June 2 〜 June 8 2008




” リッチ狩りが始まる? ”


今週のアメリカの最大のニュースと言えば、ついに1バーレル当たり138ドルの高値を付けた原油価格もさることながら、 何といっても民主党の大統領候補指名争いでバラック・オバマ候補が勝利し、敗れたヒラリー・クリントン上院議員が、 選挙戦からの正式撤退を明らかにしたこと。
ヒラリー・クリントンは7日の土曜日に ワシントンで 大統領選からの撤退とバラック・オバマ氏を民主党大統領候補として 支持するスピーチを行っているけれど、この前日の金曜には、ヒラリー&オバマ両氏が極秘のミーティングを行っていたことも レポートされており、ヒラリー副大統領説を有力視する声も聞かれていたりする。
でもヒラリー支持派の中には、「オバマ候補の副大統領としてのヒラリーは支持しない」という意見が決して少なくないのが実情で、 ヒラリー氏を副大統領にすれば、その支持票がそのままオバマ支持に流れるという訳では無いことも明らかになっている。 実際、候補者の指名争いの真っ最中に行われたアンケート調査でも 「オバマ氏が敗れたら ヒラリーを支持する」と答えたオバマ支持者が 60%以上居たのに対して、「ヒラリーが敗れたらオバマ支持に回る」と回答したヒラリー支持者は僅か40%ほどであったという。
さらに興味深いデータとしては、もし現段階で選挙が行われた場合、オバマ候補は共和党のマケイン候補に敗れ、マケイン候補は ヒラリーに敗れるという予想が成り立っている点で、これは2004年のブッシュVS.ケリーの大統領選で、ハワイ以外の49州の選挙結果を 正確に予測したプリンストン大学教授の J・リチャード・ゴット博士とアラバマ大学のリサーチャー、ウェス・コレーの分析によるものである。

いずれにしても、民主党から初の黒人大統領候補が誕生したことを受けて、アメリカ全土のブラック・コミュニティが 「黒人だからといって叶わない夢は無い」 という希望を新たにしたニュースが 報じられていたけれど、 その一方で、今回の民主党予備選挙は 幾つもの州で 黒人層と白人層の票が 候補者の人種で真二つに分かれたことから、 人種論争が巻き起こっていたのは記憶に新しいところ。
したがって、黒人初の大統領候補誕生が 黒人層に夢を与えた一方で、 アメリカの一部では未だに人種差別が根強いことも 痛感させたのが 予備選挙であり、果たしてアメリカが 本当に黒人層にとって 手放しに喜べる状況にあるかは 微妙と言えるもの。

個人的に 今週 最も面白かった報道としては、連日のように高値を更新する原油価格を受けて、 航空会社が乗客の体重に応じてチケット価格を決めるシステムを導入するかも知れないというニュース。
アメリカでは今週、各航空会社が 燃料費の高騰を理由に 社員のレイオフと フライト数の大幅カットを発表しているけれど、 そんなニュースと共に報じられたのが、航空会社が 体重240パウンドの男性と、120パウンドの女性を 同じ航空運賃にするのは無理があるとして、体重に応じて乗客から追加料金をチャージする案が検討されているということ。 既に荷物については、余分なチェックイン・ラゲージや 規定より重たい荷物に対して、乗客が追加料金を支払うことになっていたけれど、 乗客本人のウェイトが追加料金の対象になるというのは 全く新しい試み。
数年前に、サウス・ウエスト・エアラインが肥満の乗客に対して「2人分のシートを確保するように」という規定を設けたところ、 利用者から大バッシングが起こっていたけれど、これだけ燃料費がアップしているご時世なだけに、 現時点では この案に対して 大した反論が聞かれていないのが実情である。
この 航空運賃の追徴金がアメリカ人の肥満に歯止めを掛けるきっかけになるとは思えないけれど、 メディア報道によれば、肥満のアメリカ人が普通体重になるためのダイエットをして、その分の食料がそっくりアフリカに渡れば、 アフリカの食糧危機が解決するという。 なので、喫煙者に対してタバコ税を上げて禁煙プレッシャーを掛けるのと同様に、 肥満の人々に対しても 何らかの減量プレッシャーがあるのは 悪くないのでは? というのが私の考えである。

さて、今日6月8日、日曜は テニスのフレンチ・オープンの男子シングル決勝の日で、アメリカでは時差の関係で 朝の9時からこの試合の様子が生中継されていたのだった。
対戦カードは 世界No.1でありながら、グランドスラム・タイトルのうち クレー・コートのフレンチ・オープンでだけ 優勝していないスイスのロジャー・フェデラーと 今大会に優勝すれば 4連覇となって、かつてスウェーデンのビヨルン・ボルグが 成し遂げた記録に並ぶ スペインのラファエル・ナダル、22歳。
今朝は10時に目を覚ました私は、それでもまだまだ十分 観戦の時間があるだろうと思ってTVをつけたけれど、 既にラファエル・ナダルが2セットを連取し、3セット目もあっさり 6-0で勝利し、あっという間に4年連続のチャンピオンに輝いてしまったのだった。
なので、放映局のNBCはトロフィー授与からインタビューまでを じっくり放映する時間が残されていたけれど、表彰式では 4ヶ国語を話すロジャー・フェデラーがフランス語でスピーチをし、3ヶ国語を話すラファエル・ナダルが フランス語と、英語と母国語のカタルーニャ語の入り混じったスピーチをしていたけれど、 個人的にちょっぴり嬉しかったのは、彼らのフランス語のスピーチが理解できたこと。 既に2年もフランス語を勉強してきて、一向に進歩しないのを嘆いていただけに、簡単なスピーチでも理解できたのは まんざら授業料がムダにはなっていないのが実感できて、気分が良かったのである。
他国のカルチャーを的確に理解するのに不可欠なのが、各国の言語の習得であるけれど、 特にロジャー・フェデラーのように訛りもなく、英語やフランス語を自在に切り替えて話せるというのはまさに私が憧れる存在。 彼のように 複数の言語を子供の頃から自然に学べる環境にあったことは 羨ましい限りなのである。

さて、そのロジャー・フェデラーの出身国スイスと言えば、永世中立国であり、その無記名口座が世界中のリッチ・ピープルの 財産隠しに使われてきたことは周知の事実。
しかし今年に入ってからは、ドイツでの横領事件の捜査のメスが これまではアンタッチャブルだった スイスの銀行口座に及んだことが報じらていたけれど、これとは別に今週金曜にニューヨーク・タイムズが報じたのが IRS(アメリカの国税局)が 裕福なアメリカ人のオフショア・アカウントの洗い出しを強化し始め、 UBS (ユニオン・バンク・オブ・スイス) に圧力を掛けた結果、同銀行が 今までなら考えられなかった 2万人ものクライアントの情報をIRSに対して公開することを検討しているというニュース。
IRSの見積もりでは、UBSのクライアントの中には、200億ドル(約2兆1000億円)もの資産をスイスの口座に隠し、 $300ミリオン(約315億円)もの脱税をしている人物が存在しているとのことで、この人物の脱税が 立証された暁には、利息とペナルティを含めて一体 いくらを追徴課税されることになるか?はたとえ他人事で恐ろしく感じられるもの。
記事では UBSのクライアントで2002年度の脱税の罪を問われたカリフォルニアの不動産デベロッパーと、 彼の約210億円分の資産隠しをサポートした元UBSのバンカーが有罪を認めていることも レポートされていたけれど、IRSがメガ・リッチの隠し財産とその脱税を FBI や CIA にも勝る 機動力で 摘発し始めた事実は、アメリカのリッチ・ピープルを震え上がらせているという。

民主党の大統領候補、バラック・オバマも その税金政策の中で、裕福な人々のオフショア・アカウントの摘発強化を謳っているけれど、 それと同時に オバマ候補は、アメリカのトップ1%のメガ・リッチ・ピープルに対する課税も打ち出していたりする。
なので、裕福な人ほど税金地獄を恐れて 共和党を支持するアメリカ国民の政治的ポジションが ここからも理解できるけれど、これとは別に、つい最近 下院では 兵役を務めた人々への恩給を増やすために、 アメリカ国内のミリオネアに対して0.5%の追徴課税を検討し始めたところ。

さらにニューヨーク市では 市議会のクリスティーン・クイン議長が、年収$1ミリオン(約1億500万円)以上の市民、約2万6000人に対して、 2010年より追徴課税を行うことを提案している。 これはビリオネア級のメガ・リッチよりも、$1〜2ミリオン程度の年収のロー・レベル・ミリオネアにとって 非常に厳しい措置と言えるもの。
こうして、次々とリッチ・ピープルをターゲットにした税金の取立て、脱税摘発が強化されているけれど、 ニューヨーク市のミリオネアに対する追徴課税については、 一部のローカル・メディアが税収を支えているメガ・リッチがニューヨークを離れてしまうことを危惧して、反対する姿勢を見せている。
実際、昨今のドル安と、アメリカ中の不動産価格が下がっても 上がり続けるニューヨークの不動産事情は、 諸外国、ことにヨーロッパからのコンドミニアムのバイヤーを増やしており、その結果心配されているのが、 所得税を支払う義務のない外国人が 高級コンドミニアムを所有し、 本来そこに住んで所得税、ソーシャルセキュリティ、メディケア・タックスなどを支払うべき リッチなニューヨーカーが どんどんニューヨーク市から出て行ってしまい、ニューヨーク市と州の税収が減ってしまうこと。
言い方を替えれば、リッチをターゲットに増税をして、そのリッチ層が州外に出て行ってしまえば、 その代わりにニューヨーク市に入り込んで来るのは 所得税などを払わないユーロ・リッチになる訳で、 「払える人から税金を取り立てる」という手法が 必ずしも名案と言えないのは事実なのである。
でも、庶民がガソリン代と食費の支払いに追われ、ニューヨーク市にはさらにレントという 大きな出費がある訳だから、庶民を叩いてもこれ以上何も出てこないのは確か・・・。
なので、このままガソリン代の高騰とリセッションが続き、さらに11月に民主党のオバマ大統領が誕生した場合、 これまでブッシュ政権下で優遇されてきたメガ・リッチ層が 税収のターゲットにされるのは 時間の問題と言えるのである。





Catch of the Week No. 1 June : 6 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 May : 5 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 May : 5 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 May : 5 月 第 2 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。