 と受け取られても仕方が無いのである。





Catch of the Week No.4 May : 5 月 第 4 週


Catch of the Week No.3 May : 5 月 第 3 週


Catch of the Week No.2 May : 5 月 第 2 週


Catch of the Week No.1 May : 5 月 第 1 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。