June 5 〜 June 12
World Cup Wake Up Call
改めて言うまでも無く、6月9日、金曜日からワールド・カップが開幕しているけれど、
サッカー後進国のアメリカにおける盛り上がりと言えば、同じワールド・カップ参加各国に比べれば今ひとつであるのは察しがつくとおり。
それでも今回は、アメリカ・メディアのワールド・カップの扱いは 前回2002年の際とは比べ物にならないくらい大きくなっていて、
今年の春に行われたワールド・ベースボール・クラシックよりも、
ずっとメジャーなスポーツ・イベントとして取り扱われているのは、明らかな事実である。
アメリカがそろそろワールド・カップに、そしてサッカーというスポーツに対して目覚めなければいけない段階に来ているのは、
先ずアメリカの4大プロ・スポーツ、フットボール、バスケットボール、ベースボール、ホッケーの市場が既に飽和状態に入っており、
その一方で、ヒスパニックの人口増加に伴うサッカー人気の上昇が見込まれていること。
さらに過去10年ほどの間に、アメリカの子供のサッカー人口が急増しており、今や野球よりも、バスケットボールよりも、
サッカーをする子供が多いという事実も、今回のワールドカップでメディアとスポンサー企業の取り組みが
違ってきた要因と言われるところである。
今回のワールド・カップは、オープニング・セレモニーこそは放映されなかったものの、全試合が3大ネットワークの1つ、ABCと
その傘下にあるスポーツ・ケーブルチャンネル、ESPN、ESPN2で放映されることになっており、
前回とは異なり、何時からどのチャンネルで、どの試合が放映されるかが、新聞やTVのニュースで
きちんと報道されているため、ワールド・カップの試合を探してのチャンネル・サーフィンをせずにも済むようになったのは
サッカー・ファンにとってはありがたいこと。
またニューヨーク・タイムズ紙が土曜、日曜のスポーツ欄のトップ・ページで、ワールド・カップ報道を大々的に展開しているほか、
同紙のインターネットのホーム・ページ上には、ワールド・カップの特設ページを設けられるなど、
報道体制にも本腰が入ってきたのが感じられるのが今大会。
ニューヨーク・ポスト紙でさえ、今日、日曜版に掲載された「Confesshions Of World Cup Convert」
(ワールド・カップに寝返った人間の告白)という記事の中で、「これ以上サッカー人気を無視する訳にはいかなくなった」ことを
社説的に述べている一方で、ワールド・カップ開催前からブラジルのスーパースター、ロナウドのガールフレンドの水着姿が紙面に
フィーチャーされたり、イングランド・チームのワイフやガール・フレンドに関するゴシップなども紙面を賑わせている。
これによれば、イングランド・チームのワイフ&ガールフレンドは、お金に糸目を付けないショッピングをするため、
ドイツのエルメスやグッチを始めとする一流ブティックが 通常より数千万円分多めに商品を仕入れているそうで、
イングランドのスター・プレーヤー、ウェイン・ルーニーのガールフレンド、コリーン・マクローリンは、フェンディとバレンシアガのバッグを持ってドイツ入りし、お抱えのフェイクタン・セラピスト(エアブラシのタンニング・スプレーで、
フェイクの日焼けを演出するスペシャリスト)を連れて、1泊20万円のホテルに宿泊しているとのことである。
さて、今回のワールド・カップで アメリカのサッカー・ファンにとって有り難いのは、アメリカとの時差が少ないドイツでの開催であるために、
東部時間の朝9時、正午、午後3時というタイミングで試合がライブで観戦出来ること。
私も昨日土曜の朝は、9時に目を覚まして、イングランド VS. パラグアイ戦を寝室のテレビで見ていたけれど、
その後、出掛けたのが 友人宅で行われた アルゼンチン VS. アイヴォリー・コースト戦のウォッチ・パーティー。
私の友人はウルグアイ出身で、彼女のハズバンドがアルゼンチン出身であるけれど、ウルグアイとアルゼンチンというのは、
いわば東京と埼玉のような関係。今回はウルグアイがワールド・カップに出場できなかったこともあり、
夫婦揃ってアルゼンチンを応援しており、彼らのアパートに行って見ると、巨大なフラット・スクリーンTVの前に陣取った彼らの友人達が、
スペイン語でベラベラ喋り捲っていた。
すると、その中の1人が、今や完売で、プレミアムがついているアディダスの「マラドーナ・ジャケット」を着ていたので、
「何処で手に入れたの?」と尋ねたら、「君は日本人なのにマラドーナを知っているのか?」などと逆に驚かれてしまい、
私はいきなり人気者のゲストになってしまったのだった。
ディエゴ・マラドーナは、アルゼンチンを2度のワールド・カップ・チャンピオンを導いたスーパー・スターであるのは周知の事実であるけれど、
私が未だ日本に居た80年代中盤には来日も果たしており、この時は確か怪我で、日本のファンは彼のプレーが見られなかったのを記憶している。
アルゼンチンの人々の間では、後に薬物疑惑はあったものの、マラドーナは今でも彼らのヒーローであり、サッカー界のレジェンド。
彼らにとってはベッカムもロナウドも、マラドーナの足元にも及ばない存在のようである。
その未だ根強いマラドーナ人気を突いたヒット商品というのが、「マラドーナ・ジャケット」で、背中に大きく「Hand Of God」の文字がフィーチャーされたもの。
「Hand Of God」は、1986年のメキシコ大会の対イングランド戦で、マラドーナの片手に当たったボールがゴールを決めたことに対して、
マラドーナが語った有名なコメントで、後に「Hand Of God」はマラドーナのニックネームにもなっている。
このサッカー・ファンには忘れられない一言をフィーチャーしたジャケットは、メキシコ大会から20周年に当たる今年のワールド・カップ記念に発売され、
アルゼンチンのサポーターのみならず、サッカー・ファンのコレクターズ・アイテムとして大人気を博しているのである。
マラドーナのお陰で すっかり友人宅のゲストに打ち解けてしまった私は、試合を見る傍ら、彼らのサッカー談義の聞き役に回ることになり、
現在のアルゼンチンで、 かつてのマラドーナの背番号10を付けている
リケルメが、 アルゼンチンの人々にとって 如何に物足りない存在であるかを聞かされ、
さらにワールド・カップというイベントは、世界中の国を平等にする「イコライザー」であり、その好例としてセネガルが、かつて植民地支配を受けていた
フランスを2002年大会で負かしたことや、「アルゼンチンのような小さな国が、
経済ではとても適わない日本やアメリカのような国を負かして、それに誇りを持てるのがサッカーという競技」だという、
ワールド・カップ・フィロソフィーを説かれてしまったのだった。
もし、これがポルトガルやスウェーデンの人に言われたのだったら、
「日本やアメリカを負かせるかどうか、実際にやってみないと分からないと思いません?」などと言えるけれど、
さすがにアルゼンチンの人に言われたらグーの音も出ないので、私は大人しく こうしたレクチャーに耳を傾けることになった。
結局、試合はアルゼンチンが2−1で勝利し、友人宅のゲストは皆ご機嫌であったけれど、「やはりラテン系は熱い!」というのが
偽らざる感想で、私はこの熱気にあてられて グッタリ疲れてしまったのだった。
お陰で、熟睡した私は、今日、日曜の昼間に目を覚まし、またまた寝室のTVで 丁度その時 ライブ中継されていた
メキシコ VS. イランの試合を見入ってしまうことになった。
私はどんなスポーツの試合を見る際も、どちらかのチームを応援することにしているけれど、
メキシコ VS. イランで応援していたのはメキシコ。 アメリカで低賃金で働くメキシコ移民が
母国のワールド・カップの勝利で片時でもハッピーになれれば・・・と思ったことに加えて、
ワールド・ベースボール・クラシックの際、メキシコもアメリカびいきの審判、ボブ・デビッドソンに酷いジャッジをされていたので、
キューバ VS. 日本の決勝の際、メキシコ人は日本チームを応援してくれていたというエピソードがあり、
それも メキシコを応援する要因になっていたのだった。
結局試合は、イングランド VS. パラグアイ.戦などよりも ずっと面白い展開で、メキシコが3−1で勝利したけれど、
試合の合間に紹介されていたの が、ゲーム前にイランのゴールキーパーが、メキシコのゴールキーパーに花束を手渡したというエピソード。
これは、メキシコのキーパー、オズワルド・サンチェスの父親が心臓発作で亡くなり、彼はメキシコに戻って父の葬儀に参列し、
イラン戦前日にチームに復帰して試合に臨んでおり、それを知ったイラン選手が彼の父親の冥福を祈り、
そんな状況でも戦列に加わる彼の闘志を称えた花束であった。
昨今は、アメリカのみならず、世界のメディアが報じるイラン関連ニュースと言えば、ウラン濃縮疑惑ばかりで、
イランの人々に こんな思いやりがあることなど 忘れて暮らしている人々が多いご時世。
実際、イラン・チームに対しては スタジアムからブーイングも聞かれていたけれど、私は この花束を見て、政治問題に捉われて
国民性を判断する傾向が 薄っぺらで 安っぽいものに感じられてしまったし、同時に
メキシコが勝利して、亡き父親に勝利を捧げることが出来たサンチェスをチーム・メートが囲んで祝福しているシーンには、
目頭が熱くなる思いをしてしまったのだった。
その後、ジムに出掛けると、週末担当の受付の女の子がエクアドルのジャージーを着用していて、
その時私は、初めて彼女がエクアドル出身だということを察したし、今まで彼女がサウス・アメリカ出身であるとは思っていたけれど、
どの国から来たか など気に留めたこともなかったのに気が付いたのだった。
そこで、いつもなら軽く挨拶しかしないところを 「Nice Jersey! Congratulations! (ナイス・ジャージー!、コングラッチュレイション!)」と言ったら、
過去2年くらいの間、本当に無愛想だった彼女が、初めて満面の笑顔で「試合見たの?」と言って来たので、
こちらの方がそのリアクションにビックリしてしまった。
エクアドルは、9日金曜の夜のゲームで、大方の予想を覆してポーランドを2−0で破り、今回のワールドカップの最初の番狂わせを
演じたことは、アメリカのスポーツ・ニュースでさえ大きく報じていたこと。
彼女は「あんなポーランドの応援しかいないスタジアムで、2点も得点するなんて信じられないわ!エクアドルを誇りに思っているの!」と
とても興奮して語ってくれて、別れ際には「Good Luck For Japan」と言ってくれたけれど、
互いの国をサッカーを通じてレスペクト(尊敬)しあうことこそがワールド・カップ・スピリッツ。
たとえアメリカでは、他国ほどワールドカップ・フィーバーが盛り上がっていなくても、
人種の坩堝、様々な国の移民がひしめいて暮らすニューヨークでは、こうしたワールド・カップ・スピリッツを楽しむことが出来るのである。
ところで、ニューヨーク・ポスト紙では、今回のワールド・カップ特集で、参加全チームの優勝確率を予測しているけれど、
最も確率が高いのは、優勝候補筆頭のブラジルで、9分の4。次いでイタリア、アルゼンチンの8分の1となっていたけれど、
逆に最も優勝確率が低かったのはトリニダッド&トバゴの750分の1。それに次いで低いのはアンゴラ、サウジ・アラビアで500分の1。
ちなみに日本は、韓国と並んで、150分の1という確率になっていた。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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