June 1 〜 June 7 2009




” Dining Out, Not at the Restaurant! ”


今週は月初めということで、金曜に5月のアメリカの雇用統計が発表されたけれど、 5月に全米で失われた職の数は 34万5000。失業率は9.4%にアップしているのだった。
でも、これだけの人々が失業しているにも関わらず 政府がこれを明るい兆しと捉えているのは、 34万5000人という失業者数が過去6ヶ月の約半分程度であるため。
オバマ政権では、これを $780ビリオン(約77兆円)を投じた景気刺激対策の効果が現れた証拠と コメントしているけれど、そもそもこの景気刺激対策が謳っていたのは 「全米で15万人分の仕事の確保」。 77兆円も投じて、やっとそれまでの半分に減った5月の失業者の さらに半分以下の仕事しか確保できないのであるから、 この政策が事実上、”焼け石に水” 状態であるのは言うまでも無いこと。 しかもこの景気刺激策で 生み出された 仕事の多くは橋の建設など一時的なもの。
にも関わらず ”何とか明るい兆しをでっち上げよう” という風潮にクギを刺すように、 今日、6月7日付けのニューヨーク・タイムズ紙では 「The Economy Is Still at the Brink」というタイトルで、 ウォール・ストリートの体制が何一つ変わっておらず、今回の経済危機に際して行われてきた政策の不透明さが以前と 全く変わっていないこと等が指摘され、表面だけのリカバリーを危惧する社説が見られていたのだった。

実際、景気は良くなっているのか?といえば、これは訊く相手によって全く異なる返事が返ってくるもの。
リーマン・ブラザースの破綻やメイドフのポンジー・スキーム後に、大きな危機感を持ったリッチ・ピープル達は、 現在景気の底を良い意味で実感し、「こんなもので済んだ」的な意識で、今はかつてのような危機感を殆ど抱いていないことが伝えられているのだった。
でも 「失業して仕事がなかなか見つからない」、「労働時間カットで収入が激減してしまった」 というような人々の中は、 レントや住宅ローンが支払えなくなる例が増えており、現在アメリカで急増が伝えられているのはプライム・ローンの焦げ付きである。 担保も無く、収入も十分に無い人々に対するリスキーなローンをサブ・プライム・ローンと呼んでいたのは周知の通りであるけれど、 現在、ローンが返せないために、家を失っているのは担保と収入があってきちんとしたローンを組んでいた人々。
でも考えてみれば、 現在のアメリカでは ほぼ10人に1人の割合で 失業している訳であり、その平均就労時間も 1週間 33.1時間と過去最低水準。まるでフランスのような労働時間な訳で、 このことは 仕事がある人でもパートタイムでしか働いていない、すなわち働いてはいるものの収入が減っているという実情を露呈しているのだった。

失業者が増えているのはEU連合も同様で、加盟国の平均失業率は今年4月の時点で8.6%。 これは前月比0.2%のアップで、前年比では1.8%のアップ。
最も失業者が多いのはスペインの18.1%、次いでラトヴィアの17.4%。逆に最も失業率が低いのはオランダの3%、 次いでオーストリアの4.2%。 今日、テニスのフレンチ・オープンが終了し、オバマ・ファミリーがパリを訪れていた フランスは8.9%の失業率であるという。


さてニューヨークに暮らしていて、昨今、リセッションの影響を最も強烈に感じるのは、デザイナーもののセールが早まっていることよりも、 レストランで食事をするニューヨーカーが激減している事実を目の当たりにする時である。
ニューヨークのローカル・ケーブル・チャンネル、”NY1” が5月に行った アンケート調査によれば、 「外食を止めた」と答えた人々のニューヨーカーの数は何と49%。 生活費を削る努力をしていると答えた人々は54%。 それもそのはずで、景気の先行きについて、「非常に心配している」、もしくは 「少なからず心配している」 と答えたニューヨーカーは63%にも 上っていたという。
すなわち、このアンケートではニューヨーカーの半分が外食を止めてしまったということになるけれど、 最近ではよほど有名で 人気があるレストランに行かない限りは、ディナーでテーブルが全て埋まっているという光景は目にしないのである。 先週出かけたチェルシーのタイ・レストランでは、テーブルが40以上あるのに 埋まっていたのは私達のテーブルを含む6つ程度。 でもその代わり、フードをピックアップにやって来る人は何人も見かけたのだった。 実際のところ、今や お金を切り詰めているニューヨーカーはデリバリーを頼むとチップを支払わなければならないため、 代わりにテイクアウトに切り替えているとのことなのだった。

3週間ほど前には、この春新しくオープンしたアルマーニ・フィフス・アベニューの3階のレストランに予約無しで出掛けたけれど、 ここもガラガラ。 レストラン・レビューでは 「リセッション時代には高すぎる」 と指摘されていたアルマーニのレストランであるけれど、 実際、私が女友達と2人で来店しているにも関わらず、ウェイターは300ドルもするバローロ(イタリアン・ワイン)を薦めてきたのだった。
ちなみに「女友達と2人で来店しているにも関わらず」と書いた理由は、 こういった高額ワインは通常、デート相手やクライアントの前で 見栄を張らなければならない男性客に対してオファーするもので、レストラン業界では「女性客はワインに高いお金を払わないという」 暗黙の了解が存在するため。

いずれにしても、ディナーではガラガラのレストランが多い上に、引けが早いので、昨今ではブランチの方が楽しめると思っていた私であるけれど、 そのブランチにしてもどんどん来店客が減ってきていることは、実感せざるを得ないところ。 先日CUBE New York のスタッフがトライベッカのブランチの名所、Bubby's/バビーズに出掛けたところ、それまで30〜40分待ちは 当たり前であた同店の待ち時間は僅か10分。 私も先週、久々に NoHo/ノーホー にあるDouble Crown / ダブル・クラウン(写真右)にブランチに出掛けたけれど、 以前来た時に 40分も待たされたのがウソのようなガラガラぶり。 ストリート・カフェ(店の外の歩道に設けたテーブル)・エリアは8割方埋まっていたけれど、 広い店内のテーブルは2つ程度しか埋まっていなかったのだった。
ちなみに同店はブレッド・バスケットが美味しいので、私はブランチには非常に気に入っているスポットで、 待たずに入れるのは嬉しい限りであるけれど、もうちょっと人が居てくれた方が楽しいのは紛れも無い事実なのである。

とは言っても、今でも混み合っているレストランは 混み合っている訳で、例えばレストランとしての評価はそれほど芳しくないものの、 この春に経営が変わって以来、社交場としてはもてはやされているモンキー・バーは、入り口のドアマンさえクリアすれば、 中は好況時のニューヨークを彷彿させる華やかさ。
また、何時電話をしても希望通りに予約が取れず、未だに出かけられないのが CUBE New York のレストラン・セクションでも ご紹介したフィッシュ・レストラン、ジョン・ドーリー。 ザガットで人気のグラマシー・タヴァーンやユニオン・スクエア・カフェなど、旅行者もニューヨーカーも出かけたがるような レストランも 相変わらずの混み具合である。
でも、昨年秋に 有名シェフ、デヴィッド・ブーレーが オープンしたレストラン、”サセッション”は 現在パーティーの 予約をこなすのみで、既に閉店状態。 同店はかつてシェフ・ブーレーが ダヌーブというネーミングでオープンしたオーストリアン・レストラン の内装をマイナー・チェンジして 新装オープンしたものだったけれど、 客足はさっぱりだったそうで、秋からは日本食兼地中海料理の新コンセプトのレストランにするという。

著名シェフのレストランでさえ、客足が途絶えるくらい ニューヨーカーが外食から遠ざかっている現在なので、 レストラン側でも安価なスペシャル・メニューを用意するなど、必死のリセッション対策をしていて、 近代美術館に隣接するレストラン、”ザ・モダン” のラウンジ・エリアでは、1皿2.5〜5ドルのバー・メニューが登場。 高額ステーキで知られる”モートンズ” でも、ディナーのピーク・アワーを除いては、1皿6ドルのバー・メニューを サーブしていて、その中にはプライム・ビーフを用いた ミニ・チーズ・バーガー3つの盛り合わせなどが含まれているとのこと。
”シティ・ロブスター”、”ドックス”、”ルアー・フィッシュ・バー”、といったシーフード・レストランでは、それぞれ日替わりのオイスター(生ガキ)が1つ1ドルで味わえる他、 日替わりで、シュリンプ・カクテルやカキフライなどが低価格でサービスされることになっている。
これらに加えて、NYで最も予約が取れないレストランの1つ、パー・セでも バー・エリアで レストランと同じ料理が味わえるサービスがこの春からスタートしたばかり。 そもそもパー・セは僅か16テーブルしかない上に、テーブルは1晩1回転しかしないので 予約が非常に取り難いのは そもそも スポット自体が非常に少ないのが大きな理由。
レストランのメニューは デザートを含めて12コース程度の 275ドルのプリフィックスのみで、ランチもディナーも同じ メニュー。 選べるチョイスは、プリフィックスをヴェジタリアン・メニューするか否かだけ。
バー・エリアではこのコース・メニューの中の料理が一皿単位でオーダー出来るというけれど、 ポーションはコースに含まれるものと一緒で極めて小さなもの。それを3皿オーダーしてワインを飲むと、満腹感ゼロで 軽く100ドルを超えてしまうのだそうで、 パー・セのリセッション対策についてはフード・クリティックから 「割高で、パー・セの良さが全く味わえない」 と大不評になっているのだった。


では、今時のニューヨーカーはどこでハングアウトをしているかと言えば、その答えはセントラル・パーク。
リセッションとは無関係に、ニューヨーカーにとってセントラル・パークは憩いの場であり、一年中に渡って、 散歩をしたり、エクササイズをしたり、野球をしたり、ボートに乗ったり、自転車を借りたりなど、 様々な余暇の過ごし方を提供してくれる場所。 でも、特に夏の季節は日光浴とピクニックを兼ねて パークに足を運ぶニューヨーカーは非常に多く、 それぞれが芝生の上に陣取って、思い思いの過ごし方をする光景は毎年のこと。
そんなニューヨーカーに着眼して、今ではセントラル・パーク内にピザやワインをデリバリーする サービスまでが登場しているとのことで、パークに近いレストランやグルメ・マーケットでは ピクニック用のメニューを開発して、テイクアウトするだけで 気軽にパークでピクニックが楽しめるパッケージを売り出す ところが増えている。
その中にはプラザ・ホテル内のレストラン、オーク・ルームなどもあって、ここのピクニック・パッケージは65ドル〜85ドルとかなり高額。 でもソフトシェル・クラブ等、高額の食材を使ったサンドエウィッチやサラダが味わえるとのこと。 一般的なピクニック・パッケージのお値段は15〜20ドル程度で、サラダやサンドウィッチ、フルーツやデザートにウォーター・ボトルが1本付いているというのが ありがちなメニューである。

また、夏のセントラル・パークと言えば、様々なライブ・コンサートやシェイクスピアのプレイなどが無料で見られることでも 知られているけれど、そうしたイベント用のフード・ケータリングのために新たにセントラル・パーク内に オープンするのが、ニューヨークで最もサクセスフルなレストランター、 ダニー・メイヤー率いるユニオン・スクエア・ホスピタリティ・グループ が手掛ける ”パブリック・フェア”。 ユニオン・スクエア・ホスピタリティ・グループといえば、先述のユニオン・スクエア・カフェ、グラマシー・タヴァーンといった ニューヨークの人気レストランを数件経営する他、2006年には ユニオン・スクエア・パークにバーガー・ジョイント、シェイク・シャックを オープン。これが大成功を収め、今ではそのシェイク・シャックはニューヨーク・メッツのシティ・フィールズにも進出。球場内で 唯一30分待ちの人気を博しているのだった。
そのダニー・メイヤーが手掛ける ”パブリック・フェア” は朝8時〜夜8時までの営業時間で、 パーク内でイベントがある場合、そのインターミッションまでは時間を延長して営業するというけれど、 未だメニューの詳細は明らかになっていないのだった。
ところで、セントラル・パークで行われる毎年恒例の「シェイクスピア・イン・パーク」には、これまでにもデンゼル・ワシントンを始め ハリウッド・スターが頻繁に登場していたけれど、今年はアン・ハサウェイの出演が決まっており、 パブリック・フェアのデビューは、アン・ハサウェイのセントラル・パーク・デビューと同時に企画されているという。

かく言う私も、春以降、毎週末必ず出かけているのがセントラル・パーク。
テニスをしに行った週もあれば、ピクニックに出掛けた週もあるし、ブランチの後に散歩をしたり、 ただパークを横切って アッパー・ウエストサイドのゼイバース(グルメ・ストア)まで買い物に出掛けた週もあるけれど、 確かにセントラル・パークは この季節、 マン・ウォッチングには最も楽しいスポット。
ことに70丁目より上のアップタウン側の方が、旅行者が少なくて 夏の週末を楽しむニューヨーカーの素顔に触れられるけれど、 ガラガラのレストランに居るより、ずっと楽しい思いが出来るのは事実。
レストランにしても店内はガラガラでも ストリート・カフェのテーブルは埋まるのは、 そもそもアメリカ人がアウトドア・ダイニングを好むこともあるけれど、 何と言っても道行くニューヨーカーのマンウォッチングが出来るため。
リセッションで外食するニューヨーカーが減ってくると、ニューヨークのレストラン・シーンにとって、 如何にマンウォッチングが大切な部分であったかを思い知らされてしまうけれど、 逆に空いているレストランは面白みが無い反面、サービスがとても良く、特に女の子同士で出掛けると タダでワインやドリンクを飲ませてくれたり、デザートをサービスしてくれるといったメリットもあるのだった。

さて、セントラル・パークのピクニックに話を戻すと、ニューヨークでは パーク内はもちろんのこと、ビーチや、ストリートなど、 公共の場での飲酒は禁じられており、ピクニックをしながらビールやワインを飲む場合、 それと悟られないようにしなければならないのだった。 なので 缶ビールを紙袋に入れて飲んでいる光景は 良く見かけるけれど、 飲んでいるのが分かっても、 それがアルコールであることを隠している分には 警察やパークのセキュリティなどに チケットを切られることはまず無いという。
私は前回ピクニックに行った時に、友人共々 このことをすっかり忘れていて、ワインを堂々とボトルでふるまっていたけれど、 人によってはウェルチのグレープ・ジュースのボトルにワインを移し替えるという周到ぶりだったりする。
先述のパーク内のワイン・デリバリーにしても、周囲にワインと悟られないようにして デリバリーをしてくれるのだそうで、 こんなところからも リセッション時代は、小技とアイデアで勝負しなければならないことを痛感してしまうのだった。







Catch of the Week No. 5 May : 5 月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 May : 5 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 May : 5 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 May : 5 月 第 2 週







執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





© Cube New York Inc. 2009