June 6 〜 June 13 2005




Who's Nomal?



今週月曜朝に、最新映画のプロモーションのためにニューヨークを訪れていた 俳優のラッセル・クロウが、ソーホーのマーサーホテルで傷害事件を起こし、 逮捕されたニュースは世界各国のメディアで報じられたけれど、その発端となったのは、 彼がオーストラリアに居る妻に電話を掛けようとしたところ、 ホテルの複雑な電話システムのために繋がらなかったという些細なことで、それに激怒した彼が ホテルのコンシアージュに電話を投げつけて、顔に傷を負わせ、第2級の傷害罪で 逮捕されたというのがその結末であった。
とは言ってもラッセル・クロウが 短気でマナーが悪いことは、今に始まった話ではなく、 昨年には、誤解が原因で自分のボディ・ガードに殴りかかったことが報じられているし、 2003年の映画「マスター&コマンダー」のプレミア・パーティーの際には、 彼にスナックをオファーしたウェイトレスに腹を立てて怒鳴りつけたことも当時ゴシップ欄を賑わせた話題である。 また2002年の、ブリティッシュ・アカデミー・アワードでの彼の受賞スピーチを 短く編集して放映したBBCのエグゼクティブに対しては、壁に詰め寄って怒りを露わにしたことがレポートされており、 これによって彼はハリウッド関係者の間での評判を益々落とし、彼が「ビューティフル・マインド」で 「グラディエーター」に次ぐ2年連続のオスカー受賞を達成出来なかったのは、この事件による 人格的悪評が原因であったとさえ言われているのである。
彼は今回、マーサー・ホテルの1泊3000ドルのスウィート滞在中も、事件を起こす以前から既に ホテル・スタッフに「これまでで最悪の宿泊客」と噂されるほど、横柄な態度で振舞っており、 コンシアージュに投げつけた電話も、自分の部屋の電話を、コードを引き抜いて持ち出したもので、 「(自分と)さっき電話で話したのはお前か?」と電話対応したコンシアージュを確認した上で 電話を投げつけたという、セレブリティでなければサイコ扱いされるような振る舞いであった。
これについて、ラッセル・クロウ本人は、「自分の怒りをコントロール出来なくなる 問題を抱えている」ことを自ら認めるコメントをした上で、彼の妻や被害者であるコンシアージュらに 謝罪を行っている。

でも、それよりも昨今のハリウッドで、「セレブリティの不可解な行動 No.1」に挙げられているのが、 トム・クルーズが昼間のトークショー「オプラ」で見せた 「ジャンピング・オン・カウチ」として 有名になったアクト。これは、最新映画「ワー・オブ・ザ・ワールド(邦題:宇宙戦争)」の プロモーションのために番組に出演したトム・クルーズが、新しいガールフレンドで女優のケイティ・ホルムズに 話題が及んだ際、いきなり「アイム・イン・ラブ」と何度も叫びながら、 ハイパーな子供のようにソファーの上で飛び跳ね、床の上に着地してガッツポーズを見せたという 自己陶酔型オーバーアクションで、日頃からやり過ぎなまでに好感度をアピールするトム・クルーズ のスタンダードから見ても、奇行と見なされて仕方のない行為であった。
このことは日頃ゴシップとは無縁のニューヨーク・タイムズ紙でさえ、その様子を連続写真で掲載し、 「トム・クルーズほどのパブリック・イメージのベテランが何故こんな事を・・・」とその記事で 述べたほどであったし、 ニューヨーク・ポスト紙などは、合成写真で拘束衣を着せられたトムを全面にフィーチャーし、 「狂ったクルーズにはPRのショック療法が必要だ」という見出しで、ハリウッドのエリート・ボーイ、 トム・クルーズも、こんな奇行を繰り返していたら、やがては業界の 笑い者になってしまうという記事を掲載。
これらに止まらず、ありとあらゆるメディアがこのトム・クルーズの「ジャンピング・オン・カウチ」を 報じていたし、また彼の真似をしてソファーの上で 飛び跳ねるという行動は、深夜のトークショーに登場するB級セレブリティのネタになっており、 彼がこれだけのパブリシティを獲得したのは、二コル・キッドマンとの離婚以来と言える メディア・インパクトとなっているのである。
これに加えて、昨今のトム・クルーズは、映画のプロモーションと彼の信仰する宗教「サイエントロジー」 の布教を抱き合わせで行っているという批判の声が多く、「ワー・オブ・ザ・ワールド」の製作・配給元である ドリーム・ワークスとパラマウントは、トムに「サイエントロジーの話はやめて、 イメージを挽回し、映画への興味をそそるようなPRをするように」と勧告していることが伝えられている。
しかし、この「ジャンピング・オン・カウチ」が決定打となって、パラマウント社は、 それまでに既に渋っていたトムの次回作「ミッション・インポッシブル3」の約160億円の 製作費サポートを行わないことを決めたと言われており、7月から撮影がスタートする予定だった同作品は、 製作自体が行われない可能性が濃厚である。

トム・クルーズのパブリック・イメージが崩れ始めた発端は、彼が長年の彼のパブリシストで、 ハリウッドで最も恐れられている敏腕PR、パット・キングスレーを昨年クビにして、 彼の姉でサイエントロジーを信仰するリー・アン・デヴェットを経験不足ながら PRとして 雇い始めてからだと言われており、ハリウッド関係者の間では、 「ベテランPRを解雇して彼の姉を雇うことは、ソファーの上で飛び跳ねる以上に 狂った行為だ」とも指摘されているという。

セレブリティというのは、その存在そのものにニュース性があるが故に、事件を起こしたり、奇行に走れば、 それだけでメディアが大きく取り上げるし、ほんの一瞬の過ちが、世界中で何度も、何度も繰り返し報じられる ニュースになってしまう訳だけれど、もちろん一般の人々でも1度の過ちや事件が全米に報じられて、 人生が変わったり、「にわかセレブリティ」になってしまう例は少なくない訳である。
その意味で、この春からアメリカで「にわかセレブリティ」となっているのが、 通称「ランナウェイ・ブライド」こと、ジェニファー・ウィルバンクスである(写真右)。 ジェニファーは4月26日に行われるはずだった 自らの結婚式の直前に、ジョギングに出掛けると言ったまま姿を消し、家族・友人のみならず、 町のコミュニティ全体が捜索活動を行い、その捜索要請が全米各州で出されていたが、 彼女は失踪から数日後、ニュー・メキシコで無事保護されることになった。
アメリカでは、結婚当日、もしくは直前になって、結婚が嫌になったり、環境が変わるのを恐れて 逃げ出す男性、女性は非常に多く、花嫁が逃げ出すこと自体にはそれほどニュース性はなかったりするけれど、 彼女の場合、全米規模の失踪報道がされていたのに加えて、保護された時点で、「2人のヒスパニックの男性に誘拐され、 性的な虐待を受けた」とウソをついており、これが程なく狂言であることがことが発覚して、 さらに騒ぎが大きくなる結果を招いている。
当然のことながら、彼女の失踪と狂言誘拐&レイプに腹を立てたのは、彼女の捜索に約500万円を 費やした地元コミュニティで、彼女がこの手の狂言失踪にしては珍しく訴追され、刑罰の対象とされたのも、この世論の怒りを 反映させてのものであった。
これに対して32歳のナース、ジェニファー嬢は、フィアンセがボーン・アゲイン・ヴァージン (処女や童貞ではないものの、結婚するまでセックスはしないと誓いを立てる事。南部、中西部などの コンサバなエリアの比較的若い層のクリスチャンに、ここ数年 増えているもの)で、 彼女との婚前交渉を拒んでいたことが フィアンセから逃げ出した理由と説明。 さらに600人の招待客を招いての結婚式のプレッシャーに耐えられなかったとも語っている。
そのほかにも、彼女自身がこれまでに3回の万引きで逮捕されていたことを明らかにし、 精神的に不安定であることをアピールした上で、今回の事件後、セラピーに通い始め、 真剣に「心の病」の治療に取り組む意思があることを示して、刑罰逃れの複線とも取れる 試みを行っている。

こんな事件の後でも、彼女のフィアンセには未だ彼女との結婚の意志があり、一方のジェニファーも 法廷にはエンゲージメント・リングをして姿を見せていたことが報じられている。
彼女に対する罪は、まずウソの犯罪証言をしたことで、これは最高で禁固5年、罰金1万ドルという重犯罪、 さらに警察にウソの犯罪レポートを提出した罪でこれは最高で禁固1年、罰金1000ドルという 軽犯罪と見なされる罪であったけれど、これらに対しては6月1週目に、2年間の執行猶予付きの判決が下されている。 加えて、裁判所からは120時間のコミュニティ・サービスと約27万円の罰金の支払いが命じられており、 これとは別にジェニファーは自ら進んで地元コミュニティに対して捜索費用、約150万円を 支払っている。
ちなみに、今やジェニファーの代名詞になった「ランナウェイ・ブライド」とは、ジュリア・ロバーツ&リチャード・ギア共演の映画 「プリティ・ブライド」の英語の原題で、映画の中のジュリア・ロバーツ演じる主人公同様、 結婚式から逃げ出した花嫁ということで付けられたニックネームである。

この他にも、最近報じられた一般人の奇行としては、5月末にJPモーガン・チェイスのエグゼクティブ、 ジョン・ケリー(写真左)が、ニュージャージーのジョギング・コースを走っていた 女性の前に 性器にコンドームをつけた全裸状態で 潜んでいた茂みから飛び出したところ、 この女性がたまたま勤務時間外の婦人警官であったため、直ぐにわいせつ罪で捕えられてしまったという事件がある。
これも狙った相手が偶然婦人警官であったという部分がウケて、 全米のメディアで報道される事件になったけれど、ジョン・ケリーが同事件のせいで、職を追われることになったのは言うまでもないことである。

日頃はまともな人間の奇行、愚行は、よく「魔が差した」という表現で説明される場合が多いけれど、 これに対しては、人は往々にして理解を示したり、同情をよせたりするものである。
でも、「魔が差した」ような行動を取る人々が、本当に普段はノーマルで、まともな人であるのか、 それとも、日頃から「魔が差した」ような行動をとっていて、 たまたま騒ぎが大きくなった時だけ「魔が差したふり」をして見せているのかは 判断がつき難いのが実際のところである。
また現在、少年虐待裁判の審議中となっているマイケル・ジャクソンにしても、 かつては「まともなスーパースター」で、 当時 彼が一般の子供達を彼の邸宅、ネバーランドに招待し、一緒に遊んだり、 ベッドで眠ったりすることが 美談として語られていたことを考えてみると、 世の中では何を持って人間がノーマルだと識別されているのか?についても、 疑わしい部分があると言わなければならない。
さらに、特に異常だと判断されなくても、不可解な行動を取る人や、物事に対して理解の域を越えた反応を 示す人というのは世の中に沢山居る訳だし、日常生活の中でも「あの人、ちょっとおかしい」程度 に軽度の異常性を感じさせる人は、誰の周囲にも最低2〜3人は存在しているものである。
このように、「誰が突然何をやらかしても不思議ではない世の中」になってしまうと、 特に卓越した部分などなくても、ノーマル、すなわち普通である ということが、 賞賛に値する貴重なキャラクターになってくる訳で、「ノーマル」という形容詞が、徐々に誉め言葉に なりつつあるのは 昨今のアメリカ社会でひしひしと感じることである。
それが証拠に、私はつい最近、アメリカ人の知り合いに「どんな男性が好みなの?」と訊かれて、 至って謙虚に「ノーマルな人」と答えたところ、「ニューヨークでそれを探すのは難しいなぁ・・・。 金持ちやハンサムの方がよほど探すのが簡単だよ」と言われ、 まるで私がとんでもない高望みをしているように扱われてしまったけれど、 よく考えてみれば、「ノーマルな人」を探すのが難しいのは、決してニューヨークに限った問題ではなく、 世の中全体に言えることのように思えるのが実際のところなのである。

さて、冒頭のラッセル・クロウに話を戻すと、逮捕&拘留後の彼は 予定通り最新作「シンデレラ・マン」のプロモーションをこなすため、 CBSのトーク・ショー「レイト・ショー」に出演したけれど、映画の宣伝よりも 事件の弁明の方に より長く時間を割くことになってしまったのは自然の成り行きと言えるものであった。
しかし、そこはアメリカ。 腫れ物に触るように、遠まわしに事件について訊ねるなどという 繊細さは全くなしで、番組でラッセル登場の際にBGMとして流れたのは、80年代のニュー・エディションのヒット曲 「テレフォン・マン」。 彼が登場した途端、ホストのデビッド・レターマンは、彼のデスクの上に置いてあった電話を隠して、 会場の爆笑を誘っており、この徹底したジョークの連続には さすがのラッセル・クロウもキレるどころか、 思わず苦笑いをしていた。


お知らせ
次回のこのコーナーは、筆者旅行中のため、更新が1日遅れるかも知れません。 遅れても更新は必ず行いますので、あらかじめのご理解をお願いいたします。


Catch of the Week No.1 June : 6月 第1週


Catch of the Week No.5 May : 5月 第5週


Catch of the Week No.4 May : 5月 第4週


Catch of the Week No.3 May : 5月 第3週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。