June 3 〜 June 9, 2013

” Praivacy Please! ”


今週のアメリカで、最も物議をかもした報道となったのは、米国家安全保障局(National Security Agency、通称NSA)が、 テロ防止対策と称して 国民の電話記録、Eメール、インターネットの履歴や検索内容、さらにはクレジットカード決済情報までもを 収集していたというニュース。
これは、今週水曜にイギリスのガーディアン紙がスクープ報道して明らかになったもので、それによれば NSAは大手コミュニケーション会社、ヴェライゾンに対し その顧客数百万人分の電話記録の提出を命じていたとのこと。 翌日木曜には、政府関係者が これがヴェライゾンに限って行なわれている訳ではないこと、ガーディアン紙が報じた以外でも 頻繁に行なわれていることを認めているのだった。

この国民に対する ”情報収集=スパイ”行為は、 NSAが 9・11同時多発テロを受けて制定された法令を基に合法的に行なっているもので、 NSA側の言い分は、同機関が全ての国民の電話やEメールをチェックしている訳ではなく、 テロリスト等、事件の捜査に名前が浮上した人物に限って、 コミュニケーション・データやその他の情報を入手しているというもの。
オバマ大統領も、金曜の記者会見で 「NSAがテレコミュニケーション会社にリクエストしているのは、 電話番号とその通信が行なわれた時間や地域、そして会話時間といった ”メタ・データ”であって、 個人の名前や電話の会話の内容までがモニターされている訳ではない」として、捜査の合法性だけでなく、 国民のプライバシーが守られている事を強調していたのだった。

日曜にはガーディアン紙が、 同紙にスキャンダルを明かした元CIA&NSAの職員、エドワード・スノーデン(29歳、写真上右)の アイデンティティを明らかにし、彼本人がコメントするビデオが公開されたけれど、 その言い分は NSAやオバマ大統領の説明とはかなり異なるもの。 彼によれば、NSA職員であれば アメリカ国内の誰の個人情報にでも 簡単にアクセスすることが出来、 オバマ大統領の電話の会話でさえ盗聴が可能であるとのこと。
彼は 同スキャンダルを告発した理由として、「こうした大切な問題は 一部の政府高官のみによって決められるべきではなく、国民レベルで広く認識、論議されるべきと考えたため」と説明しているのだった。


これに加えて 週末に明らかになったのが、政府が進めるトップ・シークレット・プログラム、 ”PRISM / プリズム”に、 一般の人々が日常的に使う 多くのソーシャル・メディアや企業が加担しているという報道。
プリズムとは、 ソーシャル・メディアやコミュニケーション企業のサーバーに 政府が自由に直接アクセス出来るというプログラム。 トップ・シークレットであるだけに、加担企業のエグゼクティブの殆どが同プログラムについて知識が無いといわれるけれど、 ワシントン・ポスト紙が報じた加担企業のラインナップは アップル、フェイスブック、YouTube&Gメールを含む グーグル、ヤフー、スカイプ等。
これに対して、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、グーグルのラリー・ペイジ、その他の企業のスポークス・パーソンは、 全てプリズムへの協力を否定しているのだった。 しかしながら、どんな大手ビジネスでも 政府を敵に回せないことは明らかであるだけに、 「企業と政府間で何らかの交渉が成立しているはず」という見方が有力なのが実際のところ。
これまで「国民に関する最も詳細なデータを持っているのは、フェイスブックとグーグルだ」というジョークが聞かれていたアメリカであるけれど、 プリズムによって 国家安全保障局は、 この2社を合わせた以上の国民のデータを掌握することになり、 その膨大なデータは ユタ州に新設された NSA新施設のコンピューターに どんどん送り込まれる見込みなのだった。


こうしたNSAによるモニター行為は、政府による国民のプライバシー侵害に当たるのは言うまでもないこと。
これを受けて、今週の木曜、金曜にはツイッター上で ”#NSA ” が突如トレンディングとなり、 多くの人々からの抗議や、 「政府が国民に対してストーカーまがいの行為をしている」というジョークが飛び交う一方で、 人権団体はこれに猛反発していたのだった。
世論の中には 「テロ防止のためなら、国民がある程度 プライバシーをギブアップするのは 仕方がない」、 「疚しい(やましい)事さえなければ、NSAが個人データを入手したところで問題は無いはず」という声も聞かれていたけれど、 告発者のエドワード・スノーデンや、メディア関係者が指摘するのが 蓄積された個人データが持つパワーとその恐ろしさ。
過去数年のアメリカ国内の裁判において、その犯罪立証にグーグルのサーチ・データが証拠として使われる例が 非常に増えているけれど、こうしたサーチやEメールに含まれる情報というのは、 個々に大きな意味が無くても、その数年分が個人データとして存在した場合、そこから巧みに情報をピックアップすることによって、 本人とは全く異なる人間像を、本人が発信したデータでクリエイトすることが出来るという危険性をはらんでいるのだった。


例えば、レイプという犯罪を立証しようという意図がある場合、容疑者男性の ポルノ・サイトへのアクセスや、アダルト・ビデオのダウンロード数、セックスやレイプに関係すると思しき言葉の検索数など、 容疑者を レイピストと思わせるデータだけを上手く 集めることによって、 裁判で有罪を勝ち取る可能性が高まるのは言うまでもないこと。
たとえ その容疑者による 定期的なポルノ・サイトへのアクセスが、全アクセス数の1%以下という微々たる数字であったとしても、 その数や頻度の多さだけに着眼されるように個人情報が使われれば、日頃から性欲が高まっている様子を立証する証拠になったとしても全く不思議では無いのだった。

こうした個人データは量が増えれば増えるほど、どうにでも操作がし易くなる一方で、 全体を正確に把握することが難しくなるもの。
したがって犯罪の容疑者になってしまった場合には、怒りに任せたツイートや サイトの書き込み、興味本位の検索などが、 「反社会的な思想の持ち主」とプロファイルされる要因になりかねないけれど、 それが裁判に発展した場合、法廷において重要視されるのは 「その情報を発信したの本人であるか?」ということ。 「本人がどんな精神状態の時に、それを発信したか?」が重要視されることは決してないので、 過激な言動や 誤解を招く検索は、そのまま本人のパーソナリティとして判断されると思って間違い無いのだった。
すなわち プリズムのようなプログラムが存在するということは、 万一、自分や家族、友人やビジネス・パートナーが 何らかのトラブルに巻き込まれた場合、今まで自分が発信したEメール、ツイート、書き込みを含む 全ての情報や検索記録が、自分や周囲を不利にする証拠として使われる可能性があると言っても過言ではないのだった。



今週 もう1つ、大きな報道になっていたのが、2010年にステージ4の末期の喉頭癌がんを患っていることを明らかにし、その後 治療の結果、がんを克服した俳優のマイケル・ダグラスが、メディアとのインタビューで 「詳細の説明は避けるが・・・」と 前置きしながら、彼のがんが オーラル・セックスから感染した Human Papilloma Virus (HPV)/ヒト・パピローマ・ウィルスが 原因であると語ったというニュース。
そして同コメントを受けて 彼の前妻が 「自分はHPVには感染していない」と表明したことから、 まるで彼の現在の妻、キャサリーン・ゼタ・ジョーンズがHPVに感染しているようなイメージを メディアを通じて大々的に与えていたのだった。
ヒト・パピローマ・ウィルスは、一度でもセックスをしたことがある人間であれば、感染しても不思議では無いと言われるほど一般的なウィルス。 CDC(アメリカ疾病予防管理センター)でも、セックスの経験さえあれば、誰もが一生に一度は感染していると 説明しているのだった。
そのヒト・パピローマ・ウィルスにオーラル・セックスで感染した場合、まれに口腔がん、舌がん、喉頭がんの原因になりうることは 医学界でも認識されている事実。 でもマイケル・ダグラスのコメントが あまりに馬鹿げていたために、今週はトークショーのホストやコメディアンが この話題をネタに ジョークを展開する一方で、多くのメディアがマイケル・ダグラスに対して 「余計なことをコメントするべきではない」と、 批判的な姿勢を見せていたのだった。

後日 マイケル・ダグラスは、妻のキャサリーン・ゼタ・ジョーンズがHPVに感染していたという訳ではないこと、 彼のガンが当初発表されたとおり、長年に渡るヘビー・スモーキングが原因であるとコメントして、ダメージ・コントロールを試みていたけれど、 自分や家族のプライバシーを メディアやソーシャル・メディアで 必要以上に公開して、オーバーシェアリングになるのは、セレブリティも一般人も同様のこと。
今週には、現在妊娠中のキム・カダーシアンが「パパラッツィに追い掛け回されて、身の危険さえ感じる」とクレームしていたけれど、 そのキム・カダーシアンと言えば 現在のように有名になる前は、自らパパラッツィに自分の居場所を連絡して 写真を撮影させていたことで知られる存在。今でも、そのリアリティTVで ライフスタイルを オープンにしているだけに、彼女が訴えるプライバシーに対しては アメリカでは 冷やかなリアクションが多いのが実情なのだった。

いずれにしても、数年前から指摘され続けているのが、 リアリティTVやソーシャル・メディアの影響によって、アメリカ社会におけるプライバシーの概念が どんどん希薄になってきているということ。
事実、街中や建物内の至るところに防犯カメラや監視カメラが設置され、 コンピューターや携帯電話を通じてアクセスする全ての情報がモニターされているのであるから、 もはやプライバシーは あって無いようなもの。
もしプライバシーというものが存在するとすれば、それは「政府とソーシャル・メディア以外には、自分だけしか知らない事実や情報」を意味するのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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