June. 4 〜 June. 10 2007




” パリス・ヒルトンに見る 馬鹿分析 ”






今週のアメリカと言えば、メディアが 刑務所に入ったり、出たりを繰り返していたパリス・ヒルトンに 振り回されていた感じで、写真上のようにニューヨーク・ポスト紙では、タブロイドだから仕方が無いとは言え、 今週3回も パリスがその第1面を飾っていたのである。
ことに金曜にパリスが再び収監される際は、CNN、MSNBCといったケーブル報道チャンネルが、 イラク戦争の国防人事のニュースをそっちのけにして パリスが家から出る姿をレポートするのに躍起になっており、 この様子は夜のトークショーの爆笑ネタになっていたのだった。
アメリカ国民の多くは、パリスが3日で刑務所を出たことを不快に思い、その翌日刑務所に戻されたことを歓迎しているけれど、 それ以上に どうしてパリス・ヒルトンがこれだけ大きく報道されているのかを疑問視しており、 今年初めのブリットニー・スピアーズの丸刈り騒動時同様、メディアの騒ぎ過ぎを指摘していたのだった。
でもブリットニーの場合は 世界で1千万枚以上のCDを売り上げているスーパースターであるけれど、 パリスについては ネット上に出回った自作ポルノ・ビデオと、ヒルトン家の孫である以外に、自分で築いた キャリアや実績があるとは見なされていない存在であるだけに、ことさら今回のメディアの騒ぎぶりは不思議に映るもの。
しかしながら アメリカのメディア関係者に言わせれば、彼らよりも もっと馬鹿げているように思えたのが、海外からわざわざ 取材にやってきたメディアで、APなどがニュースの配信サービスをしているにも関わらず、 自社カメラ・クルーやレポーターを送り込んで パリスの取材をしようとする海外メディアの姿には、 彼らも 「パリス・ヒルトンにそれほどの報道価値があるのか?」と 呆れたり、驚いたりしていたようである。

さてそのパリスは、1日早く刑務所入りして以来、通常なら24時間掛かる入所手続きも1時間で済ませ、 受刑者にとって最も屈辱的な ”キャビティ・サーチ” と呼ばれる身体検査(ゴム手袋をした看守が、 膣や肛門内に不審物を隠していないかを調べるもの)も、セレブリティであるために受けずに済ませ、さらに 通常は2人でシェアしなければならないセル(囚人室)も 1人で使用することが許されていたという特別待遇。
また毎日のように弁護士と、サイコセラピストが彼女と時間を延長した面会を行っており、 こうしたセレブリティの特別扱いがメディアで批判を浴びていたところに来て、刑務所を管理するシェリフ・デパートメントが 僅か3日で彼女の自宅軟禁の申請を許可したため、一般の人々やメディア、司法関係者までもがこの判断に大反発。 この結果、翌日には判断が覆されて、パリスはメディカル施設のある留置所に逆戻りすることになったけれど、 この刑務所の出入獄 を見ていて 感じるのは、パリス・ヒルトンが メディアのせいで、今度ばかりは災難を被ったということ。

そもそもLAの刑務所というのは犯罪者数が多く、免停を無視して2回逮捕された人間を それほど長く拘留できるほど 刑務所に空きが無いそうで、セレブリティではない 普通の人間が同じ程度の罪を犯した場合も、 「刑務所が混み合っていて もっと重罪を犯した人間を拘留しなければならない」ことを理由に 3〜4日ほどで 出所を許されても 決して不思議ではないという。
しかし今回のパリスの場合、メディア報道が過熱した結果、アメリカ中が 彼女がセレブリティとして特別扱いを受けるのか? を見守っていただけに、3日で出所した際のバッシングぶりは全米規模のもの。 その理由も、”精神的に耐えられない”という、いかにも「金持ち娘のわがまま」にしか聞こえないもので、 これも反感を抱かれた要因となっていた。
もしこれが 同じヒルトン・シスターズでも、アメリカ人が全く関心を払っていない ニッキー・ヒルトンであったら、そもそもメディアはこんなに大騒ぎしなかったと思うし、収監から3〜4日で出てきても、 「ヒルトン家がお金で何とかしたに違いない」など人々が勘ぐるだけで済んだであろうこと。 メディアが騒ぎ、人々のリアクションが激しかったのは、これがパリス・ヒルトンであったがため というのが実際のところなのである。

でも見方を変えれば パリス・ヒルトンにとっての免停無視と、一般の人々が犯す免停無視では意味が異なるのもまた事実である。
というのもLAのような車社会の場合、多くの人々は仕事に出掛ける、子供を学校や保育所に迎えに行く といった 日常生活のためにどうしても車が必要な訳で、例え免停でも人々は「運転をしなければならない」という ノー・チョイスの状況なのである。 ところがパリス・ヒルトンの場合、彼女が免停期間中の運転をスナップされていたのは、もっぱら夜遊びやショッピングの行き帰り。 彼女の場合、一緒にクラブや買い物に出掛ける友人は皆車を持っている訳で、家に送り迎えに来てもらうことも可能ならば、 運転手付きのリムジン、もしくはもっとケチって カー・サービスを頼むことも経済的に可能な立場であり、 一般市民が免停を無視するのとは異なり、自らの選択や判断、すなわち「免停で運転しても、どうってことない」という 考えがそこに介在している訳である。
もちろん一般市民の中にも「免停で運転しても、バレなければ どうってことない」と思っている人は多いと思うけれど、 パリス・ヒルトンの場合、毎日のようにパパラッツィが出先や家の外に待ち構えていて、彼女が運転する姿をスナップしては タブロイド誌やインターネット上にその写真が出回るという存在。 違反を犯すまで、警察にバレなかった方が不思議なくらいなのである。
加えて、免停中 1度はDUI(飲酒運転)、1度はスピード違反で 警察に捕まっておきながら、 「自分の免許停止処分を知らなかった」と言い逃れをしたのも、いくらパリス・ヒルトンが 頭が悪いことで知られていても、あまりにふざけた言い訳というもの。
さらに彼女に45日間の禁固刑が言い渡された際も、10分遅れて法廷に出廷するという 裁判所を舐め切った態度。これが一般市民なら入廷する際の金属探知機検査に時間が掛かることを見越して 10分以上早く出廷するのが当たり前なのである。
したがって、パリスはメディアの注目が集まっている分、セレブリティとして損をしている例ではあるけれど、 それも自業自得と言われても仕方ないだけの事は十分にしてきているのである。

では、パリス・ヒルトンという存在は、アメリカの人々にどのように受け取られているかと言えば、 言い得て妙の表現が、「American People Love To Hate Paris Hilton」 というもの。 もちろん、純粋のパリスのファンという人も中には居るとは思うけれど、多くのアメリカ人は彼女を ”嫌う対象” として 好んでいるのである。
実際パリスには、アメリカ人が嫌う「馬鹿で わがままな 金持ち娘」というキャラクターに加え、ブロンドでグッドルッキング。 さらにポルノ・ビデオが出回ったり、誰とでもデートしてしまう等、好感の持たれないスキャンダルには事欠かない存在。 にも関わらず本人はメディア大好きの出たがり。こうした 取材するネタがあって、人々が関心を示し、しかも取材が楽な存在というのは、 メディアにしてみれば、非常に有り難い ”報道アイコン” なのである。

かく言う私も、パリス・ヒルトンのことは好きではないけれど、よく考えてみると何故彼女が嫌いなのかは分からなかったりする。 私の周囲にもパリス・ヒルトンが好きだという人は、日本人の女友達1人くらいしか居ないように思うけれど、 アメリカで 普通にメディア報道を見ていたら、彼女には好感を抱かないのは ごく自然のことである。
私は今週アメリカ人の友人に パリス・ヒルトンを嫌いな理由を尋ねてみたけれど、その答えは 「好きになる理由が無い」、 「何の才能も無いのにメディアに出て来過ぎる」、そして非常に多かったのが「She is so stupid」とか、「She has no IQ」という 要するに 「馬鹿だから」というもの。
ふと考えてみれば、アメリカには、”Dumb Blonde / ダム・ブロンド” (馬鹿なブロンド)という、 ステレオ・タイプのキャラクターが存在しており、これはブロンドでルックスが良く、チヤホヤされて 笑顔でごまかしが効くので、 勉強もせず 馬鹿になってしまった女性のこと。ウィキペディアの英語版ではパリス・ヒルトンのことも このダム・ブロンドと説明されていたりする。
ハリウッド映画の中には、こうした”ダム・ブロンド” のキャラクターが登場することが多く、 ホラー映画ならば、必ず途中で殺されるのがこのタイプ。 リース・ウィザースプーンが映画「リーガーリー・ブロンド(邦題:プリティ・ブロンド)」の前半で演じていたのも、 ある意味ではこのダム・ブロンドである。
でもハリウッドのセレブリティの中には、ダム・ブロンドぶりを武器にのし上がっていくタイプも多く、 リアリティTV 「ニューリー・ウェド」でジェシカ・シンプソンが見せた馬鹿ぶりは、その後 彼女を100億円以上 稼がせることになったのである。
したがって、”馬鹿” というキャラクターは、立派にマーケティング価値を持つものなのである。

私は 世の中の いわゆる ”馬鹿” もしくは ”馬鹿っぽい” と見なされる人々には3タイプ存在していると思っている。
1つ目のタイプは、本当は頭が良いけれど、世間的には馬鹿っぽく振舞うキャラクターを確立している人。 これにはユーモアが介在している場合が多く、愛すべきキャラクターとなる利点を本人に与えるもの。 また周囲に警戒感、ジェラシー、反感を抱かせずに ”美味しい所取り” をしてしまうのも この類の人々である。
周囲は、自分の方が頭が良いと思っているから ”馬鹿なりに頑張っている” などと好感を抱きがちであるけれど、 人々が自分を見下す姿勢を上手く利用して 人から助けてもらったり、失敗を許してもらったりすることを、 ちゃんと計算しているのがこのタイプ。 その計算意図の度合によっては、時に白々しく見えてくる場合もあるけれど、 往々にして 目上から可愛がられ、仲間に慕われる 世渡り上手 が多いものである。

タイプ2は、頭脳レベルとしては優れていないし、ユーモアのセンスもズレていて、 時に本当に間の抜けた失敗をして 人に迷惑を掛けるけれど、自分でも自分が利口でないことを理解している 素直で 謙虚なタイプ。
この類は、大切なことを任せるには役不足であることは自分も周囲も承知しているので、通常、致命的な失敗をせずに済むのは そのお陰であったりするけれど、基本的に周囲はこの人物の馬鹿さを 人を欺く悪知恵も無い ”馬鹿正直”としても解しているので、 人柄としては信頼される傾向にある。またライバル意識がなく、他人の自慢話も根気良く聞いていられるので、 競争心の強い人物の良き友人になれるし、あまり人にも悪口を言われないのがこのタイプである。
でも自分を低く評価しすぎて 「自分なんて・・・」というイジケが出てくると、何をするにも周囲が励ましたりしなければならず、 手が掛かる存在になったりもする。

タイプ3は、自分では利口だと思っているけれど、実際には頭が良くなく、周囲もそれを見抜いていて、 真面目にやっていることが、愚かに見えてしまう人々。 このケースはユーモアが介在しないため、人々には好感を持たれることもないし、 その言動、行動は常に 周囲が影で嘲笑の的にしているもの。
通常、この類の人々は 第一印象や初めのうちは まともに見えるけれど、徐々にその馬鹿っぽさが 笑いをもたらすのではなく、迷惑や不快感、イライラを人々に抱かせるもの。 でも本人は自分を馬鹿だと思っていないし、時に他人よりずっと利口だと思っていて、 それが態度に出るために、周囲からの反感を買う傾向が強いのである。

これら3つのタイプに共通して言えることは、 馬鹿、もしくは馬鹿っぽいというキャラクターは 人の関心を集める、人が気に留めるということ。 逆にまともに普通に存在している人というのは、外観に個性や特徴があったり、 人間的に面白いなど、他人の関心を引く 別の要素を持たない限り、 話題性がなく、特別な関心を払うに値しない場合が多いのである。
でも ”馬鹿” というキャラクター がマーケティングの武器になり、人間を売り込むポジティブな要素となるのは、 周囲に優越感とユーモア、安心感を与えるためであり、 上記のタイプ1 と タイプ2は、この条件を満たしている分、社会が好んだり、受け入れたりする馬鹿のタイプである。

では、パリス・ヒルトンが上の3タイプのうちのどれに当たるかと言えば、彼女が二コル・リッチーと共に 出演しているヤラセのリアリティTV 「シンプル・ライフ」の中では タイプ 1 を演じている、もしくは 番組のライターがパリスをタイプ1に見せようとしているのが感じられるけれど、 実際の彼女は限りなくタイプ3に近い状態で アメリカ社会に扱われていると言わなければならない。
最も 最近の彼女の言動で 人々から顰蹙を買ったものに、自分ことを「マリリン・モンロー、プリンセス・ダイアナ、マドンナと並ぶ 時代を代表するブロンド」と語ったことが挙げられるけれど、これはタイプ3を象徴するような発言である。
パリスはインタビューやトークショーの出演などを見ていても、訊かれた質問にはそれなりの答えをするけれど、 決して面白い受け答えなどは出来ないタイプ。 一方、「シンプル・ライフ」の番組内でパリスと共に馬鹿ぶっている共演者の二コル・リッチーは、 トークショーに出演すると、それなりに人を笑わせたりするだけのユーモアと頭脳は持ち合わせており、 この違いは2人のファッション・センスにも現れていると言えるもの。(二コル・リッチーはベストドレッサー・リストの常連、 パリスはワースト・ドレッサーの上位常連である。)
私の尊敬するココ・シャネルが語った言葉に「美しさは武器、装いは知恵、謙虚さはエレガンスである」というものがあるけれど、 女性でも男性でも 服の装いが上手い人に、本当の馬鹿は居ないというのは私がこれまで生きてきて本当に実感することである。

ところで パリス・ヒルトン自身からユーモアのセンスは感じられなくても、彼女はコメディアンやトークショー・ホストには 笑いのネタを沢山提供しており、今回彼女が刑務所で キャビティ・サーチ(身体検査)を逃れたとレポートされれば、 「看守は既にインターネットでポルノをダウンロードしてパリスの下半身をチェック済みである」などとジョークにされ、 彼女が留置所で夜眠れないと レポートされれば、「パリス・ヒルトンは、(男癖が悪くて)毎晩同じベッドで眠ったことが無いから・・・」 と言われ、出所すれば 「刑務所の人間さえも彼女のうっとうしさに耐えられなかった」 とからかわれ、 こうしたジョークは今週 アメリカ人を大笑いさせていたもの。
先述のようにアメリカ人の多くは、パリス・ヒルトンを「馬鹿 で 何の才能も無い」と見下すけれど、 逆に私がパリス・ヒルトンをスゴイと思うのは、それにも関わらずこれだけメディアの関心が集中する存在にのし上がったこと。 パリス・ヒルトンは少なくともアメリカではCDもフレグランスも売れ行きが芳しくないことからも分かる通り、物を売るだけの魅力や 人にお金を払わせるだけの好感度は無いけれど、メディアと人々の関心を引き付けることに関しては、 ハリウッドの才能ある俳優や、シンガー等よりも 遥かに強力なパワーを持ち合わせているのは 紛れも無い事実なのである。





Catch of the Week No.1 June : 6 月 第 1 週


Catch of the Week No.4 May : 5 月 第 4 週


Catch of the Week No.3 May : 5 月 第 3 週


Catch of the Week No.2 May : 5 月 第 2 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。